第十話




 「―――この度、高崎学校長に魔術系授業の臨時教師としてお招きを受けた、神崎 暁です。そしてこちらが」

 「看護士見習いの朝霧 魅緒です、不束者で及ばない所もありますがどうかよろしくお願いします」

 俺と魅緒がこの町に来て三日経ったこの日、白樺大附属高等学校の職員室で臨時職員として挨拶をしているところだ。

 「え〜神崎君はわが校の卒業生であります。 この度は魔術系の担当教師が事故に遭われて入院しておられますので、その先生が復帰するまでの間、わが校の 臨時教師をお願いしました。 暁君宜しく」

 「はい。 こちらこそ宜しくお願いします」

 学校長である高崎 鷹也(おっちゃんって呼んでるけどな)の言葉と共に俺は握手を交わした。 すると予鈴のチャイムが鳴り朝の職員会議は終了した。

 「じゃあ今日も元気よくいきましょう!!」

 学校長の一声でほかの職員がそれぞれ自分が受け持つ教科の準備して職員室から出て行く。

 「・・・・で、俺はどうすればいい? 詳しい内容は教えてもらってないんだけど」

 書類には確かに詳しいことは書いてなかったはずだ、魅緒にも確認してもらったから間違いないはずだ。

 「授業は生徒が魔術をある程度使えるぐらい教えてくれればそれでいいよ。 それ以上の事をやってくれてもいい」

 「じゃあ決まった方針はないってことか?」

 「昔お前が習ってたことを教えてやってくれ。 そのときの先生は今一身上の都合で辞めちゃって居ないんだ」

 ふぅん、確かに俺がここに居たときの教師はかなりランクは上だったしな。 おかげで模範の時の相手はいっつも俺だった、しかも手加減一切無かったし。  ったく、いくら魔術耐性高いからって大怪我寸前だったぞ。

 「では、暁さん私は保健室に向かいますので後ほど」

 「わかった」

 魅緒が職員室から出て行くと、おっちゃんは詰め寄ってきた。

 「彼女、暁のコレ?」

 「小指を立てんなよ、そんなんじゃないって、仕事場の同僚」

 「まいっか。 お前の最初の授業は二限からだからね、場所は魔術訓練場だから」

 「あいよ、・・・・っておっちゃん、コレは使っていいのか?」

 俺は腰の裏に隠してある、アグニとルドラを取り出し見せた。

 「ん? あぁ、実銃でなければ使っても構わないよ」

 「そっか、わかった」

 それから俺は職員室から出て、結界で強化の施されている鍛練場へと向かった。



















 今は一限が始まったばかりなので二限までの暇つぶしとして鍛練場から少し離れた部屋で俺は端末を操作している。

 この部屋は戦闘シュミレーションを目的としたもので利用者に合ったレベルで本格さながらの戦闘が出来るシステムとなっている。いわばバーチャルバトルシ ステムかな?

 『ダメージは受けるけど怪我まではしない』とは言え、やはり痛いには変わりないということだけだ。

 「そうだな、敵はキメラ×10にしとくか」

 端末の操作してモニターに映る選択を次々と選んでゆく。

 「こんなもんかな」

 最後の選択を終え、ディスプレイには『これらの設定で実行しますか?』という文字が出ている。

 了承のボタンを押そうとした時首に下げてる十字架のペンダント、クラウ・ソナスが言葉を発した。

 〔マスター、折角だからリテラエルネルアの状態に馴れておいた方が良いと思うけど?〕

 おや?って思った人もいるかも知れないがコイツの機能をちょっと弄ったんだ。俺が使いやすいようにな。

 この前みたいな感じだと堅苦しくていやだからちょいと性格を変えた、そしたらなんか少年っぽい声になった。

 「そうだな・・・・・いずれはダラゴネスと戦うんだし、今のうちに慣れておくのもありだな」

 〔それもあるけど、今のマスターのリテラエルネルアはまだ不完全だし、まだ術も全然使え無いし〕

 「まあ通常時の魔術には影響は無い〔威力が底上げされてる〕

 「・・・・・・・・・」

 俺の言葉を遮られた・・・・・・。
 まあいっか、とりあえず実際にやってみるか。 設定変更、結界レベル最上級、開始後の4体を耐久力10倍、残りの6体は耐久力を20倍にして最初の4体 撃破後同時に出現。 決定。

 端末のモニターに『開始』という文字が出てきた直後、4体のキマイラが目の前に現れた。 どいつもコイツもブッサイクな顔だ。

 俺が足を一歩動かすとそれが合図なのかキマイラ達は一斉に襲い掛かってきた。

 今日はアネモネを学校に持ってきてないため、武器はアグニとルドラしかない。 クラウ・ソナスは後で使うため除外。

 「よっと――――ハァアアッ!!」

 襲い掛かってきた4体のキマイラを避け、背後に回り1体に後ろ蹴りを放つ。

 蹴られたキマイラは地を滑るがすぐ飛び起き構える。 普通ならもうちょっとダウンするけど硬いな。

 「さて、どのくらい威力が上がってるかな?   まずはアグニ!!」

 腰の裏にあるガンホルダーからアグニとルドラを抜き、アグニを構え狙いをつけて

 ドオォオオンッ!!

 凄まじい轟音と振動で部屋の中は包まれた。 ちなみにここの結界は空間剥離結界といってこの部屋で起こっている出来事は外部からまったくわからない。  だから魔術の訓練や実践はもってこいって事だ。

 「・・・・・はい?」

 いつもの要領で魔力を込めたつもりだけど・・・・・一発消滅?
 魔力の霧が晴れて着弾点を見ると、そこには確かに先ほどまで居たキマイラの影が床に証拠として残っていた。

 〔だから言ったじゃん、底上げされてるって〕

 いや、あのね確かにそれは聞いたし、覚えてるよ? でもね、耐久力を上げたキマイラを一発で消滅させる ほど威力が上がるとは聞いてないよ旦那!!

 〔はいはい〜、後残り3体〜がんばって行こう〜〕

 「いやな、これじゃ暇つぶしにもならんぞ!?」

 〔だからぁ、リテラエルネルアになって慣れとくんだっていってるじゃん〕

 そういう問題じゃないだろ!? とクラウ・ソナスのやり取りしている間、俺はキマイラ3体の攻撃をかわし続けている。

 「ええい、じゃ自棄だ!! クラウ・ソナス、セット!!」

 〔了解、マスター〕

 俺はペンダントの十字架を外し、それを前に掲げた。

 「灼熱の力よ、躍動の印において力を与えよ。 リテラエルネルア!!」

 そう叫ぶと俺の体の中の魔力が炎のように溢れ奔流となってはじける。 手には大剣が握られている。

 「クラウ・ソナス、ハルバードモードに移行〔やだ〕

 「は!?」

 大剣を構えモード変更の指示を出そうとしたら、再び遮られた。 性格変えない方が良かったかな。と後悔した。

 〔この状態で攻撃を避け続けて。 少なくても30分。   そうそう、マスターが端末で操作してた設定、変えといたから〕

 ・・・・・ものすっごくやな予感がする。

 〔すべての能力100倍キマイラ×100

 100体ね・・・・って能力100倍!?

 「ちょ、おま!? 100倍って、ウガッ!!」

 俺は手に持っている相方に抗議をするが、その瞬間キマイラから集団コンボを食らい空中に飛ばされた。

 この状態になると飛ぶことが出来るので、空中で姿勢を立て直す。 そして目の前に赤く霞むものが通った。 全然姿見ないんですけど・・・・・・。

 一応リテラエルネアじゃなくても一応飛べるらしいが現段階じゃ無理らしい。

 〔じゃあがんばって〜〕

 「気楽に言うな〜!!」



















 〔―――マスター、調子はどう?〕

 クラウ・ソナスが提案した暇つぶし、もとい特訓が始まってから20分が経過した。 始めのうちは攻撃を食らっていたけど、今では食らう回数が少なくな り、逆に追い越したり、カウンター入れたりすることも出来るようになってきた。

 「少しずつではあるけどこの状態に慣れてきたって感じかな」

 〔マスターの本当の力ならこの程度どうってこと無いんだけど、やっぱり魂が砕かれたからね。 技も今の状態だと《ダークネス・ブレイカー》ぐらいしか扱 えないよ〕

 《ダークネス・ブレイカー》、言わば魔力集束砲だ。前面に魔方陣を形成して、そこに魔力を限界まで蓄積してクラウ・ソナスでさらに魔力を入れる。 する と蓄積の限界を超えた魔方陣が爆発を起こし目標に向かって襲い掛かるというわけだ。

 わかりやすく言うと、風船を想像してくれ。 魔方陣が風船、魔力が空気。 風船に空気を入れると膨らむだろ? それをパンパンになるまで空気を入れた後 さらに空気を入れるとどうなる? 結果割れるだろ。 それと同じ原理だ。

 これはチャージには時間がかかるからアウトレンジでの使用が主立ってくる。

 「一応複合魔術は健在なわけだし、今は不具合は無いと思う」

 クラウ・ソナスに答えを返し、キマイラの攻撃を避けながら俺は詠唱を始めた。

 「生命の煌きを奪うは、抗うことなき氷結」

 俺が唱える複合魔術、それは氷と―――

 「対するは屈強な巨を恐れも無く退く暴風―――――」

 ―――風。 そして

 「裁きたるは罪人、落ちたるは怒涛の如き紫電」

 ―――――雷

 そこまで詠唱を終えると魔方陣が出現。体の回りと魔方陣にに紫電が発現し、徐々に大きさを増してくる。

 「さぁ、威力のほどを見ようか!!」

 魔方陣が光り出し、発射の合図を待っていた。



















結果














 〔まぁ、ね。 いくらなんでもやりすぎでしょこれ〕

 この部屋の演算能力と処理速度を超えた設定(あれからさらにレベルを上げた。)と結界の一部を破損させるという事を行ったためシュミレーションがフリー ズしてしまった。

 〔どうすんの?〕

 「どうするって、ほっときゃ直るよ」

 クラウ・ソナスの追求を一蹴させ、しれっと答えた。

 昔も憂さ晴らしや術の実践で何回も故障させてたし、今回も似たようなもんだから大丈夫だ。うん。

 「それに昔のより性能が遥かに上がってるから、すぐ直る。 さぁてもうそろそろ授業の準備でもすっかな」

 俺は床に降りてリテラエルネルアを解除すると、軽く伸びをしながら部屋を出た。





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