‐CAUTION!!‐
本作品はARMORED CORE3-SILENT LINE-と機動戦艦ナデシコとのクロスオーバーです。
その他作品の設定、用語等もお借りしており、正直ご都合主義となっております。
主人公、ヒロイン共にオリキャラです。
その他オリキャラも多数出演します。
本作品は作者の処女作であるため、文章力の至らない点が多々あります。
これらを踏まえた上で本作品を楽しんで頂けたら幸いです。
(アキト×ルリorユリカorラピス(順不同))














有史以来、人類は闘争と共に発展してきた。
弱き者は淘汰され、強き者だけが生き残る。
いわゆる闘争本能と呼ばれる、生物界に唯一存在するこの規定に、画期的な知性を獲得した人類もまた忠実に従った。
情け容赦ない自然界において、強さは絶対である。
強靭な肉体を持たない人類は、しかし、効率的に敵を殺す方法――道具を獲得した。
拳は棍棒に、棍棒は剣に、剣は銃や大砲に。それらの道具は、いつしか兵器と呼ばれるようになった。
全ての兵器はより多くの人間を殺すために、全ての技術はより優れた兵器を造り出すために。
戦う理由など、何でも良かった。
宗教の対立、政治思想の相違、経済格差や民族間の衝突。
いつからだろうか、人類は様々な柵に囚われるようになった。
いや、これらの柵こそが見えざる兵器だったのかも知れない。
戦争により文明が発達し、より強さを求めるために兵器を造り、新たな戦火を呼び込む。
まるで核分裂反応にも似た激しい戦いの連鎖は、歴史と共に加速度的に続いていった。
その奔流は人類の進化の速度すらも超え、もはや破錠を来たすのは時間の問題であった。

大破壊――

数百年前に起きた、惑星規模での大規模な災害。
地上に氾濫していた文明は破壊され、人類はその人口の大多数を失った。
その時何が起きたのか、言葉以上のことは何も分からない。
ただ確かなのは、この災害を予見していた者達が存在し、ある場所を作っていたということだ。
災害を逃れた僅かな人々が焦土と化した地上を捨て、移住した第二の故郷。
重厚なシェルターを以ってして滅亡から人類を救済する新世界。

地下都市、レイヤード――

そこは、管理者と呼ばれる、唯一つの存在により管理されていた。
あらゆる出来事はそのものによって決定され、人々は管理されることを当然のものと受け入れていた。
それの庇護の下で人々は約束された繁栄を謳歌し、やがて、力をもつ者<企業>が生まれた。
企業はより強き力を求め互いに争いを始めたが、その争いすらも彼の者の掌の上の出来事であった。
だが、混沌の度合いを深めるこの世界にもまた、破錠を来たす時が訪れた。
それも、たった一人の庸兵の手によって。
高度人工知能制御体系、すなわちAIであった管理者を破壊し、既に浄化されていた地上へと人類を解放した英雄。
そう、全ては復活の日まで、大地が生まれ変わるまで。何より、人々が変わり得るまで。
そして、今でこそ英雄と呼ばれているが、かつて彼の者が全ての企業と敵対していたことを知る者は、今やごく僅かしか残されていない。



人類が再び外の大地へ進出してから八年後の世界。
そこに、英雄の姿はなかった――。
































ARMORED CORE -SILENT NADESICO-

Mission00:Examination












この世界に国家は存在しない。
代わりに企業が世界経済を担い、人々の生活基盤を支えている。
クレスト、ミラージュ、キサラギ――俗に三大企業と呼ばれるこれら巨大企業が、世界総生産のほぼ全てを占め、人々はいずれかの企業の庇護のもと生活を送っ ている。
企業は地上に進出してからも陣頭に立って積極的に活動し、資源採掘や勢力の拡大などを推し進めた。
しかし、かつて自分達がレイヤードで引き起こした騒乱を省 みていない訳ではなかった。

それは、<地上開発プロジェクト>と呼ばれた。
企業間の余計な争いを防ぐ目的で三大企業合意のもとに提唱され、度重なる争いに疲弊していた人々は嬉々として受け入れた。
だが、皮肉にもこの取り組みが新たな騒乱の火種を残してしまった。
そしてそれは、<彼ら>の新たな時代の幕開けでもあった。

レイヴン――

権力という力が横行する世界において、報酬のみに従い、何にも与することのない自由な傭兵。
<アーマード・コア(以下AC)>と呼ばれる人型機動兵器を駆り、戦場から戦場へと渡っていく鴉達。
地上開発プロジェクトにより企業間の争いが抑制されたとはいえ、所詮それは表立ったことにしか過ぎない。
むしろ企業同士、あるいは企業に敵対する組織は、水面下で熾烈な闘争を繰り広げるようになった。
そして、それら勢力はこぞって戦いの道具として、レイヴンを利用した。
自分達とって都合の良い、身軽な命であり続ける存在。
単機だけでその他既存の兵器を圧倒する戦闘能力を持つACはコスト・パフォーマンスに優れ、例え任務に失敗したとしても、余程の事が無い限り依頼主に直接 の被害が及ぶことはない。
差し詰め、地上世界はレイヴン達による代理戦争の様相を呈していたが、それは地下世界の時と結局何一つ変わっていないことを意味していた。

今や世界情勢をも左右するようになったレイヴン達であるが、彼らは例外無く<グローバル・コーテックス>と呼ばれる庸兵管理機構に登録されている。
ACはその性能に違わず非常に高価で、かつ、その操縦にも高度で特殊な技術を要する。
当然、一般人がおいそれと手を出せる代物では到底ないのだ。
そこで、コーテックスではレイヴンを目指す者達に訓練を受けさせ、ある一定の基準に達した者に、最も安価な機体構成ではあるがACを提供している。
コーテックスは、また、その組織としての中立性を認められた上で、企業などから依頼された仕事をレイヴン達に斡旋しており、余程名の売れていない限り、 コーテックス無しにはレイヴンはまともな活動を行うことが出来ない。
つまり、コーテックスに庸兵としての腕を認められなければ、レイヴンになることは出来ないのである。

コーテックスに己のレイヴンとしての力を示す唯一の機会、それこそがレイヴン適性試験である。
試験と言っても、訓練所上がりのレイヴン候補生はいきなり実戦に投入されることとなる。
依頼主から与えられた仕事を見事達成して初めて、その者はレイヴンと名乗ることを認められるのだ。
何にも与すること無く、ただ報酬のみに従うレイヴンにとって、仕事を達成することは絶対であり、身の証を立てる唯一の手段。
故に、即戦力とならないようであれば、鼻からレイヴンとなる資格はないのである。

そして、寄る辺無き非情なる戦いの場に足を踏み入れんとする、新たな雛鳥がまた一人――

今正に、過酷な巣立ちの時を迎えようとしていた。



















『君達に課せられた作戦内容について確認する』

野太い声が、薄暗いコクピット内に響く。
コーテックスの訓練所でも聞き慣れた、鬼教官のものだ。彼は今回、このレイヴン適性試験の試験官を務めている。
鬼、と言っても他の訓練生達の陰口や噂を耳にしただけだ。
自分もこの教官から訓練を受けたが、それ程までに厳しいと感じたことはなかった。
確かに体育会系で威圧的な態度は鬼を連想させるかも知れないが・・・主観の違いによるものだろうか。

『現在、アイザックシティ近郊の商業区を武装集団が占拠している。
犯行グループは拘束されているメンバーの解放を要求しているが、企業側は交渉に応じる気は一切無いようだ。
住民は既に退避済みだが、今回君達にはその犯行グループの武装解除を行ってもらう。
即ち、敵主力であるマッスル・トレーサー(以下MT)の全機撃破することが目的だ』

MTとは有人機動兵器のことで、民間用から軍用のものまで幅広い機種が存在する。
ACの一世代前の規格であるが、ACに比べ操縦が容易で安価であるため、現在も軍の主力兵器の一つとなっている。
とは言え、性能はACに遥かに劣るため、余程の高級機でない限りACがMT相手に苦戦することは無い。

『まもなく作戦領域に到達する。各機、出撃に備えろ』

通信が切れると、コクピット内は再び静寂に包まれた。
鋼鉄と複合装甲に包まれたコクピットの中には、輸送機のジェットエンジンが絞り出す絶叫も、それに切り裂かれた外気の断末魔も届かない。
レトは軽く閉じていた眼を開くと、おもむろにエンジン・マスタースイッチをONにした。
エンジン始動。性能的に型遅れのジェネレーターが唸りを上げ、しかし、懸命に機体全体へエネルギーを送り出す。
コクピット内にポツポツと光点が浮かび上がり、各種ディスプレイが表示される。
続いてデータリンク・パワーディスプレイ・コントロール・パワーをON。
レトを囲む様にしてOMD(オーバーオール・マウント・ディスプレイ)が展開された。
OMDには機体の頭部に搭載されている高精度外視カメラが取り込んだ映像が、リアルタイムで表示される。
今ディスプレイ中央に映っているのは、もう一機のACの頭部だ。
この輸送機にはレトを含め二人のレイヴン候補生、つまり二機のACが積載されており、どちらもコーテックスから供給された同じ構成の機体だ。
二機のACは格納スペース内でハッチに向け縦列されており、レトの機体はその後方に構えていた。

そこで、ふと、もう一人の候補生が輸送機に乗って以来、一言もしゃべらず大人しくしている事実に気付いた。
彼はレトが良く知る人物で、訓練生の中では唯一と言っていい程の知り合いだった。
いつも何かと一人で騒いでおり、良く言えば気さく、平たく言えばウザったい男である。
他の訓練生からは煙たがれていたようだが、何事にも全力で取り込む彼の姿勢にレトは好感を抱いていた。
とは言え、こんな時にまで騒がれてはたまらない・・・とそこまで考えが至った所で思い出した。
輸送機に乗り込む際、事前対策として僚機との通信回路を切っていたのだった。
まさか作戦行動中も切りっ放しにする訳にはいかない。
何か悪い予感がしつつも、レトは通信チャンネルをオープンにする。
小気味良い電子音と共に、通信が復旧した。

『レトっ!!おまえ今までずっと俺との通信を切っていただろうっ!?』

耳をつんざく馬鹿デカイ怒鳴り声が、ただでさえ狭いコクピット内に響乱した。
途端、猛烈な耳鳴りがレトを襲い、危うく意識を持って行かれそうになる。

「わざとじゃない」
『シラを切るな!このダイゴウドウ・ジンには全て丸っとお見通しだぞっ!!』

どうせ言い訳しても聞き入れないし、実際わざとやっていたため、レトは無視を決め込んだ。
機体の最終確認を進める。
油圧系統、各部アクチュエーター系統異常無し。
FC(火器管制)レーダー、IR(赤外線)レーダー、広域索敵受動レーダーなどの各種レーダー機器も正常稼動。自動索敵モードに切り替える。
顔や眼を動かし、視点連動電子照準の動作も確かめる。
自分が向けた視点の中心に俊敏、かつ、正確に照準レティクルが移動する。
これも問題ない。
次はFTS(燃料移送システム)の――――

『無視をするな!!
よぉし、分かった。おまえがそう言う態度を取るなら俺にも考えがある。
どちらがより多くの敵を撃破できるか勝負だっ!!
俺が勝ったらおまえが見るのを嫌がっていたゲキガンガー3の全話オールナイトショーに付き合ってもらうぞっ!!』

きっと、無視しなくとも結果は同じだったのだろう。

「おまえが負けたらどうするつもりなんだ?」
『ふっ、分かってないなレト。漢は負けた時のことなど考えないものさ・・・』
「・・・・・・」

どうせ断ったところで、逃げるとは卑怯だぞ、などとまた騒ぎ出すに違いない。
ジンと訓練所で一緒だった期間は短かったが、なんせ非常に分かり易い奴だ、大体のことは察しが付く。

『沈黙は了解と受け取るぞ、レト。ふははっ、まぁおまえも一度見ればゲキガンガーの素晴しさが分かるだろうぜ!』
「どうでもいいが、いい加減通信中に俺を本名で呼ぶのはやめてくれないか?俺のコールサインはブレイズだ」
『おっとすまねぇ、ついな。なに、気にするな。俺とおまえの仲だろう?うはははっ!』

因みに、ダイゴウドウ・ジンと言う名もコールサインだ。本人は魂の名前だと言い張っているが、同じようなものだろう。

『随分と余裕だな、貴様ら。いくら相手がMTと言えど、連携して攻めて来られたら貴様達の様なヒヨッコなど、簡単に鉄屑にされるぞ。
戦場でそんな無駄口叩いている暇があったら叩いてみるがいい。そのケツに鉛弾が捻り込まれることになるぞ!』

鬼教官の突然の罵声に、またもレトの鼓膜が突き破られそうになる。
脳内に響く耳鳴りは、自分の鼓膜の断末魔なのだろうか?このままでは、老後を待たずして耳が聞こえなくなってしまうに違いない。

『へっ!悪のMTなんざ俺のゲキガンガーの正義の鉄拳で打ち砕いてやる!』
『その威勢が戦場でも持てば良いがな。作戦領域に到達した、後部ハッチを開くぞ』
「了解」

コーテックスの基地を出てから約一時間、ようやく現場に到着したようだ。
結局ジンのせいで最後まで機体の動作チェックができなかったが、出発前にも確認はしている。多分大丈夫だろう。
秘匿通信が入る。

『レト君、頑張ってね』
「やたら威勢の良い奴が一緒ですから大丈夫ですよ、ミナトさん。いざとなったら囮になってもらいます」
『あらあら、随分ね。・・・絶対、生きて帰ってくるのよ。ユナちゃんもあなたの帰りを持っているわ』
「了解」

ミナト・ハルカ。この輸送機の機長を務めている。
右も左も分からなかったコーテックスの訓練所で、何かとお世話になった恩人でもある。
普段は航空機パイロットの教官を務めているそうだが、時々こうしてレイヴン候補生達を見送っているらしい。
理由は知らないが、訓練所では、そのグラマラスな容姿も相まって訓練生のみならず、教官達からも女神として敬われている。
レトは別にミナトのことを親切なお姉さんぐらいにしか認識してないが、頭が上がらない人であるのは確かである。
ハッチが完全に開き切る。

『なお、この依頼の達成を以って諸君らはレイヴンとして登録される。
このチャンスに二度目は無い、必ず成功させることだ。それでは、健闘を祈る』
『よっしゃあ!ダイゴウドウ・ジン、出撃する!!』

ジンの機体がハッチから勢い良く飛び降りていった。
眼下広がる高層ビル群。
無数に煌く街灯やビルから漏れ出た光が、闇夜の空をほんのり白く染めている。
まるで生き物など存在しないかのような、冷たい無機物の世界。
そこが今から戦場になるとは、その当事者であるにも関わらず、レトには余り実感が湧かなかった。

「ブレイズ、降下する」

レトの機体――ヴレヴェイルがハッチから飛び降りる。
浮遊感が身を包んだのも束の間、機体は重力に引っ張られるがままにみるみる地面へ落下して行く。
レトは背部のブースターを軽く吹かし慣性を相殺させると、商業ビルが立ち並ぶ大通りに静かに着地した。
索敵レーダーが複数の機影を捉える。MTI(移動目標インジケータ)上にはENEMYの文字。
犯行グループのMTと見てまず間違いないだろう。
ここから四、五ブロック程離れた所に円形の陣を組んでいる。
その円陣の中心辺りは丁度広場となっており、見通しが利くため周りを監視し易い。
それは同時に、相手からも攻められ易いと言うことでもあるのだが、恐らく敵の指揮官もそこにいるのだろう。
MTの索敵範囲はそれ程広くない。可能な限り接敵し、一機づつ確実に倒して行くのが懸命だ。
間違っても、敵の真っ只中にむやみに突っ込んではいけない。

『こちらジン!おのれぇ、こいつらめっ!多勢に無勢で仕掛けてくるとは卑怯だぞ!!
レ・・・ブレイズ、今どこにいる!?ダブル・ゲキガンパンチで一気に敵を片付けるぞっ!!』

戦場では、己の思惑通りに進まないのが常である。
訓練所で鬼教官から繰り返し言われた教訓だ。
どうやら、先程ミナトに提案したことを実行することになりそうだ。

『おい、応答しろブレイズ!まさかまた通信を切っているんじゃないだろうな!?』
「聞こえている。
自ら囮役を買って出るとは。さすが漢だな、ジン」
『な、いや・・・ふははっ!そうだろうそうだろう!悪党共め、俺様のこの華麗なる動きに翻弄されるがいい!!』

きっと、先程の勝負の話など既に頭の中から消えているに違いない。
根が素直なのか、ただの馬鹿なのか。どちらにしろ、乗せ易い奴であることに変わりは無い。
スロットル開度を一定に保ち、敵に察知されないようビルの隙間を縫うように敵陣営のもとへ急ぐ。
全速力で行きたいところだが、ジェネレータが貧弱な上、ブースター効率も余り宜しくない。
戦闘前に機体に負荷を掛けることは避けたかった。
僚機――ゲキガンガーを囲むようにして、五つの敵影。どうやらジンは上手く敵を引き付けているようだ。
レトはコンソールを操作し、コンバット・マニューバ・モードをON。

≪戦闘システム、起動シマス≫

ヴレヴェイルに搭載されている戦闘支援AIが起動し、ディスプレイ上に起動シーケンスが次々と表示されていく。
ちなみにAIの音声は女性だ。片言の発音はいかにも機械らしいが、レトはその声を聞く度に不思議と心が落ち着くの感じていた。
ストアコントロール・パネルに搭載武装が表示される。
RDY CWG-RF-200、RDY CLB-LS-1551、RDY CWM-S40-1。

≪システム、オールグリーン。コンバット・スタンバイ≫
「行くぞ、ヴレヴェイル」

ビルの隙間を抜け、通りに出る。
敵の真後ろ。こちらにはまだ気付いていない。

「レト、交戦」

透かさずスロットルを全開にする。
電子照準が敵のランスポーター――逆間接が特徴的な拠点防衛用MT――を捉えた。
ロック。サイドスティックのトリガーを引く。
ヴレヴェイルの右腕に握られたライフル銃、CWG-RF-200から続け様に三発発射。
ヒット。膝関節部のアクチュエーターを打ち抜かれたMTは、黒煙を上げながら崩れ落ちる。
レトは手を休めず、次の標的を照準レティクルに収める。
トリガー。コクピット・ユニット後部の機関部に銃弾が直撃し、盛大に炎上する。
そこでようやく、敵が後方からの襲撃に気付いた。
近くにいた一機が、ヴレヴェイルに向けロケット弾を発射する。
レトは最小限の動きだけでかわすと、流れるように相手の懐に入る。
左腕に構えたレーザーブレード発振器、CLB-LS-1551が起動する。
レーザー射出口から溢れ出すエネルギーの奔流が、瞬く間に収束。
形成された赤い光刃が、ランスポーターの脚部とコクピット・ユニットの連結部を真っ二つに切り裂いた。
最初の交戦から僅か十五秒足らず、レトの手により三機のMTが地に沈んだ。

『やるじゃねぇか、ブレイズ!』

そう言うジンも、ちょうど今二機目のMTを撃破したところだ。
所々被弾の痕が残っているが、戦闘には何ら支障はないだろう。
レーダーが敵機の接近を知らせる。
他の方面を守っていたMTが、こちらの騒ぎを聞きつけ慌てて駆けつけたのだろう。

「俺は正面からの三機、ジンは北側からの三機を頼む」
『よし、まかせろ!』

これで敵の勢力は全てだろうか?この分だと存外早く済みそうだ。
そもそも、この程度の勢力で商業区を占領しようという考え自体が間違えなのだ。
地元の警備団相手ならばまだ粘れたであろうが、たった二機のACが出張っただけでこのザマだ。
それとも単に物資が不足していたのだろうか。
敵MTがミサイルの射程範囲内に入る。
ミサイルシーカーが動力部の熱源を感知し、OMD上には敵機に重なる様に四角いレティクルが表示される。
だが、レトはサイドスティックのミサイル発射レリーズを押さない。
ミサイルはその一発一発がとても高価だ。MT相手に使うには、余りに勿体無い。
資金が不足しているのは、こちらも同じなのだ。

ヴレヴェイルはライフル銃で牽制しつつ、敵ランスポーターへフルスロットル。
敵からの機関銃とロケット砲による迎撃。
気が狂ったかのように撃ち込んでくるが、狙いは余り定まっていない。
ヴレヴェイルは左右に軽くステップを刻みながら、更に接敵する。
標的の十五メートル程手前で右旋回。滑る様に後ろに回り込み、無防備なランスポーターの背面へ銃弾を叩き込む。
燃料タンクに引火、爆発。衝撃で機体が前のめりに倒れる。コクピットから飛び降りる人影を確認。
レトは味方の撃破に呆然とし動きを止めている別の一機に、銃口を向ける。
突如、ヴレヴェイルの広域警戒レーダーが警告を発する。
なんだ?戦闘支援AIがレーダーを遠距離‐移動目標自動捜索モードに切り替える。
目標発見。機動兵器のようだ。猛スピードでこちらに接近してくる。
敵の増援だろうか。自分達に援軍が来るとは考えられない。
IFF(敵味方識別装置)に応答はない。MTI上の表示もUNKNOWNのまま。
なおも接近してくる所属不明機に対し、レーダーが再び警告を発する。
頭部の高精度外部カメラが暗視モードで所属不明機の姿を捉えた。

闇夜に溶け込むかのような、漆黒の機体。ブースターの噴射炎により、かすかにその輪郭が浮かび上がる。
不気味なまでの重装甲は、外世界からの一切を拒絶するかのようである。
ヴレヴェイルと全く異なる機体構成だが、しかし、あの姿は間違い無くACだ。

暗闇の中を一筋の光が奔る。
あの所属不明機から放たれたレーザーだ。
戦闘支援AIはすぐさま相手の機動と銃口の向きから弾道を予測、OMD上に赤い輝線で表示する。
圧倒的な弾速を誇るレーザーライフルであるが、予め弾道が分かっていれば避けることは不可能では無い。
レトは戦闘支援AIの弾道予測を頼りに、レーザーの回避機動を行う。

ヤツは敵だ。それも、かなり厄介な。

レトは戦闘支援AIに所属不明機を敵機としてインプット。
戦闘支援AIは機動索敵モードに移行し、レーダーのサーチパターン、周波数、出力、パルス幅を最適化して目標を追跡する。
ライフル銃の射程範囲内。
敵機を電子照準するが、しかし、敵の射撃は恐ろしく精密だ。避けるので精一杯で中々反撃の隙間を与えてくれない。
体は反応しているが、機体がレトの反応速度について行けず、レーザーが何度も装甲を掠めていく。
それでも何とか応射するが、ことごとく避けられてしまう。
これでも射撃の精度には自信がある方であったが、相手の方が一枚上手のようだ。
刹那、二機のACが天と地で交差する。
レトはブーストによる慣性をそのままに急速ターン。振り向き様に敵機を捉え、ミサイルレリーズを押し込む。
背部の右側のハードポイントに接続されているミサイルポッド、CWM-S40-1から単発ミサイルが発射。
サーボモーターが起動し、漆黒の機体目掛け勢い良く飛んで行く。
敵ACは高層ビル群の隙間に入り込み、大出力ブースターにものを言わせミサイルの追尾を振り切る。
標的を見失ったミサイルはビルに激突し、爆発。暗闇に朱が弾ける。
鈍そうな外見からは想像できない、異常なまでの機動力。
背中の左右のハードポイントに備え付けられた大型追加ブースターと、両肩の補助ブースターがその超機動を可能とさせているのだろう。
そもそも、あれ程図体の大きい機体がずっと上空を飛び回れること自体おかしい。
どんなに強力なジェネレーターを搭載しようとも、出力容量には限界があるのだ。
見ればいつの間にか、標的だったMTの反応がレーダーから消えている。
恐らく、あの機体の両手に構えられた二挺のレーザーライフルの餌食となったのだろう。

「こちらブレイズ、所属不明機から攻撃を受けている」
『おい、そんなの聞いてないぞ!!どこのどいつだっ!?』
『こちらでも確認した。おそらく敵の増援だ。作戦内容に変更は無い、そいつも撃破しろ』
「ヤツはACだ。別のレイヴンじゃないのか」
『レイヴンであるかどうかなど関係無い。商業区に存在する敵性勢力を全て取り除け』
『待ってろブレイズ!こっちももうすぐ片が付く』

レイヴンに問答は不要と言うことか。
応援が来るまで果たして持つかどうか。
月明かりをバックに、漆黒の機体が上空からヴレヴェイルを見据え、悠然と構えている。
なるほど、狙いは俺という訳か。
上等だ、とことん付き合ってやる。機体の損耗率など知ったことでは無い。
レトの右手の甲に刻まれたIFS(イメージ・フィードバック・システム)の幾何学的な模様が輝き始める。
ACには操縦桿である圧力感応型サイドスティックとは別に、操縦補助システムとしてIFS装置が搭載されている。
操縦桿でカバー出来ない機体の細かい動作や微調整は、IFSを介して操縦者の意思が直接反映され行われるのだ。
レトはスロットルを全開にすると同時に大地を蹴り、相手目掛け一気に機体を上昇させる。強烈なGが体を締め付ける。
漆黒の機体はレーザーライフルでお出迎え。
レトは致命性の攻撃だけを避け、ライフル射撃で敵の動きを封じつつ肉薄していく。
複合装甲の至る所にレーダーが被弾。発生した高熱が装甲を融解させ、抉り取る。
だが、レトはスピードを緩めない。
低性能のミサイルでは簡単に避けられてしまうし、こんな豆鉄砲ではあの重装甲に致命傷を与えることは不可能に近い。
勝機はただ一つ、レーザーブレードによる超近接戦闘のみ。
確かに低出力の安物ブレードであるが、上手く関節を狙えば切断することもできるだろう。
とにかくあのしつこいレーザーライフルを黙らせれば良いのだ。

漆黒の巨躯が、目前に迫る。
フェイントを混ぜつつ、敵の懐に飛び込む。
一閃。空を斬る。
敵機が後方、右斜め下に占位。
ヴレヴェイル、その場で右急速転回しつつ回避機動。
レーザーがコア・ユニット上部を抉り、側頭部を焦がす。
敵機、急上昇。ヴレヴェイルから距離をとる。
レトは透かさずミサイルを発射。目くらましだ。
自然落下しながら出力容量の回復を待つ。
着地と同時にバックステップ。レーザーが眼前の空間を貫く。
敵機、上空から一気にパワー・ダイヴ。ヴレヴェイルを追撃する。
ヴレヴェイルはそのまま後ろ向きで高速移動しつつ迎撃。
敵機がなおも接近、容赦無く集中砲火を浴びせてくる。
レト、機体を反転させOB(オーヴァード・ブースト)を発動。
コア・ユニット背面のハッチが開き、出現した巨大ブースターが点火。
青白い噴射炎の尾を引きながら、機体が毎時八百キロメートル近くまで一気に加速。
通常ブーストとは比べ物にならないGに、レトは思わず呻いた。
あっと言う間に出力メーターがレッドゾーンに突入する。
敵機もOBを発動。ヴレヴェイルのそれを遥かに上回る速度で迫ってくる。
レトはOBをカット、慣性を利用して咄嗟にビルの隙間に滑り込み、追撃をかわす。

敵機は上空で大きく旋回すると、再びヴレヴェイルの追撃体勢に移る。
レトはそのまま高層ビル群に入り込み、敵機を振り切ろうとする。だが直に負い付かれる。
ブースター出力、加速力、機動力、どれを取っても相手の方が遥かに上だ。
機体は既にボロボロだ。長引く程こちらの不利となる。
一か八か、敵機を細い路地に誘い込む。あそこなら敵の機動力を封じ込める。
路地の入り口に滑り込み、しかし、突然左側のブースター出力が急降下し始めた。
バランスを崩し、その場に膝を付くように緊急停止する。
FTSの異常を訴える警告灯が点滅。詳しい異常発生箇所がディスプレイに表示される。
案の定、左ブースターへの燃料供給がストップしていた。
OMDの画面中央には、漆黒の機体が構えた銃口が大きく映し出されている。
復旧作業を行なう余裕はない。だが、片方だけのブースターでは回避機動すらままならない。
やられる。確実に。
だが、妙に落ち着いた気分だ。

『ゲキガンシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥトッ!!!』

側面から撃ち込まれた銃弾に、敵機は上空へ急上昇することで回避。
そのまま高さ十メートル程のビルの屋上に着地する。

『助けに来たぞ、レト!!大丈夫か!?』
「ああ。ナイスタイミングだ、ジン」
『あれが例の所属不明機か。おのれぇ、全身真っ黒とは悪意丸出しではないか!!
おい貴様、一体何者だっ!?』

この際、本名で呼んだことは大目に見ておこう。
所属不明機は、ジンの呼び掛けに対して何の反応も示さない。
ただ、興味深そうにジンを見つめているようにみえるのは、自分の錯覚だろうか?

『・・・俺様を無視するとはいい度胸だな、貴様。
ならば!その分厚い装甲を引っぺ剥がして直接顔を拝むまでよ!!』
「気を付けろ、ジン!。そいつの機動力は見た目より遥かに高いぞ!」
『まかせろ、俺のこのゲキガンパンチで・・・!!』

ジン機が左腕を構えつつ、全速力で敵機に向け一直線に突っ込む。

『ジン!スゥゥゥパァァァァァ、ナッパアアアアアアアアアアアーッ!!!!』

赤い光刃と共に勢い良く突き出された拳は、虚しく空を切った。
敵機は軽いバックステップだけで避け、華麗な宙返りをしつつ上空に占位する。
ジンは怯まず、ビルの屋上から敵機に向けライフル銃で狙い撃つ。
だが、敵機の流れるような回避機動に阻まれ、銃弾は掠りもしない。

『なにっ!?くそ、なんだあの機動は!!』

敵機の圧倒的な機動力に目を見張るジン。
漆黒のACはビルの陰に隠れると、そのまま姿を見せなくなる。
・・・おかしい、本当に姿を見せない。
レーダーを確認する。反応無し。

「消えた・・・?」

馬鹿な。有り得ない。きっとレーダーが故障したのだろう。

「ジン、そっちのレーダーに反応は無いか?」
『いや、俺のレーダーにも反応はねぇ・・・。あの野郎、一体どこに行きやがった?』

本当に消えたのか?
自分達は今まで幻と戦っていたとでも言うのだろうか。

『全敵勢力の排除を確認した。作戦終了だ』
「待ってくれ。そちらで何か反応を捉えていないか?さっきの所属不明機だ」
『いや、こちらのレーダーも感無しだ。君達以外の移動熱源は探知されていない』
『おい、そりゃおかしいぜ!俺達はついさっきまでそいつと戦っていたんだぞ!』
『君達が敵勢力を排除し、無事作戦も成功した。それの何に不満がある?』
『不満とかそういう問題じゃなくてよ!くそぉぉぉっ、敵前逃亡とは不逞ヤツだっ!』
「・・・あんた、何か知っているな?一体何を隠している?」
『何も隠してなどいない。気になるのなら自分の手で調べることだな』

妙に落ち着き払った態度。いかに戦場慣れしているとは言え、あの異常な現象を前にして不自然過ぎる。
鬼教官は、絶対何かを知っている。
少なくとも、あの所属不明機体に対して何か心当たりがあるはずだ。
それに、アレは本気の動きではなかった。一つ一つの動作に余裕すら感じられた。
まるで、底知れない闇に体が引き込まれる様な、そんな奇妙な感覚。
・・・いや、今考えても仕方が無い。分からない事は分からないのだ。
とにかく当初の目的は達成した。今は、それで良しとしよう。

『それでは、これで適性試験を終了とする。おめでとう、これから君達は新たなるレイヴンだ』





無事巣立ちを終えた、二人の若きレイヴン。
混沌が支配する世界で、何ものも寄る辺無き鴉達は一体にどこへ向かうのだろうか。
今はただ、戦いに傷ついたその翼を休める。次なる戦場へ、空高く舞い上がるために・・・

























あとがき・反省

最後までこの長ったらしく読み辛い文章に付き合って頂き、誠にありがとうございます。
読んでて気付いた方もいるかも知れませんが、文章作成に付きましては、神林長平先生の名作SF小説“戦闘妖精・雪風”を大いに参考させてもらっています。
と言うか、殆ど劣化○ピー・・・。
雪風の原作ファンの方には不快と感じた方もいるかも知れません。この場を借りて、深くお詫び申し上げます。
とは言え、フリーで楽しむ二次小説なので大目に見てもらいたい気持ちがあるのも確かです。

ACファンの方にも、こんなのACじゃないっと感じた方には本当に申し訳無いです。
何とかリアルっぽさを演出しようと思ったのですが、説明文がやたら長くなってしまいグダグダな流れになってしまいました。
視点連動電子照準にしてもシステム的に色々問題ありそうだし、ゲームでは一つしか無いレーダーだって、雪風の影響を受けまくったせいであんなこと に・・・。
戦闘シーンも下手糞なくせに変に懲り過ぎてしまい、結局最後ら辺は中途半端な終わり方になってしまいました。
やはり長文書くのは難しいですね。作成時間も恐ろしい程長く掛かりました。
人間、背伸びしてはいけませんね。

この作品は見切り発車的な所もあり、自分にとっても試験的な作品なので、生温い目で見守ってくれたら嬉しいです。
後、自分は恐ろしく遅筆です。正直続きが書けるかどうかも不安です(あ
作品の感想・ご意見がございましたら、遠慮無く言ってやって下さい。
今後の糧とさせてもらいます。


最後に、ダイゴウドウ・ジンの本名を大公開。

その名も、ヤマダ・サブロー。

お後が宜しいようで・・・





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