他人なんて信用できない――
わずかにそそぐ月明かりの中少女は溜め息を吐く。
少女がいるのは暗くジメジメと湿った、およそ普通の人間であるなら決して来ることのない場所、
監獄の中だ。



そもそも何でこんな事になったのか、監獄の中にいる青髪の少女――メメナイアは考える、が、考えるまでもなかった、この間のアレが原因に決まっている。
「ハァ・・・・・」
思わず溜め息が出てしまう。
思えば、生まれたときから自分は最低の道のりばかりを歩いてきたような気がする。
いや、「気がする」ではない、実際最低だった。

生まれてすぐに、親から捨てられた、メメナイアを捨てた親が誰なのか、いまだにわかっていない(もしかしたら既に死んでいるのかも知れないが)。
赤ん坊の時に親から捨てられた自分は、幸運にもとある貧乏農家によって拾われ、育てられた、いや全くこれっぽっちも幸運などではなかったのだが。
なぜならこの農家、言葉通りに無茶苦茶貧乏だったのだ、メメナイアはしばらくそこで育てられたが、5歳の頃に金銭面的に限界が来たらしく、人買いに売られ ることになった。
人買いに売られてからは、貧乏農家ではあり得なかった毎日まともな食事を取ることは出来た、これに関しては売られてよかったと思ったくらいだった。
それから、ある意味当然といえば当然なのだが、貧乏農家で育ったメメナイアは栄養価のあるものをほとんど食べなかったために、ヒモみたいな体だったので、 全く買い手が付かなかった。
6歳の時、ようやくメメナイアに買い手が付いた、それもどこぞの有名貴族にだった、このお金であの貧乏農家の生活はいくらかマシになったのだろうか、まぁ 今となってはどうでもいいが。
そして、有力貴族に買い取られて、良い生活が出来たかというと、全然そんなことはなかった。
メメナイアを買い取った貴族、世間一般では人々に優しく、民衆からも慕われる立派な貴族を演じていたのだが、その本性は、身寄りのない少年少女を集めて、 自分の愛玩道具にするか、専属の私兵として戦闘訓練を施す、というえげつない事を平気でやる奴だったのだ。
メメナイアは、若すぎることと、痩せていたこともあって愛玩道具になることはなかったが、毎日のようにふざけた戦闘訓練を無理矢理やらされた。
メメナイアは、そこで2年暮らすことになった、なぜなら2年後、8歳の時、戦闘訓練を受けさせられていた少年少女達数名が反乱を起こしたからだ。
この反乱によって貴族は死亡、反乱を起こした少年少女達もほとんどが捕まるか殺されるかしたが、メメナイアはこの混乱の隙をついて、貴族の屋敷から脱出す ることに成功したのだ。
脱出に成功したとは言っても、もとより身寄りのないメメナイアには行くアテもなく、各地をうろついていた、日々の食料は盗むか奪うかして何とか生き延びて いた。
そしてある時、メメナイアの生涯において唯一確実に「幸せ」であった時期が訪れることになった。
カディマック盗賊団との出会いである。

この頃あちこちで悪さをしていたせいか、それともあの貴族に飼われてたからなのか、賞金首とまでは行かないまでも手配書が各地に回るようになってきてい た。
そのためヘタに町に入るわけにも行かず、とある山中に隠れていたとき、偶然にもこのカディマック盗賊団と遭遇したのだ。
メメナイアは初め、見るからにやばそうな連中だったので、遭遇した直後に逃げ出したのだが、さすがは盗賊、メメナイアは何とか逃げようとしたのだが、結局 捕まってしまった、
そして自分は殺されるのかと恐怖するメメナイアに向かって、この盗賊団のお頭はこう言ったのだ、
「こいつは見込みがある」
話の意図がつかめず混乱しているメメナイアをよそに、盗賊達はメメナイアをカディマック盗賊団のアジトに連れて行き、こう言った、
「お前は今日からこの盗賊団に入れ、さもなきゃ殺す」
メメナイアに選択肢はなかった。
翌日からいきなり盗賊団の雑用として様々な雑用仕事をやった、逃げようと思えばいつでも逃げられたのだが、逃げたところで行くところの無いメメナイアに とってはありがたい話だった。
そして、メメナイアは雑用のかたわら、盗賊としての技術を学んでいった。
スリのやり方から、初歩的な鍵開け、盗賊独自の歩行術、ナイフを使った戦闘方法など、様々だったが、あの「貴族の屋敷」で学んだことがここでは役に立っ た。
基本的な戦闘技術は体に叩き込まれていたため、メメナイアはまたたく間にこれらの技術を習得していった。
盗賊のお頭曰わく、
「やはり俺の目に曇りはなかった」
だそうだ。
そして、盗賊としての生活が2年目を迎えた頃にはメメナイアは盗賊団の中でもかなり注目される存在になっていた。
盗賊達もメメナイアを完全に「仲間」として受け入れてくれていた。
メメナイアは、心の中で盗賊として一生を過ごすのも悪くないな、と思い始めていた、メメナイアが自分の人生で初めて「幸せ」であると思える日々がようやく やってきたのだ。
しかし、メメナイアの「幸せ」も長くは保たなかった。

盗賊生活も3年目を迎えたある日、目を覚ますと、盗賊の砦が燃えていた。
それまで3年盗賊として修行してきた自分の「家」みたいなところが燃えていた。
カディマック盗賊団も何を言ったところで所詮は盗賊だ、恨まれるところからは当然恨まれる、ようするに国がカディマック盗賊団を殲滅しようと軍隊を派兵し たのだ。
メメナイアは走った、とにかくお頭を捜さなくては、と思ったのだ。
メメナイアは砦中を走り回ってお頭を捜した、その間何度も兵士に襲われたり、仲間の屍を見つけたりした。
そしてようやくお頭を見つけたとき、お頭は数人の兵士達と戦っていた、メメナイアはこれに突っ込み、すぐさま数人の兵士達をナイフで突き殺した。
しかし、兵士を倒し終えたとき、既にお頭は致命傷を負っていた。
駆け寄ったメメナイアに対して、お頭は
「すまねぇな、ドジふんじまったぜ」
といって笑った、メメナイアは、すぐにお頭を連れて砦から離れようとしたのだが、
「止めておけ、この傷だ、どうせもう助からん」
そう言ってまた笑った。
自分はこれからどうすればいいのか、と問うメメナイアに、お頭は
「知らん、自分のことは自分で決めろや、お前はもうおしめの取れてねぇガキじゃねぇんだ、好きなことをすればいいんじゃねぇか」
そして、お頭はメメナイアの頭を撫でた。
「お前は俺の娘だ、血は繋がってねぇが、俺に拾われて俺の砦で育った立派な俺の娘だ、だから、そんな顔すんなや」
この時、メメナイアは初めて自分が泣いていることに気がついた。
「そんなに俺が死ぬのが悲しいのか?・・・・だったら新しい仲間を捜すことだな、・・・・・・きっとお前を必要としてくれる仲間はきっとどこかにいるはず だぜ・・・・・」
お頭の息は段々荒くなっていった。
「ははは・・・・・・・俺もどうやらそろそろ限界らしい・・・・・・・・・・・メイア、お前は俺の娘だ・・・・・・・・・胸を張って生きろ よ・・・・・・・・・・・・・・それから仲間を捜して・・・・・もし見つけたら・・・・・・・・・仲間は大事にしろよ」
メイア、というのは盗賊達の間でメメナイアを呼ぶときの愛称だった。
「それじゃあな、メイア・・・・・・・・・・・達者で生きろよ」
これが遺言だった、お頭はそれきりピクリとも動かなかった。




*  *  *




メメナイアは目を覚ました、どうやら昔のことを思い出してる内に少し寝てしまったようだ。
時刻は深夜過ぎ、空には半月が浮かんでいる。
今、季節は夏だからそれほど寒くはなく、支給された囚人服と薄い毛布だけでも何とかなりそうだ。
メメナイアはうろんげな表情で自分がいる部屋の中を見回す。
部屋にあるのは、汚らしくて埃っぽい床と、簡素な寝台が二つと、部屋の隅にある簡易式のトイレ、そして部屋と通路との間の自分たちを外の世界に行かせない ための鉄の檻。
まるで獰猛な獣でもいれる為にあるようなそれは、非力なメメナイアではどうすることも出来ない。
自分がいるのとは反対側のベッドには誰もおらず薄い毛布が一枚載っているだけ、本来なら二人一組で入れられる部屋だが、今はメメナイア一人しかいない。
最初にこの監獄に入れられた時はもう一人女の囚人がいたのだが、三日もしないうちに番人達にどこかへ連れて行かれ、それきり戻ってこなかった。
一人で使うにはいささか物寂しく広い部屋だったがメメナイアには広々と使おうという気はなかった。
そもそも手足はそれぞれ手錠と足かせで拘束されていて、自分がいるこの部屋の中ですら満足に歩くことは出来ない。
(もう少し後かな・・・・・)
メメナイアはそう思って、再度思索にふけることにした。

さっきは昔のことを色々思い出していたから、今度は何を考えようか、と考えたメメナイアは昼間のアレのことを思いつく、初めてこの町に寄ったその日にいき なり自分がこんなところに入れられる原因となった事柄だ。
全くこれっぽっちも面白くない話なのだが、暇ですることもないので、そのことを思い出すことにした。



カディマック盗賊団が全滅したその後、メメナイアはまた各地を放浪して歩いた、今度は盗賊としての技術のおかげで、危険を冒すことなく楽にお金を手に入れ ることが出来た。
そしてあちこち旅をしている内に、自分は12歳になっていた、しかし盗賊時代の頃以上の「仲間」には出会うことはなかった。

そしてメメナイアは食料品を手に入れるために偶然寄ったこの町で、自分の運命を呪いたくなるような事件に巻き込まれた、というより自分から首を突っ込ん だ。
それは必要な物資を買い終え、一息付こうと寄った酒場での話だ。



酒場であることを気にせず、メメナイアは水を飲んで休憩していた。
すると、どこにでもある風景だが、見るからに軽そうな奴数人が、若い女の子に言い寄りながら、こちらに歩いてくるのが見えた。
明らかに女の子は迷惑そうにしており、軽そうな奴らは執拗に女の子にからんでいた。
メメナイアにとっては、どうでもいいことだったので、そのまま放置しておくつもりだったのだが、困ったことに、その女の子と軽めの連中はメメナイアの側に 座ったのだった。
メメナイアは休憩をさっさと終わらせて、速くこの席から立とうとしたのだが、軽めの連中が声を掛けてくる方が速かった。
「ねぇねぇ、君、ひとり?」
メメナイアは、まだ12歳だが、生まれてからいままで、いくつもの修羅場をくぐり抜けてきたせいか、落ち着いた雰囲気があり、実際の年齢より、かなり上の 年齢だと思われることがよくあった。
この連中もメメナイアのその雰囲気を見て、声を掛けてきたのだろう。
しかし特に用も興味もなかったし、こんなところで騒ぎを起こすのもマズいので、無視することにした。
しかしまぁ、こういう連中はからむときはやたらとからんでくるものだ、その後も、名前は?とか、俺らと一緒に飲まない?とか、やたらと声を掛けてくるので いい加減頭にきていたところに、トドメが加わった。
軽めの若者達のリーダーらしき男がこっちに興味を示したらしく、近づいてきたのだ。
そしてその男は、お前らは女の子に対する礼儀ってもんがなってないんだよ、とか何とか言ったあと、いきなり抱きついてきた、(正確には肩に手を回して顔を 近づけてきただけなのだが)メメナイアは全身が総毛立つのを感じた。
「なぁなぁ、俺らと一緒に飲んだ方が絶対楽しぃふべら!」
今のは、そのリーダー格の男が、メメナイアの裏拳を顔面に叩き込まれた音だ。
いきなりの出来事に、一瞬その場の全員がポカーンと沈黙したあと、
「てめぇ何しやがる!!」
軽めの連中全員が一気に血気立った
「あなたたちこそ、いきなり触ってこないで、あと、邪魔」
メメナイアは体中から鳥肌を立たせたままそう言った。
「ふぇ、ふぇめえ自分がなにしたかわはってんのか」
所々わかりづらい言葉を喋りながら、リーダー格の男が立ち上がる。
「この俺様はこの町の領主の息子、ガルぐぶべ!!」
ようやく立ち上がり、自分の名前を名乗ろうとしたリーダー格の男の顔面に、メメナイアは容赦のない拳を叩き込む。
「がるぐぶべ・・・?変な名前」
平然と言い放ったメメナイアに、リーダー格の男は、
「ほ、ほの女をぶ、ぶっ殺せ!!」
男達は一斉にメメナイアへと向かってきた。

けっこうな人数差はあるものの、メメナイアはこれっぽっちも恐れていなかった。
(人数は7人、リーダー格の男を除けば残りは6人、大丈夫、勝てる)
正面から殴りかかってきた男に対して、メメナイアは軽くバックステップしてかわし、空いた脇腹に蹴りを叩き込む。
さらに続いた男に対しても軽く足払いを掛けて転倒させ、鳩尾(みぞおち)にかかとを落とす。
(まず二人)
あっという間に二人倒されたことに驚き、動きを止めていた彼らに対し、メメナイアは瞬間的に間合いを詰め、一人の男の顔面に掌底を叩きつける。
さらに、近くのテーブルを足場にして別な一人のこめかみを蹴り飛ばす。
(これで、四人)
全員適度に力を込めて殴ったので、簡単には起きあがれないだろう。
テーブルの上に立ったまま、回りを見下ろし、残りの二人に声を掛ける、
「まだ、やる?」
すると、男達はうわああとかひえええとか言いながら逃げていった。
「よいしょ、と」
テーブルから飛び降り、一人残された男の方に向き直る。
「置いてかれちゃったわよ、一緒に逃げなくていいの?」
最初に殴り飛ばされた時と同じ場所でへたり込んだままの男に声を掛ける。
「な、なんでお前みたいなガキがこんなに強いんだよ・・・・・」
ガタガタと震えている男を見て少しやりすぎたか、と思いながら話す。
「経験の違い、よ」
少し優越感にひたりながら、男を見下ろしていると、酒場の店主から声がかかった。
「おい、お嬢ちゃん、あんた大変なことしちまったぞ、速く逃げな!」
「逃げる?なんで」
「さっきのはそいつの仲間のちんぴらだが、今に仲間をたくさん連れて戻って来るぞ!」
「別に、ただのちんぴらなら2、30人集まっても勝てる」
「いや、お嬢ちゃんが強いのはわかったが、そうじゃねえ!さっきの話を聞いてなかったのか!そいつはこの町の領主の息子だ、つまり」
ふと、複数の足音が酒場に近づいているのが聞こえた、それもかなりの大人数だ。
「ひはは・・・・オヤジのところにいる兵隊達でも連れてきたかな、お前ももうお終いだぜ・・・・ひゃははは」
先ほどまで、ガタガタと震えていた男が、いや、もしくは笑いをこらえていたのかも知れないが、ともかく、先ほどまでとはうってかわってやたらと陰湿な声で 喋り出した。
そして、まもなく酒場に入ってきたのは、ざっと4、50人ほどの見るからに人相の悪く、その上かなり喧嘩馴れしている連中だった。
「ひーはははあはは、てめーはもう死んだなぁ、泣いて土下座して謝って許して下さい私の体は好きにして下さいって謝るんなら許してやらないこともねぶる べ!」
いい加減うるさくて仕方がなかったので、側にあったイスを投げ付けて黙らせておいた。
「マスター、これ」
先ほど、助言をくれた酒場の店主に、金貨の入った袋を投げ付ける。
「え?」
店主が袋をキャッチしたのを確認してから言う、
「あげる」
「は?こんな大量の金貨が、なんで?」
「決まってる、店の修理費」
腰から、ナイフを二本取りだし、両手に構え、そして、
「手加減出来なそうにないから」



で、結局メメナイアはこの町の領主の私兵を40人ほど叩きのめしたところで、町の治安警察に取り押さえられて、現在ここにいる。
最初にからんできたのは向こうだし、先に手を出したのも向こうなので(メメナイアの中ではそうなっている)自分に罪はない、と言ってみたが、既に暴れすぎ た後だった上に、メメナイアには手配書があったので、牢屋に放り込まれることになった。

酒場にいた人間にも少し期待してみたが、誰一人としてメメナイアを弁護しようとした者はいなかった。
「・・・・・・・なにやってんだろ、私」
呟いてみたが、答えはなかった。




*  *  *




メメナイアがいるベッドから見える位置、メメナイアの足の方の壁のかなり上の方に、小さく、そして逃走防止用の鉄棒が何本もはめられた窓がある。
そこからは、夜空に輝く半月と、星々の小さな瞬きが見えた。
(良い夜空だな・・・・・・)
足かせの先に付いている小型の鉄球がゴロリと転がった。

いくら待っても来ないので、今日のところはそろそろ寝ようか、と思い始めた頃、人の歩いてくる音が聞こえた。
(やっぱり来た・・・・か)
メメナイアは、寝たふりをして、聞こえてくる音を集中して聞く。
(人数は二人、たぶんいつもの人達)
(鍵は、持ってる、でも武器も持ってる)
段々と話し声も聞こえるようになってきた。
(片方は、緊張している、もう一方も緊張していて、気が逸ってる)
そして、二人の番人達は、メメナイアの牢屋の前で止まった。
「おい、囚人、起きて外に出ろ」
メメナイアは身を起こす。
番人は牢の鍵を開け、メメナイアが外に出るよう促す。
そして、三人は静かに歩き出す。

「どこに、連れて行くの・・・・?」
なるべく、声のトーンを落とし、おそるおそる聞いているようにして言う。
「いいとこだよ、お前が望んだんだろ、黙って歩きな」
三人はそのまま歩き続ける。
そして、メメナイアは牢獄のある一室へ案内される。
メメナイアは、部屋を見回して、
(予想通り)
内心ほくそ笑む。
だが、そのことはおくびにも出さず、あえて怯えたような声を出す。
「ねぇ、この部屋は何?私を逃がしてくれるんじゃなかったの?」
「へへへ・・・なに言ってやがんだ、逃がしてくれたら自分の体は好きにしていいとか言って誘ってきたのはあんただろう」
片方の番人がメメナイアの体を軽く突き飛ばす、そして二人の番人達も部屋に入ってきて、扉に鍵を閉める。
「そんな、話が違う、命令通りにすれば逃がしてくれるって・・・・」
「だから、こういう事だよ、なーに、犯らせてくれりゃあちゃんと逃がしてやるよ」
そう言って片方の男がメメナイアの体に触ってくる、もう一方の男は見張り役のようだ。
特に抵抗はしない、ヘタに抵抗して、警戒されては元も子もないからだ。
男がメメナイアの体を寝台に押し倒す。
「へへへ・・・・・なんだよ、少しくらいなら抵抗してもいいんだぜ、もっともその状態じゃ何にも出来ないだろうがな」
現在メメナイアの両手は手錠でつながれている、足にも足枷がある、だから、普通なら何も出来ないだろう。
男は、メメナイアの服をめくり上げ、胸を触ってくる、メメナイアは両腕を下にして、ただ身を固くしているだけだ。
(もう少し)
「へへへ・・・・おら、手が邪魔だよ、どかせな」
そう言って男が、メメナイアの両腕を頭の上に押し上げる。
(あとは、足枷)
「ねぇ、やるなら、早くして、じらされるのは、好きじゃない、それとも上にしか興味がないの?」
初歩的な挑発に過ぎないが、この状況では簡単に引っ掛かる。
「へへっ、なんだよ、さっきは嫌がってたくせに、やっぱり誘ってんじゃねぇか、おら、お望み通りさっさと犯ってやるよ」
そういって男は、メメナイアの足枷を外す、これがあると、そーいう事をしづらいからだろう、小型の鉄球は足についたままだが十分だ。

―――準備は整った。

「ねぇ・・・・」
「あん?」
「さっき抵抗してもいいって言ったよね」
「言ったぜ、それがどうした?」
「少しだけ、抵抗させてもらうよ」
そう言った瞬間、メメナイアは両の手で男を思いっきり突き飛ばす。
「うおあっ!?」
男は、突然のことにバランスを崩し、床に転落する。
そして、先ほど男がメメナイアの体に夢中になってる間に実はスっていた鍵で、手錠を外す。
足枷は、番人が自分で外してくれた。
「いってぇ、何のつもりだ」
「貴様、脱走する気か!」
番人二人の内、扉に近い方が、扉の鍵を開けて、外に出て行こうとする、応援を呼ぶ気だろう、メメナイアは、隠し持っていたガラス片を投げ飛ばす。
「うっ・・・!」
単純に食器を割って欠片を持っていただけだが、番人の手に突き刺さり、意外と役に立った。
「貴様、逃がさんぞ!」
先ほどメメナイアが寝台から突き飛ばした男が口調を番人スタイルに戻して、襲いかかってくる。
これに、メメナイアは無理矢理体を寝台の上で回転させて、足を持ち上げる、正確にはその先にある鉄球を、だ。
「ぐがっ!!」
鉄球は、番人の頭を直撃し、一撃で昏倒させる。
(あと一人!)
「貴様、もはや容赦せんぞ!」
ようやくガラス片を取り外すことに成功した、もう一人の番人が、今度は腰の警棒を抜いて、こちらに向かってくる。
メメナイアは、今し方倒したばかりの番人から、同じように警棒を取り出し、構える。

初撃、右上から打ちかかってくる番人の攻撃を、正面から受けず、回避する、そして空いた胴に打ち込もうとするが、同じく避けられる。
第二撃、今度はメメナイアから打ち込み、番人が警棒で防御した瞬間、鉄球付きの足で蹴りを放つ、番人はとっさにこれを左腕で防御する、メキャ、と言う嫌な 音が響くが、それにかまわず、メメナイアはさらに左手の手刀で突きを放つ、左手は番人の喉を直撃し、
「ごっ!!」
番人を突き倒す。
しかし、鉄球か、突きかの、威力が甘かったらしく、番人はすぐに起きあがり、再度警棒を構える。
(さすがに、訓練されてる奴は違う・・・・)
もう一人も、不意を付かなければ倒せなかったかも知れない。
そして第三撃、左手を放棄して、右手のみで警棒を構えた番人が、打ちかかってくる。
まずは右からの払い、メメナイアはこれを軽く避け、反撃に転じようとして、直後、恐ろしい速度での突きが放たれた、警棒による、至近距離での打突攻撃だっ た。
メメナイアはとっさに避けようとするも、足の鉄球が邪魔で避けきれず、突き飛ばされる。
「うぐっ・・・あっ・・・・」
ぎりぎり、自分から後ろに飛んで、ダメージを軽減する。
「あれをあのタイミングで避けるか、貴様、ただ者ではないな」
「誉めてくれて、ありがと、でも手加減は、しない」
二人は警棒を構え、再び対峙する。
第四撃、そして最終撃、今度は隠しもせず、初めから一撃必殺の突きを放つために構えている番人に向かって、メメナイアは、正面から向かっていく。
番人は右手を、大きくそらして、全力で突きを放とうとする。
あと三歩、鉄球が重く、動きが緩慢になってしまうが、それでもかまわず先に進む。
あと二歩、メメナイアは、番人と同じように、警棒を大きく後ろにそらす。
あと一歩、番人が突きを放つ直前、メメナイアは足先の鉄球を思いっきり蹴り上げる、番人に向かって、ではなく、番人の放つ、突きのコース上に、だ。
番人の目が驚愕に見開かれる、しかしもう遅い、そして、メメナイアも番人と同じコースで突きを放つ。
そして、両者が放った突きがぶつかり合う、その中間点に、鉄球の鎖があった。
―――バキーン!
鎖は、二つの力により破壊され、砕け散った。
そして、砕かれた鎖が地に落ちるよりも早く、身軽になったメメナイアは番人に肉迫し、
渾身の一撃を放つ。
「がっはっ・・・・!!」
ゆっくりと、番人は崩れ落ち、ようやく一息付こうとしたメメナイアの真後ろで、殺気が発生する。
メメナイアはすぐに振り向き、

鮮血が舞った。

メメナイアの、ではなく、隠し持っていたナイフで、メメナイアを刺そうとしていた、先に倒したと思っていた方の番人の、血だった。
番人が持つ、ナイフがメメナイアに刺さる直前、メメナイアはとっさに番人のナイフを持つ手を捻り上げ、ナイフの向きを変えた。
しかし、突進してきた番人の体は、止まることなく突き進み、ナイフの刃は、吸い込まれるように、番人の胸へと突き刺さり―――。




*  *  *




やってしまった。
牢獄から、脱獄に成功したメメナイアは、考えていた。
脱獄するためだけに、不可抗力とはいえ番人を一人殺してしまった。
自分は、おそらく今度こそ賞金付きで指名手配されるだろう、そうなれば確実に賞金狙いの本物の殺し屋がやってくる、そうなったら、これまで小手先だけで何 とかギリギリやってきた自分は、助からないだろう。

さて、どうするか、

実際考えたのは一瞬だった、

なら、他の国に逃げればいい、「仲間」探しはまだ終わってない。

とりあえず、南東の「アヴァロン帝国」にでも行ってみようか。

メメナイアは、そうして旅立った。



序章3<了>





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