ここはどこなんだろう――
少年は目覚めるとともに外界を認識した。
透明な液体で満たされた培養槽の中、少年はぼんやりと自分の回りを見渡す。

どこかの研究所のようだ、各所に自分が入っているのと同じような培養槽があり、それ以上にたくさんのそれらを操作するモニターがあった。
自分がいる部屋の中には動く物体は何もない、部屋に入るための扉は奥の方に一つだけ見える、培養槽は正確に作動しているので、放っておいても数日は死なな いだろう。

ふと、そこまで考えたところで気付く、
(そういえば、どうして僕はここが研究所みたいなところだとか、これが培養槽だとか、モニターが何のためのものなのかとかわかるんだろ う・・・・・・・?)
胸のもやもやを解消するために、自分の記憶をたどってみる。
そして愕然とした。
(僕には、生まれてからずっと、いや、ここで目覚める以前の記憶がない・・・・・)
少年は、自らの意識に集中する、がしかし、どれほど考えても、思い出そうとしても、物事を理解するための、「知識」はあるのに、今まで自分が経験したこ と、見聞きしたこと、といった「記憶」が自分には一切無かった。

何故自分には一切「記憶」が無いのか、考えてみるが、ちっともわからなかった。
さらにしばらく考えてみたが、さっぱりわからなかったので、とりあえず休むことにしようと思って目を閉じようとしたとき、唐突に部屋の扉が開け放たれた。
「イアーッハハハハ、目が覚めたかい、我が息子よ!!」
そして部屋に入ってきたのは、禿げ上がった頭にグラサンと白衣というひどく不釣り合いな格好をした男だった。
「イハハハハハ、おーう!自分が誰なのか、俺が誰なのか、ここがどこなのか、なーんにもわかんねぇってツラしてるなぁ!?そりゃそうだろう、なぜならちゃ んとそうなるように俺が作ったからよう!」
男は笑いながら、少年に話しかけ続ける。
「さてと、まずは自己紹介といこうか、まず俺の名前だが、とりあえずドクターと呼べ、それ以外の名前は昔に捨てた、ってかその状態じゃ俺の名前は呼べない か・・・・・・・まぁそれはどうでもいいか、それからお前の名前だが・・・・」
男は数秒考えたあと、
「アージェだ、アージェ、本名はアージェンタムにしておけ、ミドルネームは必要ねぇ、それがお前の名前だ、忘れんなよ!」
それからドクターと名乗った男は、アージェという名前を手に入れたばかりの少年を指さして言った。
「いいか、アージェ、お前にはこれから様々なことを学んで貰う、算術、言語、歴史、科学、統計学、経済学、魔術学、心理学、芸術、神話学・・・・・とか色 々だ、とにかく覚えられそうなもんは全部覚えて貰う」
そして、ドクターは数カ所のモニターを操作したあと、少年に向き直って言った。
「そろそろ時間だな、とりあえず今日はそれだけだ、明日からばっちり勉強して貰うぞ!」
そして、ドクターは部屋の外に出て行こうとしたが、その直前でもう一度振り返り言った。
「いいか、アージェ、お前は少なくとも俺を超えなきゃならん、それが最低限度だ、なぜならそれが俺の「夢」だからだ、この俺ですら超えられなかった「壁」 があるんだ、それをお前は超えてくれ、「壁」を超えられそうな奴は何人かいたが、みんなもう人間やめちまった、だからお前は何が何でも「人」として俺を超 えてくれ、そのために俺はお前を作ったんだ」
ドクターは、入ってきたときと同じように、慌ただしく出て行った。

少年は、ぼんやりと考え、そして思った。
(アージェ・・・・・それが僕の名前)
培養槽の中で、アージェは静かに笑い、眠りに落ちていった。




*  *  *




それからは、アージェが目を覚ましてしばらくするとドクターがやってきて、アージェに色々なことを教えてはまたどこかへいなくなる、という日々が続いた。

そんなある日、アージェは、ドクターに前々から疑問だったことを聞いてみた。
「どうして、僕には「知識」はあるのに「記憶」がないんですか」
アージェはいまだに培養槽の中にいたが、培養槽の上部に設置された集音マイクから伝わった声がドクターの側のスピーカーから放たれる。
このマイクを通して、会話は可能だった。
「ふむ、それぐらいの思考は可能になったか・・・・・?いや、初期段間で既に可能だったとも・・・・・・」
しかしドクターはアージェの質問に答えず、ぶつぶつ独り言を言っていた。
「ねぇ、ドクター・・・・?」
「ん、ああ、すまん、お前の質問に対する答えがまだだったな、アージェ、早い話がお前は俺が作った人造人間だ」
「人造人間・・・・・・?」
「おうよ、俺様の『聖域』の力をベースにして人体を構成、それに世界最高の魔力媒体である『銀』を融合させた、お前の記憶がなかったのは記憶領域が出来て すぐに基本的な、俺が必要だと判断した最低限の知識のみお前の頭ん中に入れておいた、それだけだ、お前はあの時点でまだ一度も記憶するようなものを持って いなかったってだけさ」
(聖域・・・・・・?魔力媒体・・・・・・?銀・・・・?)
今の会話中には、アージェにも意味のわからない単語がいくつか入っていた、少なくともわかったのは、自分が目の前の人物、ドクターによって「作られた」存 在であること。
「じゃあ、ドクター」
「なんだ?」
「ドクターは僕のお父さんなんですか?」
ドクターは一瞬あっけにとられたような顔をしていた、が、しばらくするといきなり笑い出した。
「イアッーーハッハハハハハ!ハハハハハハハハハ・・・・・・・そうか、「お父さん」か!確かにそうとも言えるかもな!しかし、「お父さん」とは!ハハハ ハッハハ!おう、そうだ、「我が息子よ」なんて最初に言ったのはだれあろう俺だ、アージェ、俺は「お父さん」だぞ!イハハハハハハハ ハ・・・・・・・・・・・」
ドクターはそのあと、一日中、ずっと笑いっぱなしで、アージェが眠りにつくまでまともな会話は出来なかった。



またある一日。
ドクターは最初、どこかから持ってきた分厚い本をアージェに読んで聞かせていたのだが、突然
「こんなつまんねぇ本なんか読んだって、これっぽっちも得になんねぇな」
といってその場でその分厚い本を破り捨てた、そして、乱雑に本を詰め込んだ本棚から新たにドクターが選び出した本は、なんと、絵本だった。
「ふむ、たまにはこんなのを読んでみるのもいいか」
ドクターは時々、自分の趣味に合わない本があると、いきなりそれを破り捨てて、絵本のような子供向けの本を読み始めたりするのだった、だが、アージェはそ ういった子供向けの本を聞いたりするのが嫌いではなかった。

ドクターが時々気まぐれで読む絵本のお話は、どれも本当に幼稚なものばかりだったが、アージェはそれらを興味津々で聞いていた。
ドラゴンにさらわれたお姫様を王子様が救いに行く話や、とある大泥棒が世界中を回って様々な財宝を盗み出す話、旅人が色々な国を回りながら、その国の人達 とふれあう話など、種種様々だったが、どれもアージェが見たり聞いたりしたことがない世界の話だったので、少なくとも自分の頭の中だけで出来てしまう算術 の勉強や、歴史を覚えることなどよりも遥かにアージェにとってはおもしろみがあった。

今日ドクターがアージェに読んで聞かせたのは、ある冒険家が、「聖剣」と呼ばれる剣を探して世界を旅する物語だった。
これを読み終えたあと、ドクターは本をその辺に放り投げてから、言った、
「聖剣か・・・・・俺の知り合いに剣聖って呼ばれる奴ならいたが、ありゃ別か」
アージェは、時々疑問に思うことを聞いてみた、
「ねぇドクター、ドクターってたまに昔の知り合いの話をするけど、その人達はどんな人達なの?」
「あん?あいつらのことか・・・・・」
その時の昔の知り合いを思い出しているドクターの顔は、たぶん今まで見たどの顔よりも怖かった。
「ふん、剣聖に智者、未来視と魔法使い、それから物真似野郎に植物学者といけ好かねえ吟遊詩人のアホか」
「うん、その人達ってドクターとどんな関係なの?」
「あいつらか・・・・・・あいつらはよ、何もかも諦めちまった奴らなのさ」
「・・・・・・?」
「あいつらは確かにすげぇ奴らだったよ、だがあいつらは全部諦めやがった、その時点であいつらは全員俺よりも弱ぇくそったれどもに成り下がりやがったの さ」
「・・・・・・」
ドクターがここまで誰かをののしるのは、アージェが知っている限りでは初めてのことだった。
「そういえば、あと4人、俺の他にも高みを目指した奴らがいたが、あいつら今ごろどうしてるかなぁ・・・・・・」
ドクターは昔の知り合いをののしっていたかと思うと、今度は急に懐かしむような話し方をして、またぶつぶつと何かを呟いていて、そのあとドクターは、アー ジェが何を聞いてもずーっとどこかうわの空だった。



そして、またある日。
いつものように、アージェが培養槽の中で目を覚まし、いつものようにドクターがやってきて、しかしドクターの表情はいつもとどこか雰囲気が違った。
「ドクター・・・・・・どうかした?」
「ん、ああ・・・・・・ちょっとな」
ドクターはしばらく、本を読む出もなく、アージェに何かを語りかけるでもなく、ただアージェの前で黙って立っていた、そして、ようやく意を決したかのよう に話し始めた。
「アージェ、お前は俺が作り出したものだってことは、前に言ったよな」
「はい」
「お前がずーっとその培養槽から出られなかったのは、まだ生体構造と銀との融合が完全ではなかったからなのだが、もうまもなく、いよいよ完成する」
「じゃあ、僕はこの中から出られるの?」
「ああ、完成さえすれば間違いなく出られる」
「じゃあ、完成が楽しみです」
「そうなんだが、いや、そうじゃなくてな」
「・・・・・・・?」
ドクターはまたしばらく考えるような仕草をしたあと、言った、
「お前が完成したなら、俺はもうすぐここを離れる」
「え?」
「お前は、体が完成したところで、精神が、技術が、まだ未熟だ、まだ不完全だ、だからそこから出たあと色々と戦闘訓練やら何やらをしなきゃいかんのだが、 たぶん、俺がやるとうまくいかないだろうな」
「なんで?ドクターは何でも出来るんでしょ?だったら・・・・」
「確かに、俺は普通の人間が出来るようなことなら何でも出来る、自分で言うのも何だがほとんど完璧超人だ、でも、だからって自分の息子に手加減しないほど 鬼じゃない、だからだよ」
「ドクター・・・・・・」
「そうだな、もし自分が、アージェ、お前が俺を超えたと思ったなら、そん時は俺を探しに来い、全力で相手をしてやる」
ドクターは、しばらくアージェを見ていたあと、
「それじゃあな、今日で最後だ、次にお前が目を覚ましたときはお前が完成した時だ」
その日は、いつもより早くに眠りがやってきたのを覚えている。



そして、次に目を覚ましたとき、
「ドクター・・・・・・・・?」
いつまで待っていてもドクターはやって来なかった。
アージェが自分はこれからどうすればいいんだろう、と思い、とりあえずもう一回眠ってしまおうと思った時、扉の奥、廊下からドタドタ、バタバタ、と部屋の 中からもわかるほどの音を立てて、人が走ってくるのが聞こえた。
「ドクター・・・・・・じゃない」
ドクターなら少なくともこんなに音は立てないし、この足音は数人、もしくは数十人のもの、少なくともドクターではない。
そして、その足音の群れが、扉の前に到達し、数秒後、
「帝国軍技術開発局局長テラード・マイアー、お前を国家に対する反逆罪で拘束する!」
そう言って数人、数十人の兵士達が部屋に入ってきた。
しかし、兵士達は、部屋の中が既にもぬけの空であることに気付き、しばらく部屋を見回してから、ようやくアージェに気付いた。
「子供・・・・・?」
「おい、まだ何があるかわからん、気を付けろ」
兵士達は施設の捜索のためにだろう、数人を残してどこかへ走り去ってしまった、そして部屋に残った数人の兵士の内の一人が、不安げに呟いた。
「なぁ、この子供はどうするんだ・・・・・・・こっちを見てるぞ?」
「わからん」
「あの狂った科学者の発明品だぞ?大丈夫なのか」
「どちらにせよ俺達では判断できないだろ、そのうち開発局の連中が来る、それまで待て」
兵士達の呟きがざわめきに代わり始めた頃、部屋の扉を開けて、新たな人物が数人の兵士に囲まれて部屋に入ってきた。
「ドクターの最後の作品はどれ?あなた達余計なことはしてないでしょうね」
数人の兵士に囲まれて入ってきた人物、それは意外にも、女性だった。
そして、その女性はアージェの前に立って、ニッコリと笑い、
「初めまして、私の名前はミーティア・フローライト、君の名前は?」
アージェは、自分の名前を名乗ろうとしたのだが、困ったことにちょうど、眠気がやってきてしまいこれだけしか言うことが出来なかった。
「僕の名前は、アージェ・・・・・」




*  *  *




聖樹戦争における人類の喪失と、その後の発展に関する考察

記載者:ミーティア・フローライト



世界の中心には『樹』が生えている。

とは言ってもこれは実際に大陸のど真ん中に大きな木が生えているとか、海の真ん中に木がある、とかいうわけではない、概念的な問題だ。

人々が『生命の樹』と呼ぶその存在は、世界に存在する命の中心、マナの全てを司っているとされる樹の事だ、樹は人々に様々な恩恵と豊穣を与え、人々はそれ に感謝し、生命の樹を敬い生命の樹と共生するという形で人類は文明を築いてきた、らしい。

これは、千年前の話なので、らしい、という推量の形を取らせてもらう。

だが、少なくとも千年ほど前まで、人類は現在とは明らかに違う形態の文明を築き、現在とは全く異なる技術を持っていたのは、現存する旧時代の文明遺産から も明らかだろう。

千年前の人類は、鉄の箱に乗って陸や、空を、海を自由に移動していたらしい、これも現存する旧時代の文明遺産の中に、「車」と呼ばれる鉄の箱や、「飛行 機」と呼ばれる鉄の鳥がわずかに残っていることからも、間違いはないだろう。

ではなぜ、空を、海を我が物にしていた千年前の人類はなぜ滅んだのか、それはもはや言うまでもなく、

『聖樹戦争』

これが原因だろう。



さて、有史以来、確実に今の文明よりも栄えたはずの千年前の文明が滅んだのか、それを語るためには、千年前の人類が抱えた深刻な食料、人口問題を考えなけ ればならない。

千年前、人類の総人口は200億を超えていたとされる、現在の人類の総人口が推定で1億であることから考えても、この数値の異常さはありありとわかるだろ う。

その多すぎる人口のため、人類は深刻な食糧問題を抱えることになった、そして、人類は豊穣と恵みの神である『生命の樹』に救いを求めたが、しかし『生命の 樹』は決して人類に恩恵を与えることはなかった、一説には、これは当時環境を破壊し、『生命の樹』を敬わなくなった人類に対する罰である、という説もある が、とにかく、『生命の樹』に依存しすぎていた人類は、その後、またたく間に残っていた食料を食い尽くしてしまった。

そして、その当時、空ですら自分の思うがままであった人類は、進退窮まったがゆえに、その傲慢さがゆえに、最悪の選択をすることになる、

後に呼ばれる『聖樹戦争』、つまり人類は『生命の樹』に対する戦争を仕掛けたのだ。

『生命の樹』は生きとし生けるもの全てに、等しく活力を与え、豊かさを与え、最後には命すらも与えたという、その神秘の力を人類は我が物にしようとした。

千年前の人類には、町を一瞬で炎の海に変えてしまう兵器や、目に見えない空気のような物で一瞬のうちに数千人もの人間を殺すことが出来る兵器などを持って いたとされる、が、しかし、人類が『生命の樹』という神に勝つことは出来なかった。

『生命の樹』がその大きな体を揺するだけで、大陸は崩壊し、海は国を飲み込んだ、そして『生命の樹』は当時栄えた人類の文明のことごとくを、破壊し尽くし たとされる。

しかし、人類も負けてはいなかった、『生命の樹』が持つ神秘の力を、少しずつではあるが、吸収していったのだ。

これが現在で言うところの『魔導』の始まりである。

人類は段々と魔導の力を我が物にしていき、『生命の樹』の力に抗しえるようになった、しかし、人類は元より、『生命の樹』も徐々にではあるが戦争により疲 弊していった。

そして、『聖樹戦争』の最後の戦いが始まった、これは、当時の人類が持つ最高の魔導師や、超天才、最強の戦士など、とにかくその当時生き残っていた人類の 中の最高峰とされる勇者達300名を直接『生命の樹』に送り込み、『樹』を人類の配下にしようとした戦いであった。

しかし、結局この戦いの決着は、いまだに不明である。

送り込まれた勇者達300名の内、ただの一人たりとも帰ってはこなかったのだ。
一説にはわずかに7人のみが辿り着いたが、彼らは『生命の樹』と戦うことはせずに、今も『生命の樹』の下僕として生き延びているという説もある。

とにもかくにも、勝者も敗者も生み出さないまま、『聖樹戦争』は終わりを迎えた、なぜならそれまでは人類の手の届くところにあったはずの『生命の樹』が人 類から離れ、もう決して人前にその姿を現すことは無かったからだ。

そして、全ての戦いが終わったあと、人類に残っていたのは、滅び欠けたわずかな人間と、ほんのわずかばかりの旧時代の文明遺産、そして新しい文明とするに は、あまりにも中途半端な『魔導』の力のみだった。



ここで、『魔導』の力についての説明を入れておくべきだろうか、『魔導』とは、物質を通して、世界に存在する「マナ」を「変換」し様々な魔力物質を作り出 すもの、らしい。

すまないが私は魔導師ではないので、魔導の力に関する説明は割愛させていただこう。

とにかく、『魔導』の力について、魔導師でない私が確実に言えることは、『魔導』はとても中途半端であると言うことだろう、考えてもみたまえ、生まれ持っ た素質のみによって全てのその人の『魔導』を扱える程度というのが決定されてしまい、若干十数歳にして帝国魔導師部隊の隊長を務める者もいれば、70を過 ぎた老人がこれっぽっちも『魔導』を使えないなどということも実際にあるのだ、こんな物はあまりにも一般の民衆向けではないため、『魔導』の開発は千年 経った今でも遅々として進んでいないとされる、というか実際ほとんど進んでいない。

そういったわけで、千年前の文明が滅んだあと、つまり『聖樹戦争』から千年の時代が経過したあと、人類は確かに復興したのだが、しかし人類の持つ文明は、 あまりにも廃れてしまい、千年前に比べると遥かに劣った物のみが残っている状態である。

さて、それでは今度は我らが「アヴァロン帝国」の歴史について語ってみようか。
アヴァロン帝国はまだ成立して日が浅い、10年ほど前に大陸がまだ3つの国に別れて戦争をしていた頃、全く戦争とは関係のない辺境の村から始まってまたた く間に他の3国を平定して一つの国家とした国だ。

現在の皇帝はシルヴァレス・ダイアス・アヴァロン、現在の、というかまだ初代皇帝だ、彼がこの大陸を築きアヴァロン帝国を建国した人物である。

帝国は現在、北西のマリディア共和国と北東にあるサレス諸島とで国交を結んでいて、盛んな貿易で帝国の経済発展に大きく影響している。

しかし帝国は成立して日が浅いせいもあってまだ内部でときおり反乱が起こり――――。



そこまで書いたところで彼女――ミーティア・フローライトはふと、気付いた、
「これじゃ題名の『その後の発展に関する考察』と全く関係ない話になってるわね・・・・・・」
ミーティアは軽く頭を振ったあと、
「ダメだ、徹夜明けの頭じゃいい文章が思いつかないわ、今日は止めよう」
そう言ってミーティアは先ほどまで文章を書いていた用紙をゴミ箱に放り捨てた。
「ってゆうか私は神樹論者じゃないのに何でこんな文章を書くことになったんだっけ・・・・・・・・・・ああそうか、教授に教科書を作ってくれって頼まれて たんだっけ」
ぶつぶつとひとりごとを呟きながらミーティアはふらふらとおぼつかない足取りで、応接用のソファに歩いていき、バタリと倒れ込んだ。
「うー・・・・・・今日はなんか大事な用事があった気がするけど・・・・・・・・まぁいいや、寝よう」
そして、ミーティアが眠りにつこうとしたとき、
―――コンコン
扉をノックする音が聞こえた。
「・・・・・・・留守でーす・・・・・誰もいませんー・・・・・・・・」
ミーティアは無茶苦茶いい加減なことをいってそのままソファに突っ伏す。
―――コンコンコンコン
少し強めの調子で再度扉がノックされる。
「うー・・・・・・・誰もいないんだよー・・・・・・・寝かせてよー・・・・・・・・」
そう言って、結局またバタリと倒れ込む。
―――ドンドンドン
今度はかなり強めに扉をノックしている音が聞こえたが、あの扉は防刃、防弾、対ショック、対魔導装備がされている特注品なので、ちょっとやそっとでは絶対 に開かない。
「ZZZ・・・・・・ZZZZzzzzz・・・・・・・」
ミーティアはノックの音が聞こえなくなったところで、本格的に寝始めるが、その直後
―――ガチャリ
鍵がなければほぼ絶対に開かないはずのその扉が開けられた。
「うー・・・・・・アージェ?・・・・・なんだよー・・・・・・もうちょっと寝かせてよー・・・・・・・・・」
「ミーティア、今日がなんの日かわかった上でそのセリフを言ってるなら僕は驚くよ」
眠気のせいでほとんど動かない頭で考える、が、思い出せない。
「今日って・・・・・・・・・なんの日だっけ?」
アージェが、数秒間ハァーと、深いため息をついたあと、
「皇帝に謁見するためにここから出発する日、でしょうが!!」
後半は怒鳴り声になっていたアージェの言葉を聞いて、理解するまで、数秒。
―――ガバリ、ダダダッ、ドタッ、ガシャーン
「アージェ!今すぐ準備して!それから私を助けて!!」
ソファから飛び起き、準備のために走り出したが、足下のゴミですっ転んで、その上機材に頭から突っ込んだミーティアがアージェに助けを求める。
「僕はもう準備を終えたよ、こんな事だろうと思った・・・・・・」
機材の山からミーティアを救出しながらアージェは呟いた。



帝国軍 技術開発部 特別班班長ミーティア・フローライト(30過ぎ、生活能力皆無)は、同 開発部特別班所属 アージェンタム(推定16歳)と共に生活している。
正確には、ミーティアが先代の技術開発部局長の残していった遺作であるところの、アージェンタムの監視任務を与えられているはず、なのだが、生活能力皆 無、もとい「三度の飯より研究が好き」なミーティアをアージェンタムが補助している、といった方が正しい状況なのかも知れない。

「ミーティア、ちゃんと目が覚めた?まだ半分寝てたりしない?」
「大丈夫だ、私は間違いなく起きているぞ」
「お金は持った?王都への定期船のチケットは?その間の宿泊費と滞在費は持った?研究所の鍵は大丈夫?」
「おいおい、いくら私でも同時に覚えられるのは3つまでだ、それ以上を覚えさせようとしても無駄だ、ワハハハハあとはアージェがやってくれ」
ガックリと肩を落としたアージェを無視して、ミーティアはずんずんと歩き出していった。
結局、アージェが、それら全てを確認するために一度研究所に戻ったりして、ようやく出発したのはミーティアが起きてから2時間後の話だった。



そうして、ようやく二人は王都に向けて旅立ち、いよいよ物語は始まろうとしていた。



序章4<了>




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