倒れた。肉体的な疲労で倒れたというより、精神的な負荷により倒れたというよりも魂を根っこから引き抜かれたような脱力感だった。


『負けてはならない。』


その言葉が脳裏に焼きつく。その声が風車の様に何回も、何十回、何百回とグルグルと廻っていく。
思えば、地球が回るように世界も廻っているのかもしれない。だから、進歩していったとしても・・・根本は変わらない。




マブラヴ・リヴァイヴ
4話 「隠す者(前)」







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・・・なんだ?ここ何処だ?



周りが灰色・・・簡単に言えば画面にノイズが入り見え難くなっているテレビのような風景を武は見えていた。


「‐‐‐ケ‐‐ル君。僕と戦うんだ。」


風景が荒れている中で黒い巨人と、人の形をとった異形な灰色の巨人が対峙していた。

「おまえは・・・・。」

「そうだよ、僕は‐‐‐‐だよ。だから君と僕は戦わないといけないんだよ。」

「どうした、お前と戦わないといけない。」

「それは、創造主に聞いてほしい。聖書を開いてごらん、きっと何かが分かるはずさ。」

とぼけた様な口調で話すが少年の操っている巨人は、黒い巨人に挑んでいく。黒い巨人も長刀を構えぶつかり合う。

「ふざけるなよ。総てを理解していると本気で思っているのか!?」

「理解じゃない、受け入れただけさ。本質的に理解はできないさ。生き物本質の違いなんぞ分からないさ。そんなに知りたければ哲学でも学べばいい。」

黒い巨人と灰色の巨人は、空を翔けあがる。互いに理解できない、納得できない出来事。
けれど、受け入れることしか自分たちに出来ないもどかしさに苛立ちながら剣先を相手に突き合わせることしか出来ない。

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!‐‐‐‐つき!!」

「行くぞ!!‐‐‐‐ケルーーーー!!!」

2人の咆哮に合わせる様に二体の巨人が重量感のある機械音を響かせながら、ぶつかり合う・・・そして、閃光が起きる・・・世界が暗転す る・・・・・・・・・・・・・・・。



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「ん・・・・。」


真っ白な壁が見えた・・・いや、天井だろう・・・近くで女性と男性の話し声が聞こえてくる。

「それで白銀はどうなんですか?沙霧曹長?」

「単なる過労ですよ・・・ただどんな訓練をしたのか分かりませんが。筋肉が疲労していますね。とりあえずは、少し様子を見てみましょう。」

「そうですか・・・よろしくおねがいします。」

「ええ、任せてください神宮寺軍曹。」


彼女が出て行ったのを見て、沙霧と呼ばれた男が患者の寝ているベットを見て息をフッとはいた。

「さて、起きているんだろう・・・白銀訓練兵。」

「ありゃ、バレてます?」

「軍医を侮ってはいけないな。」

口元を緩める沙霧。それに対して武は、男の観察をしていた。鍛え抜かれた筋肉。無駄がなく、それでいて戦うために効率よく鍛えられた肉体。
軍医も戦場に出るためにタフでないといけないだろう。しかし、彼の身体は間違いなく戦場に出て戦うための身体であった。


「僕は沙霧っていう単なる軍医だ。とって食いやしないからそんな怖い顔しないでくれ。」

「ええ、そこら辺は信用しますよ。」

 あくまで医者ということだけな。

武は心の中でそうつぶやいた。彼は未だに得体の知れない男だというのが彼の位置づけである。



「さて、白銀君・・・一応聞いておきたい。君は人かい?」



沙霧は眼鏡の下から真剣な眼差しで武を見る。その問いに対して不思議な顔をする。
君は人間か?という問いは何を問うているのか。精神的なことだろうか?会って間もないそんなことを言われる謂れはない。
ならば、生物学的に人間かと問われているのか?それこそ、まったくもって論外である。

「なに言ってるんですか?」

まったく、思いつかない。だからこそ、その質問の意味を聞きかいした。


「そうだね。僕にとって君が一般人であるとは思えない。」

 ああ、論外としていた事を問いやがった。


「聞くだけ聞いておくけど・・・何故?そんな、生物的に俺が人間じゃないというんですかねぇ〜〜、曹長殿。」

「ああ、そんな怖い顔しないでくれ。」

顔を鬼にして沙霧に迫ってくる。それに、冷や汗を垂らしながら武に顔を合わせる軍医さま。

「言い方が悪かったね。君が倒れるまで無理をするのには、人として譲れない何かを持っているんだろ?だからこそ、人としてそこまでの決意に興味をもったん だ。」

優しそうに微笑む男に対して武は、口を緩めた。

「無理じゃなくて無茶したんですよ・・・。」


・・・・武もまたなんとも、子供じみた言い訳をする。それに対して、沙霧は笑みを絶やさずに彼の顔に見つめた。

「同じじゃないのかい?」

「無理は辛いだけだけど無茶は楽しんでするんですよ。」

「ははは、だけど無茶してもうまく筋肉がつくとは限らないだろ?」

「でしょうね。けど・・・。」

 どうしても、やらなくちゃいけないことなんだ。何を成すにも力がいる。

「強くなろうとするのに理由は必要ない・・・か。」


昔を思い出すような遠い眼。彼もまた強さを求めて無茶をしたのだろう。


「分かった。深くは追求しないよ。けれど、無茶は程ほどにだ。身体を壊したらそれこそ無理をさせることになる。」

「ありがとうございます。沙霧先生・・・。」


互いに、男であるから理解できる。男は絶対的な現実主義者ではない。どこかにロマンを求める理想主義者なところがある。
沙霧と握手をする・・・だが、二人とも気づいていなかった。
この光景を見ている人物の事を・・・



日も暮れて、みんなが腹ペコでPXに行く。辺りには腹をすかせて列に並ぶ人々。腹をすかせた軍人はハイエナのように飢えた顔をする。
そんな、姿をみて人間という生き物は腹をすかせれば誰も彼も変わらないもんだなと苦笑する。


「し、白銀!?大丈夫だったの?」


そこに、仲間の声が聞こえる。PXに入ってきて少したって榊達が207分隊の面々が集まってきた。

「おう、単なる過労だってよ。心配してくれたのか委員長?」

「い、一応仲間だからね。それに私は委員長じゃない!」

「でも、千鶴ちゃんは本当に委員長さんみたいだよね。」

「そりゃ、分隊長だしな。」

「どんな関係があるのよ。」

疲れた顔をする榊に武は笑みを浮かべる。

「さて、飯にしようぜ。」

「それなら用意はもうできてるよ〜。」

珠瀬の可愛い言葉に反応してテーブルに置かれた食事にめを・・・・。

「ぬぉ!!」

とても野太い声が出てくる。目の前に置かれた食事。
どこかのジャイアント何某が食うのか?と思わせるような山盛り・・・もとい!エレベスト級に盛られた白飯。
ただ、飯が多いがおかずが普通サイズ。いや、少ないだろうと思わせるほどの数しかない。

「給仕長〜なんかアイツの量、俺と圧倒的に違うんだけど・・・。」

「なんだい!?アンタは腹がすくほど仕事してないだろ?ほら!これ以上文句言うとアンタのおかずをピーマンだけにするよ。ほらほら、列の後の子達に迷惑だ ろ。早くいきな!」

「そ、そりゃないよ〜。」

そんな会話が聞こえる中、武は乾いた笑いをする。いや、にしても飯だけ一杯によそらなくてもいいもんだろうと思いながら味噌汁に箸をつける。

「ところで本当に大丈夫なのか、武?」

「あったりまえだろ。過労なんかで倒れてられるかよ。それに、もうそろそろなんだろ?」

みんなが小さく頷く。そう、総合技術評価演習が近い。戦うにしても衛士になるにしても目の前の試練を乗り越えなくてはならない。
全員が一丸となり試される演習に全員が

話題を変え、冥夜がなぜ武のことを名前で呼ぶのかということを珠瀬が聞いてきた。

「ん?そういえば何故であろうな。白銀より武の方がしっくり来たからというのが」

「ま、冥夜が俺のことを名前で呼ぶなら、俺も冥夜のことを名前で呼ぶがな。」

「そなたが名前のほうが好ましいというなら、別にかまわん。」

「そ、それじゃー私も呼びますね・・・え〜と、タ、タケル?」

顔を赤くした珠瀬が武のことを名まで呼ぶ。すると、武の掌が珠瀬の目の前に迫る。

「ふへ?」

「ダメ。たまは、さんをつける。」

「ちょっと、なんで珠瀬は『さん』付けなのよ。」

榊が食って掛かる。確かに差別はいけないことだろう。

「なんでって、デフォルトだから?」

「意味が分からないわよ。」


みんなが楽しそうに笑いながら食事をする・・・たった一人を除いて・・・。

「ん?どうした彩峰、元気ないぞ。」

「別に・・・。」

とても不機嫌そうな顔をして立ち上がる。

「どうしたんだよ。彩峰?」

「どうもしない・・・。」

さっきまでの和やかなムードが一転して険悪なムードになる・・・そして、そのままPXを出て行こうとするのを委員長が止める。

「ちょっと彩峰どこ行く気?」

「どこでもない。」

「だから、どうして貴女はそう勝手に・・・。」

最後まで言う前に彩峰はさっさと出て行こうとする。

「ちょっと貴女・・・私の事、馬鹿にしてない?」

「とても・・・している。」

かなり不機嫌になっていた彼女の理性メーターはレッドゾーンをきろうとしようとしていた。

「貴女ね!」

「・・・・・。」

二人が対峙する・・・他のみんなは圧倒されて固まってしまっている・・・だが一人だけ席を立ち彩峰の手を取り、外に出ようとする人物がいた。

「何?」

「いいから少し付き合ってくれ。」

手を引いて外に出て行こうとする武に榊が目線を向ける。

「ちょっと白銀、何のつもり?」

「悪い・・・少し彩峰と話がしたいんだけど・・・いいか?」

出会った日数は短いが彼がどういう人間か掴めてきた。すぐに、この曰くつきの部隊にすぐ馴染んだ彼に任せてみようと、そんな考えが浮かんだ。

「・・・わかったわ。」

「ありがとう。」

礼を言うとそのまま力ずくで彩峰を連れて行く。彩峰もどうにか手を放させようと抵抗するがまったくビクともしない。そして、PXを出て行った。

「離して・・・。」

「離したら逃げるだろ?お前猫みたいな性格だからさ。」

少しだけ彩峰がムッとするが武に握られている手を見ると、なぜか自分の父親に手を握られて歩いているように感じた。

「な、ちょっと話そうぜ。」

そう言って武の部屋に入っていった。彩峰も逃げられないと覚悟を決めて部屋の中に入っていった。

「話って何?」

「お前・・・俺のこと避けただろ?」

「何のこと?」

とぼけるが武は真剣な表情をして彩峰の事を見つめた。

「とぼけるなよ。顔見ればすぐ分かるほどだ。」

「・・・・・。」

彩峰は答えない・・・値踏みをするように武を見ていた。

「碌なものはないけど何か飲むか?といっても、PXからとってきたインスタントコーヒーしかないけど。」

いかにして取ってきたかは分からないが武はコーヒーの入ったカップを彩峰に渡すと武は椅子に腰掛けた。

「・・・白銀。」

「ん?」

「白銀は大切な人が嘘をついて殺されそうになっているのを知っていて、それでも信用してくれって言われたらどうする?」

「なんだよ、いきなりだな?」

「答えて・・・」

彩峰の真剣な表情を見た武は少し真剣な顔をして答える。

「そうだな・・・その人が本当に大切な人なら信じるかな・・・。」

「殺されるかもしれないのに?」

「それでも信じなきゃ駄目なんじゃないかと思う。だって信じなきゃ始まらないし、救えるものも救えないじゃねーか。」

コーヒーに口につける。

「・・・白銀は、いい奴だね。」

「違う、違う。俺はただ後悔したくねーだけだよ。」

一瞬だけ和やかな空気が流れる。だが、すぐに彩峰の顔は苛立った顔に変わる。



「だから・・・白銀があの人と仲良くしているのを見ると嫌になる。」



とてつもなく嫌な顔をしながら呟いた。それを武は、聞き流す。無理に聞けないだろう。

「なにか言ったか?」

気づいていないふりをして彩峰から話を聞こうとした。


「なんでもない。」


そう言って急に立ち上がる。それを見て呼び止めようとするが彼女の手はドアに手をかけていた。

「お、おい?」

最後に振り向き武をまっすぐに見つめて


「おやすみ。」


と一言だけつぶやいた。

「あ、彩峰!?」


静かになった部屋の中に中身が残ったコーヒーカップが二つ残っていた。




「ってな訳なんですよ。」

「ふ〜ん、なるほどね。ところでなんでそんなこと私に相談に来るの?私はカウセリングラーでも子供相談局の役員でもないわよ。」

「でも、一応こういうプライベートな話は先生のほうが知っているだろう?」

夕呼がため息をつきながら椅子に腰掛ける。

「愚痴るのは勝手だけど私はあなたの求める答えやヒントを知ってても教える気はないわよ。そう言う答えは自分自身で足掻いて探すものよ。」

「・・・・それが若さですか?円満な解決のために情報収集は必要だと思うんですがね。」

「そうね。ま、早々に答えを聞くうちは三流よ。わかっているなら自分の足で答えをみつけなさい。」

「はいはい。わかりましたよ。」

そう言って武は納得してない様子で部屋を出て行った。




夕呼の部屋から出て行って武は、例の部屋を思い出した。暗い部屋、不気味に光る脳のホルマリン漬け。
誰も、そんな不気味な所に行きたいがないだろうが彼にとっては大事なものがそこにはあるのだ。

部屋の中に入る。しかし、どこには人の姿が見えなかった。稼動し続ける機械音。脳と繋がるコードが不気味に光っているだけで彼の視界に生物はいなかった。
ただ、彼の視界の外。つまり、彼の後ろにはピコピコと動く黒いミミが見えている・・・それに気づかない武。

「さて、おーい、誰かいないか?」

「・・・・・。」


無言で小さい存在が彼の後ろに立ち続ける。ピコピコと動き続けるミミ。


「はぁ、せっかく会いに着たのに・・・いないのか。」

残念そうな顔をする武の表情に小さな存在は少しだけ焦りを見せた。ミミの動く早さが速くなっていく。


「そいで君は何してるのかね?」

ビクッ!

いきなり話をかけられてビクリとした形で固まっていた。それから、ゆっくりと顔が冷静になっていく。

「あ〜、大丈夫かね・・・君。」

「・・・大丈夫です。」

返答に対し息をほっとついて、目の前の少女。ウサギのミミの飾り物をし淡い初雪のように透き通った銀色に吸い込まれそうな青い無垢な瞳。
美少女という言葉が似合う少女が目の前に居た。

「それで・・・君の名前は?」

「・・・・・・。」

「あのね?君の名前。」

さっきの仕返しなのだろうか?彼の言葉に対して何の返答も返してくれない。

「あの・・・日本語分かるよね?」

「日本語知ってます。」

「ああ、そうなんだ。」

疲れた表情をしながら頭を抱える。それを見て少女が少しだけ眉をひそめる。

「社です。社霞。」

「うぉ!ここで言うのか・・・。」

「・・・・。」

「まぁ、いいや。ところでカスミ?」

話しかけるとそっぽを向いて話を聞いてくれない。それを見て溜息をつく。そろそ、消灯時間も近づいている。


「ふぅ、仕方ないな。今日は退散するな。」

「あ・・・。」

「またなカスミ。」


淋しそうに声を漏らす。けれど、武はドアを開けてカスミに別れの挨拶をすませてしまった。

「・・・・・。」

ドアが閉められてから数秒後にジッとドアを見つめた後。



「またね・・・タケルちゃん。」



そう呟いた。








あとがき:ういっす。NEOでヤンス。いやぁ〜、4話を書いているうちに気づいてしまったことが。
キャラを出し忘れるという事態に開いた口が塞がらない状態。しかもレポートの提出期限が迫る中なので、拍手返しはできなくなると思います。
次回は1月の中頃の更新になると思います。


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