闇が深くなる夜明けの前に
<外伝>



機動戦艦ナデシコ×銀河英雄伝説




『ルリの航宙日誌』
(其の五)

挿絵 近衛刀さん





T

──宇宙暦795年、標準暦10月3日──

 昨日までは「西暦」にしていたんですが、今は未来ですから正しい日付けに修正しました。

 それにしても、なんか違和感があります。西暦が終わって800年近くも経っているなんて想像していませんでしたから……

 でもまあ、SF映画や漫画に出てくるみたいに人類がタコみたいになっていなくてよかったです。

 えーと、ウランフ提督が率いる第10艦隊と別れたのは10時半くらいでした。ナデシコのエンジンが損傷していることもあって予定が大幅に伸びてしまったようですが、中将は迷惑そうな顔一つせず私たちをアスターテ星系の中心部近くまでしっかり連れて行ってくれました。

 ウランフ提督は、今朝も姿を現さなかったアキトさんに会えずちょっと残念そうにしていましたけど……


 「この後は先刻紹介したムネタケ少佐が責任をもって君らを基地に案内する。まだ基地までは距離はあるが、彼はベテランだから心配はない。では達者でな」

 私たちは立ちあがってウランフ提督と第10艦隊に敬礼し、首都星を目指す13,800隻にのぼる艦隊を見送りました。

  艦隊を見送った後、当直の人以外はブリッジを後にしましたが、私を含め話題はナデシコを基地まで案内することになった「駆逐艦アキヅキ」の艦長さんでした。

 『では紹介しよう。アキヅキ艦長のムネタケ少佐だ』

 ウランフさんから紹介を受けたとき、艦橋中は騒然としたものです。

 だって名前もそうですが、通信画面に映った同盟の士官さんはどう見てもあのムネタケ提督と瓜二つだったからです。

 「げっ、あいつ生きていたのかよ」

 「まさかぁ……」

 「キノコ嫌い……」

 「なんか不思議です」

 「ノーコメントでいいよね?」

 「いやはや、サプライズの連続ですなぁ」

 「ううむ……」

 「大丈夫かなぁ……」

 「…………」 (艦長は頭痛そうにしてました)
 
 みんな言いたい放題でした。格納庫ではもっと毒舌が飛んでましたけど……

 「いわゆる輪廻転生ってやつかもね」

 とミナトさんが宗教哲学的に教えてくれましたが、別人とはいえムネタケ少佐の話題で艦内がもちきりになるのも無理がありません。

 だってねぇ、いろいろと……

 ですが、私たちが思っているより「ムネタケ少佐」は「ムネタケ提督」より優秀みたいです。名前と顔がほぼ一緒なのはいただけませんが、中身と口調はまったく別人でした。

 そして何よりも私たちのピンチを目撃して艦隊に応援を求めたのが他ならぬムネタケ少佐だったんです。

 ウランフ提督と同じで命の恩人ってことです。

 みんな皮肉っぽく感じたのか微妙な顔してましたけど……






U

 お昼になりました。

 今のところナデシコは順調に航行を続けています。ナデシコの先を行く「アキヅキ」の艦尾が肉眼でも艦窓からよく見えます。

 「大丈夫かな?」

 ジュンさんが呟きました。まわりのみんなも同じような顔です。

 そう思うのには理由があるわけで……ええ、人が問題じゃありません。

 アキヅキって旧型の駆逐艦だそうです。ヴァンフリーで監視衛星の設置作業中に機関トラブルを起こして漂流していたみたいだし、また故障するんじゃないかって一抹の不安があるわけです。

 ウランフ提督は問題ないって言ってましたから、きっと問題はないんでしょうけど、少佐があの人にそっくりだからどうも過度の不安に駆られてしまう節があります。

 あっ、人は関係ありませんでしたねw


 ──13時です。

 アキヅキから最初の定時連絡が入りました。

 通信画面に映ったムネタケ少佐を見て、艦長代理のジュンさんは思わず身構えました。
ムネタケ少佐はジュンさんの緊張をよそにきびきびと用件を伝え、前世の人物からは想像も出来ないような丁寧な敬礼をして通信を閉じました。

 「まあ、なんと仰いますか、因果ですねぇ……」

 プロスペクターさんがしみじみと呟くと、みんなが一斉に頷きました。なんか笑っている人もいましたが、あえて個人名を挙げることはやめておきます。


 みんながまたまた言いたいことを一通り言ったあとは交代で昼食です。

 私は早い当直なのでミナトさんと一緒に食堂に足を運びました。途中、ミナトさんがふと私に尋ねました。

 「そういえば艦長は先に食堂に行っちゃったけど、何かあったのかしら?」

 「たぶん、アキトさんに差し入れを持っていくのでホウメイさんに何か作ってもらうためだと思います」

 「ああ、なるほどね。アキトくん、ずっと部屋から出られないみたいだからねぇ、食事してないわよね」

 「はい。昨日ホウメイさんが差し入れをお昼にもって行った以外はいろいろあって何ももって行ってないみたいでした」

 「あらら、彼もたいへんね」

 それからごく普通に昼食を終えて艦橋に戻る途中、通路で艦長とばったり会いました。両手にはお盆と大きなお皿が乗ってます。

 「あっ、二人ともブリッジに戻るのかな?」

 「まあね。艦長の首尾はどうだったのかしら?」

 「うーん、とりあえずアキトに差し入れもって行って、ラピスちゃんが寝ていたからすこし話とかしたかなぁ……」

 「そう。でもなんかひと悶着あったみたいね」

 艦長は急に驚いた表情になりました。わかりやすすぎです。

 「どうやら図星ね」

 「うっ…………」

 ミナトさん、かま賭けが成功したのでちょっと嬉しそう。でも艦長はなんか泣きそうな顔してます。

 「まあ、まあ、年上のお姉さんとして何があったのか聞いてあげるわよ」

 「うう……ミナトさん」

 というわけで、しばらく歩きながら艦長の話(愚痴)を聞くことになりました。アキトさんに差し入れを持って行ったのはいいけれど、そのあとラピスに邪魔されたみたいでした。

 幼い少女と争っても仕方がないので最終的に艦長から先に身を引いて部屋を出てきたとか。

 「ふうん、意外にやるわね、あの子」

 「やるっていうか、なんていうか……アキト取られないか心配……」

 艦長、思わぬ伏兵の出現に困惑気味です。「伏兵」っていう表現が正しいかどうかはわかりませんけど、

 「子供があいてじゃねぇ……」

 とミナトさんが言うように正面からぶつかるっていうのは無理があります。

 「でも、まあよく考えてみなさいよ。アキトくんがラピスちゃんを気にかけるのは遺跡で彼女を助けた責任感みたいなもんでしょ? まあ保護者気質かな?
 イネスさんから聞いたけど、ラピスちゃんがアキトくんに依存するのって彼のことを保護者だと思ってるからみたいだし、そのうちひとり立ちするわよ」

 泣きべそ気味の艦長はどうもそうとは思いませんでした。

 「それっていつ? いつラピスちゃんはアキトから離れてくれるの? ユリカ待ってらんないよぉ!」

 うっとおしくなってきました。うるうる目で何かを訴えてきます。協力してほしいって感じですけど、なにに協力するのやら?

 艦長にはもう少し大人になって思考をもう一歩進めてほしいものです。

 「艦長はアキトさんのことが信じられないんですか?」

 ちょっとありきたりで卑怯な言い方でしたが効果はありました。艦長は驚いたような顔をして私に視線を向けます。

 「艦長に対するアキトさんの気持が薄っぺらだとおもうんですか? アキトさんに対する艦長の気持もライバルにならないような子供が出てきて揺らぐ程度のことだったんですか?」

 「…………」

 「あの子がアキトさんを慕うのはずっとずっと一人だったからだと思うんです。会社の研究所で友達も居なくて一人で施設にいたんです。そして置き去りにされてしまった……
 あの子はアキトさんに発見されるまで今度は誰もいない火星の遺跡の中でたった一人で一年近くもがんばっていたんです。たとえ遺跡が作り出したコールドスリープの中にいたとしても、とっても不安だったはずです」

 ここでちょっと艦長をチラ見すると、さっきまでとは様子が違ってました。なんていうのか「大人を取り戻した」って感じ。

 「うん、ルリちゃんの言うとおりだよね」

 艦長、そう呟いたかと思うといきなり拳を天井に向けました。お盆が落ちそうです。

 「うん。ラピスちゃんはすっごく寂しい思いをしてきたんだよね。そこにアキトが颯爽と現れて孤独な自分を救出してくれたんだよね。アキトは優しいからラピスちゃんはすぐに心を開いたんだと思うし、だから甘えたいんだぁ……
 あの子にとってアキトは白馬の王子様なんだよね──本当は私の王子様だけど……私、ラピスちゃんの気持も考えずに大人気ないことしちゃったなぁ……」

 一気に一人で悟り開きました。こっちもわざわざ諭す必要がなくなりましたけど。艦長って頭がいいんだか単純なんだかわかりません。楽天家で前向きであることは間違いありませんけど……

 「私はアキトのこと信じる。アキトも私のこと信じてる!」

 艦長は急にテンションが上がったのか、食堂に向って全力で走っていきました。たくましい人です。

 「なかなかやるわね、ルリルリ」

 ミナトさんが私にウインクします。

 ちょっと生意気なことを言って気恥ずかしさもありますが、終わりよければ全てよしってことでいいですよね?

 とりあえず安心ですか?






V

 「ではルリさん、16時にミーティングルームへいらしてください。全乗員にかかわるとても大事な用件ですから必ずいらしてくださいね」

 そんな通信がプロスペクターさんからあったのは、アキヅキからの二度目の定時連絡が終了した一時間後くらいでした。

 「なんだろう?」

 と思いましたが、とても重要なことみたいですので、私は仕方がないのでミーティングルームに向うことにしました。

 「それにしても全乗員に関係することってなに?」

 ナデシコに重大な問題が生じたのか、はたまた艦長が何かやらかしたのか、それとも突然ジャンプできるようになったとか?

 「行けばわかるわよね?」

 私は好奇心半分、めんどくささ半分でミーティングルームに足を踏み入れ、

 「やあ、ルリさん。お待ちしていましたよ」

 ──プロスペクターさん以外の面子を見て後悔しました。

 だって、長方形の机を囲んでいたのは他にイネスさん、艦長、ゴートさんだったから。

 「これってもしかして……」

 いやな予感がしたので後ずさりしようとしましたが、イネスさんが後ろから私の背中を押して強制着座させられてしまいます。

 「ではルリさんも来たことですし、さっそく始めましょう」

 音頭をとるプロスペクターさんは妙に楽しそうです。

 ──で、やっぱり嫌な予感は当たってしまいました。

 スクリーンに映った映像はどこかで見たことがあると思ったら、これ、私がプロスペクターさんに頼まれてコピーしたやつです。

 しかもイネスさんがみんなに配った冊子の表題はでかでかと、

 「新・なぜなにナデシコ同盟編」

 ──でした。人目でわかる単純明快さに反発を覚えるのは私だけ?

 同盟さんのデーターをコピーしたのはこういうことだったみたい。ちゃんと内容を聞くべきでした。知っていたら渡さなかったのに……自分のうかつさに自己嫌悪です。

 さて、その趣旨はなぜなにで「同盟さんの基本的な知識を身につけちゃおう」ってこと。

 プロスペクターさんが言うように、現実問題として一人一人に閲覧させるのは無理があるし、知識が偏る可能性もあれば、中にはまったく見ない人も出てくるはず。

 そこでクルー全員に均一な知識を身につけさせ、なおかつ全員に学ばせるには「なぜなに」しかないとかなんとか……

 以前、「なぜなに」を艦内放送したときは視聴率が100パーセントでした。プロスペクターさんは「なぜなに」のおかげで乗員の知識と理解力が向上したって信じているみたい。

 たしかに否定はしません。その凄さを実感したのは説明役の私とアシスタント役の艦長でしたから。

 またコスプレとかさせられるのかな?

 艦長がその点をプロスペクターさんに尋ねたら「以前のようにはなりません」と答えてましたが、それってかなりあいまいな発言です。

 残念ながら私と艦長に拒否権はないようでした。しっかりと責務を果たしてください、ってプロスペクターさんに迫力のある眼差しで言われちゃいました。

 ま、いっか。前回もそうだけど今回も特にすることもないし……

 結局、その日の夕方以降は「なぜなに」の説明と打ち合わせで終わってしまいました。

 明日、さっそくリハするそうです。

 そしてなぜか第一回目の放送は明日のお昼過ぎにすでに決まってました。

 なんか今夜は眠れないかもしれません。



──宇宙暦795年、標準暦10月4日──
 
 出演する私と艦長の朝は大忙しでした。朝食もままならないままスタジオと化したミーティングルームに向いました。

 「お二人とも、おはようございます。では向こうに衣装を用意していますから、さっそく着替えてください」

 プロスペクターさんが笑顔で案内します。私たちが部屋を横切ると、スクリーンの前にはカメラを調整中のイネスさんとそれを手伝うゴートさんの姿がありました。

 私たちは、愛想笑いで受け流しつつ「衣装部屋」と張り紙のある小ミーティングルームに入りました。

 ──25分後──

 「ではルリさん、艦長。資料映像を流しますから、一通りのリハーサルを行いましょう」

 着替えの終わった私たちにプロスペクターさんのおき楽そうな言葉が投げかけられます。

 「ええと、わかりましたけど。今回はどういうシチュで私たちはこの格好なんですか?」

 艦長が私と自分の衣装を交互に見やって顔を赤くしました。

 たしかに……というより嫌な予感は的中です。

 きっちり着こんでいまさらですが、やっぱり嫌な予感は的中したんです。

 プロスペクターさんはにこやかに応じて答えました。

 「どういう──と仰られましても、今回は前回と違ってかなりマシだと思うのですが?」

 ちなみに私は髪をアップにまとめられ、衣装は黒地の婦人スーツにどういうわけか赤い縁取りの伊達眼鏡を掛けさせられてます。足元は黒いヒールです。11歳の子供にサイズがぴったり合う婦人スーツやヒールってどこにあったんだか……

 「まあ、ルリちゃんは歴史学の美少女講師役というところです。こう、クールな感じの……」

 私が先生ねぇ……

 普通は逆じゃないって思うんだけど。

 「えーと……ルリちゃんが先生って言うのは理解できますけど、それなら私は学生さんじゃないかって思いますけど?」

 艦長は視線を下げ、右から左に自分の衣装をざっと確認します。頭にはホワイトプリム、ムネが強調された黒っぽいヒラヒラのあるワンピース、白いドロワーズに黒いハイヒール。そして白いエプロンです。



 こだわりは袖のズリ落ちを抑える赤いリボンが巻かれていることでしょうか?

 「あのう、これってどう見てみてもメイドさんですよね?」

 「そうですよ」

 プロスさんは真顔で即答しました。艦長は目が点です。

 「おほん、当初はお嬢様とそのメイドさんでいこうとしたのですが、それだと捻りがないですし、資料の説明をお嬢さまが行うというのもおかしいのでルリさんは美少女講師に変更させていただきました。
 ですがルリさんの補助を行う艦長は初期設定のメイドさんで問題ないだろうと、ご変更はありません。では始めましょう」

 私たちに一言も挟ませない強引ぶりです。プロスペクターさんを支援するようにカメラを構えたイネスさんが手招きしながら「時間ないわよ」って目で訴えます。

 結局、押し切られました。艦長もナデシコの責任者として仕方がないって言い聞かせたようでした。

 艦長、そいうところは押しがいまいちです。

 それにしても少女講師にメイドさん設定って……

 プロスペクターさんの趣味なのか、たんなる面白半分なのか、まさか男性クルーのリクエストとか?

 もしそうならナデシコの人間って、やっぱり変人も多いです。


 リハは映像を流しながら台本に沿って行われました。解説の仕方や演出、BGMが流れたときにリアクションとか、細かい部分に及びました。難しくて長い説明はゴートさんがカンペしてくれます。

 こうして休憩を挟み、艦内時間0時30分にメグミさんのアナウンスが終わると、ついに「新・なぜなにナデシコ同盟編」は始まってしまいました。

 うまくいくかなぁ……






W

 「──というわけでアルタイ星系を氷の船で脱出した40万人の共和主義者の人たちは、途中の惑星内で80隻の恒星間宇宙船を建造し、アーレ・ハイネセン青年の指導の下、長征一万光年と後世に記述される長い長い旅を続けることになります」

 私は、アルタイ第7惑星で共和主義の人たちを叱咤激励するハイネセン氏の資料映像をバックに説明を続けます。

 艦長は、私とは反対側のスクリーンの脇に陣取って営業スマイルです。

 「彼らは銀河の深奥部に進み、その途中でハイネセン氏を事故で失いましたが、親友であるグエン・キム・ホア氏が後継者となり、50年以上を経て新天地であるバーラート星系に根をおろすことになったのです」

 「うへえー、みんな忍耐あるよね。私なんかとっくにおばあちゃんだよ」

 私の説明のあとに艦長の台詞が入りました。リハのときは棒読みでしたが、本番ではちゃんと感情が入ってます。

 資料映像が新天地に降り立った人々に切り替わりました。私は指示棒を片手に説明を続けます。

 「後にハイネセンと名づけられるバーラート第四惑星に降り立った人々の数はたったの16万人でした」

 「大変な旅だったんだね。たくさんの仲間を失ってようやく新天地に辿り着いた人たちは感無量だったよね」

 ここでも艦長が目をうるうるさせて演出です。それを見るプロスペクターさんとイネスさん、なんか満足そう。ゴートさんは顔が赤いけど艦長のメイド姿に萌えてるのかな?

 「長征一万光年という旅の終わりは帝国暦でいうところの218年ですが、民主共和制を掲げて新天地に降り立った人々は宇宙暦を復活させます。ここに自由惑星同盟の成立を宣言しました。宇宙暦527年のことです」

 次に映像が切り替わり、前半部分のキーワードが表示されます。

 「アルタイ星系」「アーレ・ハイネセン」「グエン・キム・ホア」「長征一万光年」「宇宙暦の復活」です。

 私はカメラに向ってまっすぐ指を向けました。

 「みんな、よーく頭に入れておきなさいっ」

 あっ、これってプロスペクターさんの演出に沿った台詞です。(棒読みだけど)後半をちょっときつめに言ってくれって……なんの効果?

 次の資料映像からは、同盟の星系開発やら人口増加政策やら、政治・軍事・経済にわたる同盟さんの取り組みといった国家基盤の構築について順を追って説明していきました。

 ここでのキーワードは「人口増加政策」「惑星開発」「食料自給率向上政策」「同盟軍基幹艦隊」です。

 「特に重要なのは【同盟軍基幹艦隊】です。現在の同盟軍宇宙艦隊の基礎となった戦力です。同盟の人たちが帝国との衝突を想定して建造した最初の艦隊はアーレ・ハイネセン級戦艦8隻でした」

 「へえー、最初はたったの8隻だったんだね。なんか私たちが見た艦隊とは比べ物にならないくらい、まだ規模は小さかったんだね。どのあたりから同盟さんの戦力は飛躍したんだろうね?」

 私の説明の後に続いて艦長がメイドさんらしくフォローします。艦長、ちょっと乗ってきた感じです。

 ですが今日はもうここまでです。

 私はプロスペクターさんの指示どおりのすまし顔である台詞を言いました。

 「次回は同盟さんと帝国軍との接触からはじまるわよ。放送は艦内時間で18時なんだから、必ず見なさいよねっ」(棒読み)

 「ルリ先生、お疲れ様でしたぁ♪ とってもわかりやすい説明でしたぁ♪ スクリーンの前のみんなも次回も絶対に見るんだぞっ!」

 艦長のメイド萌え?で「第1回・新なぜなにナデシコ同盟編」は無事に終了です。




◆◆◆

 「いやー、御二方ともお見事な進行ぶりでしたよ。私は端末から各部署の様子を見ていましたが、みなさん食い入るようにご覧になっていました。今回も成功間違いございません! 次回もお願いいたしますよ」

 プロスペクターさんはこれ以上ないくらいに上機嫌でした。ゴートさんとイネスさんも満足そうに頷いていました。

 でも満足の中身が微妙に違う気がするのは錯覚じゃないと思います。

 私たちが一息つくと、プロスペクターさんが今後のスケジュールを説明しました。

 「次回の放送は予告通りにオンエアーしたいと思いますので、お二人は2時間ほど休憩の後にこちらにいらしてください」

 私と艦長は頷き、着替えを済ませてようやく恥ずかしい放送から解放されました。

 「ふう、なんかあれっていつも倍くらい疲れるんだよねぇ……」

 「ええ、妙な疲労感があります」

 「というか、赤っ恥だよね」

 「でも艦長のメイドさん、とても可愛かったですよ」

 「えっ、そう? それならアキトも見てくれているといいんだけどなぁ……」

 「例外はありませんからアキトさんも部屋で見ているはずです」

 「そ、そうだよね。アキトったらエッチなこと考えてないよね?」

 艦長、いきなり意識が斜めに作用しました。なぜそっち方面に思考が及んだのか謎ですけど……


 食堂に到着しました。

 「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉー!!!!」

 入るなり、整備班の方を中心にはた迷惑な奇声や歓声が幾重にも狭い空間に轟きました。「あちゃー」って感じです。

 「ルリルリの眼鏡っ娘、もう最高ぉぉぉっ!! 俺たちさらにファンになったよぉ!」

 「艦長ぉぉぉぉおっ! 俺たちが間違ってました! ナデシコのアイドルはあなたですっ!!」

 「ルリルリ美少女ツンデレ講師最強ぉぉぉおっ! 突き放すセリフとか、まじゾクゾクしたぜ!」

 「艦長のメイド萌え昇天でしたっ! 俺たちは今日のときめきを一生忘れませんっ!」

 「ルリちゃああああーん!! ルリさまっ! あのハイヒールで俺たちを虐げてくださいっ!」

 「艦長ぉぉぉおぉー、俺たちは何処までもあなたの下僕でいいですっ!」

 「むおぉぉおぉ、美少女講師ぃぃぃい! メイドぉおおっ!」

 凄まじいまでの「ばかばっか」の反応ですが、誰も放送の内容に言及していません……

 ほんとに大丈夫かな? なぜなに失敗じゃないですか?





 ……TO BE CONTINUED

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 あとがき

 空乃涼です。ルリっちの日誌も五作目になりました。

 そしてついに「なぜなにナデシコ」が始まりました。本編で会議の様子を書いたときに
「ぜひ」というメッセージをいただいたんですが、その読者さんがまだ読んでくれているか
は微妙です。あと何処まではっちゃけていいか悩んだのですが、自重しておきました。

 正直、文による「なぜなに」はうまくいったのか心配でもあります(汗 

 ちなみに最後のほうの男性クルーたちの叫びを読み直すと「なぜか背筋が寒くなります」

 そして挿絵も引き続き近衛刀さんです。

 次はどんな挿絵がSSを飾るのか、次回も内容と同じくお待ちいただければと思います。

 今回依頼したユリカとルリのコスプレ衣装もGJ×10といわざる得ません!

 絵師さんにもメッセージあればお願いします。

 
 ちなみに、本編の再開にも目処が付きつつあります。いずれにせよ、異名の投票後になりそうです。

 

 2010年6月10日 ──涼──

 誤字および微調整と一部文を加筆しました。
 2011年6月2日──涼──


 (異名募集の記述を削除しました)


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