第一話「目覚め」










う…んんっ……!?

こ、ここは何処だ?

俺はいったい……

……クッ、体の自由が利かない……

視覚の方は……ダメか……でも、聴覚だけは平気みたいだ。



んっ、この気配は……人が近くにいる。

何か話しているようだが上手く聞き取れない……何故だ!?
 
壁を隔てるにしても、こんな聞こえ方はしない筈。

それに、この感じは……もしかて水の中なのか!?



突然の事で混乱していると、何処からか声が聴こえてきた。


「これより、実験体に“遺跡”から採取されたナノマシンの注入を開始する」

「所長、それ入れちゃったらたぶん死んじゃいますよ〜」

「どうせこれはあの計画のデータ取りの試作品だ。
 死んだとしても、代わりなどいくらでもいる」


所長と呼ばれる人物の言葉に、部下はヘラヘラと笑い声を上げながら、その場から移動した。



こいつら何を言ってるんだ!?

“遺跡”、“ナノマシン”、“計画”、“試作品”、いったい何のことだ!?



「それでは作業を開始する。
 ……データ、一つも残さずとれよ」

「りょ〜かい」


いったい何が始ま……


「………ッッッ!?」


俺の身体全体に激痛が走り、声にならない悲鳴を上げる。

自分の身体が自分のものではないように感じ、何度も意識が飛びそうになる。

それでも、俺は耐え抜く……

――突然



俺の頭の中に誰かの“記憶”が流れ込んで来る。



それは、非人道的な人体実験の記憶の数々だった。

身体を切り刻まれ治癒速度を測る実験、毒物や劇薬を投与されその中和速度を観測する実験。

幾多のナノマシンを注入され人体への影響を観る。

他の子の実験の光景を戯れに見せられるモノなど……

酷い……嫌、そんな生優しい言葉では現せない記憶だ。


――イタイ……クルシイ……ツライ……コワイ……タ…ス…ケ…テ……


悲痛な声が頭の中に響く。

繰り返される実験の日々、そして“この子”の精神は壊れた。



――意識が爆発した



「あれ、脳波に反応が……」

「そんなことある筈がない、意識なんかもうない〔ガァン〕は…ず!?」


驚く声が聴こえる。

俺が動いて、拳を突き出しているのがヤツ等にとっておかしいらしい。


「なっ……馬鹿な、何故動いている!?
   クッ、大至急応援を呼ぶんだ!!」

「大丈夫ですよ所長、このケースのガラスは超硬化ガラスですよ。
 そう簡単に破れるはず……」


もう一度繰り出す拳。

目の前に在った何かは、二度目の衝撃に耐えられずに〔ピキィ〕っと音と共に亀裂が走るのが分かる。



そして……もう一撃。



大きな音が響くのと同時に、俺の周りに在った水が外に出て行く。

そこで、ようやく目を開けられるようになり周囲を確認する。

水槽のようなケース……おそらく俺が先程まで入っていたのと同じ物だろう。

データの計測器や生命維持装置、用途の解らない機械類などに埋めつくされた室内。

床は、俺の入っていたケースの水で溢れている。

ふと、30代前後の白衣を来た男性二人が目に入った。



俺に目を向けられた二人は……


「ヒッ、ヒィィィイッ!!!」

「くっ、早く応援を!!」


俺を見て、恐怖で顔を歪ませる。



「貴様らは……」


俺がしゃべると、驚きの表情を浮かべる二人。

先程の会話からすると、意識だけでなく言葉まで話す事が出来るから驚いているのだろう。

しかし、そんなのは別にいい。

二人の顔を見た瞬間、自分の内から湧き上がる怒りを抑えられなくなった。

見せられた記憶の中に、ヤツ等の顔があったのだ。


「貴様らは……」


――その表情は愉快に笑い


「いったい……」


――助けを懇願しても、それを快楽のように感じて顔をさらに歪ませる。


「人を……」


――与えられたおもちゃで遊ぶように、その子達を貪る研究者達。


「何だと思っているっ!!!」


思うがままに身体を動かし、所長を殴り飛ばす。

拳に肉が潰れ、骨が砕ける感触が伝わってくる。

所長は飛んだ先の壁に叩きつけられ、そのままぐったりと地に倒れ伏す。

後ろにいる部下は逃げようとするが、俺はそれを許さない。

正面に回りこみ、腹部に回し蹴りを喰らわす。

口から血ヘドを吐きだされる……内臓の何処かが傷ついたのだろう。

身体は床を滑り、機械類に当たりようやく止まった。



「ハァッ…ハァッ…」


落ちつけ……落ちつけ……落ちつくんだ。

………フゥ、どうにか頭が冷えたな。

落ち着いた所で、ヤツ等に目を向ける。

息遣いも聞こえない、生気も感じない……完全に死んでいるな。

……っ!?

何で俺はこんなにも冷静なんだ!?

初めて人を殺してしまったというのに……何故!?


――本当にそうなのか。


……クッ、何だ今のは!?

どうしんだ俺は……



……混乱するな。

今やるべきことは、現在の状況の確認と情報の整理だ。

とりあえず、自分の姿をガラスケースを鏡の代わりにして確認する。


「なっ!?」


映った姿を見て驚いた……身体が別人になっていたからだ。

見た目は15歳位、身長は175cm程。

腰元まで伸びたストレートロングヘアーの銀色の髪、白い肌に見事な四肢、その瞳の色は金色であった。

顔は美形の部類にはいるのではないだろうかと思う。

付け加えると、全裸だ。


「まさかっ!?
 ……よかった、ちゃんとある」


一瞬、女かと思ったが男の存在を確認して一安心した。



しかし、いったい何でこんな事に……情報を整理してみよう。

バイトの帰りに雨が降ってきたから家まで走っていた。

そんで、着いてみたら家の明かりが消えていて変だなと思いながらドアを開けて………

あれっ、その先から思い出せない!?

その先だけが、まるで霞がかかったようにどうしても思い出せない。

クソっ、何故どうしてだ!?


『第三実験室に異常事態発生、警備は速やかに移動せよ……繰り返す、第三…』


「マズい、気づかれたっ!?」


急いでこの場を離れようとしたが……何も着ていないことを思い出し、近くのロッカーから衣服を拝借する事にした。

上は素肌に白衣を羽織り、下はズボンを履く……無論、新品の下着の上にだ。

後、敵の撃退用の武器として、メス数十本を器具入れから取り出してポケットと懐に入れる。

よし、準備は一応整った……行くか。





まずここを抜けるには脱出ルートを調べなければならない。

手当たり次第部屋を開けて、コントロールルームのような場所を探し出すしかないか。



20m程走ったとき、通路の先から足音が複数聞こえてきた。

気配は……1…2…3……計5人か……何とかなるかな。

ポケットに入れておいたメスを2本出して、通路の脇で待ち構える。

……今だ!!

飛び出した先には、前衛2人はサブマシンガン、後衛3人はハンドガンか…ならば。

運の良いことに、警備員たちは突然現れた俺に反応しきれていない。

その隙を見逃さず、俺は前の2人の眉間にメスを投擲する。

見事に命中。

素早く二人の間に入り両手の拳で左右にある鳩尾に一撃を繰り出す。

空中に放られる2丁のサブマシンガン……

ようやく反応し始めた残りの警備員が撃ってくるが、俺は前の2人を引き寄せ盾にした。

仲間を盾にされた事で動揺したのか、ほんの一瞬だけ銃撃が止まった。


――チャンス


すぐさま飛び上がり、空中にあった2丁のサブマシンガンを手に取り相手に向け発砲した。



慣れない身体だが、なんとかなった。

……倒れている5人の遺体から予備のマガジン5つ、ハンドガン1丁と弾薬を失敬した。

念のため、残りの2丁のハンドガンは撃鉄を折って使えなくしておいた。


「すみません」


恨みは無いけど、生き残るためにはしょうがない。

俺を憎んでも構わない……でも、最後まで精一杯生きます。

そうしないと、俺のした事が無意味になる。

人を殺す事に慣れてはいけない……死なせてしまった人達を忘れてはならない……っでないと、ただの殺戮者だ。

俺は忘れない、生きていけるのはこの人達の犠牲があったからだと……

“人を殺す事”はそれを“背負う覚悟”があるという事だ。

……俺はそう思う。


「先を急ごう」


俺は今思った事を胸に刻み、その場を後にした。



その後、俺の行く先々に警備が立ち塞がる。

持っている武器を駆使して、敵を倒しながら先を進んで行く。

……っと、人の気配を感じたのである一室の前で足を止めた。

そこには[第一実験室]と書いてあった。



中に入って最初に見えた光景は、研究者が少女に何かを注射するところだった。

俺は少女を助けようと行動を起こそうとしたが…相手の方が早かった。


「銃を捨てろ、捨てなければコレの命は無いと思え」


男は少女を懐に引き寄せ、左手に持つメスを少女の首に突きつけていた。

……俺はおとなしくその言葉に従い、持っていた銃を全て捨てた。


「よし、では次にその銃の一つを俺の右手に手渡せ」


言われた通り、床にあるハンドガンを取って男の右手に渡した。

そして、そのままそれを俺の眉間に突きつけた。


「それでは、さようならだ」


ニヤつきながらそう言ってくる男に……


「オイ、安全装置が外れていないぞ」


男は持っている銃へと注意を向けた。


「嘘だ」


その場で左回転をして左の裏拳を顔の左に浴びせた。

男はそのまま吹っ飛び壁に激突した。

叩きつけられ「ゴホッ…ゴホッ」っと息を吐く男。

俺は再び男の前まで来る……っと奴は、恐怖に顔を歪めて俺に懇願してきた。


「た、助けてくれ。
 俺はただ命令されて、それに従っただけなんだ。
 さっきのは人体に影響は無い、だから頼む……」

「安心しろ、俺はお前の命までとるつもりはない」

「ほ、本当か!?」

「嘘つかない主義だ」


男は安堵し、顔から緊張感が消えた。


「おまえの生死は神に決めてもらおう」


男は最初、言っている意味が解らないようだったが……

床に転がっていた注射器を拾い上げたその瞬間、男の顔が再び恐怖に染まる。


「そ、それは……」

「そうだ……お前が先程あの娘に注射しようとした物だ」

「ま、待て…それは未調整で」

「大丈夫なんだろ?
   さっきおまえが言っていたじゃないか」


男の腕に無針注射器を当てる。


「や、やめがああああぁぁぁぁぁぁっっ!!」

「神にでも祈っていろ……」


男の悲鳴はその数秒後に消えた。



コトが終わり、俺は少女の姿を探した。


「見つけた」


彼女は部屋の隅に座っている。

俺は少女に近づき手を伸ばす。


「もう大丈夫だかイタっ!?」


突然、俺の腕に少女が噛み付いてきた。

よく見てみると、少女の身体は震えており、目には涙を溜めている。

そう、彼女は自分を守ろうと必死に抵抗しているのだ。

この娘はこんなにも……



俺は少女をそのまま抱きしめた。


「大丈夫、大丈夫だから、もう悪夢は終ったんだ。
 あんな痛い思いも、辛い思いもしなくていいんだ。
 だから…もう怖がらなくていいから……」


ほんの2,3秒後だろうか、少女は腕から口を離してくれた。


「ホントウニモウアンナコトシナクテモイイノ?」

「そうだ……俺がそんなこと絶対させない!!
 君を守るから……」


少女は悪夢から解放された事が分かったのだろう、その証拠に瞳から涙が止まることがなく流れ続けた。



「落ち着いたか?」

少女は頷いて答えた。


「モウスコシコノママデモイイ?」

「別にいいよ」


こんな小さな身体で、ずっと恐怖と戦ってきたのだろう。

俺の腕の中で、少女は初めて安らぎを感じているようにみえる。


「ウデキズツケテゴメンナサイ」


俺の顔を覗き込むようにして言ってくる。


「こんなの舐めとけば平気だ」


そう言って、優しく微笑みかける。

……しかし、さっきは判らなかったがよく見ると綺麗な娘だな。

年齢は9歳位で、長くサラサラの桃色の髪、自分と同じ金色の瞳、絹の様な白い素肌、顔は文句なしの美少女であった。

……んっ、白い素肌………


「どわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?!?!?!?」


俺は気づいた少女が全裸だということに。

俺は慌てて少女から腕を離し、尻餅をついたまま後ろに引き、顔を下に向ける。


「ドウシタノ?」


不思議そうに首を傾げこちらに近づいてくる。


「と、とにかく服を着てくれ」

「フクハナイ」

「なぬぅぅぅっ!!?」


焦った、とにかく焦った、さらに焦った、頭がグルグル回る、冷静に判断ができない。

落ち着け、落ち着くんだ俺ぇぇぇぇぇぇっ!?

さっきとは、違う意味で混乱する。

とにかく、ロッカーから白衣とベルト(長さは調節した)を取り出して渡すが……


「キカタガワカラナイ」

「……お、俺にどうしろと」


嫌な予感がする。


「キセテ」


――予感的中


一瞬、眩暈がした……しかし、やらなければ目のやり場に困る。

………覚悟はできた、さあ逝こう。


「り、了解」


なるべく見ないよう、なるべく見ないよう、……以下エンドレス。

……っとようやく着せることができた。

今までの中で一番疲れたということは言うまでもない。

白衣を着せて腰の辺りをベルトで締めている。(もちろん、下着は履かせた)

白衣は最小サイズだが、やはり少女には大きいのか、少々ダボついている。

そこが、何とも言えない仕上がりと感じるのは俺だけだろうか……。

これは、ある意味やばいのではないだろうかっと思う。


「ドウカナ?」

「あ…ああ良いと思うぞ」


少女は褒められたのが嬉しいのか、また抱きついてきた。

それが原因で少し胸元がはだけてそこから……


「っっっつ!?!??!?!!?」


何か、見えているんですけどぉぉぉぉっっっ!!!!



……俺は少女を下ろして、壁に向かいそして………


「煩悩退散煩悩退散煩悩退散煩悩退散煩悩退散煩悩退散煩悩退散煩悩退散煩悩退散」


……頭突きを始めた。

“最後の一線”を守ろうと必死であることがよくわかっていただけるだろうか。



・・・・数分後、ようやく落ちついたので頭突きをやめて座り込む。


「ドウシタノ??」

「色々と事情があるのさ」

「アッ、チガデテル」


額が少し傷つき出血していた。

あれだけ壁に打ちつけたのにカスリ傷だけとは謎である。

ペロリ。

俺の頭に電気が走った。

ペロペロ。


「ナニヲナサッテイルノデショウカ」

「サッキ、“ナメレバナオル”ッテイッテイタカラ」


俺は完全にフリーズした………その間も少女は舐め続けているのに気づかなかった。



5分後、再起動してとりあえず少女に礼を言って頭を撫でた。

この娘は純真無垢だ、ちゃんと一般知識を覚えさせなければ……っと堅く誓う俺であった



さて、色々あったが進まなければ。


「メインコントロールルームがある場所は分かるか」


少女が首を横に振る。


「デモ、ソコノタンマツカラシラベラレルトオモウ」


指差す方を見ると端末と操作盤があった。

近づいて見てみると、そこにはキーボードの代わりに訳の分からない板があった。

これに手を置けってことかな?

手を置くと甲に紋様が浮かんだ。

なんだこりゃ、変な模様が……これは、必要な情報が入ってくる!? 

よし、目的の場所が分かった……あれっ、近くに生命反応がある。

三つはここの研究者みたいだIDも表示されているし、この施設内には残りの研究員は二人しか居ないみたいだ。

しかし、残りの二つの反応は誰だろう?

この場所は……MC保管所か…


「よし、行ってみるか……嫌、そんな目で見ないでくれ…頼むから」


少女は捨てられた子犬のような目をしてしがみ付いて来た。

どうやら、置いていかれると思ったのだろう。

俺は「ハァ」っとため息をつき。


「行くぞ」


その言葉に、少女は大きく頷いた。





「おい、早く中の液を抜かないとヤツがくるぞ」

「分かっているから、急かさないでくれ」

「……よし、こっちの準備は終わったぞ」

「こっちも、後もう少しだ」

何がもう少しなのかな?


二人は、驚いた表情で一斉にこちらを見てくる。


「い、何時の間に!?」

「今さっきといったところだ。
 ……さて、全員手を上げてもらおうか」


銃口を向けると、研究者たちは言葉に従い手を上げた。


「質問だ、お前たちは何をしようとしていた?」

「生き残った実験体を回収してライバル企業に売ろうと……」


売るだと……コイツ等……抑えろ…抑えるんだ。


「この娘たちは、それを了承したのか?」


液体で満たされたケースの中で浮かぶ少女たちに目を向ける。


「何を言っている……これは道具だ。
 これらは我々が作り出した物、故に所有権も決定権も我々にある。
 お前たち……マシンチャイルドはそういう存在なのだ」


「黙れっ!!!」


研究者達はそれ以上しゃべらなくなり、室内が沈黙する。

……あのまましゃべらせていたら、再び怒りに身を任せていたかもしれない。


「解ってはいた」


コイツ等は彼女たちを“人”として見ていないことを……



俺は空いている右手をポケットに入れて、先程の部屋で手に入れたものを取る。


「すまないが俺が“イイ”と言うまで目を閉じて、耳を塞いで、こっちを見ないようにしてくれないか」


扉の外に待機させておいた少女は言われた通りにしてくれた。

・・・それを確認すると研究者二人に近づき、迷わずそれを首筋に注射していった。


「いま、何を入れた!?」

「さっき部屋で手に入れた未調整のナノマシンだ」

「なっ、それ…は……」


二人は声が出ないのか口をパクパクと開けて苦しみ始めた。


「彼女たちと同じ苦しみを味わえ……まあ、運が良ければ生き残れるかもな」


しかし、俺の言葉通りにはならず、苦悶の表情を浮かべたまま動かなくなった。

動かなくなった二人を、この部屋の隣に運ぶ。

あの娘に遺体を見せないための配慮だ。

「もうこっちに来てもいいよ」

少女に声を掛けて、二人の少女たちを解放するために、素早く次の行動に移る。

まず、近くの更衣室から先程と同じように白衣とベルトを取り出す。

それから二人の少女たちをケースから解放する。

目覚めた二人は警戒していたが、さっきと同じように抱きしめ。


「もう大丈夫、怖がらなくてもいいよ」


今出来る精一杯の笑顔を彼女たちに見せる。

すると直ぐに警戒を解いてくれた。

……何故か二人+一人の顔が赤くなっていたのが気になるが。

その後、さっきと同じ服を着せ(今回はこの娘も手伝ってくれた)三人と一緒にメインコントロールルームに向かった。





中に入ると、施設内の様子がリアルタイムで映されている。

……誰もいないな、ここなら落ち着けそうだ。

三人の少女をイスに座らせ、先程助けた二人の少女を改めて見た。

髪の色こそ違うが、それ以外はほとんど同じである。

金色の瞳、白い肌、長く美しい髪を持つ美少女たちだった。

白い髪に少し銀色が入った娘は、自分の記憶に似た娘がいることに気づくが、それが誰だか分からなかった。

最後に、エメラルドグリーンの髪の娘は少し自分と似ている。

やっぱ凄く綺麗な娘たちだよな……

俺はウンウンと思わず頷いてしまう。



さてと、いつまでもノンビリしている場合じゃないな。


「ちょっと調べたい事があるから大人しくしていろよ」


彼女たちは頷き、言われた通り静かにしていた。

さあ・・・いっちょやりますか。

俺は、またキーボードの無い板に手を置く。

すると、先程と同じ様に情報が流れてくる。



さっきより、調べたい事が結構ある所為かな……量がハンパじゃないぞ。

それでも、大丈夫なんだなこの身体・・・

えっと……現在は西暦何年なんだ………2195年だと!?
 
……ってことは……ここは未来なのか。

嫌、結論を出すのは早いもう少し続けてみよう。

最近の事件か……ナニナニ、火星が謎の無人兵器に占拠されるか……

続きは……地球政府は、この正体不明の兵器を木星蜥蜴と呼称する。

う〜ん……この時代になると人類は宇宙に進出しているのか………んっ、木星蜥蜴……なにぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!?

これって、あの“ナデシコ”に出てきたあの木星蜥蜴なのか!?

  ……っということは……俺は未来に来ただけでなく、違う世界にも来てしまったのか。

そんなバカな事ある筈が無い、マンガやゲームじゃあるまいし……

でも、ヤツ等は俺のことも彼女たちもマシンチャイルドだと言っていた……事実を受け入れるしかないか。



俺は手を離し、自分の手の甲にある紋様を見てみる。

ここが“ナデシコ”の世界なら……

これはIFSか……でも、パイロット用とも、オペレーター用とも違うみたいだけど……気にすることないか。



……そういえば、あの桃色の髪の娘はもしかしてラピス・ラズリなのか!?

俺はその娘の方を観る。

……やっぱりラピス・ラズリだ。

偶然かどうか分からないけど、あの爬虫類男よりも先に助けることができたのか。

良かった、トラウマにならなくて済んだみたいだ。



今頃気づいたが、あの娘たちのことさっきから一回も名前で呼んでいないよな・・・・・


「君たちの名前を教えてくれないかな?」

「ナマエ……ナマエテナニ?」と桃色の髪の娘


やっぱりか……


「え〜と、呼ばれ方のことだよ」

「R−439」

「S−087」

「E−503」


これも、予想通り……


「それは名前じゃないよ」

「デモ、ミンナワタシノコトソウヨンダ」とエメラルドグリーンの髪の娘

「君たちは“人”なんだ、そんな番号は名前じゃない」

「ジャア……アナタガナマエヲキメテ」と白い髪の娘

「俺が決めていいのか?」

「ワタシハアナタニキメテホシイ……キットミンナモオナジオモイ」と再び白い髪の娘


残りの3人も頷いて肯定を表した。


「分かった。
 じゃあまずは……君はラピス・ラズリ」


桃色の髪の娘を指す。


「ラピス・ラズリ……ワタシノナマエ」

「そして君はパール」


次は、白い髪の娘を指す。


「パール……コレガワタシノナマエ」

「最後に君はエメラルドだ」


最後に、エメラルドグリーンの髪の娘を指す。


「エメラルド……ワタシノナマエハエメラルド」

「気に入ってくれたかな?」


コクコクと三人は嬉しそうに頷いてくれた。


「そりゃあよかった……んっ、なんだラピス」


見てみるとラピスが白衣の裾を引いていた。


「アナタノナマエハ?」

「えっ?」

「アナタノナマエハ?」


そういえば、俺も名乗っていなかったな。

名前は前と同じでいいとして、苗字は一応変えた方がいいか。

さて、何がいいかな……“ナデシコ”と言えば火星……火星と言えば軍神の星……よし決めた。


「俺はの名前はユラ…ユラ・マルスだ。
 ラピス、パール、エメラルド……これからよろしくな」


だが、彼女たちはどう受け答えていいのか分からないのか、オロオロと戸惑っていた。

こんな事でさえ、彼女たちは未体験なのである。


「そんなに難しい事じゃないよ。
“よろしく”って言われたら、同じ様に“よろしく”って返せばいいんだ
 ……それじゃあ、これからよろしくな」

「「「ヨロシク、ユラ」」」


これから、楽しい事や嬉しい事とか、色々と教えてやるからなラピス、パール、エメラルド。



さて、これからどうすべきだろうか……

俺だけではできることなんて限られてしまう。

それに、この娘たちのこともあるし……まてよ、ここは“ナデシコの世界”なんだ。

それなら、頼りになる人物が一人だけ該当する。


「みんな、これからある場所に回線を繋ぎたい、ラピスすまないが探してくれないか?
 あとパール、エメラルド……ここの施設の全てのデータをコピーしてくれ」

「「「ワカッタ」」」

「それで場所は………」



「ユラ、ミツケタ」

「サンキュウー、ラピス。
 それじゃあ、繋いだ後はパールたちの手伝いを頼む」

「ワカッタ」


言われた通りにした後、ラピスは手伝いに行った。


「それじゃあ、ご対面といきますか」


俺の探していた場所は……


『ハイハイ、こちら愛の伝道師アカツキ・ナガレ。
 君は誰かな?』


ネルガル会長室の秘守回線だった。

目の前のウィンドウには、椅子に座っているアカツキの姿が見える。


「はじめまして、俺の名前はユラ・マルス」

『それで、僕に何の用かなユラ・マルス君?』


アカツキは探りを入れるように聞いてくる。


「“ユラ”でいい……それにしても、秘守回線で話しているのに随分落ちついているな?」

『これでも驚いているよ……何せ、ガードの固いこの回線を探して繋げているんだから』


表面上は笑ってはいるが、その瞳は鋭くこちらを観察しているのが分かる。


「そうは聞こえないが……まあいい、今からあるデータの一部をそちらに送る」


丁度、死角にいるパールに目で合図を送りデータを転送させる。

……さて、喰いついてくれるかな?


『おっ、きたきた…えっと、中身は何かな……これは!?』


先程から見せていた表情から一変、彼の顔が驚愕に染まる。


「現在、俺がいる施設にあったものだ。
 そちらの社長が隠しているMCのデータと裏取引の証拠の一部だ。
 それでは、本題に入ろう……単刀直入に言う、取引がしたい」

『OK、取引に応じよう。
 条件を言ってくれユラ君』

「応じて貰い感謝する。
 まずは、ここにヘリを送って欲しい」

『ヘリをかい……それは構わないが何故だい?』

「ここには、俺の他に少女が三人いる。
 そして、俺と彼女たちはこの施設で生き残ったマシンチャイルドだ」

『マシンチャイルドだって!?』

「ああ…最初は俺一人で脱出しようと思ったのだが……偶然、彼女たちが生きていることを知って助けた。
 当然だが、彼女たちも一緒に連れて行くからな」

『わかった、すぐにヘリを迎えに行かせるから場所を教えてくれ』

「了解、今転送する。
 あと、この施設を破壊するから爆薬を頼む……武装してこなくても大丈夫だ、俺たち以外誰もいない」

『OK、場所も今送られてきた……2時間程でそちらに着くから待っていてくれ』

「了解、じゃあまたあとで」

『会えるのを楽しみにしているよ』


通信が切れた。

最後のアイツの顔……随分と嬉しそうだったな。

どうしてだろう……考えても仕方が無いか。


「あ〜疲れた……みんな、おかげで助かったよ」


俺は、お礼の代わりに三人の頭を順番に優しく撫でる。

彼女たちはとても気持ち良さそうに目を細めて、その行為を受ける。

そんな様子を見て、犬か猫みたいに感じるのは間違いないと思う。





通信が終わって、待つこと2時間。

監視カメラのモニターに、施設の近くに着陸した大型ヘリが映し出された。

その数分後、コントロールルームに6人のSSとサラリーマン風の男が入ってきた。

ラピスたちは少し怯えていたが、俺が「大丈夫だから」と言うと、後ろに隠れながらだが落ちついたようだ。

入ってきた人達の中から、サラリーマン風の男が1歩前に出て……


「初めまして、わたくしプロスペクターと申します。
 ユラ・マルスさん、あなた方をお迎えに参りました」


そう言いながら、名刺を俺に差し出してきた。


「プロスペクターさん……本名ですか」

「いえいえ、ペンネームみたいなモノです。」

「はあ、そうですか。
 ……あの長いから“プロスさん”でいいですか?」

「はい、構いませんよ。
 ……それではあなたちは作業に移ってください」


プロスさんの掛け声で、6人のSSは手馴れた動きで施設内に爆薬を仕掛けに行った。

全員が、ここから出て行ったのを確認すると……


「さて、我々はヘリの方に参りましょうか」

「そうですね……ラピス、パール、エメラルド…行こうか」


そう言うと、ラピスたちは俺の後をトコトコとついてきた。



外に出ると、青い空と白い雲……そして眩しい太陽が輝いていた。

ラピスたちをチラリと見ると、目を丸くして驚きが隠せない顔だ。

どうやら、始めてみる外の景色に心を奪われているようだ。

俺は、その姿がおかしくも嬉しくも思い、ただジッと観ていた。


「爆薬のセットが終りました」

「ごくろうさまです。
 ……では」


プロスさんが爆破のスイッチを押そうと……


「ちょっと待ってください」


俺はラピスたちをヘリに乗せた後に、それを見て慌ててプロスに声をかけた。


「どうかしましたか?」


プロスさんが不思議そうな顔をして尋ねてくる。


「そのスイッチ、俺に押させてください」

「それは構いませんが……何故ですか?」

「弔いみたいなものです……あそこで死んでいったキョウダイたちへの・・・」

「弔いですか……わかりましたこれを」


プロスさんが俺に遠隔スイッチを渡してくれる。


「すいません」


目を閉じて深呼吸をする。

何故こんな事を言ったかは、俺自身よく分からない。

でも、こうしなくてはいけないと心の奥底で何かが言っている気がする。

もしかしたら、この身体の元の持ち主の意志かもしれない。


「キョウダイたちよ……汝等の魂の来世に幸あれ」


スイッチを押した。

それと同時に、施設は爆発音と共に崩れ去る。

その後を、燃え上がる炎が研究施設を完全にこの世から消し去ってくれるだろう。


「行きましょうか……ネルガルへ」


俺は、そう言ってヘリに乗り込んだ。





現在ヘリはネルガル本社に向かっている。

この中でも、ラピスたちは俺の傍を離れようとしない。



俺は俺で、今後について考えていた。

とりあえず、当初の目的はラピスたちの安全の確保だな。

その後は……やっぱり乗るかナデシコに……

劇場版みたいな未来はいくらなんでも酷すぎるからな。

……自分のエゴだという事は理解している……だけど、俺は救える人は助けたい。

それに、この世界に来た原因、途切れている記憶、今の自分の身体の事が解るかもしれない。



そう、全ての始まりの場所……“機動戦艦ナデシコ”に、その答えはあるのかもしれなない。











暗い闇の中から一人の男が浮かび上がる。

顔は、仮面を被っているため分からない。

だが、背も高く、黒い執事服を着ているので、どこかの高貴な生まれの紳士のように見える。



皆様、どうも初めまして。

……ワタクシですか?

ワタクシは只の導き手ですよ。



さて、異なった世界から来た青年、ユラ……

彼はこの先、いったいどのような物語を観せてくれるのでしょうか?



さあ、舞台は整いました!!


開幕のベルが鳴り響き!!


舞台の幕が上がる!!!


観客は皆様です!!!


運命の歯車は彼を軸として廻り始めた。

彼は進む、自分の信じた道を。

廻る…廻る…廻る…廻り始めた歯車は止まらない……

果たして……彼の行き着いた先には……



どうか皆様、最後までご覧下さい……










第2話に続く









あとがき



初めまして、クイック二式と申します。
皆様、今回は私の未熟な作品を読んで頂き、ありがとうございます。



実はこれ、あるサイトで投稿していたデビュー作を加筆、修正したモノなんですが……
PCに保存しておいたプロットと、その他の細かい設定が全て消滅してしまったのです。
それで、書き続けるのが無理だと思い。
投稿していたサイトにお願いして、作品を消去して貰ったんです。



それから、読者として色んなサイトを渡り歩いていたら、ここに辿り着いたんですよ。
このサイトの作品を読んでいたら、急に書きたくなって……
もう一度、プロットを書き直しました。
そして、ある程度できたので投稿しました。



今度こそ、最後まで書き続けたいと思うので、どうか皆様よろしくお願いします。
この作品のご感想をお待ちしております。







感想

クイック二式さん。いえ、ここは某所の呼び方でクイックさんとお呼びすべきでしょうか? 私もあそこにはプロローグと一話だけでほったらかしのSSがあっ たりします(汗) 

あそこでは、結局挫折しましたもん ね?

ははは…光と闇に祝福をと平行で連載をはじめようとしてたからね…(汗)

まあ、駄作作家のうめきにいちいち反応しているのもめんどくさいですし、感想のほうに行きましょう。

そうだね…先ずは主人公ユラ・マルス君と三人のマシンチャイルドの登場編だね。それにユラ君やっぱり強いね、この調子ならアキトの出番は無さそうな気も…

何を言ってるんですか! せっかく お邪魔無視の一人ちゃっかりラピスを引き受けてくださったんです!

この世界でも極自然にアキトさんと私の
ラブラブストーリーが展開されるに決まっています!

いや、多分脇キャラじゃないのかな? だって、マシンチャイルドは余っているよ?

いい加減二しなさい! マシンチャ イルドは差別発言ですよ! IFS強化体質というれっきとした呼び方があるんです!

改造人間って言われても気にしてなかったくせに。

貴方は駄目なんです! ゴミにそんな事いう資格があるわけ無いでしょう!

ひでぇ!?


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