第1話 戦いへの序章



そこは雪に覆われ、当たり前のように雪が降る寒帯。

その山奥に外界を寄せ付けない古城が存在していた。

名は『ヴァイス・シュバルツ城』、遥か4000年前から続く魔術師の系統にして、
かの『五大名家』の一つである『ヴァイス・シュバルツ家』の所有所である。

世界には『魔術師』と呼ばれる者達が大勢いる。

『そんなもの、ただの空想の産物だろ』、世間ではそのような認知しかないが
この世界に魔術師は実在し、その多くが共通の最大目標として『根源への到達』を目論んでいる。

『根源』とは『森羅万象この世に存在する様々な万物の始まりにして終焉』とされる領域で、
すなわち『神の座』というのが妥当だろう。

とにかく、多くの魔術師がその『根源への到達』を目論んでいるのだ。

そんな大それたことを為そうとしたのが『ヴァイス・シュバルツ』と、
同盟を結んだ『魔導師』の家系『テスタロッサ家』である。

魔導師と魔術師……これらは二つは『魔道を歩む者』でることには違いない、
なので同じと捉えてしまうかもしれないが、実際は大きく異なる。

魔術師は基本的に『魔術』や『神秘』を秘匿しようとし、その為の組織『魔術協会』が
存在するが、あくまで『神秘』と『魔術』の秘匿が十分に為されているのなら、魔術協会は
魔術師が非人道的な魔術実験や残虐的行為を行為をしようと干渉せず、『お咎めなし』とする。

つまり『魔術師』という者達は『世界の法から外れた存在』故、いかなる残虐的で非人道的な
魔術実験を行おうと、『我々は世界の法から外れているんだ、別にいいじゃないか』というのが
魔術師にとって当たり前の言い分なのだ。

真っ当な魔術師もいない訳ではないが、大抵は魔術を使えない一般人を
軽蔑している面があるので、必ずしも『良識的』というわけではない。

これに対し『魔導師』とは、『世界の法と道徳を外れず、遵守しよう』という考え方を持つ。

この為『魔術協会』と敵対する『聖堂教会』との関係は悪くなく、それどころか良好である。

魔導師には『魔導管理局』と呼ばれる組織が存在し、魔術によって非人道的な魔術実験を行う
魔術師や死徒を捕縛し、厳格に罰する魔道に関しての治安組織と言えるだろう。

『魔術協会』とは仲が悪く、時折『聖堂教会』と協力して魔術師を追い詰めることもある。

そんな彼等の中に魔術師同様『根源への到達』を考えた魔導師の家系が存在した。

名は『テスタロッサ家』、魔導師の頂点に君臨する『チェックメイト・シックス』の内
『ナイト』の称号もった家系である。

約3000年前、当時のテスタロッサ家の当主『ハルバーグ・テスタロッサ』は
強大な力を有した『万能の願望機』を作り上げようと試みた。

その目的は『根源』への道を穿ち、『魔術犯罪に対する抑止力』となる存在を作り出そうとした。

研究は長い年月を有し、彼の崇高な目的に『チェックメイト・シックス』や
その他多くの魔導師が研究に協力し携わった。

しかし、それでも『万能の願望機』の鋳造は困難を極めた。

そこで『チェックメイト・シックス』の当主たち、『魔導管理局』の大局長はある決断をした。

それは『魔術師に協力を求める』というものだった。

しかし、当然の事ながら魔術師と魔導師の関係は凄まじく険悪なもので、
出会い頭に殺気を飛ばし合ったり、果ては殺し合いを演じかねない状況に
陥った回数など数知れない。

そんな状況だった為か、『万能機完成』への道程は遠くかかると誰しもが思った。









だが同盟を協定して46年後、『万能の願望機』は完成した。

その姿はまさしく、伝承や伝説にその名を記する『聖杯』に似ていた為、
『万能の願望機』の名は『聖杯』となり長年の苦悩が実を結び、成就した瞬間だった。



だがここで、思いもしない事態が発生した。



聖杯が『確固たる自我と自由意志』を手にしてしまったのだ。




聖杯は『チェックメイト・シックス』の当主たちと魔導師たちと同盟を結び、
『万能の願望機完成』に協力していた魔術師の名家『ヴァイス・シュバルツ家』
の当主『オーガス・ヴァイス・シュバルツ』をその身に取り込み、そのまま行方を晦ませた。

これにより、魔術師と魔導師の仲は更に険悪なものとなってしまい、
血で血を洗うような闘争に発展、聖堂教会まで介入する三巴の戦争となった。

そんな頃、聖杯は魔術師や魔導師にある重要な事を告げた。

それは後の世において、『聖杯戦争』と称される儀式についてだった。

聖杯の目的は『自分に相応しい者』を得ることであり、それを決める為
『7人の魔術師』と『3人の魔導師』による『殺し合い』という名の儀式を執り行った。

こうして『聖杯戦争』の原点とも言える戦いは始まった。

壮絶な殺し合いの末、参加者である10人の魔術師と魔導師は
勝者を出すことなく、殺し合いの果てに死んだ。

その後……幾重に渡って聖杯戦争は繰り広げられたが、生き残り勝利を得たのは僅か3人。



1人は魔術師であり、ある大魔法を聖杯によって完成させた。

もう1人もまた魔術師であり、ただ名誉のみを求め得た。

最後の1人は魔導師であり、ただ愛する者を救う為に聖杯の力を使った。


そして2024年……七月一日をもって『第7次聖杯戦争』は、
その幕を大きく開けた………









そこは城の中に礼拝堂。

雰囲気はまさしく教会のそれと似たようなものだが
ここはあくまで城であり、教会ではない。

そんな場所に二人の男性がいた。

1人は『第七次聖杯戦争』に参加するマスターであり、
もう1人はそのマスターが召喚したサーヴァントである。



「我が『ヴァイス・シュバルツ家』は、『最初の戦い』から聖杯戦争に幾度も参加しては悉く敗れ去った。
しかし今度ばかりはそうもいかん。如何なる手を使おうとも我々は『第七次聖杯戦争』に勝たなければならない」



白銀の長髪をした男が、目の前にいる自分のサーヴァントに念を押していた。

男の名は『ガイル・ヴァイス・シュバルツ』、家督を受け継いだばかりのヴァイス・シュバルツ家
現当主であり、此度の第七次聖杯戦争の参加者である。


「分かっている。だがマスター、一つ聞きたいことがある」

「何だ? 言ってみろ」

「『如何なる手をもって勝利する』……これに嘘は無いな?」

「心配は無用だ『アルバート・ウェスカー』……例え愚劣で卑怯だろうが構わない。
我々の戦いは勝利を得て始めて、その真価があるのだからな」

「イエス・マイマスター」


黒いコートを身に纏い、短い金髪をオールバックにしたサングラスをかけた男は、
ニヤリと笑みを浮かべながら自らの主にそう応えた……










『魔術殺し』……青年『ユーノ・スクライア』が
そう呼ばれるようになったのは、随分なほど昔のことだ

彼は僅か9歳にして様々な戦場を渡り歩き、傭兵として戦った。

13歳の頃になると『魔術師殺し』を並行して行うようになり、
傲慢で非人道的な大勢の魔術師を殺していき、紛争地帯では
多くの兵士を殺していった。

ユーノには一つの目標があった……それは『絶対の権力者となり、高名な魔導師』になること。

大切なものをその手の平から零さない為に……。

傭兵として紛争地帯を渡り歩いていたのも『大金』を
手に入れる為であり、『聖杯戦争』における資金を調達する為だった。




『第七次聖杯戦争』




これこそ、ユーノ・スクライアが待ちに待った『戦い』。

この戦争で生き残れるのは『2名』、つまり『同盟を組んで敵を駆逐できる』ということだ。

その為の『同盟協定』は済んでいるし、戦いに必要な機器などの準備もとうにできているので、
今のところ支障は無く、後は聖杯戦争に参加するだけとなった……








【日本 神代市『スクライア邸』】


「マスター、我々の組む相手は一体どのような人物なのですか?」

「ん? そうだねぇ……簡単に言ってしまえば『古い仲』かな」


ユーノとその妻『ナノハ・スクライア』とその娘である
『ヴィヴィオ・スクライア』が住んでいる西洋風の屋敷。


彼の部屋には今、本人とそのサーヴァントしかいない。


サーヴァントにはそれぞれクラスがある。


『セイバー(剣士)』

『ランサー(槍使い)』

『アーチャー(弓兵)』

『ライダー(騎乗者)』

『キャスター(魔法使い)』

『アサシン(暗殺者)』

『バーサーカー(狂戦士)』

『アヴェンジャー(復讐者)』

『クリーチャー(異形)』

『ファイター(格闘士)』


10騎となっている。

サーヴァントは『英霊』ではあるものの、こちらの歴史や伝説にその名を刻む
過去の偉人や超人ではなく、『並行地球(パラレルワールド)』から来た英霊が
サーヴァントして聖杯に招かれ召喚されるシステムになっている。

そしてユーノが引いたサーヴァントのカードは『ファイター』。

接近戦に特化し、基本は素手で戦うという戦闘スタイルをもっている。


「古い仲? ということはご友人…ですか」


ボーイッシュな茶髪に黒い衣装を身に纏った少女、『キュアブラック』は納得した表情で
佇んでおり、テーブルのイスに腰を下ろしているユーノは少しばかり苦笑しながら訂正した。


「いや、というよりは『腐れ縁』ってやつかな? まあ人格は保障できるから安心していいよ」


「そうですか……とにかく、あと10日も経てば聖杯戦争は始まります。ヴィヴィオとナノハは……」


「ヴィヴィオは隣町の知り合いに預ける。ナノハもできればヴィヴィオと一緒にいてほしいんだが、
どうにも頑固でね。『力になりたい』の一点張りさ」


溜息を漏らしながらもどこか嬉しそうに話すユーノ。

彼の妻であるナノハは旧姓を『高町なのは』といい、魔導管理局では『エース・オブ・エース』の
異名で知られ、数多くの魔術犯罪者や死徒を捕縛した実績と確かな実力を有している。

彼女がファイター陣営に加勢すれば人間といえど大きな戦力になるだろうが、
夫であるユーノが当然許す筈も無く、最初の内は大反対していたものの
結局、ナノハの頑固さに負けて聖杯戦争への参加を許してしまった。


「参加を許してしまった以上、もう後戻りはできない。
ファイター……君にナノハを任せてもいいかな?」

「はい、もちろんです。私に与えられた『ファイター(格闘士)』の名にかけて」

「うん、それなら安心だ」


ユーノはそう言い、テーブルに置かれたパソコンを操作し始めた。










『蘆夜家』……かの有名な陰陽師たる蘆夜道萬を先祖に持つ、『数少ない名門』の東洋魔術師の家系である。

その歴史は古く、様々な呪術や召喚術に長けており『第2次聖杯戦争』から
『第6次聖杯戦争』に参加してはいるものの勝利を得ることはできず、連敗続きであった。

故に蘆夜家は、今までの敗因や欠点を熟知し改善、
新たなる別系統の魔術を会得することで勝利への確率を上げていった。

そんな蘆夜家の本邸に怪しい影が紛れ込んだ……暗殺者のサーヴァント、『アサシン』である。

まだ聖杯戦争は始まっていないので、当然の事ながら殺し合いは不可能。

しかし『殺し合いや闘争以外』なら別である。

アサシンこと『栗霰 串丸』の目的は、蘆夜家の参加者にして当主『蘆夜土岐臣』が
どのような魔術を使うのか、また土岐臣が使役しているサーヴァントの細かな情報の奪取にあった。

蘆夜邸の周囲には様々な結界が張り巡らされてはいるものの、
サーヴァントの彼からしてみればただの障害物に過ぎない。

結界を潜り抜け、蘆夜邸の玄関前に立つ串丸。

本来なら堂々と玄関から入るなど暗殺者としては言語道断だろうが、
彼はあくまでサーヴァントであり、アサシンのサーヴァントには
聖杯より『気配遮断スキル』が与えられている。


しかも高ランクである『A+』、攻撃しなければいかなるサーヴァントでも
その気配を察知することはできない。


ゆっくりと、ドアノブに串丸の手が掛けられる。

いざ扉を開けようとしたその時、


ドオオオオオオオオオオオオッッッ!!!!!!!


「なっ!?」


串丸の後方5メートル先の場所に一本の剣が飛来し、地面に激突した瞬間
凄まじい爆発を生み、串丸を十分すぎる程に戦慄させ驚愕させた。

串丸はすぐさま玄関を離れるが若干遅く、そのせいでドアを突き破って出てきた10本の剣や刀を
防ぐ事ができず、無残にもその体を貫いた。


「ガはァッッ!!」


口から血を吐いたのだろう。

白い仮面の隙間から赤い液体が溢れ出る。

すると目の前に銀色の光が発生し、やがてそれが人のカタチを形成していく。

光が収まると銀色のメカニックの鎧を身に纏い、バッタのような昆虫を意匠した
銀仮面のサーヴァントが現れ、エメラル色の両目から串刺し状態になった串丸に
対して侮蔑の視線が送られる。


「貴様……仮初とはいえ、我が居城を無断で闊歩しあまつさえ、泥棒紛いな所業を為そうと
するとは許し難い……何より貴様は俺を見るに値せぬ。早々にその命を我に献上せよ!」


銀色のサーヴァントは片腕を上げた。

それは串丸に対しての死刑宣告であり、揺るぎ様のない決定事項である。

蘆夜邸の上空に小さな……それでいて強大な力を放つ『月』が発生し、そこから無限に等しい数の
宝剣宝刀、妖刀や魔剣、名剣名刀の数々が飛来し串丸の腕を、足を、顔を、胴を、見るも無残に
削りすり減らしていく。

やがて刀剣の雨が止み、串丸のいた場所にはクレーターと服の切れ端の数々と混じる肉片があるだけだった。


「ククク……いいものだな。意気揚々と入ってきた賊物を討ち取ると言うのも……」


銀色のサーヴァント『創世王シャドームーン』はそう言い、銀色の光を放ちながら
霊体化していき、自分のマスターがいる蘆夜邸と戻っていった………




















聖杯戦争……7人の魔術師と3人の魔導師。

計10人のマスターがサーヴァントを召喚、使役することで

聖杯を巡り覇を競わせる殺し合いという名の儀式……それが『聖杯戦争』。


この戦争で勝利できるのは『2名』のマスターのみ。

聖杯は勝利した2名に『いかなる願いをも叶える権利』を与える。

残る敗者には『屈辱の聖杯戦争離脱』か『絶対の死』の二択しかない。


そして今ここに、『第七次聖杯戦争』の開幕ベルは鳴り響く………。



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