異世界より呼ばれし者





プロローグ










雨の降る夜を俺は走っている。

傘は差しているが、激しい雨の前には意味を成さず服が水を含んで重い。

同様に、ズボンも足が前に進むたびに「パシャパシャ」っと水音を立て裾を濡らす。

「つめてぇぇぇぇぇ!!
 ……やっぱ天気予報は当てにならないな」

愚痴を言いつつも、一直線に家族の待つ家に向かう。



しかし、今日はついていないな……

朝食の時に寝惚けて味噌汁へケチャップを投入したし、大学の化学の講義では何故かウチの班の実験だけが爆発。

さらに、バイトの予定時間はかなりオーバーするし、最後はこの雨……憂鬱だ。



……俺の言う“バイト”とは世間一般のとは違う。

俺の一族は代々続く“退魔師”であり、魑魅魍魎など魔に属する者を退治することを生業としている。



一族の起源は平安末期までさかのぼる……

当時、疫病が流行したため次々と都や村の人々が死に、そこから人の負の感情が広がり“魔”が現れるようになった。

これを重く考えた朝廷が“魔”に対抗すべく“陰陽機関”(オンミョウキカン)を作り上げる。

そこから、“魔を退ける者”として“退魔師”を生み出した。

ちなみに、本などに出てくる“陰陽寮”は彼等の住まいである。

付け加えると、“陰陽師”と“退魔師”はほぼ同じ存在であるがやる事が違う。

“陰陽師”は、“魔”の呪いの浄化や、治癒、予言などである。

対して“退魔師”は、戦闘による“魔”の殲滅だ。

現代では、その両方を使えるのが“退魔師”となっている。



そして、“魔”との戦いは今も続いている。



俺はその末裔であり、周りでは「実力は歴代の中で一、二を争う才の持ち主」っと言われている。

さらに、14歳で最年少免許皆伝保持者となっているが……

俺自身はそんなのは余り気にしていない。


――自分にとって大切な者を守りたい、全てを救える事は出来ないが助けられる人は救いたい。


その信念を胸に今日まで修練してきた。

だから、名声なんて俺にとっては飾りに過ぎない。



しかし、一人前の退魔師になるには政府(今は政府の極秘機関になっている)が発行するパスが必要なのだ。

それを貰うには試験を受けて合格すればいいのだが、試験資格に [20歳以上の者から試験は可] とある。

だから、俺はまだ仮免(免許皆伝を持っているから)であるから、“仕事”ではなく“バイト”なのだ。

……実力は認めて貰っているんだけどな。



ふと、俺は今回のバイトを思い出した。





今回の依頼は報酬が高額の1500万円、これは稀な金額であったので俺と3人の退魔師が派遣された。

内容は依頼者の12歳の息子に魔に憑かれたというものだった。

通常この仕事は簡単なものだが今回は状況が違った。



現地に着いて俺たちが見たのは、強大な魔の卵に憑かれた少年の姿であった。

その大きさは人の赤ん坊少し大きくした感じであり、その重さで少年は寝床から動けないでいた。

余りにも強大なために並の退魔師では歯が立た無い上に、下手をすれば少年ごと食い破る危険がある。

そのために俺たちが派遣されたのだが、それは俺たちにとっても手に余るものであった。



しかし、このまま放っておけばいずれ孵化して更なる脅威となる存在になるであろうと予想はできた。

俺以外の三人のプロの退魔師はこのまま「少年ごと魔を消し去る」という結論を出した。

三人とて良心が痛まない筈がない。

苦汁の選択である事も分かる……だが、俺は異を唱えた。


「まだ12歳の子供なんだ・・・・・夢や希望、将来だってある。
 俺たちが諦めてどうする・・・何とか・・・嫌、絶対に助けるんだ!!!」


三人は、俺の言葉に目が覚めたかのように体内の活力が外に溢れるのが判る。

まだ仮免退魔師の俺にここまで言われたのだ、「他に誰がいる……自分達がやらなければ」っと誰もが心に思ったのだろう。



そして、俺たちは少年と両親の合意を得て魔を切り離す作業が始まった。





作業は単純で肉体と魔の接合部分を順序良く切っていく。

もし、切る順番を間違えれば魔に気づかれ強制的に孵化をして少年の肉体を食い破るであろう。

この作業には速さ、集中力、そして“氣”の内包量の多さが求められた。

この中で、それに該当する人物として俺が選ばれた。



“氣”は誰もが持つ力で退魔の一族は生まれつきこの扱い方がうまく、俺たちはそれを使って魔を祓ってきた。

使い方の例として、身体の強化や怪我や病気などに新陳代謝を上げて治療する。

また、武具や自らの拳に氣を付加して攻撃する等の使い方がある。

今回の使い方は、氣を放出してその形をメスのようにして使用する。

この使い方はかなり高等なテクニックで、かなりの集中力とイメージが上手くないとできない。

これを刀剣類などの物質化できたのは、一族の歴史上三、四人しか存在していない。

俺も、その域に足を踏み入れているのだ。



作業は順調に進んでいった。

その様子は爆弾の解体作業に似ている。

俺が切り離しを担当し、残りの3人が結界を張って周りに被害がでないようにしている。

誰もが緊張する中、作業は慎重に……そして、速く進められた。

……およそ、4時間が過ぎた所で少年から魔を切り離すのに成功した。



――その瞬間、卵にヒビが入る。


孵化が始まったのだ。

瞬時に殻を破り、飛び出した幼体が少年を喰らおうとした。




先程まで使っていた氣のメスを投擲。

幼体の眉間に刺さり、人の血とは違う紫の体液を出しながら悲鳴を上げる。

怯んでいる隙に、俺は素早く少年を抱えて結界外に飛び出す。

その直後、結界を張っていた三人が結界を限界まで縮小して魔を圧懐。



――“浄化”の完了である。



その後、俺たちは報酬の半分を受け取り。
(成功の確率が低く、保障もできない作業をしたから受け取りは最初は拒否したが、どうしてもっと言うので)

それを宗家に手渡してから、それぞれの家路に着いた。



俺たちの仕事料は後日に宗家から支払われるようになっている。

しかし、俺の場合はそのほとんどが自宅に送られ、親からその一部しか貰えない。

……でも、結構な金額だけどね。





成功した時、あの家族の嬉しそうな顔は良かったなあ。

あれを見ると自分がこの仕事をやっていて良かったと実感できる。

……そういえば、今回はこいつらの出番なかったな。

自分の背負う細長いケースとリュックに目を向ける。

この中には刀と銃が仕舞ってある。



退魔師には政府から刀剣類、銃器類やその他の武器類の所持と使用が許可されている。

俺は刀を使った剣技(一刀流、二刀流を両方使える)や銃撃戦が得意であるが、今回の依頼は使う場面がなかった。

……っとそんなことを思っていたら、いつの間にか家に着いていた。



俺は家の違和感に気づいた。

家の明かりが全て消えている。



……おかしいなあ、まだみんな寝ている時間じゃない筈なんだけど。

自分の腕時計を見ると、針は11時過ぎを示している。

まだ、両親と祖父母は自分を待っている筈の時間帯だ。

首を傾けながらも俺は家の扉に手をかけた。










第1話に続く







感想

クイック二式さんご出陣です♪ お話を聞くと何か退魔録といった感じですが、この作品はナデシコです! 今後の展開で彼がどうしてナデシコの世界に行くの かわかる事でしょう。 

オリジナル主人公のお話ですね。オ リジナル主人公はアキトさんに憑依する方が多いですが、クイック二式さんはどう出るのでしょう?

う〜ん、第二の主人公がアキトだって言ってたし憑依しないんじゃないかな?

それは珍しいですね、でも次の展開は第一話も同時に来ていることですし、それを見てか ら二し他方が良いでしょう。下手をすると恥ずかしい事になりますよ?

うん、そうだね…早速次を読んでみることにするよ。

まあ、駄目駄目な貴方の事です、どうせ次回の感想でも見当違いな事を言うんでしょうけど。



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