シルフェニアカップリング祭(短編)
 

 「いつか貴方の意味を知る」

(機動戦艦ナデシコ/ホシノ・ルリ&ダイゴウジ・ガイ)



扉絵




 私にとって、その人は赤い炎をまとった弾丸だったと思う。こんなバカな人も存在するのね、なんてきっと感じていたはず。

 「おう、君がオペレーターのルリちゃんか。かわいいっていいね。よろしく!俺の名前はダイゴウジ・ガイだ。ガイって呼んでくれ。」

 初対面にもかかわらず、社交辞令を交えながら彼は大声で胸を張って言ったっけ?

 「はあ、データにはヤマダ・ジロウとなっていますが?」

 「フッ、お嬢さん、それは仮の名だ。俺の本当の名前はダイゴウジ・ガイだ」

 「えっ?では偽名でID登録なさったのですか。それって明らかな違反ではないでしょうか」

 きっと、「ノリの悪い子供だ」と思われたかもしれないけど、私の考えすぎかな。ガイさんは困った顔をするでもなく豪快に笑った。

 「フッ、ルリちゃん、なかなか鋭いツッコミだね。205歩ゆずってヤマダ・ジロウが本名だとしよう。だが、戦うヒーローというのはなかなか本名を明かせないものなんだぜ」

 「どうしてですか?」

 ヤマダさんは詰まらない。即答だった。

 「ヒーローに会いたいというファンが基地に殺到して平和を守るどころじゃなくなるからさ。悪いやつの調査も極秘に出来ないだろう? そうだな・・・ダイゴウジ・ガイはコードネームなんだ」

 「コードネーム?」


 「そうだぜ。ナデシコはこれから重大な任務に着くだろう。極秘の任務かもしれない。そういう時は情報漏えいを防ぐ上でもコードネームが必要なんだ。俺はコードネームで呼ばれたいのさ。ヒーローには必要だからね。それなら問題ないだろ?」

 なんとなく強引に説得されたというか、理由づけだったけれど、私はそれ以上関わりたくなかったので、そう答えたと思う。

 「そういうことでしたら、コードネームでお呼びしますが」

 「そうか、わかってくれたか。そうかそうか」

 不必要に手を握られて感謝されてもねぇ・・・



 結局、私も艦長も他のクルーの皆さんも洗脳されたのか(根負けしたのかめんどくさくなったのか)ヤマダさんのことを「ガイ」とか「ガイさん」と呼ぶようになってしまったけど、ガイさん本望だったでしょうね。

 そのガイさんは、ナデシコにフライング乗艦早々、エステバリスの操縦ミス?を犯していきなり左脚を骨折してしまう・・・あれ?かっこワル。
 
 そんな最中、ナデシコの母港である佐世保ドックに木星蜥蜴が襲来してピンチというときに役に立たず、偶然乗り込んできたアキトさんにお株を見事に奪われてしまう。

 とりあえずあきれたかな・・・

 「あんの童顔ツンツン頭野郎ぉ! ゲキガンガーの超合金を盗んで俺のゲキガンガーに勝手に乗った挙句、おいしいところ全部もっていきやがって!」

 と激怒(嫉妬)していたはずなのに・・・
 
 食堂で大昔の熱血ロボットアニメを見て二人で肩を抱き合ってはしゃいでいるし。男って解からない。 アキトさんは、なんの疑問も持たず「ガイ」て親しみをこめて呼んでたっけ?あんな二次元世界にどっぷり浸かって熱狂できるなんて・・・
 
 その時は、そんな風にあきれただけだった。ガイさんがアニメオタクだって認識したのもその時だっけ?名前にこだわる理由はわからなかったけど。

 いずれにせよ、そのとき連合軍に拘束されてナデシコの食堂に軟禁されていた私たちナデシコクルーの火蓋を切ったのは、たぶんガイさんだった。ガイさんが立ち上がり、アキトさんが行動し、みんながそれに続いて立ち上がったわけ。ガイさんは脚を骨折したままだったから行動的には役に立たなかったけど、彼のゲキガンガー魂がアキトさんを奮い立たせたのは事実。

 その後、木星蜥蜴の襲撃に遭ったナデシコを救う?ため、陸戦フレームで慌てて飛び出したアキトさんに空戦フレームを渡すことに成功し、(ガイさんはアサルトピットごと海に墜落。もちろん、助けましたよ。忘れそうになりましたが)かっこ悪いながらもガイさんなりに熱血してたって感じかな。暑苦しい台詞は勘弁だけど・・・



 でも、それは突然やってきた。

 火星を目指すナデシコの進路を阻む地球連合の防衛網を突破した直後、ガイさんは還らぬ人になった。ナデシコに監禁されていた連合軍の士官さんが脱走した際、ガイさんが発砲したとして正当防衛を理由に撃たれてしまった。

 悲しみにくれたのはアキトさんとメグミさんくらいだったかな。他のクルーは冷酷なほどガイさんの死に対して鈍感だった。戦争で人が死ぬのは当たり前だって。

 かくいう私も、当時「たった一人の死」に対して関心が持てなかったのは確かだけど。

 アキトさんはガイさんの死に疑問を持ってて、ネルガルや連合宇宙軍に真相を追及するよう何度も頼んだみたい。だけれど、ガイさんを撃ったという士官が銃をもって出頭し、裁判も終わってしまってすべてに決着がついてしまっていた。
 
 本当の犯人ではないかとアキトさんに疑われていたムネタケ提督はもうこの世にいないし、今となっては真相は闇の中・・・


 ガイさんがそんなことになる直前、私は尋ねたことがあった。

 「ゲキガンガーの何処が面白いのですか?」

 ガイさんは一瞬も迷わずに胸をドンと叩いて言った。

 「熱血、友情、正義。俺たちに必要な要素がぜーんぶつまってるからさ」

 「要素?」

 「そうだぜ、ルリちゃん。今の地球人が忘れちまった大切なことがゲキガンガーにはあふれているのさ。熱い想い、固い友情、貫く意志、どこまでも純粋に突き進む血潮に熱くなれないヤツがおかしいのさ」
 
 「はあ・・・」

 「フッ、ルリちゃんにもきっと解かる時がくるぜ。ゲキガンガーが伝える意味ってヤツがな」

 じゃあな、と言ってガイさんは少し歩いて立ち止まり、誇らしげに肩越しに振り向いて私に手を振ってまた歩いていった。

 それがガイさんとの最後の会話。


 ガイさんが亡くなってから、ナデシコは怒涛のような出来事に巻き込まれた。新しいパイロット、コロニーの全滅、火星の生き残りの人たちとその死、軍属にされたナデシコ、木星蜥蜴の正体、私の過去・・・

 戦闘が激しさを増せば増すほど、謎が深まれば深まるほど、ガイさんの喪失がとても大きいことに気がついた。それは、誰よりもアキトさんが感じていたことだと思う。底抜けに変だけど底抜けに明るいガイさんがいれば、私たちの悩みも悲しみも半減したとおもう。ガイさんが生きていたら私たちはもっともっとたくさんの命を救えたはず、もっともっと先に進んでいたはず・・・

 実は別の力で進んでいた。歩みは遅かったかもしれない。ダイゴウジ・ガイの意思を受け継いだ「テンカワ・アキトさん」というゲキガンガー大好きな熱血な人に背中を押されながら。

 「ガイは生きているよ。俺の胸の中でずっとずっとずーと、これからもずっとだ。俺はガイのことは忘れない、忘れるわけがない。忘れちゃいけないんだ。だってガイは・・・」

 こぶしを握り締めてつぶやくアキトさんの横顔とガイさんが重なった。

 最初はあんなに反目していた二人だったのに、アキトさんはいつの間にかガイさんを慕っていたし、ガイさんはアキトさんのことを「同志」と認めていたと思う。その理由ってなんだろう?ゲキガンガーという共通の話題があったから二人の友情は深まったの? 戦いの渦中で友情を育んだの?

 「ルリちゃん、男同士に飾り立てた言葉は必要ないんだぜ。熱き想いのぶつかり合いが、男たちにとって必要な絆になるのさ!」

 いつだったか、ガイさんが聞いてもいないのに私に話したことがあった?私は聞き流したのに、今頃になって鮮明に蘇るなんて、あの人が伝えたかったその意味を少しだけ理解することができたからだろうか? こぶしで語り合うっていう熱血な手段に似たような・・・男の世界というものに。


 あれから一年近い。私たちは再びナデシコとともに全ての始まりの地である火星に向かって進んでいる。いろいろありすぎて上手く伝えることができないけれど、今の私には失いたくないものがたくさんある。仲間もナデシコも皆との時間も、一つ一つが大切な宝物。ようやく、アキトさんがガイさんを失ったときの気持ちがわかるようになった。

 本当に・・・



 「ルリちゃん、俺と一緒にゲキガンガーしようぜ!」

 私は、なんとなくだけど感じることができる。ガイさんの魂を乗せてナデシコは火星を目指している。ゲキガンガーの熱き血潮を胸に抱き、やるべき事を認識して戦争に終止符を打とうと決意している。

 だからガイさん、安らかに。そして私たちを見守ってくださいネ。


 まあ、化けて出てくるなら歓迎くらいしてあげる。私、見たことないから。


──終わり──






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 あとがき

 涼です。今回はカップリング用の短編をおおくりいたします。
特に「この組み合わせで」と依頼されたわけではありませんが、なんとなくこのカップリングが気にいったので、なんとか締め切りに間に合うよう、書いてみた次第です。
(フッ、本当は上位は専門外だからさ)

 まあ、内容としては「LOVELOVEする」というものではなく、ルリのガイに対する思い出のような体裁をとっています。これもありだろうと考えただけです。(これもカップリングだろうと)


 まだナデシコキャラと各話を把握し切れていないところがあり、もしかしたらおかしなところがあるかもしれませんが、どうぞ御容赦ください。

参考 「機動戦艦ナデシコフィルムBOOK@〜B」
    「機動戦艦ナデシコ DVD1巻〜2巻」

2008年9月23日 ──涼──

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