さて、ここに1人の男がいた。年の頃は二十歳ぐらい。
頑丈そうなブーツに丈夫そうなズボン。黒のシャツになにやら装飾が施された赤いジャケットを着ている。
蒼白いの髪を持つ顔立ちは整っており、目付きは鋭いがどこか優しさも感じさせた。
腰には一見すると剣にも見える機械的な棒。柄の少し上辺りに透明な玉がはめ込まれている物を下げている。
 そんな彼だが……突っ伏していた。ものの見事に荒野のど真ん中の地面の上で……
見た限りでは怪我をしているようには見えない。というか、目立った汚れも見えない。
では、なんで突っ伏しているのか? それは――
「は、腹……へ……った……」
 空腹だったからである。彼はある理由で旅をしているのだが、その最中に食料を切らしてしまったのだ。
切らした理由が道に迷って次の町にたどり着けずに彷徨い続けたという……間抜けなと思われても否定出来ないものであったが……
これで木の実や野生の動物の肉を得られれば良かったのかもしれない。
しかし、運悪くそれらしい木の実などは得られず……肉の方も野生の動物をある理由から殺せなかったために得られなかった。
 そんなわけで男は倒れ……現在、男の中で走馬燈が絶賛放映中であったりする。
「ふ……はは……こんな馬鹿な俺を……あんたは……許して……くれ……る……か……」
 若干余裕がありそうでダメっぽそうなことを呟いている。
本格的にダメっぽそうである。
「こんな醜態……アイツにゃ……見せら……ん……な………」
「ん? おい、あんた……大丈夫か? おい、しっかりしろって? お〜い!?」
 何かを呟く男だが、そこを通りかかった男性に声を掛けられていることに気付かず……そのまま意識を失った。

 男、ここに眠る。いや、死んでないけど――



『科学と魔法と――』
――― RUN ABOUT(prologue) ―――


「はぐはぐはぐ――ぷはぁ〜……あ〜生き返る〜」
 数時間後、通りかかった男性の肩を借りながらある村にたどり着いた男。
その村にある酒場に連れて行ってもらい、今はこうして食事にありつけたのであった。
なお、食料は切れていたがお金が無いわけではないので、支払いは男持ちである。
「しっかし、道に迷ったって……どうやったら間違えるんだ?
確かに一番近い町まで歩いて3日くらいは掛かるが、一本道だったはずだぞ?」
「あはは……まぁ、ちょっと捜し物をしててね。それで道を外れたらわからなくっちゃって……」
「ふ〜ん……捜し物ね……何を探してるかはしらねぇが、歩きじゃ流石に無茶だと思うぞ?
この周辺には野良の『神類(しんるい)』もいるしな」
 後頭部を掻きながら苦笑する男に村人である男性は呆れた顔を見せる。
まぁ、村人の言いたいことも男はわからなくもない。この大陸に存在する『神類』は種族によっては危険なのもいるのだ。
さて、『神類』とはなんなのか? それはこの大陸の歴史も踏まえて説明した方がいいだろう。
 約千年ほど前……この大陸には『科学』と『魔法』が存在し、その2つは共存することなく常に対立していた。
『科学』は道具などを用いてあらゆる事を成し、『魔法』は魔力を用いてあらゆる事を成す。
性質は違えど本質は似通っている両者。それらが対立したのは……ある意味必然だったのかもしれない。
やがて、両者は互いの存在を掛けて戦争を起こす。その戦争で生まれたのが『神類』なのだ。
『神類』は『魔法』側が創り上げた対科学用生体兵器。
人や獣と変わらぬ姿の者から明らかに異形と言える姿まで多種多様に創られた。
中には製作者を超える力や知識を持つ者や変わった力を持つ『親類』も存在していた。
なぜ、そんなのまでが創られたかはいずれ話すことになるが――
そのかいあってか戦争は『魔法』が勝利し、『科学』は大陸から駆逐されることとなる。
それによって人々の生活基盤が変わった為に軽くない混乱を起こしたが……同時にある問題を起こすこととなる。
対『科学』用に創られた『神類』……しかし、それは戦争が終われば無用の長物と化した。
異なる理由での需要はあったが、それもさほど多くはなく……更には多種多様に創ったためにその数があまりに多く……
結果としてほぼ放逐状態となった挙句、異種間交配などでこの千年の間にその数と種類を更に増やこととなり――
現在では野良と化した知性の低い獣のような『神類』がそこら中にいることとなったのである。
当然、その野良『神類』は人を襲うことがあるので、旅人などに恐れられる存在となっていた。
「そういや、あんたは腕は立つのかい?」
「そうだなぁ……まぁ、最低限旅ができる程度には」
 ふと、何かを思いついた村人の問い掛けに男は少し考えてから答えた。
歩きで旅をしているのだから野良の神類に襲われる可能性はとても高く……というか、実際何度も襲われている。
で、男はそれらを追い払ってきた。故に出た言葉なのだが、村人はそれを信じた。
道に迷うという失態は犯しているものの、旅を初めたのは昨日今日の話では無いはずだ。
でなければ、あそこで行き倒れていないはず。そうなると野良の神類には何度か襲われている可能性がある。
もし、そうであれば、こうして無事でいられるはずがない。村人がそこまで考えるとうなずいてから男に顔を向け――
「いきなりで悪いんだが、あんたに頼みたいことがあるんだ」
「頼みたいこと? 助けてもらったし……俺に出来ることであれば何でもさせていただきますけれど……」
 村人の言葉に男は首を傾げる。確かにいきなりではあるが、別に驚く話でも無い。
男も旅をするにあたって傭兵まがいな仕事をしたこともあれば地道にアルバイトをしたこともある。
路銀はまだあるが、これからも旅を続けるとなればあった方がいい。そういった意味では渡りに船だ。
では、何に首を傾げたかと言えば村人がなにやら深刻そうな顔をしていたことだった。
「ああ、実は……な……守り神を助けて欲しいんだ」
「守り神? なんです、それ?」
 ここからはクライアントとコントラクターの会話になるだろうと思い。零司は言葉を切り替えた。
どんな形であれ仕事は仕事。聞き逃しなどは時として自分の首を絞めかねないからだ。
「ああ……実はな――」
 聞いても首を傾げたままに男に、深刻そうな顔をしていた村人はそのことを話し始めた。
この村には古くから女性型の神類が守り神として存在しており、実際災害などから村を守ってくれていたそうだ。
それに守り神は気さくに村人達とふれ合ってくれるので、村人達は深く崇め称えていたのだが――
数日前にその守り神がいなくなってしまう。当然の如く村人達は探し回ったのだが見つからない。
その為、村人達の間に不安が広がっていたが……その時にある村人が村長の様子がおかしいことに気付いた。
まるで何かに警戒しているように……どこか怯えているように見えたのだ。
そして、それから逃れるかのように連日酒場に行っては酒を飲み漁っていた。
気になった村人は村長を問い詰め……そこで神類を専門に扱う奴隷商人に守り神を売ってしまったことを突き止めた。
先程言っていた戦争が終わった後の神類の異なる需要の1つが奴隷だった。なにしろ親類は多種多様にいるため、様々な用途で使える。
肉体労働や人体実験……女性型神類にいたっては性奴隷なんて扱いもあった。
しかし、神類ともなればそういうことに反発しそうだが、ここは『魔法』が支配する大陸。
魔法具という物も多種多様にあり、神類の力を封じたり言いなりにしたりすることが出来る魔法具も存在している。
話を聞いていた男は守り神は女性型神類と言っていたので、それで狙われたのだろうと思ったりしたが――
 それはそれとして、そのことを知った村人達は怒り狂って村長を村から追い出してしまうが……
だからといって、連れ去られた守り神が見つかるわけでもない。
どうしたものかと途方に暮れていた時に男が来て――
「だからさ、頼む! 守り神を助けてくれ!」
「あ、いや……まぁ、お手伝いはさせて頂こうと思いますけど……しかし……」
 頭を下げる村人だが、男は困ったように後頭部を掻いていた。
事情が事情だけに男とてその守り神を助けたいと思っている。しかし、本音を言うとかなり厳しい。
なにしろ、探す手立てが男には無かった。ただの人探しとは違うからだ。
聞いて回れば見つかるという類で無いことも男は気付いている。だが――
「わかりました。探し出せるかわかりませんが……なんとかやってみます」
「おお、本当か!?」
 うなずく男の言葉を聞いて、村人は思わず喜んでしまう。
故に男が漏らした本音には気付かなかったが……男は思わず苦笑を漏らし――
「ああ、それでなんですが……成功したらで構いませんので、数日分の食料と少しばかり報酬をもらえませんか?」
「それくらいなら構わないさ! みんなに頼んで用意させるよ!」
 そのことを思い出した男の話に村人はうなずきながら答えた。
人助けと言っても男の本来の目的は『ある手段を探し出す』こと。その為には食料とお金はどうしたって必要になる。
だからこそ、男は心苦しくても言い出さねばならなかった。そうまでしてもそれを探し出さねばならなかったから――
「あ、そういやあんたの名前を聞いてなかったな」
「あ、そうでしたね。俺は零司……佐倉木 零司(さくらぎ れいじ)って言います。よろしく」
 そのことを思い出した村人の言葉に男……零司は笑顔で自らの名を名乗るが――
「サクラギ・レイジ? 変わった名前だな?」
「あはは、良く言われますよ」
 首を傾げる村人に零司は苦笑しながら後頭部を掻くのだった。
村人は知らない。『この大陸』では零司の名前は本来使われるような物でないことを……
零司は気付かない。この依頼が自分の目的を超えた事態の切っ掛けになることを……

 こうして、物語が始まったことを今はまだ、誰も気付くことは無かった。









後書き

え〜、始めまして。原案をやらせていただきましたキ之助と申します。
とある方に、ふとした思い付きを呟きましたところ何故かあれよあれよという間に、物語作ってみようかと言う事になりました。

そうしたわけで今回、協同で物語を作りまして投稿させていただきました。
まぁ、協同と言うのもおこがましいレベルで私は何もしてませんが、今後色々させていただく予定であります。

しばしの間お付き合いくださいまして、ありがとうございました。
ではでは始まりました物語。
今後とも、よろしくお願い致します。



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