―――一の殺人は悪漢を、百万の殺人は英雄を生む。数量が神聖化するのである。
はてさて、ふと考えてみたのだが俺が今までに殺した人間は何人だろうか?
正直わからない。俺が狙撃したKMFのパイロットが脱出したあとどうなったとか、破壊した戦闘車両や建物に人がどのくらい居たかなんて分かる訳がない。
しかし、この言葉はある意味において正しく、ある意味においては正しくない。
例え万の人間を殺したとしても、それが"国"という組織において利となるか不利益となるかで、その価値は異なる。
無駄に万を殺せば単なる虐殺であり、蛮行である。
しかし戦場で万の敵兵を殺せば、それは間違いなく英雄と、そう呼ばれるだろう。
そして俺の次なる上官は、正にブリタニアという国家における"英雄"の一人だ。








「本日より親衛隊に転属となった、レナード・エニアグラム大尉であります!」

「うむ。久しいなレナード大尉。」

今、俺の目の前にはコーネリア殿下が堂々と立っている。
隠し切れないオーラは、初対面の者ならば自然に畏怖させてしまう魔力を持っていた。
もっとも、俺の場合は幼少の頃から面識があるのでそうはならないが。

「さて、もうお前も面識はあるだろうが。
念のため紹介しよう。
私の補佐を勤めるアンドレアス・ダールトンだ。」

コーネリア殿下の言葉に従い一際大柄の壮年が前に出る。
この人とは面識があった。

「久し振りだな、レナード。
今後は宜しく頼むぞ。」

巨木の如くどっしりと構えているのは、アンドレアス・ダールトン将軍。
軍事だけじゃなく、他のあらゆる面でも秀でた能力を持つコーネリア殿下の腹心。
またかなりの強面だが、部下にも厳しさの中に優しさがあり、実は孤児院に援助を行うなど、懐の広い人だ。

ダールトン将軍と会うのは、もう五年ぶりか。
ちなみに幼少期の俺のダールトン将軍への印象は、強面のおっさん、である。
…………今思えばかなり無礼だ。

「そして、私の騎士。
ギルフォードだ。」

「君のエリア11での戦果は聞いている。
なんでも姫様とも面識があるとも…。
これからは私が君の直接的上官となる。
宜しく頼むぞ、レナード卿。」

「ええ、こちらこそ。
宜しくお願いします。」

差し出された手を握り握手をする。
この人が殿下の騎士……。
ギルバート・G・P・ギルフォード。
『帝国の先槍』の異名は本国でもよく知られている。

ギルフォード卿の言う通り、親衛隊に配属された俺は、殿下の騎士であり親衛隊隊長の彼の部下ということになるのだろう。
よし。なにはともあれ良い上官に恵まれた、と思う。
少なくともジェレミア卿の下にいたヴィレッタ卿並みの苦労はしなくてよさそうだ。
あれはかなり苦労してそうだったからな。

「しかし、あの洟垂れ小僧が大きくなったものだ。」

「将軍、昔の事は言わないで下さい。」

「そういうな。
貴様が子供のころ、よく私に向かってゴリラだのなんだの言っていた事を思い出してたのだ。
それが今では親衛隊の一員として私の部下になるのだからな。
感慨深くもなる。」

「まったくだ。
そういえば、夜中に私のベッドに潜り込んで来た時もあったな。
あの時は驚いたぞ。
不埒物が紛れ込んだと重い、つい切り殺しそうになったからな。」

何故か場は俺の昔話で盛り上がっている。
なに、この状況。
どうして転属早々こんな羞恥心を感じなければならないのか。

いや、一つ弁明させてもらうが、全て子供の時のことだ。
そうだ。
人間誰しも子供の頃は無茶をやるものだ。

例えば落とし穴を掘ってルルーシュ(皇子)を罠に嵌めて大爆笑したり、皇帝陛下の写真に落書きしたり、ナナリーをからかいまくった挙句にプッツンしたナナリーのボディブローをモロに喰らい気絶したりなど―――――――――。

あれ、不敬罪一歩手前どころか、十歩くらい踏み込んでる気がするのは何故だろうか。
と、兎も角だ。
そういった事の多くは、余り分別のなかった子供だからこその行いであり、現在の俺は断じてそんな事はしない。
寧ろ、軍務に忠実、軍人の鑑………は言い過ぎだが、わりと真面目な部類なのだ。
少なくともルキアーノよりは。

「そういえば、勝手にアリエス宮を抜け出して、テロリストの一味と勘違いされ連行されそうになった事もあるな。」

「はい。確かその時は偶然その場に居合わせたギネヴィア皇女殿下が身元を保証したのでしたな。」

「姉上は憤慨していたがな。
『ユーフェミアの遊び役として招くのもいいが、勝手に出歩かせるとはどういう了見だ』と。」

いや、もう止めてください。
…………本当に。

もう俺のライフはゼロよ、勝負はついたのよ!

しかしそんな俺の心の叫びは聞こえなかったようで、二人は更に俺の恥ずかしい過去を暴露していく。
おまけに相手が相手だけに、強く指摘する事も出来ない。
数分はそんな苦しい時間が続いただろうか?
そこでようやく、

「殿下、そろそろ――――――」

ギルフォード卿が殿下に耳打ちした為、会話が終了した。
ナイスだ、ギルフォード卿!
今度、コーネリア殿下の失敗談を教えてあげよう。
………喜んでくれるかな?




所変わって作戦会議室。
先程の和やかな雰囲気は完全に拭い去り、集まった全員が厳しい、武人の顔をする。

「では早速だが、次の作戦を説明する。」

切り替えが早い。
流石はコーネリア殿下というべきか…。

コーネリア殿下がそう言うや否や、ダールトン将軍を始めとする臣下達が更にピリリと引き締まる。
少し弛んだ雰囲気だったエリア11の軍とは大違いだ。
これがブリタニア軍屈指の実力を持つとされるコーネリア殿下の軍なのだろう。

「EUの軍勢はポイントC3にて拠点を構えている。
滞空防御は厚くミサイルでの殲滅は難しいと思われる。
よって我が軍はKMFにより包囲しこれを殲滅する。」

こちらの勢力図が簡潔に表されたモニタを見る。
どうやら中々芳しくはない。
勢力図は正に一進一退。
ブリタニア側がポイントA6を抑えれば、EU側がポイントE7を狙う、というような。
しかも最近になってEUも鹵獲したグラスゴーをコピーした機体を大量配備しているので、KMFでの優位も数年前よりかは望めない。

だからこそ、この激戦地に送られたのがブリタニア側の切り札であるコーネリア殿下なのだ。
戦乙女とも畏怖される彼女は、その渾名の指し示す通り戦場において多大なる戦果をあげている。
しかも後方にはシュナイゼル殿下が指揮を執っているのだ。

コーネリア殿下という最強の剣。
そしてシュナイゼル殿下という最高の頭脳。
漸くブリタニアも本腰を入れてきたという証だろう。

そして今回。
コーネリア殿下の選んだ作戦目標、ポイントC3.
そこはEUでもかなりの軍勢を有する一大拠点であり、今まで何度もブリタニア軍が攻撃を仕掛けたが、落ちる気配すら見せてはいない。

もし殿下がここを落とせば、ブリタニアの勝利に大きく近づける事だろう。
逆に言えば殿下ですら此処を落とせなければ、ブリタニアの士気は低下し不利になってしまう。

「レナード。」

「はっ!」

「お前は今回は私の直轄だ。
コーネリアと共に戦場を駆け大功をたてよ。」

「イエス、ユア・ハイネス。」

「エニアグラム卿の名に恥じぬ戦いをしろよ。
―――――――以上だ。」

思わず胸が熱くなるのを感じた。
コーネリア殿下という最高の上官の下で戦う事に喜びを感じているのだ。
これから戦う相手はエリア11で相手にしていたようなテロリストではない。
訓練を受けてきた正規の軍人。
戦いも更に苛烈なものになるだろう。

俺は新たなる覚悟を秘め、自分に与えられたKMFのもとへと向かった。



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