第3話『規格外』


 アークシティ西区、セイバー総本部。

わたし達、セイバー達の本拠地です。

場所は、セイバー達が鍛錬に励む訓練室。

今から、ここである人の試合が行われます。

わたし―――わたし?

自己紹介が遅れました。

総本部所属、第1階位ノービスのセイバー、アンリ・アンダーソンです。

ちなみにアルことアヴェル・ディアスと、カノちゃんことカノン・レイニッシュとは10年近い付き合いの幼馴染です。

ふたりと違って一番下っ端のセイバーなので、早く一人前になる為に精進する毎日!

……少し、話が脱線してしまいました。

どうしてこんな場所に居るかと言うと、話は今朝にまで遡ります。

今朝、鳥の囀りと共に目を覚ましたわたし。

自分の部屋……?

おかしい、確かアルと依頼で西の方に行っていた筈なのに。

記憶が飛んでいる様な―――。

部屋のテレビの電源を入れる。

ニュースをやっていた。

聞こえてきた日付にびっくり仰天。

何時の間にやら2日くらい過ぎてます。

どうして、と必死に記憶を呼び覚まします。

記憶を辿り、背筋が段々と冷たくなってくるのを感じました。

そう、思い出してしまったのです。

災害といえるブレイカー―――ドラゴンと遭遇してしまったことを。

わたし達では、到底勝てる相手じゃありません。

そこで、わたしはある方法で対抗しようと考えました。

わたしにしか出来ない、持って生まれた“力”を使うことを。

でも、アルが反対しました。

それだけはやってはいけないと。

アルは心配してくれているのです。

わたしが、“力”を使えば大変なことになってしまうと。

でも、この場を切り抜けるには他に方法がありません。

意を決したその時―――凄まじい風圧が襲い掛かってきました。

憶えているのはそこまで。

きっと、その時に何らかの衝撃を受けて気絶したのでしょう。

あそこからどうやって助かって―――アル?

アルは!?

アルがどうなったのか、居ても立っても居られませんでした。

ベッドから飛び起き、部屋を出ようと扉に手を伸ばした矢先―――。

扉が勝手に開いた……のではなく、誰かが入って来ました。

「アンリ―――!?」

入って来たのは、幼い頃から見慣れている赤い髪の少年―――アルこと、アヴェル・ディアス。

困惑する彼。

でも、そんなことはどうでもよかった。

生きていた、無事だった!

思い切り抱き着いてしまう。

「あ、ああああああああアンリ!?」

「アル、生きててよかった〜!」

「あの、その、お、おっぱぱぱぱぱぱ!」

「おい、朝からやかましいぞ。静かに出来んのか?」

扉からもうひとり、赤い髪の男が顔を出す。

あれ、この人って確か―――。

「あ、記憶がおかしいお兄さん!」

「シオン・ディアスだ(怒)。それが命の恩人に対する物言いか」

「命の恩人?」

「その前にそいつを離してやれ。何やらえらいことになってるぞ?」

「そいつ?って……アル!?」

アルは鼻から大量の鼻血を流していました。

一体、どうしてこんなことに!?

……抱き締めた際、自分の胸が幼馴染の胸板に当たっていることに気付かないアンリさんであった。

思春期真っ盛りの純情少年が、そのマシュマロの様な柔らかさに耐えられるワケもなく、あえなく陥落。

大量の鼻血を垂らして顔色は真っ青だが、何処か幸せそうに見えるのは気のせいではないだろう。

アヴェル・ディアスの最期の言葉はおっぱい万歳―――であったという(※死んでません)。

「あれ、何かわたしの思考の後に誰かが入り込んだ様な……」

「おそらく、それは天の声だろう。深く考えなくていい」

天の声って、何のことだろう?

小一時間後、落ち着いたアルが説明してくれた。

あの時、自分達を助けてくれたのがこのお兄さんだと。

聞く話によると、アルとは凄く遠い親戚であると。

「アンリ、もう少し驚こうよ。この人、500年前の人なんだよ?」

「うん、凄いね!やっぱり、タイムマシーンでこの時代に」

「いやいや、そんな物存在しないよ!?」

タイムマシーンも無しに、このお兄さんはどうやって遠い未来であるこの時代にやって来たのでしょう?

アルは更に話を続けます。

このお兄さんがセイバーとして活動すること、ここに一緒に住むことを。

命の恩人だし、特に反対はしません。

「それでさ、今日はシオンさんの試験が行われる日なんだ」

「試験って、セイバー試験のこと?ドラゴン斃すくらい強いなら免除でしょ?」

セイバー試験とは、その名の如くセイバーになる為の試験です。

わたしやアル、カノちゃんもその試験に合格してセイバーになりました。

アルの話では、このお兄さんはドラゴンをひとりで斃してしまう強さの持ち主。

そんな凄い人が試験を受ける必要なんて無いと思うけど……。

「ま、一応形式みたいなもんだよ。総長やルカさんはシオンさんの実力を見てないから、自分達の目で確認したいんだって」

「んで、その試験の相手は僕とカノンちゃんだってさ。勘弁して欲しいよ、全く……」

「あ、ザッシュさん。それにカノちゃんも」

扉の向こうから、ザッシュさんとカノちゃんが顔を出します。

アドバンスドであるふたりが、お兄さんの試験の相手。

大丈夫かな、いくらお兄さんが強くても、このふたりを同時に相手するなんて……。

「何、心配はいらんさ。寧ろ、俺は後輩の相手が出来て嬉しく思うぞ」

「ああ、そうか。500年前から来たシオンさんからすれば、この時代のセイバーである私達は後輩なんですね」

「大先輩にあたる君を失望させない様、努力するよ」

そんなこんなで、わたしは訓練室に見学に来ています。

訓練室には街を覆う結界を張り巡らせる装置―――障壁柱の小型版が備えられており、こちらも規模が小さいものの結界と遜色ない障壁を張り巡らせることが可能です。

小型障壁柱で障壁が張られ、その外側にわたしやアル、他に見学に来た人達の姿があります。

ここでざっと他の見学者さん達をご紹介しましょう。

まずは総長のレイジ・ラングレイさん、セイバー総本部で一番偉い人です。

アルのおじいさんとは親友同士。

わたしも子供の頃からよく顔を合わせたことがある、厳しさと優しさを併せ持ったおじいさんです。

かつてはマスタークラスのセイバーとして活躍したそうですが、今は最前線を退いて、他のセイバー達が動きやすい様に各地のセイバーの支部長さん達やアークシティの偉い人達との会議、若手セイバーの育成に奔走するなど、現場で働くセイバーとは別の意味で多忙な日々を送っています。

レイジさんの隣に居るのは、孫娘のアリス・ラングレイさん。

わたしやアル、カノちゃんはアリス先輩と呼んでいます。

彼女はスクール時代に1つ上の先輩だったので、それゆえに今でも先輩と呼び続けています。

あ、スクールというのは意力を学べる教育機関―――早い話がセイバーを育成する学校みたいなものです。

尤も、そこを出た全員がセイバーになるというワケではなく、意力を利用した仕事は他にもあるのでそちらの道に行く人も少なくありません。

わたし達やアリス先輩はセイバーの道を選んだ為、今でも交流が深いのです。

ちなみにリナちゃんやジェイくんとは、スクールからの付き合いだったりします……大体、5〜6年くらいになるかな?

ザッシュさんやソラスさんはスクールに通ってないそうです。

アル達は、おじいさん達からの勧めがあってスクールに通ってからセイバー試験を受けました。

わたしがスクールに入れたのも、アルのおじいさんが色々と働き掛けてくれたおかげで、入学金や授業料など何から何までお世話になっており、今はそれらを返済する為に頑張っています。

おじいさんは返さなくてもいいと仰っていますが、そんな恐れ多いことは出来ません。

次に視線に映ったのは背の高いおじさん―――マスタークラスのひとり、クライス・レイラントさん。

20年以上に渡ってセイバーとして最前線で活躍するベテラン。

アルのお父さんの先輩で、アルのお父さんとは名コンビだったそうです。

わたしもそうなのですが、クライスさんもセイバーに連なる家系ではありません。

最高位であるマスターに登り詰めるには、血の滲む様な努力を続けたのは想像に難くないでしょう。

スクール時代に奨学金を貰える上位成績者に常に名を連ねていたことから、彼が努力家であったというのは誰もが認める事実。

ふと、彼の様子がおかしいことに気付きました。

注意深く見るとわかります―――彼は汗を流している。

シオンさんの後ろ姿を見て。

「クライスさん、どうしたんですか?」

「ん……ああ、アンリか。いや、あのシオンという男……一目見ただけで戦慄を感じた。只者ではないな、彼は」

流石はベテランさんというべきでしょうか。

シオンさんが強い人だと、一目で見抜いてしまった模様。

まぁ、ドラゴンを斃すそうなので強いどころではないのですが……。

さてさて、その次に視線の先に居るのはわたし達とも馴染みの深い友達―――リナちゃんとジェイくん。

……何か、ジェイくんがリナちゃんに関節を極められています。

また、ちょっかい出そうとして制裁されてるのかなぁ。

リナちゃんは西区に大きな道場を構えるクドウ家の次女。

クドウ家はこの大陸から東に浮かぶ極東諸島に本家を構えるセイバーの家系で、リナちゃんの家はその分家筋にあたります。

とても古い歴史を持つ由緒正しい武の名家で、極東諸島では知らない人間がいないというほど。

ちなみにリナちゃんには上にお姉さんがひとり、それと双子の妹さんがいます。

彼女達の紹介はまたの機会に。

ジェイくんは西区でセイバー達が扱う武具や道具を制作するレアリスト工房の三男坊。

上にお兄さんがふたりいるのですが、お父さんやお母さんと一緒に大陸各地でレアリスト工房の技術を広める為に工房を離れていることが多いそうです。

ジェイくんはセイバーを目指し、スクールに通い始めてからわたしやアルと知り合いました。

ちなみに、リナちゃんと初めて会ったのもその時。

彼はリナちゃんと一目見るなり、彼女の手を握って―――。

「結婚して下さい!」

と、叫びました。

その場に居たわたしやアル、カノちゃんが呆気に取られたのは言うまでもないでしょう。

リナちゃんは―――。

「するか!」

と、渾身の右ストレートでジェイくんを地に沈めました。

何でもジェイくんの好みは黒髪の女の子らしく、リナちゃんはドストライクだったそうです。

ポニーテールだったことも高ポイントなのだとか。

以来、ジェイくんはリナちゃんにアタックを繰り返しては鉄拳を貰うのが恒例行事として定着。

その影響なのか、彼は異常なまでのタフネスを誇る様に(汗)。

他にも何人かのセイバーの姿が見えますが、そろそろ試合が始まります。

彼等の紹介は何時になるやら、神のみぞ知ります。










訓練室に張り巡らせた障壁の内部、試合が行われる場に立つ3人。

500年前からやって来たという、過去の時代のディアス家当主シオン・ディアス。

対するはセイバー総本部に所属するアドバンスドのふたり、ザッシュ・シャルフィドとカノン・レイニッシュ。

これから、シオンのセイバー試験が行われる。

実力は圧倒的だが、一応形式ということで。

ザッシュとカノンは右手に意力を集中する。集束されていく意力が、徐々に形状を変える。

数秒後、ふたりの手には武具が出現していた。

ザッシュの手には黒い鞘に納まった刀が、カノンの手には籠手が。

意力で構成された武具、対ブレイカー戦の切り札たる意刃。

「ふむ、ザッシュだったな。お前の祖先は刀の使い手ではなかったんだが……」

「僕の母方の爺さんが極東諸島の出身者でね、子供の頃から刀の扱いを仕込まれていたよ。その影響じゃないかな?」

「ふむ、面白い」

シオンは笑みを浮かべると、彼ら同様に右手に意力を集束させた。

一瞬の閃光、眩さに目を閉じる一同。

視界が回復した時、シオンの手には炎の刻印が刻まれた長剣が握られていた。

炎の刻印はディアスの血を受け継ぐ証。彼が間違いなくディアスの末裔であることは、この場で証明された。

シオンの肉体から意力が発せられる。瞬間、相対するふたりの肉体が強張った。

背筋に悪寒が走った。凄まじい圧力が、ふたりに襲い掛かっていた。

「(冗談だろ……!?)」

「(何て、意力―――桁違い過ぎる!)」

「―――いくぞ」

一言発した後、シオンの姿が消えた。

ザッシュは後方に跳んで、抜刀する。

けたたましい金属音が響いた。

ザッシュの眼前にシオンが出現していた。

刀でシオンの剣を必死で防ぐものの、ジリジリと後方へと押されていく。

弾かれる音、押し合いに負けたザッシュが更に後方へ飛ぶ。

追撃に入るシオン―――だが。

彼の後方に籠手を装着した右手を繰り出すカノンが。

衝撃音が響く。彼女の籠手はシオンに届かない。

シオンと籠手の間に、意力の障壁が展開されていた。

作り出しているのは言うまでもなくシオンだ。

しかも、彼は振り返ることなくザッシュの方向だけを見ている。

「(振り返りもせず、しかもこんな即席で作った障壁で意刃を防いだ―――!?)」

意力による防御障壁。熟達した上級者にもなると、今のシオンの様に即席で障壁を張ることも可能。

だが、それにしても異常なのだ。即席で作る以上、強度は時間を掛けて作る障壁よりも脆くなる。

それなのに、シオンの即席障壁は意刃を易々と防ぐだけの強度がある。

桁外れに強い意力だけによるものではない。緻密な意力の制御がなければ不可能な業だ。

アドバンスドをふたり同時に相手にしながら、彼はそれをやってのけているのだ。

意刃に意力を込めるカノンだが、障壁には罅ひとつ入らない。

だが、急にカノンの身体がバランスを崩した。障壁が消えたのだ。

無論、攻撃で消えたのではない。シオンが自ら解いた為だ。

何故、と考える暇もなかった。

後方―――つまり、カノンが居る場所に向かってシオンは蹴りを放つ。

迫りくる蹴りに対し、カノンは籠手型の意刃で受け止めるが、後方に弾き飛ばされてしまう。

空中で何とかバランスを取って着地したものの、その場で蹲る。

「カノン!?」

見学していたアヴェルが、思わず声を荒げる。

しかし、少しばかりの観察で彼女の状況を把握する。籠手を装着した彼女の右手が震えている。

これが意味するものはひとつ、シオンの蹴りが想像以上の破壊力を持っていたに他ならない。

まさか、そんな馬鹿なと、信じられない顔になる一同。

生身の手首ならともかく、意刃を纏った手首なのだ。

意刃を装着していたにも関わらず、凄まじい衝撃が彼女の右手を痺れさせたのだ。

暫くはまともに動けない彼女から視線を外し、再びザッシュに視線を向けるシオン。

と、ザッシュが何やら構えている。

刀を鞘に納めたまま、こちらの様子を窺っている模様。

「(―――居合か)」

彼が何を仕掛けて来るかを、瞬時に理解する。

居合とは、刀を扱う剣士が数多い極東諸島で誕生したとされる剣術のひとつだ。

刀が鞘に収まった状態で構え、そこから刀を抜いた勢いで敵を斬り裂く。

加えて意力を付加すれば、攻撃速度を格段に増すことも可能。熟練者ともなれば、斬撃を飛ばして敵を斬るという。

母方の祖父が極東諸島出身の剣の使い手と言っていたことから、使えても不思議ではない。

間合いはかなりある―――おそらく、斬撃を飛ばしてくるのだろう。

対するザッシュの方は、シオンがどの様に対処するのかを予想する。

「(彼ほどの手練れなら避けるのは容易い筈だ。避けて隙が出来た直後に距離を詰めるか、それとも―――いいや、考えるのは止めよう。全力で斬るだけだ)」

納刀するザッシュの肉体から意力が迸る。

その全てが彼の刀へと集約される。

いざ―――参る!

カッと目を見開き、納刀していた刀を一気に抜き放つ。

剣先から意力で構成された斬撃が飛ぶ。一直線にシオン目掛けて飛んでいく。

その速度は、音速を超えていた。

彼の全身全霊の一撃。直撃すれば、ドラゴンにすら深手を負わせることも可能だろう。

さぁ、どうする。

どうやって、これに対抗―――。

「え……!?」

ザッシュも、観戦していた者全員が目を剥く。

シオンは迫りくる超音速の斬撃に対し、避ける素振りも見せない。

何を考えている、死ぬぞ!?

誰もが息を呑んだ。

しかし、幾人かが彼の次の行動を予知した。

総長レイジ・ラングレイ、マスターのクライス・レイラント、そして同じディアスの血を引くアヴェル・ディアスの3人だ。

シオンはすっと、意刃の切っ先を前方に向ける。

「ディアス流二刃―――静流(せいりゅう)

意刃に超音速の斬撃が激突する―――が、シオンは軽く手首を動かす。

それだけで、斬撃を軽くいなした。

斬撃はシオンよりもやや上の方角に飛んでいき、障壁に激突。

激しい激突音、直後に凄まじい振動が訓練室を襲う。

あまりの衝撃に、アンリやリナは尻餅をつく。

アヴェルは何とか踏み止まり、障壁内部に目を凝らす。

シオンは何事も無かった様に、その場に立っている。

アンリの手を取るアヴェル。

彼女は、今起きたことの説明を求めてくる。

「な、何が起きたの?」

「シオンさんがザッシュさんの斬撃を流したんだよ」

「流した―――?」

「さっき、シオンさんがやったのはディアス家に伝わる技のひとつ“静流”。柔らかな剣筋で敵の攻撃を受け流す技だよ」

「アルも使えるの?」

「出来るけど、シオンさんとぼくとじゃ天と地の差だよ。少なくとも、ぼくにはザッシュさんの斬撃を受け流すことは出来ないね」

頬に汗が伝う。

あまりにも次元が違い過ぎる。

同じ剣術を体得しているアヴェルだが、シオンの技量は桁外れもいいところだ。

今の自分では逆立ちしても勝てる様な相手じゃない。

どうすれば、あんなにも強くなれるのか。

「(やれやれ、冗談じゃないよ。僕の全身全霊の居合をああも簡単にいなせるなんて、どうすりゃ―――カノンちゃん?)」

シオンの後方で蹲っていたカノンが漸く立ち上がった。

彼女の回復に気付かないシオンではない。

ザッシュに視線を向けながらも、後方の彼女にも警戒を怠らない。

ふと、異変を感じた。後方のカノンの意力に変化が。

「(―――何だ?)」

シオンはザッシュに隙を見せない様に、視線をカノンに向ける。

彼女の意刃が輝いている。いや、それだけではない。

意刃の形状が変化―――籠手から大きな鎚に。

「(意刃の形状が変化しただと!?)」

そんなことがあり得るのか、とシオンの表情が驚愕に染まる。

意刃とは最強の武器であり、使い手の心を映す鏡と云われている。

使い手の心を映すゆえ、その形状は使い手が最も得意とする得物を象るのだ。

シオンが知る限り、意刃が全く異なる形状に変化するという話は聞いたことが無い。

彼女の意刃を見つめる―――と、あることに気付いた。

鎚と化した意刃の先端部分に、仮面の様な刻印が見られる。

「刻印の意刃の使い手だったとはな。肉親から受け継いだものか?」

「いえ、私の家系では私が初めてです。意刃を初めて発現させた時から刻まれていました」

「驚いたな、刻印が最初から刻まれていた例は殆ど無いんだが……」

刻印の意刃―――シオンやカノンが持つ意刃をそう呼称する。

これらには通常の意刃にはない特殊な能力を秘めている。

刻印がどの様な条件で刻まれるかは定かではない。

本人の精神的な成長、はたまた突然変異によるものか。

兎にも角にも、刻印の意刃とは通常の意刃が進化した姿とでも言えばいいだろう。

また、刻印が刻まれた意刃を持つ人間が子を成すと、その子供が意刃を発現させた場合は最初から刻印が刻まれている。

刻印の意刃を持つ家系の人間は、生まれながらに刻印の意刃を持つことが許されているのだ。

仮面の刻印が刻まれたカノンの意刃には他の武器に変化する能力が備わっている模様。

ふたりのやり取りを聞いていたアンリがアヴェルに尋ねる。

「ねぇ、シオンさんの意刃にも刻印があるよね。」

「ああ、炎の刻印だよ」

「あの意刃にも何か特別な力があるの?」

「そうらしいけど、実はぼくも知らないんだ」

「え?どういうこと?」

「じいちゃんから聞いた話だけど、炎の意刃の能力を発動できたのは始祖―――つまり、一番最初の御先祖様だけなんだって。しかも、どんな能力であるかが伝わってないから分からないんだよ」

炎の刻印が刻まれた、ディアス一族の意刃。その能力は詳しく伝わっていない。

刻印が刻まれている以上、何かしらの能力が備わっているのは確かなのだが……。

カノンは、鎚に形状変化した意刃をシオンに向ける。

ザッシュも刀の切っ先を向けてくる。

「遠慮なくやらせて貰います」

「僕も忘れないでね」

「いいだろう―――同時に来い」

その言葉と同時に、アドバンスドの両名が地を蹴る。

両者ともに、意力で脚力を強化していた。

凄まじい勢いで迫る。

常人では、とてもふたりの速度に対抗出来ないだろう。

しかし、ふたりの相手は常人ではない。

金属音が響き渡る。

両者の同時攻撃を、“ふたり”のシオンが受け止めていた。

実体を伴った分身だ。シオンは実体分身を作り出し、同時攻撃を止めたのだ。

ぶつかり合う意刃と意刃。

カノンは感覚からして、自分の攻撃を受け止めている方が分身だと理解した。

分身である以上、本体より戦闘力は劣る筈。なのに、この分身体は自分の攻撃を易々と防いでいる。

しかも、こちらの攻撃に対して正確無比に対応してくるのだ。

ザッシュを相手にしながら、分身を的確に動かしているとでもいうのか。

あまりにも信じ難い状況、誰もが試合に見入っていた。

「(分身体なのになんて強さ―――それなら!)」

カノンの意刃が再び輝く。形状が変化する―――今度は大剣だ。

渾身の力を込め、分身体を弾き飛ばす。

これには本体のシオンも感心した。分身体とはいえ、弾き飛ばされるとは思わなかったからだ。

微かな笑みを浮かべながら、ザッシュの意刃と激突する。

一撃、二撃、三撃、四撃……と、ぶつかり合う数が増す毎にシオンの剣速は加速していく。

「(何て剣速だ、捌き切れない―――!)」

ザッシュも剣速の速さには自信があったが、シオンのそれは自分とはレベルがあまりにも違い過ぎる。

徐々に傷だらけになっていく。このままではジリ貧だ。

勝てなくとも、一矢報いたい。

気合いを込めた一閃、その一撃は奇跡的にもシオンを後退させた。

何とか剣の嵐から脱出した彼は、再び納刀する―――居合の構えだ。

一矢報いたい、その強い意志が影響を及ぼしたのか、先刻の居合よりも発している意力が増していた。

「面白い、ならば俺も最速の剣で相手をしよう」

シオンと分身体が踏み込む様な体制を取る。

ザッシュもカノンも、それを見ただけで戦慄が走った。

躱せない何かが来ると、本能で察知した。

シオンの構えを、アヴェルは当然知っていた。ディアス流剣術のひとつだからだ。

「ディアス流三刃―――烈風」

一瞬だった、シオンと分身体の姿が消えた。

次に出現した時、ザッシュとカノンの意刃が切断されていた。

何が起きた―――と、意刃を切断された両名ですら理解出来なかった。

アヴェルは息を呑んでいた。

ディアス流三刃“烈風”―――シオンが使用した技である。

技の内容は単純明快、最大加速で敵を斬る、ただそれだけの技。

つまり、早い話がシオンの加速があまりにも速過ぎて誰にも認識出来なかったということだ。

試験終了、文句無しの合格だった。

この日、セイバー総本部にひとりのセイバーが加わった。規格外の力を持った赤髪のセイバーが。



・2023年2月13日/文章を一部修正



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