「やばい・・・汗かきすぎたな」

気づかなかったがTシャツがびっしょり濡れていた。

「後で会いましょう。私は先に行ってますね」

アイビーはそのままノートPCを抱えて出て行った。
汗一つかいてない。
・・・慣れでああなるものか?
俺はコクピットから出て、近くにいた作業員を捕まえた。

「風呂ってどっち?」

作業員はちょうどモノが風呂にいると言って右側の通路を指差した。
俺は作業員の指差したドアをくぐり、通路の案内表記に従って風呂に向かった。

やはり生活の習慣の違いなんだろうか?
シャワールームに浴槽はなかった。
温泉好きの俺としては残念だ。
たとえ水道水だろうが湯船はいい。
それがないとは・・・今度、無理やり岩風呂でも作ってやろうか。
どっかのアニメの戦艦みたいにさ。

着ていたものを全て洗濯機に突っ込む。
さすがにこういうところは地球と同じか。
横にあった洗剤を適当に入れてスイッチを押す。

ドアを開けるとすでに何人かシャワールームを使っていた。
個室になっており、それぞれにシャンプー等が常備されている。
何にも持ってきてない俺にとっては嬉しい限りだ。

モノの後姿があった。
突っ立ってシャワーを顔面に受けている。

「出迎えはなしかよ」

「いや、お前が着艦したから来たんだよ。どうせ来ると思ってな」

俺はそのままモノの横の個室に入り、熱いシャワーをあびる。
ふぅ・・・すっきりするな。
張り詰めた感じがどっと消えていく。
それと同時に疲労も相当きてるな。
シャンプーに手を伸ばした時だった。

「リョウ、さっきのペルソナ・・・どう思う?」

「・・・明らかに地球製ではないな。あんな型見たことない」

やっぱり俺と同じ疑問を抱いていたか。

「俺の予測なんだけど、あれ太陽系連合製じゃないかな?」

「地球統合軍が?あれだけ地球製のペルソナにこだわっていたのに?」

地球統合軍は太陽系連合軍から技術を得た。
それを応用して地球製のペルソナ、Dollの開発を急いでいた。
しかし、地球製Dollであるaltは未だに生産ラインが整わずに普及しておらず、未だに旧式の連合軍製Beeを使わざるをえなくなっている。
それ故にペルソナに関しては地球製が生産されるまでは配備しないと公言していた。
まあ、金の問題もあると思うんだが・・・。
既に地球製ペルソナは開発率70%の噂だが太陽系連合軍が買い付けに走ってる噂がある。
自軍に配備する前に開発資金と今まで買ったDollの金を取り戻す気か。

「あのパイロットが地球人じゃないなら連合製ペルソナの可能性が高い。後でアイビーにデータを見せてもらうか」

そう言うとモノは横から石鹸を俺に向かって上から投げ入れた。
いつもの事だが・・・どうせあれだろうな。

「なぁ、お前あの子に惚れたのか?」

ほら、やっぱりな。
モノはたまに俺を合コンとか誘う。
数合わせとか言って仕方なくついて行く。
が、いつもモノは俗に言う「お持ち帰り」に失敗する。
俺は逆に「持ち帰られそう」になるが断る。
はっきり言って興味ない。
そういう様子を見てきたからきっとアイビーのことが気になっていたのだろう。
特にそういうあれじゃないんだけどな。

俺は石鹸を握り、個室を出て背後からモノの頭に投げつけてやった。

「そういうのじゃないよ」

俺は痛がるモノを置き去りにしてシャワールームを出た。


脱衣室の洗濯機から服を取り出す。
でもさすがに着れないよな・・・。
乾燥機に入れると縮むかもしれんし・・・。

少し困っていると頭を抑えたままのモノがやってきた。

「リョウ、着替えならあそこにあるぞ。お前のが」

モノの指差す方向にはハンガーにかかったカジュアルな服。
さらにハンガーにはインナーと名札がついていた。

[リョウ専用]

・・・どうなってんだ、この戦艦は?
さらに名札の裏を見ると

[サイズは合ってると思います アイビー]

うーん・・・・。
着るしかないか。

モノも自分の名札のついたハンガーをとって着替え始めた。

「着てきた服はボックスに入れて名前入力しておけば後で部屋に持ってきてくれるってよ。まるでホテルだな」

ホテルでもこんなサービスないよ。
楽だからいいけど・・・一人暮らしよりは楽そうだな。


シャワールームを出た俺達は作業員に聞いて艦長室へと向かった。
その途中だった。

「お疲れ様ぁ♪」

後ろから追いついてきたのはキキョウだった。
制服の上着を手に持って、私服だった。
性格と服装は似ると誰かが言っていた気がする。
まさにキキョウはその明るい性格が服にもにじみ出ていた。
スカートが・・・短い。
モノが予想通り胸元に釘付けだった。

「えーと、キキョウも艦長室に?」

「えぇ、アイビーが来てくれっていうから。モノ、その服どう?」

見とれてるモノを肘で小突いてやった。
惚れてるのは俺じゃなくてお前だろうが、と無言で思った。
これはまっとうな思春期の行動なのだから目をつぶって多めにみてやってほしい。

[艦長室]

「失礼します」
「おぉ、来たか。ようこそ、アザミへ。俺が艦長のカオス・アーティチョークだ。ま、さっきも言ったけどな」


自動ドアが開いてその間わずか0,5秒の間に挨拶を済まされた。
ちょっとあっけにとられていると、アイビーが困ったような顔をして兄である艦長の肩をたたいた。

「兄さん・・・リョウやモノさんが驚いてます、まずソファーに座ってもらって。話はそれからでいいでしょう?」
「そうだな、まぁ適当に座ってくれ」

ソファーに腰掛ける俺とモノ、アイビー、キキョウはソファーに座る。
艦長はデスクのキャスターチェアに座った。

「まずはあやまろうか。すまないな、半ば強制的に参加させて」

・・・予想外だ、礼儀はちゃんとあるんだなレジスタンスでも。

「いえ・・・こちらにも得すべき事があったもので・・・モノはどうかは知りませんが」
「何言ってんだよ、こうなったら最後まで付き合うしかねーじゃねーか、何度も言わすなよ」

「ありがとう・・・。まず何から説明すればいいかな」

俺は真っ先に頭に浮かんできた疑問をぶつけてみた。

「反太陽系連合組織アザミ・・・主とする目的はなんですか?見たところ、ただのレジスタンスではないようですが」
「アザミのメンバーの70%以上は元太陽系連合軍だった者だよ。かくいう俺も元は木星で大佐をやっていた。今この艦に乗っているメンバーも私の直属の部下 だった者が多い」

大佐って・・・そんな地位を捨ててまでアザミは優先すべき組織なのか?
・・・簡単に考えすぎていたのかもしれない。

「アザミの目的は連合軍を統べる者達・・・俺達は強硬派と呼んでる奴らを潰したい。彼らは危険すぎる・・・特にあの計画はやってはいけないことだ」
「あの計画?」
「・・・詳細は不明ですが、太陽系に存在するすべての生物に関わる重要なことです。その手始めに彼らは急速な軍備増強を開始しました。
地球製ペルソナの開発の強行もそれが原因です。本当はペルソナが完成してからリョウ達を迎えにいく予定でしたが・・・予定を早めるしかなかったんです、ご めんなさい」
淡々と説明するアイビーになんとなく他人行儀になった俺は恐縮していた。
なるほど・・・それならさっきの統合軍が使用していた連合製ペルソナも合点がいく。
急な軍備増強に対して地球製はいまだにトライアルもできてない。
それが原因と考えていいだろう。
モノはもはやわけがわからないらしく、黙って俺を横目で見ているがあえて無視してる。
俺に質問されても全くどう回答していいやら困る。

「艦長もアイビーも硬っ苦しいな〜もっと簡単に言えばいいのに。
私達はね、あえて汚名を着て強硬派の管理下にある基地や部隊を行動不能にしてるの。
あ、でもあんまり人は殺してないから大丈夫!さっきのリョウみたいに避難勧告出してから壊してるからね!」

明るく、とんでもなく重いことを軽く言ってくれるキキョウ。
モノにはそれで十分だったらしいが俺にはまだ聞きたいことが山ほどある。
いや、ありすぎてチョイスに困ってる俺がいる。

「俺がアイオーンに乗れたのは偶然か?他の誰かは乗れるのか?それ以前に・・・これも予定通りなのか?」

俺の性格上、自分から行動するのはいいが他人に利用されるのは嫌いだ。
もちろん会社の上司とかに従うのは当然だが、こういう不正規軍の場合、個人の意見が尊重されるべきだ。
何のメリットもない、ただ考えの違いで行動してる彼女達がアイオーンのパイロットとして俺を選んだのならば。
俺は今すぐ艦を降りる、それは俺の望んだ筋書きではない。
勝手に他人に修正されるのは避けたい。

「・・・歴代のアイオーンのパイロットにはある共通点があります。リョウ、あなたもそれを持ってる。
でもリョウの場合は自分でも知らないんでしょうね、自分が最初からアイオーンに乗るために受け継がれてきた血筋の人間ということも。
それは誰かの思惑とかじゃなくてあまりにできすぎた偶然、運命としかいえないことだって」

アイビーは言った、まるで教科書を読むように。
運命・・・か。今の話しぶりでは俺はアイオーンに乗るための血筋だってか?
バカバカしい・・・俺は平凡な大学生だぞ?・・・ただ違うのはあの11年前の事件か。
あれも・・・偶然というなの運命なのか?
・・・どうあがいても変えられない運命、それを宿命という。

・・・今すぐこの宿命を与えた奴、出て来い。俺の代わりに残りの宿命全部背負わせてやる。

まぁ、唯一感謝したいのは退屈はしなくてもいいらしい事ぐらいか。
アイビーはすべて知っている。でも、それを話せない。誰かに・・・あの思い出の女によって口止めされてる。
なら・・・直接彼女に聞きに行くしかないか。それであの事件で俺がどんな運命背負わされたかはっきりする。
それしかないし、そうするのがきっと運命なんだろう。
・・・できれば乱用したくない言葉だな。
考え込む俺の視線とアイビーの心配そうな視線がぶつかった。
・・・俺って、こんなに女に弱かったのか。顔が温かくなる気がした。

「・・・俺の血筋とやらの話は今度じっくり聞かせてもらう。とりあえず、俺はここに残る。色々と縁がありそうなんでね」
「リョウがいるなら俺もいるぜ。言っておくけど結構使えると思うぜ?」

「決定、ね?」キキョウが意地悪げに微笑んだ。あの顔は何かたくらんでそうな顔だ。
「ありがとう。それで君達にはアイオーンの研究、整備、改修作業を頼みたい。アイビー、例の資料を・・・」
「これが現在、解析が終了しているアイオーンのデータです」

アイビーに手渡されたファイルを開くと、アイオーンのデータがびっしりと表示される。
ボタンを押してどんどんページを送っていく。
・・・エネルギーが理論上無限ということがこのファミリアの最大の特徴だな。
さらに装甲もただの合金ではなかった。

「アイオーンは外部装甲、コスモス・コアにアエオニウムを使っているのか?」
「アエオニウム!?ちょっと待て、どうやって精製したんだよ。まだ溶解温度すら発見されてないのによ」

モノがいうことはもっともだ。アエオニウム・・・地球でしか採取されないと言われる最近発見された未知のレアメタル。
その性質は宇宙に存在するどんな金属よりも優れ、将来が期待されている。
だが、金属のくせに溶解温度が発見されておらず加工すらできないというシロモノ。
・・・これもロストテクノロジーか。

「アエオニウムに関しては未だに加工方法は不明です。アイオーンに使用されているアエオニウムは封印される前に残っていた30%程度の装甲とコスモス・コ アのみです。
他の装甲と各部駆動部分は私達のできる限り復元したんです。本当なら装甲・武器全てがアエオニウム製なんですけど・・・」

データで見るとアエオニウム製装甲は頭部・肩・コクピット・脚部アンカーショット部・ブースタープレート。
これ以外は見た目は同じでも今の技術か。武器もペルソナのを流用してるし、まだ全部の力を出し切れてないということか。
・・・恐ろしいポテンシャルだな。見たところ、内臓武器が未だに解析されてない。
でも、これからの戦いを考えると単機対多数は十分に考えられる。
その時、汎用のペルソナ用武器だけで戦えるならいいが・・・やはり当面は内臓武器の修復だな。

「わかった。とりあえずこのまま格納庫に行ってアイオーンの内臓武器の修復作業をするよ。アイビー、他のはなんかないか?」
「部屋で休みたくなったらこれでいつでも私を呼んでください。あらかじめ、ある程度の連絡先は登録しておきましたから」

携帯電話・・・なのか?とりあえず地球にはない発想の電話だ。
スティック状でそのまま耳にかけられるような器具がついている。
ディスプレイは・・・立体か、ウォークマンみたいなボタン配置に使いこなすには慣れないとな。
モノにも同じものが渡された。ちなみに色は俺が青でモノが黒。
アイビーの耳にかけられているのは真っ赤な色だ。どうやら普段は耳にかけているのが普通らしい。
ヘッドセットみたいなもんか。周辺機器とか機能はどうなってるんだろう・・・って、今はそれよりも大事なことがあるだろうが。
近くにこんなにも神秘に満ちた俺の機体があるんだから。



「・・・アイビー、いいのか?彼の素性をばらしてしまったようだが」
キキョウとリョウ、モノが出て行った後にカオスがつぶやいた。
「・・・いいんです。彼には少しずつ思い出してもらわないといけないらしいですから」
「それが彼女の意思か。確かに彼女の目に狂いはなかったらしい。あの血が濃いのがわかる、昔のあいつにそっくりだ」
カオスが何かを思い出したように笑った。
「彼はまだ救出できないのですか?」
「当分は無理だ、あいつの監禁されてる場所は木星・・・下手したら彼女にも危険が及ぶ。それはさけなければならないだろう?」
「・・・はい。では、私はリョウにつきます。彼・・・とっても面白いですから」

そういってアイビーは軽くステップしながら艦長室を去った。

「・・・久しぶりだな、あんなアイビー見たのは」

艦長は安心しきったのかソファーにどかっと寝転んでそのまま寝てしまった。
 



[格納庫]

「こりゃあ骨が折れるな〜、装甲と装甲の繋ぎ目が溶解してつながってやがる」

なるほど、これでは開閉ができるはずもない。とりあえずこじ開けてみるか。
モノは手際よくレーザーカッターで装甲を切り離していく。さすがにアエオニウム製装甲は切り離せなかったが。
アイオーンのコクピットが収納されている胸部分の左右、ちょうど人間で言うと脇腹の部分をこじ開ける。

「・・・見たところ、エネルギー系の武器のようだけど・・・どう使うんだかさっぱりだな」

「それは武器への供給ユニットのはずだ、アイオーンの専用武器のな」

明るい声が格納庫に響いた。振り返るとアシンメトリの髪型の男がいた。

「俺はアキト・ブルースター、よろしくな地球人。アイオーン用の武器を開発しているんだが・・・こんな機構があるなんてな、ボツにしたアレが使えるかも な」

出された手をとり握手をする。ずいぶんとフレンドリーな人だな、モノと仲良くなりそうだ。

「アキトさん、その武器ってどういうのですか?」
「昔、ペルソナ用の重力砲を造ったんだ――しかし、エネルギーの関係でとんでもなくでかくなってしまってな。
供給ユニット・・・このコネクターなら少しいじれば大丈夫だな。これ自体も射程は期待できないがエネルギー兵器として使えそうだ」

モノがそれを聞いて目を輝かせたのは他でもない。
俺はアイビーと一緒にアイオーンをスキャンして内臓武器の位置を確認する。
脇腹のエネルギーコネクターはどうやら近距離用の拡散ビーム砲らしい。
現存武器のデータベースをみながら似たような武器を見比べてみる。
ただし、実際に使ってみないと調整も難しいな。それに・・・アキトさんの話が本当ならば内臓武器と外部武器へのエネルギー供給の二通りの使い方が見込め る。
この発想はこれからのペルソナにも十分応用できるはずだ。
一応、打ち込んでおくか。

「リョウ、そのテキストファイルはなんですか?」
「あぁ、ペルソナのアイデアとかだよ。思い浮かぶたびにこうやって追加していくんだ、設計まではいってないけどね」
アイビーは何を思ったのかそのデータを自分のPCにコピーし始めた。
「こんなもんどうすんだ?ただのテキストなのに」
「アザミの開発部に送ります。もしかしたらアザミ製ペルソナの2nd設計の助けになるかもしれません。1stさえまだ生産ラインが整わない状態ですけ ど・・・」
アイビーの笑みはたまにしか見れない。いっつも顔の表情に変化はないからこそ新鮮に見える。
ありがとう、俺のアイデアテキスト。お前のおかげでアイビーの笑顔がまた見れたよ。

アイオーンの構造解析には相当時間がかかりそうだ。
アエオニウムという特殊装甲のせいもあるだろうが、とにかく内部武器を取り出して修復しなければならない。
当分は地味な作業が続きそうだな・・・。




そんな甘い考えが俺の覚悟を鈍らせた。これから約18時間後・・・事件は起こった。

俺とアイビーの距離を一気に縮めた。

嬉しいのか迷惑なのかわからないあの事件が。



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