『科学と魔法と――』
――― RUN ABOUT(5) ―――



 町外れに停めてある馬車の荷台の中で零司達は重苦しい雰囲気で座り込んでいる。
なにしろ、慎重を期して行動したつもりがユーティリアを追う者達に追い詰められることになったのだ。
零司にいたっては自分の考えが浅はかだったかと思い悩んでいた。
「あ、あの……私達がここにいたのは……すでに知られていたのでしょうか?」
「わからない……けど、このままこの町にいるのは危険だとは思う……」
 おずおずとした様子の村長の問い掛けに零司は首を振りながら答えた。
いつ、自分達がこの町にいることを知られたかはわからないが、知られた以上はいずれここにも追っ手が来る。
ならば、すぐにこの町から去るべきか? と、思い悩みながらも零司はそのように考え、口を開いた。
「やっぱりここは――」
「このまま奴らのアジトとやらに行きましょう」
「そう、アジトへカチコミに……はい?」
 が、ユーティリアの発言に思わず目を丸くしたが。
「ちょ、ちょっと待て!? いくらなんでもそれは無茶だ!? どう考えたって罠だぞ!?」
 言葉の意味を理解して、零司は慌てて言い宥めようとした。
あの情報屋がユーティリアを追い掛ける奴らの仲間であるのは間違いない。
となれば、教えられた場所に奴らが待ち構えているのは簡単に予想出来ることだ。
そんな所に行くのは猛獣の巣に突っ込むのとほぼ変わらない。だからこそ、零司は止めようとしたのである。
「わかっています。ですが、考えようによってはチャンスでもありますの」
「チャンス?」
「はい、相手は罠を掛ける為にその場所に集まってるはず……もしかしたら、そこに私をさらった者達もいるかもしれませんの」
「そうかもしれないけど、流石にそれは危険すぎる」
「危険はわかってますの。でも、今動かなければいつチャンスがあるかなんてわかりませんの。
それにどの道、あの者達と会うのが危険なのは変わりありませんの。ですから、これを利用して会ってみますの」
 ユーティリアの話に問い掛けた零司は待ったを掛けるが、返ってきた言葉に思わず考え込んでしまう。
ユーティリアの言うこともわからないわけではない。先程のことを考えると他の情報屋の中に奴らの仲間がいると思った方がいい。
そうなると情報屋も使えなくなり、奴らを追い掛ける手段がますます無くなってしまう。
となれば、居所がわかってる今の内にという考えもわからなくはない。
「ですが、罠があるんでしょう? 危険すぎるのではありませんか?」
「ええ、ですので出来れば数を減らした上でと思っているのですが……出来ますの?」
「さっきケンカしたチンピラ程度なら、2・3人相手でも勝てるつもりではありますけどね」
 話を聞いても不安をぬぐえない村長にユーティリアはうなずいてから問い掛ける。
問い掛けられた零司は腕を組みながら答えていたが。実を言えば、”今の段階”ならばの話だ。
”本気”を出せばそれなりの数がいても倒せるとは思っている。だが、それは同時に”諸刃の刃”でもある。
だから、安易に本気は出せなかった。まぁ、”別”の理由もあって今話すつもりは無いのだが。
「では、奴らのアジトに行き、慎重に近付きながら少しずつ倒していくという形にいたしましょう」
「すでに無理っぽく聞こえるのは気のせいじゃないよな?」
 ユーティリアの言葉に零司は思わず頭を抱えた。
確かにやり方としてはそれが一番かもしれないが、どう考えたって不安が大きい。
なぜなら、こちらは実質戦えるのは1人。しかも、もう1人を守りながら戦わなければならない。
逆に相手の数はわからないし、魔道具を持った武装集団だ。数人程度で済む可能性は低いしどう考えてもこちらの分が悪すぎた。
だが、そういった方法しか考えられないのも事実だった。せめて、戦える者がもう1人でもいれば違ったかもしれないが。
「まぁ、確かに今はそういう方法しか取れないかな……」
 自分が折れる形でうなずく零司。確かにこのまま時間を掛けても状況は悪くなるばかり。
ならば、相手の油断を突ける今しかないと零司も考えたのである。
「あ、あの……私はどうしたら……」
「そうだな……馬車の中で待っていてくれないか?」
 ふと、そのことが気になった村長が問い掛けると、零司は少し考えてから言葉を濁し気味に答えた。
しかし、そのことに村長は戸惑いを見せる。というのも――
「それはどういうことなのでしょうか?」
「あ〜……馬車で行ったら嫌でも目立つことになるから、歩きで行こうと思ってるんだ。それに――」
「私達がこれから行く所は私達自身の身が守れるかどうかもわからない危険な所です。
あなたまで守るのは……難しいでしょう」
 言いにくそうにしている零司だが、逆にユーティリアは真っ直ぐに見据えながら静かに答えていた。
今行く所は零司1人でも危険な場所。そこに自分というお荷物を抱えて行くのだから、その負担はかなりの物になるだろう。
そんな所へ村長まで連れて行けばどうなるか。そして、その言葉の意味を問い掛けた村長は理解してしまった。
自分はお荷物なのだと……それに気付いた村長はうつむき、つらそうな顔をしてしまう。
その様子に零司はため息を吐いた。村長がこうなるのがわかっていただけにどう誤魔化そうかと考えていたのだ。
ユーティリアもこのことはわかっていたものの、村長が付いてくるのを防ぐ為にあえてハッキリと言ったのである。
「零司、行きましょう。ここいても事態は好転しませんの」
「あ、ああ……」
 立ち上がるユーティリアの言葉にうなずいた零司も立ち上がる。
その時に村長の顔を見てしまうが、つらそうな顔を見て思わずすまないと思ってしまう。
しかし、声を掛けることが出来ず、そのまま荷台を去ることしか出来ずにいた。
「なぁ……いいのか?」
「仕方がありませんの。あの方は若い頃から思い込むと一筋な方でしたの。
だから、こうでも言わないと付いてこようとしてしまいますの」
 戸惑いがちに問い掛ける零司にユーティリアはため息混じりに答えていた。
しかし、その表情はどこかすぐれてはいなかった。彼女とて本当はこんな事はしたくは無い。
だが、村長がどんな人物かを知るが故にするしかなかったのである。
「そうだな……でも、村長の気持ちも分かるよ……無力は辛い」
 ユーティリアの言葉に零司は一人ごちる。最後のひと言は彼女のの耳に入ることもなかったが。
「本当なら、私1人で行かなければなりませんのに……あなたにも申し訳ありませんでしたの」
「いや、ユーティを助けることが今の俺の役目だ。それに……負い目もあるし……」
 ふと、うつむきながら申し訳なさそうな顔をするユーティリアに零司は苦笑しながら答えていた。
それに言わなかったが、発作があったとはいえユーティリアを襲ってしまった罪悪感もあってのことだった。
「本当に申し訳ありませんの」
「いいって。さ、行こうか」
「……はい」
 それでも悲しそうな顔をするユーティリアだが零司の言葉にうなずき、笑顔を見せていた。
不思議な気分だった。会ってまだ1日位なのに――あんなことをされたのに――なぜか、心安らぐ気がしてしまう。
それを心地良く感じながらも、ユーティリアは決意を新たにして零司と共に歩き出すのだった。


 それからしばらくして、2人はあの占い師から聞いた場所から離れた小高い丘に来たのだが――
「わかっちゃいたが……やっぱり甘くはないか」
 それを見た零司はため息を吐かずにはいられなかった。
ここから目的の建物が見えるのだが、その周りを歩き回る男達の姿が見えていた。
たぶんだが、ユーティリアをさらった奴らの手下か何かだろう。それが見えるだけでも8人ほど。
そいつらが絶えず動き周りながら辺りを警戒していたのである。
「無理ですの?」
「1人倒してる間に見つかる。隠密行動も無理そうだ」
 顔を向けるユーティリアに答えつつ、零司はどうするかを考えていた。
倒すだけなら難しくはあるものの出来なくもない。だが、あの屋敷の中にもまだいるはず。
外の奴らを相手している間に中にいる者達が来るのは目に見えている。
問題はそれがどれだけ出てくるか。外にいる者達より少ないということは無いだろう。
「しょうがない……か……」
 ため息を吐いてから真剣な顔付きになると、零司は腰に差してあった剣のような棒を右手に持った。
元よりユーティリアが考えたやり方通りにはいかないとは思ってはいたが、これでは確実にそうなってしまうだろう。
となれば、後は――と、考えていたために表情に出てしまったのだ。
「どうするんですの?」
「こうなったら強行突破を試みるか。いちいち相手にしてたら、それこそ袋叩きだ」
 ユーティリアの問い掛けに零司はうなずきがら答えていた。
流石に’あの力’を使う訳にはいかないが、それでも本気を出さなければこの状況はどうにも出来ないだろうとも考える。
「いいか? ある程度近付いたら、一気に中に突入する。
それで中にユーティをさらった奴がいたら一気に倒す。そいつが君の力を封印している物を持ってるんだろ?
それを使って封印を解くなりすれば、後はユーティも戦えるよね?」
「はい。これでも私は村の危機を何度も退けてきましたの。
力を取り戻せたら、普通の人間ならものの敵では無いと自負しておりますの」
 方法を言いつつ問い掛ける零司にユーティリアはうなずいていた。
その瞳は確かな自信に満ちており、ならば成功させなければと零司も決意を新たにした。
そして、うなずき合ってから屋敷に近付く2人。幸いな事に走ればすぐにでも玄関に行ける距離まで近付くことが出来――
「いたぞ!?」
 再びうなずき合ってから一気に駆け出す2人だが、それを見つけた男が仲間2人と共に必死の形相で駆け寄ってきた。
それに対し、零司は慌てた様子も無く剣にエーテルを纏わせ――
「はぁ!」
「うご!?」「あが!?」
 エーテルを斬撃として飛ばし、それによって男2人を突き飛ばし――
「おお!」
「ぐは!?」
 直後に迫ってきた男の脇腹を剣で殴り払い、止まらずに駆け抜けていく。
ここでいちいち相手にしているわけにはいかない。今、零司とユーティリアの目標は彼女を攫おうとした者のみ。
そいつを倒せばユーティリアに掛けられた封印が解けるし、そうなれば残りの敵もなんとかなると考えた故の行動であった。
ただ、半ば追い詰められていたこともあってか、その者達が封印を解く方法を持っていない可能性のことには気付いて無かったが。
それはともかく、走り続ける零司とユーティリアは早々に屋敷の中へと入っていく。
それと共に屋敷の中も騒がしくなってくるが、2人は構わず走り続けた。
「おぐ!?」
「ぐわ!?」
 それでも待ち構えていた者に襲われるものの、零司は振り払うような形で打ち倒していたが――
「零司、後ろから来ます!」
「わかってる! くそ、数が多い!?」
 ユーティリアの叫びに零司は思わず叫び返してしまう。現に2人の後ろから男達が大挙として押し寄せていた。
敵の数が多いのはわかっていたが、それでも予想していたよりも多かった。
ただ、零司1人で倒せるか否かといえば出来なくもない。だが、それをすれば後々厄介になるのは目に見えていた。
だから、それは最後の手段にしておきたのだが、現状ではそうも言ってはいられない。
どうするかと零司が考えた時、自分達の前に大きな扉があるのが見えてきた。
「ユーティ! あそこに入るぞ!」
「わかりましたの!」
 零司の叫びにユーティリアが叫んだ直後、2人は体当たりする形で扉を押し開ける。
そして、倒れ込むような形で中へと入るが、零司は慌てて立ち上がると扉を急いで締めて鍵を掛けた。
「気休めだ。すぐに破られる!」
 言いながらユーティリアを立たせようとする零司だが、そこであることに気付いた。
この部屋に誰かがいたことに――
「待っておったぞ……ユーティリア」
「あなたは――」
 声を掛けてきた者の姿を見て、ユーティリアは気付いた。
その者の熊をも超える身の丈に声。それは間違い無く、自分をさらった者の1人だったことに。
「ち、デカイとは聞いてたけど……こいつはデカすぎないか!?」
 その者の姿に零司は思わず悪態を吐きそうになった。
大きいとは聞いていたが本当に大きい。顔を見ればゴリラのようにも見えるが、見ようによっては悪魔のような顔付きにも見えた。
そして、巨体を支える手足は太く鍛え抜かれていた。例えるなら神殿を支える石柱のように――
その体をシンプルではあるが所々に豪華な装飾を施された鎧を纏い、右手には巨斧が握られている。
「力を封じていたはずだが……それでもなお、逃げ出せるとはな」
 どこか怒りをにじませる巨躯の男に零司とユーティリアは思わずたじろいでいた。
なにしろ、感じる威圧感が普通では無いのだ。故にどうしても警戒心が先に立ってしまう。
「なぜ……なぜ、私を狙うのですか?」
「知らんよ。俺は頼まれただけだから、な!」
「きゃ!?」
「おわ!?」
 問い掛けるユーティリアだが、巨躯の男は答えると共に巨斧を振り落とす。
その前に零司がユーティリアを抱え跳ぶことで逃れることは出来たが、振り落とされた巨斧は床を砕いて大きな穴を穿っていた。
「つ、頼まれたって……誰にだ!?」
「言う必要は無いな。死に逝く人間と我らが手に落ちる神類に言う必要なぞ!」
「だろうな!?」
 着地をした零司だが、再び巨斧を振り落とす巨躯の男から逃れる為に再び跳んで脱がれるはめとなった。
「零司! 私を下ろしなさい! でなければ、あなたが!」
「わかってるけど、その暇が!」
 このままではマズイと抱きかかえられているユーティリアが叫ぶものの、零司も必死な顔で跳び回りつつ答えていた。
というのも、巨躯の男が斧を振り回し続けているのだ。それを避けるために跳び回っているのだが、現状はそれしか出来ずにいた。
なぜなら、巨躯の男の動きは体と使っている武器に似合わず素早く、避けたそばから攻撃してくるのだ。
受け止めるなりすれば良いのだろうが、今の零司はユーティリア抱えていて両手が塞がれている。
そんな状態で相手の攻撃を止めることなど出来るはずがなかった。
「吹き飛べぇ!?」
「おわ!?」
「きゃあ!?」
 が、巨躯の男が振り落とした巨斧から衝撃波が放たれ、巨斧から逃れようと跳んでいた零司は逃れられず吹き飛ばされてしまう。
そのままユーティリアと共に床に倒れるが、直接的なダメージは無かったためにすぐに立ち上がろうとした。
だが――
「手間を掛けさせおって」
 すでに巨躯の男が目の前に立っており、更には扉が開かれて男達が大挙として部屋になだれ込んでくる。
この状況に零司は舌打ちしそうになるがそれに耐えて睨み返し、致し方無いかと考えながら決意していた。
この”力”を使うことに――
「うわあぁぁぁぁぁ!!?」
「え?」「な!?」
 そんな時、誰かが飛び込んでくるのだが、その姿に零司とユーティリアは驚きを隠せなかった。
なぜなら、それは村長だったからだ。危険だからと置いてきたはずなのに。
「な、なんだ!?」
 その村長が巨躯の男に体当たりしたのだが、体格が違いすぎて巨躯の男の足にしがみつくような形になってしまう。
それでも村長はしがみつきながら右腕を必死に伸ばそうとしていたが。
「く! 離れろ!?」
「うわぁ!?」
 それがうっとうしかったのか、巨躯の男は蹴るような形で村長を飛ばしてしまう。
「おぐ!?」
 飛ばされた村長は零司達の近くにあった壁に激突した。
それで切ってしまったのか頭から血が流れるが、それでも村長は苦しみながらも体を起こし――
「こ、これ、を……」
 布袋に包まれた何かを投げ渡し、それをユーティリアが受け取った。
「な、それは!?」
 それを見て巨躯の男は驚く中、何かに気付いたユーティリアが布袋から中身を取り出す。
それは黒く光沢がある球体だった。見た目には宝石にも思えるが、それを見たユーティリアは目を見開く。
これこそが彼女が求める物だったから――
「や、やめ――」
「ありがとう……」
 ユーティリアはそのひと言と共に目を瞑り、その球体に手を翳した。
それを見た巨躯の男は焦った様子で駆け寄ろうとするが、その前に球体がまばゆいばかりに輝き始める。
「な、なんだ!?」
 その光景に零司が驚く中、ユーティリアの両手首にはめられた腕輪が砕け散り――
「おわ!?」「わあ!?」「うわぁ!?」「ぎゃあぁぁ!?」
「ぐぬぅぅぅぅ!?」
 彼女を中心にまるで嵐の如く炎が巻き起こり、男達を吹き飛ばしていく。
巨躯の男も吹き飛ばされそうになるが、両腕で顔をかばうような形で耐えていた。
そんな中でも零司は目を離せなかった。ユーティリアが変わっていく。いや、それはある意味成長とも言えた。
背や手足、髪が伸びていく。そして、胸も風船のように膨らみだし――
「え、え〜……」
 マントとフードを脱いだ彼女の姿に零司は戸惑いを隠しきれなかった。
渦巻く炎の奔流の中、それは佇んでいた。背は零司より少しばかり低い程度にスラリと伸びた手足。
その完成された体付きは、無駄な脂肪が皆無な程に流れるような流線型を誇る腰つき。
それでいてお尻は程良い肉付きなのだが、胸の方はあの女占い師のように豊満では足りないような大きさである。
そんな体型を陶磁器のような艶やかさを持つ肌で包まれていて、顔付きも大人びたことで絵画にも似た美しさとなっていた。
まさしく美の象徴とも言える姿に零司は思わず息を呑んだのだが……まぁ、息を呑んだのはそれだけではなかったりする。
というのも服装がかなりやばかった。少女の時は半分ほど隠していたが、今は胸の大事な所を辛うじて隠す程度にしかなってない。
下腹部の方も角度が大変なことになっているし、服装の全てにおいて少女の時以上に素肌が晒されていた。
「ありがとうですの、村長」
 ユーティリアはそのひと言を呟きながら、確かめるように自分の掌に炎を生み出す。
「おかげで……力を取り戻せましたの」
 確かめてから少女の時と変わらぬ声でユーティリアは再び声を掛ける。
その声を聞いて……いや、彼女の本当の姿を見たからだろう。村長の目から涙が流れ落ちていた。
「く、あいつを取り押えろぉ!?」
 一方、たじろいだ巨躯の男は怒りに表情を歪めたかと思うと叫んでそんな指示を出す。
男達はうろたえていたが、すぐに気を取り直してユーティリアに襲い掛かった。
「私だけでなく、村長にもひどいことをしたこと……後悔すると良いのですの」
 それに対し、ユーティリアは慌てた様子も無く、炎に包まれた右腕を向けた。
ただ、それだけで彼女の右腕からリンゴほどの大きさの火球がいくつも生まれ、男達に向かって飛んでいき――
『ぎゃあぁぁぁぁぁ!!?』『ぐわあぁぁぁ!!?』
 男達に当る前に爆発するのだが、爆発力の凄まじさに男達は次々と吹き飛ばされていた。
「うおおぉぉぉぉぉ!!?」
 そんな中でも巨躯の男はユーティリアへと飛び込んでいく。
気付いたユーティリアは顔と右腕を向けると炎が腕を伝うようにして収束していき、人の頭ほどの大きさの火球となっていた。
その火球が巨躯の男に向かって放たれるが、巨躯の男は巨斧を振りかぶった格好のまま飛びかかる。
今ここでユーティリアを潰さねばマズイと感じており、例え多少の傷を負ってでもやらねばと考えていたのだ。
むろん、その考えだけで突っ込んだわけではない。今放たれた火球は先程より威力は高いだろうが、自分なら耐えられるはず。
そこまで考えた故の特攻だが、この時巨躯の男はユーティリアの力を甘く見すぎていた。
「ぐがあぁぁぁぁぁぁぁ!!?」
 火球が巨躯の男に当った瞬間、先程とは変わって強烈なまでの破壊力を持った爆発が起きた。
それによって巨躯の男は吹き飛ばされ、激突するかのように床へと落ちたのだった。
「ぐわ!?」
「これがユーティの力…………インペリアルクラスのエーテル量じゃないか」
 その光景を男を打ち払いながら見ていた零司が冷や汗を流した。
村を守れるほどに強いとは聞いてはいたが、これはハッキリ言って予想外であった。
「い、いや、それよりも……村長アンタ大丈夫か」
 慌てて倒れている村長を助け起すとその身体を見渡し、致命傷を追っていないことを確認すると零司は小さく安堵のため息を吐いた。
「年甲斐もなく無茶をしてしまったな」
 村長は自嘲気味につぶやくが、そこに後悔は微塵も感じられなかった。
「頼むから無茶はしないでくれよ、あなたが死ぬと悲しむ人も居るんだぞ」
「こうでしか、私の罪は償えない。隠れ怯えるだけで居るよりは、このような痛みなど耐えられる……
もっとも、あの時人に声を掛けられなかったら、決意は出来なかったかもしれないが……」
 零司は心配そうに声をかけたが、自嘲気味な村長から返ってきた言葉に息を呑んだ。
なぜなら、村長の身を案じてやったことが逆に追い詰めたと感じてしまったのである。
だから、気付かなかった。村長が大事なひと言を言っていたことに。
「なぁ、私は償えたかな……」
「……ありがとう、その行動で俺とユーティは助けられた」
 零司はその言葉を聞くと目を閉じ、ゆっくりと立ち上がって答えた。
その一言を告げると剣のような棒を構え零司は走り出す。後は、自分の役割を果たす為に。
といっても、零司が出来た事といえばこの状況下でもユーティへと襲い掛かろうとする男達を倒すという露払いのみだった。
幸いというべきか、先程の爆発で数はかなり減っている上に散発的になってるので比較的楽に倒せている。
格好は付かないが全力でやるに変わりはない。襲い来る男たちを蹴散らしながら徐々に巨躯との距離を詰めていく。
木っ端のように兵隊を吹き飛ばす今のユーティリアを見て、襲ったことの仕返しをされないかなと少々心配してたりするが。
この思考に至った時、随分余裕が出来たものだと頼もしくも感じていた。
「ぐ、ぐぐ、ぐ……きさ、まぁぁぁぁぁぁぁ!!?」
 一方、床に倒れた巨躯の男は咆哮と共に立ち上がる。体中が傷だらけで鎧も所々が砕けている。
それでも巨躯の男の顔は怒りに歪んでいた。許せないという思いもあるが、ここで負けるわけにはいかなかったのだ。
なぜなら――
「悪いが――」
 それに対してユーティリアが動く前に零司が動く。
構えた剣の刀身に回路図のようにエーテルが流れると共に振りかぶり――
「させない!!」
「があぁぁ!?」
 バットを振るかのように巨躯の男の横腹を打ち砕き、横倒しになる巨躯の男。
それでも立ち上がろうとするが、その前に零司の剣の切っ先が突き付けられていた。
「さてと、聞かせてもらうぞ。なんで、ユーティをさらった?」
「く……ふざけるなぁ!!?」
 切っ先を突き付ける零司を巨躯の男は睨んだかと思うと立ち上がりながら腕を振り抜いていた。
だが、零司も警戒を怠ってなかった為にユーティリアのそばまで跳び退くことで躱していたが。
「おのれ……おのれぇ!? このジストマがこんな所でぇぇぇぇ!!?」
 獣の咆哮の如く叫ぶジストマと名乗った巨躯の男。
零司とユーティリアは油断なく睨んだまま、ジストマを睨んでいた。
一方でジストマは怒り狂っていた。零司達は知らないが、彼はセプテムという地方都市の領主である。
しかし、地方都市とは名ばかりでこれといった取り柄もない寂れていくだけの所であった。
ジストマはそれが気に入らず、もっと大きな都市の領主になろうと考えていた。
その為に都市にいる人や神類を攫っては奴隷として売り払い、考えを実行するための資金稼ぎをしていたのだ。
むろん、それは王都に明るみになれば捕まり、極刑は免れない。だからこそ、ジストマは秘密裏に動いていたのだが――
気が付けば、見知らぬ者達に自分の悪行を知られていた。しかも、それを元にユーティリアを連れて来るようにと脅されたのである。
この状況にジストマは断れず受けるしかなかったのだが、度重なる失態で全てが失われようとしていた。
このことにジストマの中では悲壮感よりも怒りが先に来てしまう。
「あいつらの……あいつらのせいで私は!? 何が封印だ!? そんな物がなんになるというのだ!?」
「は?」「え?」
 思わず叫んでしまうジストマ。そのことに零司は訝しげな顔になるが、ユーティリアは目を見開いていた。
何故なら今の一言には、彼女にとって聞き捨てならない代名詞が含まれていたからだ。ユーティリアはそれを追求しようとする。
「待ちなさい! 今、あなたはなんと言いましたの?」
「うるさい!? 貴様らなぞ、がは!?」
 慌てた様子でユーティリアが問い掛けるが、ジストマは何かを言おうとして目を見開く。
そんな彼を零司とユーティリア、村長までもが目を見開き、驚いていた。
なぜなら、ジストマの胸に大きな穴が穿たれていたからだ。
「な、なんなのだコレは……」
その穴が開いた胸から血が流れ出すが、ジストマは自身に何が起きたのかわからないまま前のめりに倒れ……そのまま息を引き取った。
そんな光景に零司達は息を呑み、ただ見ているしか出来ずにいたのだった。


「まったく、見てられないわ」
 一方、屋敷の外――大木の枝に立つ占い師の姿があった。
ただ、その服装は……いや、服と言ってよいのだろうか?
というのも占い師が身に付けてるのは細めの黒い帯を幾重に体に巻き付けてるような物だったからだ。
その為、露出という面ではユーティリアと良い勝負であったりする。
 それはそれとして、その一言を話したジストマを様子を見に来た占い師は殺してしまった。
といっても、別に全て話されても問題は無かった。ジストマ自身、真相は先程のひと言以外何も知らないのだから。
では、なぜ殺したのか? それはユーティリアを巻き込むためであった。
ジストマのあのひと言でユーティリアは少なくとも『あれ』に気付いたはず。となれば、動くはずだ。
『あれ』を止める為に――
その為に村長をそそのかし、ユーティリアの元に向かわせたのだ。
まぁ、あのまま行っても捕まるか殺されてしまうだろうから、村長の存在を気付きにくくなるように細工はしておいたが。
「ま、あいつには上手く誤魔化すとして、まさか科学側の人間がいるなんてね」
 妖艶な笑みを浮かべる占い師。零司には何かあるとは思っていたが、まさか科学側の人間だったとは。
占い師も神類故に零司のエーテル運用方法には気付いており、それ故にわかったことであった。
その上で考える。零司も巻き込めないかと。それだと自分の目的が面白くなりそうだから。
その為に占い師は考える。2人をどうやって巻き込んでいくのかを――









_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/


【あとがき】


ども、匿名希望です。
今回は難産……ではなく、時間的余裕が無かっただけです。
だって、仕事が一気に舞い込んで来るんだもん……
そんなわけで時間が掛かっちゃいました。次回もこんな風になるかも。
だって、仕事終わって無いですし……

さて、次回は今回の章のエピローグ的な話となります。
ポロリもあるか?(おい)
そんなわけで次回でお会いしましょう。



押して頂けると作者の励みになりますm(__)m


<<前話 目次 次話>>

作品を投稿する感想掲示板トップページに戻る

Copyright(c)2004 SILUFENIA All rights reserved.