機動戦艦ナデシコ〜クリスマス記念〜

短編〜サンタの贈り物〜








クリスマスって何? と聞かれたら、貴方ならどう応えますか?
イエス・キリストの誕生を祝う記念日と応えますか?
それとも、サンタクロースが子供達にプレゼントを渡す日と応えますか?
あるいは、そのどちらともと応えますか?
これは、そんな質問された男の物語。



静かなマンションの一室。
そこでソファーに座りながら、リボルバーの解体整備を黙々としている黒ずくめの男。
公式には発表されてはいないが、先の『火星の後継者の乱』に先立ち噂された、幽霊ロボットのパイロットであり、
また幾つものコロニーを襲撃したテロリストと呼ばれる人物。
テンカワ・アキトその人である。
件の事件も終結し、世間はクリスマス間近ということもあり、街はクリスマス一色になりつつあった。
背負っていたものの一部を、件の事件の折に降ろせたということもあり、テンカワ・アキトも以前と比べ、平穏な日常を送っていた。
一方、アキトの日常と戦闘面でもパートナーである桃色の髪の少女、ラピス・ラズリはテレビを見ていた。
クリスマスも近いということもあり、やはりテレビの番組もクリスマスを取り扱う局が多いらしく、 ラピスが見ている番組もクリスマス関連のものだった。
じっとテレビを見ているラピスを視界の隅に捕らえ、アキトは微笑する。
アキトにとって散々迷惑をかけ、生きている限りこれからも迷惑をかけ続けるであろう少女には、 幸せになってもらいたいのが、偽ざる本心だった。
アキトの作業をする手が止まったのを察したのか、ラピスがアキトへと一つの問いかけを投げかけた。

「ねぇ、アキト。クリスマスって何?」

言葉にすればそれだけだが、アキトはその問いにどう応えるべきか少し悩んだ。
裏切られ、磔にされ、そして処刑され。
それでも死んだのちに生き返り、その後、数々の奇跡を起こしたメシアの誕生を祝う記念日と応えるべきか。
それとも、トナカイにソリを引かせる太っちょのおじいさんが、善い子にプレゼントを配って廻る日と応えるべきか。
本来なら前者なのだろが、はたしてその事を正しく理解している人間が、この現代にどれくらいいるのか不明だった。
それに、これ以上ラピスに血生臭い話をするのもどうかと思い、アキトは後者の説明をすることにした。
説明を聞いたラピスは、「善い子にプレゼント……」と言って黙り込んだ。
そんなラピスの様子を見て、今年はサンタに扮してラピスにプレゼントを贈ろうと決めた。
そして、ラピスに「今年はラピスにもサンタがプレゼントを贈ってくれるよ」と言おうと口を開いた瞬間、 ラピスがポツリと一言洩らした。

「じゃあ、ワタシには関係ない。だって、ワタシは善い子じゃない。アキトと一緒に、いっぱい人を殺した」

その言葉に、アキトは後頭部をハンマーでぶん殴られたような衝撃を受け、酸欠の金魚のようにただ口をパクパクと開閉させた。

「それじゃアキト、ワタシは部屋に戻る」

衝撃醒めかねるアキトを置いて、ラピスは立ち上げると、自分の部屋へと歩き去った。
そんなラピスをアキトは唖然と見送ると、ふらりと立ちあがった。
まるでダウン寸前のボクサーみたいに、その足はふらふらとしていて頼りなかったが、アキトは意を決してボソンジャンプを行った。
人気が消えたリビングには、整備の途中で忘れ去られたリボルバーと、つけられたままのテレビの音声が虚しく響いていた。



「それで、どうしたんだい、テンカワくん? 君が此処に来るなんて珍しいじゃないか。それも一人でなんて」

突然の来訪者にも関わらず、ネルガル会長アカツキ・ナガレは、悠然とした態度でアキトへと問いただした。
そんなアカツキの問いかけに、アキトは「あ゛ー」だの「う゛ー」だのと要領を得ない声しか出さずに、何と言ったものかと迷っていた。

そんなアキトの様子を尻目に、アカツキは重厚な机に積まれた書類に目を通し、次々と判を押していく。
暫く悩んでいたアキトだったが、漸く意を決したのか、アカツキへと顔を向けた。

「あ゛ー、実はお前に相談したいことがあってな……」

「僕に相談? 君が? ……どうやら冗談ではないようだね」

止まることなく判を押していた手がピタリと止まり、アカツキは意外そうな表情をし、アキトへと目を向けた。

「それで、この僕に相談だなんて何事だい? 遂に帰る気にでもなったのかな?」

皮肉気に言うアカツキに、アキトは「違う」と短く答え、首を振る。

「そう、だな……お前だけでもいいんだが、エリナとイネスもいた方がいいかもしれんな」

「エリナくんにドクターもね……。それは僕だけじゃ頼りないって事かな? それとも、人数は多い方が良いってことかな?」

アキトは「後者だ」と答え、口を閉ざした。
そんなアキトの態度に、アカツキは軽く肩を竦め、卓上の電話に手を伸ばした。



アカツキの呼び出しと、アキトの頼みと言うことで、社内でもアキトの事を知る人物達が会長室に集まった。
内一人は月にいるために、画面越しの会話となる。

「いやぁ、忙しい中集まってもらって悪いね。実はこのテンカワくんが、皆に相談したい事があると言うことなんでね」

仕事をサボる口実が出来たのが嬉しいのか、その表情はにやっけっぱなしだった。
そんなアカツキに、元会長秘書たるエリナ・キンジョウ・ウォンは、画面越しに冷たい視線を向けるが、 当のアカツキはどこ吹く風だった。

「それで会長、テンカワさんのご相談ごととは、いったい何でしょう?」

クイっとメガネのずれを手で直しながら、プロスペクターはアカツキとアキトに視線を投げかけた。
他に集まった者達もそれは知りたいのか、何も言うことなくただ黙って見守っている。
アカツキは少し困った様子をみせ、「実は僕もまだ聞いてないんだよね〜」などと何時もの軽い調子で返した。
そんなアカツキの態度に、数人が非難がましい視線を向ける。
その視線に慌てて、アカツキは手で押しとめるジェスチャーを出した。

「待って待って。皆、一先ず落ち着きたまえ。どうやらテンカワくんは、相談する人数は多い方が良いと思ったらしくてね。
それなら、皆を集めてから聞いた方が、二度手間にならなくてすむと思ったわけさ」

アカツキはアキトへと顔を向けると、「人数も集まったことだし、説明してくれるよね?」と尋ねた。
アキトは皆の視線が自分へと向けられたのを感じとって、重い口を開いた。

「実は、だな―――」

アキトはラピスとの間であった事の顛末を、掻い摘んで話した。
話を聞いた面々は、皆が皆、困惑した表情をした。

「テンカワの言いたい事は分かったが、俺では力になれんぞ」

巌のごとき顔を顰めさせながら、まず始めに降参したのが、ゴート・ホーリーだった。
ゴート曰く、「女心は俺には理解できん」とのことだった。
実際、女心が分からず、過去に女に振られた経験があるゴートの言葉には、それを知る者が皆納得した。
次に白旗を揚げたのが、白い学ランにその身を包んだ月臣源一朗だった。
女子供を尊ぶ木蓮気質な月臣だったが、よく言えば硬派。
悪く言えば、自分の方から女性に対してアプローチをしたことがないので、女性の機微には疎いのが現状だった。

「それで、アキトくん。アキトくんは、ラピスにサンタクロースを装ってプレゼントを渡したいの?
それとも、ただたんに言われた事にショックを受けているだけなの?」

率直に聞いたのは、白衣に身を包んだイネス・フレサンジュだった。
科学者ということもあり、遠まわしに聞くのは嫌いなのだろう。
もっとも、説明する分には、いくらでも回りくどく説明するのだが。
アキトはイネスの問いかけに、「両方だ」と簡潔に応えた。

「でもアキトくん、サンタクロースを装ってのプレゼントも良いけど、普通にラピスにクリスマスプレゼントは渡さないの?」

そのエリナの言葉に、アキトはハッとした表情をして、頭を抱え込んだ。
その様子に一同は、アキトがその事をすっかり失念していた事を悟った。

「テンカワくんって、やっぱり何処か抜けてるよね〜」

心底楽しそうな笑みを浮かべ、アカツキはアキトをからかった。
そんなアカツキにイネスは視線で黙るように言うと、

「それで、流石に渡すプレゼントの一つや二つは、もう考えてあるんでしょう?」

だがイネスのその言葉に、アキトはビクリと体を震わせると、顔をそむけた。
その様子に、今度は一同揃ってため息をついた。

「おいおい、テンカワくん。それは幾らなんでも拙いんじゃないの?」

心底呆れたといった口調のアカツキに、アキトは弱腰ながらも反論する。

「仕方が無いじゃないか。だって、ラピスぐらいの年頃の女の子が、何を欲しいのか分からないんだから。
かといって、ラピスの思考を読もうとすれば、俺がプレゼントを渡そうとしている事も筒抜けになるし……」

お手上げと言わんばかりに、アキトは両手を小さく上げた。

「ちょっと待ってアキトくん。それだと、ホシノ・ルリの時はどうしていたの?
一緒に暮らしていたわけだし、プレゼントの一つや二つ、それこそ渡したことは無いの?」

イネスの言葉に小さく首を振った。

「忘れたか、イネス? 長屋暮らしの時は、プレゼントを買う自由なんか出来なかったし、三人で暮らしていた時だってそうだ。
あの時の俺は、ラーメンを作るのに一心不乱だったし、第一、多額の借金が背負っていたんだぞ?
そんな俺に、プレゼントを渡す余裕なんてあると思うか? 結婚指輪だって、用意できたのは奇跡といってもいいぐらいだぞ」

アキトの借金発言を聞いて、プロスは微かに表情を引き攣らせた。
元々アキトの借金は、オモイカネが連合軍に反乱を起こした際、アキト機が発射したミサイルによって、 連合軍の戦艦を撃沈させたのが原因だった。
それならば、他のパイロット達も借金を背負いそうなものだが、アキト以外のパイロット達は、確りと保険に入っていた為に借金は免れた。
では何故アキトだけが借金を背負う嵌めになったかと言えば、アキトがパイロットになった経緯にあった。
アキトは本来コックとして契約したが、不測の事態が起き、エステバリスに搭乗することになった。
その際の活躍と、パイロットが不足していた事を理由に、プロスがコック兼パイロットとして雇うことにしたのだ。
だがその際、プロスがうっかりとパイロットとしての損害の保険に入れさせるのを忘れた為に、 アキトだけが借金を背負う嵌めになったのだ。
その事を気にしていたプロスは、あの手この手を使って、アキトの借金をかなりの額まで減らした。
だが全てを消せたわけでもないので、アキトがラーメンの屋台を出した際に、 贖罪の気持ちもあり、裏からいろいろとこっそり手を貸していた。
そのことが今になっても響いているとなると、プロスは申し訳ない気持ちで胸が一杯だった。

「それもそうね。だからアカツキくんだけじゃなく、私達も呼んだのね。
アカツキくんの場合、ラピスぐらいの年頃の女の子へのプレゼントは、分からないかもしれないものね」

頷くイネスに、アカツキは反論した。

「そうでもないさ、ドクター。少女といっても女性だ。なら、いくつかは思いつくさ」

自信満々のアカツキに、一同白い目を向けた。

「それで会長、ラピスへのプレゼントの話を聞いたのですから、どうせご自分もとか思っているのでしょう?」

じと目で見るエリナに、アカツキは笑って応えて見せた。

「ハッハッハッハッハッ。エリナくん、何を当然の事を聞いているんだい? もちろん渡すに決まっているじゃないか」

その言葉に、ネルガル関係者は揃って手で額を抑えた。
そして、この後の展開もなんとなく読めていた。

「確か今年もクリスマスの日には、ホテルの会場を借り切って、パーティーをするはずだったね?
ちょうどいい。ついでにそのホテルのスイートルームの部屋でも借りて、ごく少数だけでパーティーを開こうじゃないか。
どうせ下の者達は、僕等みたいなお偉方達と一緒じゃ楽しめないだろうしね。
なに、ホテル代は僕のポケットマネーから出すから、心配はいらないよ」

その言葉にエリナは、以前からのアカツキ関連で溜まったストレスを、 ルームサービスで高い酒を頼んで晴らしてやろうと考えた。

「まあまあ、皆さん。今はテンカワさんと、ラピスさんの事を片付けましょう」

「とは言っても、プレゼントの方は兎も角、もう一つの問題は、テンカワ自身の問題だ。 我々がしてやれることはなきに等しいぞ」

月臣の言葉に追従するように、ゴートが頷く。
その様子にアキトは渋面を浮かべる。

「そちらは、俺個人としての問題だしな……。とりあえずは、プレゼントのアドバイスだけでも頼む」

「パッと直ぐ思いつく限りでは、ありきたりだけど花束かな。 あとは貴金属とか。そうだね……ラピスくんなら、小物とかも良いんじゃないかな?」

「バッグとかでも良いでしょうけど、相手はラピスだものね。そうねぇ、人形とかでも良いんじゃないかしら?」

アカツキに続き、エリナがアドバイスを口にする。

「そうね。貴金属も悪くは無いでしょうけど、相手はラピスだものね。……洋服とかでも良いんじゃないかしら?」

それとなく、自分が欲しいものを最初に口にするエリナとイネス。
それをここ数年で磨き上げた危機感で感じ取ったアキトは、二人の分のクリスマスプレゼントの購入も、頭に書き込んだ。

「あとはそうですなぁ、お店のおもちゃ売り場でも参考にするのが一番なのでしょうが…… いやはや、相手がラピスさんでは、少々分が悪いですな。
身を飾る装飾品……と申しましても、ブローチとか髪留め。その辺りでも良いのではないでしょうかな」

プロスが言うと、月臣とゴート、残りの二人はそろって首を振った。
先ほどの言葉どおり、当てにするなとの事らしい。

「それでは各自、ラピスくんへのプレゼントぐらいは用意しておいてくれたまえ」

お開きとばかりにアカツキが締めると、それぞれ仕事へと戻っていった。
そんなこんなでアドバイスを受けたアキトは、財布片手に、プレゼントを買いに街へと向かったのだった。



そしてクリスマスパーティーの当日。
アキトとラピスは何時もどおりの格好で、アカツキがとったスイートルームのソファーに腰掛けていた。
公に表に出られない二人とは異なり、他の者達はネルガルで一定の職に就いているために、
同じホテル内のパーティー会場で、挨拶などをこなしてから来る事になっている。
備え付けのテレビを、ボケェっと見ながら暇を潰す二人。
暫くジッとテレビを見ていると、部屋の扉を開け、残りの面々が入ってきた。

「いやぁ、すまないね。すっかり待たせてしまったみたいだね。 こういう挨拶も度々あるけど、こんな挨拶は面倒なだけだとは思わないかい?
下の者達も、僕等の挨拶なんて聞きたいものじゃないだろうにね。全く持って、会長職も楽じゃないよね」

「それでしたら、その会長職をさっさと辞職して、私に譲られたらいかがですか?」

「ハッハッハッ、エリナくんは相変わらず冗談が上手いなぁ」

笑い飛ばすアカツキに、エリナは軽く鼻を鳴らすと、さっさとソファーに座り込んで、ワインをグラスに注ぎこんだ。
過去にはネルガルの実権を握る事に執着していたエリナだったが、今現在はそんな思いは皆無に等しかった。
各自のグラスにワインやシャンパンなどを注ぎこみ、ラピス用に、コップにジュースを注ぐ。
準備が出来たところで、グラス片手にアカツキが口を開く。

「長ったらしい前置きも挨拶も面倒だし、さっさと始めようか。では、メリークリスマス!」

アカツキがグラスを掲げる。

「メリークスリマス!」

それに併せて、グラスを掲げ、一斉に唱和する。
ただ一人、ラピスだけが取り残されたように、そんな様子を眺めていたが、

「めりーくりすます?」

見よう見まねで言葉をはき、コップを掲げた。
そんなラピスの様子を、大人たちは微笑ましそうに見守っていた。

「それじゃぁ早速だけど、はいこれ。ラピスくんへのクリスマスプレゼントね」

差し出された小包を、受け取るラピスの表情は、どこか困惑した様子だった。
説明して欲しい。と、目でアキトへと訴える。

「ラピス、クリスマスはな、親しい人から、親しい人へとプレゼントを渡す日でもあるんだ。
とは言っても、ラピスはまだ子供だからな。ラピス自身が何かをあげる必要は無いぞ」

言ってアキトは、ラピスの頭を優しく撫でた。
頭を撫でなれ、心持気持ちよさそうに目を細める。
アキトにプレゼントを貰ったお礼はといわれ、ラピスは小さく「ありがとう」と口にした。

「ラピスくん、是非此処で開けてくれたまえ」

アカツキの言葉に促され、ラピスは綺麗に包装された小包を開けた。
開けた箱から出てきたのは、オルゴールと共鳴箱だった。

「へぇ、会長にしてはなかなか気の利いたプレゼントですね」

「ふふん、どうだい? これでも僕に、女の子へのプレゼントが分からないとか言うつもりかい?」

エリナの言葉に、胸を張って応えるアカツキ。
どうやら以前言われた事を、気にしていたようだ。

「それじゃあ、これは私から」

エリナからプレゼントを受け取ったラピスは、直ぐに開封した。

「……これは?」

出てきたのは、一組のブローチと髪留め。

「ラピス・ラズリ。貴方と同じ名前を持つ宝石をあしらったものよ」

「気に入って貰えたかしら?」との問いに、ラピスは頷いた。

「次は私の番ね。……私からのプレゼントはこれよ!」

イネスが、声高々に取り出したのは一つのプラモデル。

「これ、ブラックサレナか?」

ポツリとアキトが洩らした言葉に、イネスは大仰に頷いた。

「そうよ、細部の細部まで拘り抜いた自作品。オプションパーツとして、追加装甲各種も揃えてあるわ。
名づけて、1/60ブラックサレナPGモデル! 原産数は僅か1機のみよ。勿論、いろいろなギミックもあるわよ」

「ちゃんと取扱説明書読んでね」と、イネスは文字がいっぱい書き込まれた紙をラピスへと手渡した。

殆どの者が微妙に引く中、

「……ユーチャリスは?」

「ごめんなさい。ユーチャリスまでは間に合わなかったのよ」

ラピスの問いかけをさらりと流すイネス。
だがその顔には、微かに笑みが浮かんでいた。

「次は、私の番ですかな? どうぞ、ラピスさん」

プロスペクターのプレゼントは、ツーセットの陶磁器のカップだった。

「次は俺か? すまんな。俺はこんな物しか思いつかなかった」

そういってラピスに手渡したのは、ごく普通の写真たてだった。

「むっ、今度は俺か? 俺からはこれだ」

ゴートが渡したのは……

「って、これってデリンジャーじゃないか!?」

ラピスに渡された物をみて、驚いた声を出すアキト。

「うむ、最近は何かと物騒だからな。護身用としてはちょうど良いだろう」

「いや、ぶっそうなのはお前の頭だ」という突っ込みをグッと堪える。

「だが、いくらなんでも危険だろう。もしも暴発でもしたらどうするつもりだ!?」

「心配はいらん。トリガープルは10kg以上だ。ラピスではトリガーは引けないだろう」

「それって、護身銃の意味がないんじゃないの?」

「だが、威嚇程度にはなるだろう。相手が怖気づいたら、逃げるなりすればすむ問題だ」

エリナの問いに答えて、ゴートは「どうだ?」と逆に聞き返した。
言われてみればその通りなので、一同には反論はなかった。
もっともアキトだけは、万が一の場合を考えて、あとで銃の取り扱い方をラピスに教え込もうと考えていたが。

「最後は俺か。ラピスが気に入るか分からないが……俺からはこれだ。ラピス、メリークリスマス」

アキトがラピスに手渡したプレゼントは、ティディベアのぬいぐるみだった。
これに女性人は少し歓心した声をだした。
アキトがぬいぐるみをプレゼントに選んだのが意外だったのだろう。

「それじゃあ、プレゼントも渡し終えたし、後は飲んで食べて騒ごう!
なに、酔い潰れたって平気だ。ここで寝れば良いんだしね!」

その後、アキトはこそこそとイネスとエリナに、買ってきたプレゼントを渡したりしていた。



その後、深夜まで飲んで、食べて、歌って。
防音が完備していなければ、確実に苦情が出ているだろうほどの騒ぎだった。
深夜、皆が寝静まった頃、アキトはゆっくりと身を起こした。
彼にはやることがまだ一つだけ残っていたのだから。
その遣り残しであり、本日のメインイベントとも言える任務を遂行する為に、アキトはボソンジャンプへ何処かへと飛んだ。



すやすやと眠るラピスの枕もとへ、そっと忍び寄る影。
影はソワソワしており、落ち着きが無かった。
完全な不審者なソレだったが、このスイートルームまで忍び込んだにしては様子がおかしかった。
と、突如影の主に向かって、声がかけられた。

「それじゃ不審者みたいよ、アキトくん」

ビクリと身を震わせ、恐る恐る背後を振り返った。
振り返った先にいたのは、呆れたような表情をしたサンタルックのエリナだった。

「……どうしたんだ、その格好は?」

「別にいいじゃない。女性のサンタもいるんだから、プレゼントを渡す時はこんな格好でも変じゃないでしょ?」

「それよりも……」と呟いて、エリナはアキトへと返す。

「さっきのアキトくんの態度の方が変よ。堂々としなさいよ。堂々と。それに、そのでっかいのは何?」

「あ、いや。ここ数年黒い服しか着ていなかったからな。いざこんな派手な色の服を着ると、落ち着かなかったんだ。
それと、これも一応ぬいぐるみだ。抱き枕ならぬ、抱きぬいぐるみってところか……?」

クイっとエリナに差し出したぬいぐるみは、どうみてもラピスと同じぐらいの大きさだった。

「まあ、別にいいけどね。それよりも、さっさとプレゼントを置いて部屋を出ましょう。ラピスが起きてしまうかもしれないもの」

「その通り、早くしてくれたまえ」

背後からの突然の声に、エリナは悲鳴を上げそうになったが、なんとか飲み込んだ。

「……会長? 背後から突然声をかけないでください。驚くじゃありませんか。
それに、どうしたんです、その格好? 第一、酔い潰れて寝ていたんじゃないんですか?」

ジト目で文句を言うエリナに、アカツキはへらへらと何時もの笑みを浮かべた。

「すまない、すまない。遂、ね。酔い潰れて寝るのはこの後さ。まだサンタクロースとしてのプレゼントを贈っていないからね。
なんだいエリナくん、その顔は。あんな話を聞いた後では、サンタクロースとしてのプレゼントを用意するのも同然だろう?」

「ねぇ?」と背後を振り向けば、その先には、アカツキと同じくサンタクロースの衣装を身に纏ったプロス、 そして月臣とゴートの姿もあった。
エリナは頭痛のする頭を手で抑えた。
そしてゾロゾロとラピスの枕もとへと集まる。

「しかし困りましたな。これだけプレゼントがあると、その靴下には入りそうもありませんな」

プロスの視線の先には、誰が用意したのか、一足の靴下があった。

「それは大丈夫だと思うけどねぇ」

「会長? それはどういったことで?」

「……むぅ」

「だってほら、一名この場にいない人がいるじゃないか。それも、こういった場面で出てきそうな……って言ってる間にほら」

アカツキの言葉が終わるのを待っていたように、寝室にボソンジャンプで現れたのは、やはりサンタルックのイネスだった。
イネスは室内を見渡すと、不気味に微笑んでみせた。

「予想通りの展開ね。うふふ、わざわざこれを持ってきた正解だったわね」

そういってイネスが広げたのは、相撲取りが二人は入れそうな大きな靴下だった。
一部のものが唖然とするなか、イネスはその大きな靴下に似合う、大きなプレゼントを靴下の中へと入れていた。

「……イネス、それは何だ?」

アキトのその問いを待っていましたとばかりに、嬉々とした表情をみせるイネス。

「ふふ、よくぞ聞いてくれたわ。これこそが、イネス特性1/200ユーチャリスよ!
私がブラックサレナだけを作り、ユーチャリスを作らないと思ったら大間違いよ!
ブラックサレナ同様。いえ、それ以上のギミックを施した、まさにこの世界に一隻のみの至高の一品よ!」

その言葉に、何故か一同納得した。
イネスがブラックサレナを作りながら、ユーチャリスを作っていないと言っていたのが、腑に落ちなかったからだろう。
そして、プレゼント同士が潰れない様に、細心の注意をしながら、靴下の中へとプレゼントを入れる一同。

「さて、これで本日のメインイベントも終わったし、今度こそ本当に酔い潰れるまで皆で飲み明かそうか」

アカツキの言葉に従い、ゾロゾロと部屋を出て行く。
アキトは部屋を出る直前にラピスへと振り返ると、

「ラピス、メリークリスマス。良い夢を……」

言って、パタンと扉を閉じた。
残されたのは、大きな、そして沢山のプレゼントたち。
明日、夢から覚めたラピスが、プレゼントの山を見て喜ぶのか。
それともアキト達の仕業と見抜いて、サンタクロースはやっぱり自分の下へは来ないと、自嘲するかは明日わかること。







〜あとがき〜

何を思ったのか、クリスマス記念SSを書いてみたり。
後悔はしたけど、反省はしていたりしていなかったり。
各人がラピスに贈ったプレゼントは以下の通り。

テンカワ・アキト:ティディベアのぬいぐるみ&どでかいティディベアのぬいぐるみ。
アカツキ・ナガレ:オルゴール+共鳴箱&宝石箱。
イネス・フレサンジュ:1/60ブラックサレナPGモデル&イネス特性1/200ユーチャリス。
エリナ・キンジョウ・ウォン:ラピス・ラズリをあしらったブローチ+髪留め&洋服+ドレス。
プロスペクター:ツーセットの陶磁器のカップ&紅茶の葉+各種ハーブ。
月臣源一朗:写真たて&某アニメDVDセット。
ゴート・ホーリー:デリンジャー&アキト人形(黒い王子様風・ミナト仕立て)。

ちなみにトリガープルとは、引き金を引くのに必要な力だそうです。
教えてくれたお方方、協力感謝。
ではでは、またいつか、あいましょう〜。






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