―――すべての残忍性は臆病から生ず。
昔、母に「レナードは勇気があるね」と言われた事がある。
それは大きな間違いだ。
俺は別に勇敢でもなんでもない。ただの臆病者だ。
だからこそ、たぶん。
勇敢な軍人よりも、残忍になれるのかもしれない。







SIDE:レナード



「――――――お前、どこに向かってるんだよ。」

グロースターのコックピット内でフランカが忌々しげに文句を言う。
何も事情もせず連れ回したからな。
そろそろ、怒りが最高潮に達しているのかもしれない。

「…偶然、辺りを調べていたらKMFを持つ一個小隊を見つけた、EUのな。
そこを襲う。」

「一個小隊だって!?」

「ああ。グラスゴーもどきが三機いる。
上手くいけばエナジーを抜き取って補給できるかもしれないしな。
これを逃す手は無い。」

EUのナイトメアといえど、基本フレームはグラスゴーと同一の筈だ。
フランカのグラスゴーもどきもそうだったからな。
だから、EUのグラスゴーからエナジーを摘出すれば、もしかしたらグラスゴーと適合する、かもしれない。

「さて、悪いけどフランカ。
お前は此処においていくぞ。」

「あっ、こら!」

無理矢理、フランカをグロースターから下ろす。
止むを得ずフランカをグロースターの手に乗せてきたが、あれだけ文句が言えるなら問題はなかっただろう。

「おまえ……これから、どうするつもりだ!」

「どうするって、さっき言っただろう?
一個小隊を撃滅しに行くんだよ。」

「無茶だ!おまえ一人で小隊に挑むつもりかっ。」

「小隊といっても、ナイトメアは三機だけだ。
後は歩兵。なら幾らでもやり様はある。」

「………………」

前回の戦いでEUのナイトメアの動きを見たが……………あれは駄目だ。
やっぱりというか、なんというか。
ナイトメアはブリタニアが開発し実戦配備した兵器だ。
機体は兎も角、それを扱うパイロットまでは用意できなかったのだろう。
結果としてEUのナイトメアの殆どはお粗末な動きだった。
戦いは数だ、というのは間違いではない。
しかし錬度が疎かな兵士ほど戦場で役立たずな存在はないのだ。

「それで、その小隊の人たちはどうするんだ?
……私みたいに捕虜に?」

フランカの言葉には、嘆願の色が込められていた。
しかし、それは残念ながら、

「一人や二人なら兎も角。
相手はナイトメア抜きにしたら五十人くらいだ。
生かしておくのは、精々一人か二人だよ。」

「くっ……」

悔しげに俯く。
心底、悔しいのだろう。
恨めしいのだろう。
だが、容赦は出来ない。

だからこそ、俺はこんな、
本当に余計な事を言ってしまったのだ。

「……この戦争も、EU側の頼みの綱のシードを討てば大局は決まる。
そうしたら、お前の事だって解放してやるさ。
故郷には親だっているんだろ?
じゃあな。生きてたら会おう。」

グロースターを走らせる。
フランカの、彼女を見ないままに。

なんでこの時、もっと彼女を注意しておかなかったのだろうか。
どうしてこの時、もっと―――――――――。




 「いたな。」

岩陰に隠れる。
視線の先に居るのはグラスゴー三機が護衛する一個小隊。
何故、こんな場所に小隊一つがいるのかは不明だが、これを活かさない手はない。

ライフルを照準する。
狙うのは最も偉そうな奴。
つまりは指揮官だ。

一人、一人、進む兵士達を吟味する。
そして、中尉の階級章がある色黒の男、そいつに決めた。

指揮官の頭が突然吹っ飛べば、大抵の兵士は混乱する。
それこそ、よっぽど熟練した相手でもない限り。

距離は、1000m。無風。快晴。
これならば楽勝だ。
逆立ち下って外しはしない。
もし外したら、狙撃手の看板は下ろさなくちゃいけないだろう。

狙いを定めた男が、絶好のポイントに来るまで待つ。
中尉の階級章をつけたその男は、なにやら笑いながら他の兵士と話している。
なんだか紙切れを見せている。流石に紙切れの中身までは見れないが、様子からして軍の書類とかではなさそうだ。
さて、ポイントに到達したな。

バンッ

解き放たれた弾丸はイメージ通りに飛び、そして男の脳天を吹っ飛ばした。
飛び散る血液と脳症。
他の兵士達は呆けたように口を開き、慌てた。

「やったぜ。」

そして、それこそが絶好のチャンス。
急いでグロースターに乗り込む。
あらゆる動作過程をすっ飛ばし即座に起動。
そのまま、敵小隊に奇襲を掛けた。

『て、敵だって!?
そんな、聞いてないぞそんな情報!』

『おい、落ち着け!
急いで体勢を―――――――』

冷静に物事を判断しようと勤めていたグロースターをランスで即座に破壊する。
そうなると、もう指揮系統も何もない。

『てめええええええええええええっ!!よくもケビンをォ!』

怒り狂ったグラスゴーが突進してくる。
しかし技量も疎かで怒り狂われたところで、大した脅威ではない。
寧ろ、冷静さを失ったぶん倒しやすい。

軽くグロースターを動かし、足を突き出す。
するとグラスゴーはあっさりと転倒した。
なんて事はない。
ただ子供でも出来る"足を引っ掛けて転ばす"という動作をナイトメアでやっただけだ。
ランスを使う必要もない。
アサルトライフルを数発だけコックピットに撃ち込む。

これで残り一機。
どうやら最後に残った奴は怯えてるようだ。

「ふんっ。」

俺が近付くと、ヤケクソになったグラスゴーが無茶苦茶にアサルトライフルを連射する。
こんなの大した事は無いが、後々の事も考えれば、ただの一発も被弾しない方がいいだろう。
アサルトライフル、と見せかけてスラッシュハーケンをノーモーションで喰らわす。
大破には至らないが、それでも動きを止めるには十分。
隙をついてランスを構え突進し、最後のグラスゴーを破壊した。

「さて、後は歩兵を―――――――――――ってあれ?」

何故か見渡す限り歩兵の死体。
何時の間に、こんな事になったんだ。

少しだけ疑問に思ったが、その理由は直ぐに心当たりがついた。
大方、最後のグラスゴーが無茶苦茶に撃った弾丸が、歩兵達を一人残らず撃ち殺してしまった、というところだろう。

生命反応もゼロ。
どうやら本当に生存者はいないようだ。

「仕方ない。
下りて確認するか。」

ハッチを空けて外に出る。
出来上がった死体の臭いが鼻につく。
さてと、何か持ってないだろうか。

試しに最初に撃ち殺した中尉の死体の所に来た。
偶然にも、中尉の所には弾丸が飛んでこなかったようで、死体は、頭以外は綺麗なものだ。
手に何か握り締めている。
なんだろうと思い、手を開くと、

「こりゃ、写真か。」

写真には中尉と妙齢の女性。
そして中尉に肩車された少年が写っていた。
たぶん、彼の家族だろう。

「たっく、軍人も因果な職業だ。」

フランカとの会話で、ナーバスになっていたようだ。
せめてもの礼儀として、写真を中尉の手に戻し、調査を再開する。
だが、その写真を戻した時、懐に何かが入っているのを発見した。
念の為手にとって見ると、手紙だった。
それもEUきっての名将、テオ・シードが本部へと向けた―――――。

「おいおい、マジかよ……。」

内容は、簡潔に言えば応援の要請だ。
なんでも、この手紙によればテオ・シードが指揮する基地は、各地のポイントに部隊を送ったり、ブリタニア軍の執拗な攻撃にあったりで、ナイトメア含む兵器がかなり足りないそうだ。
しかも、ここに嬉しい情報が書かれていた。
手紙の中に記されていた一文「コーネリア率いるブリタニア軍によって」
つまり殿下は生きておられるという事だ。
よかった。胸のつっかえが一つ取れた。

「俺も早く、本隊と合流しないとな………」

二日ほど会っていないだけなのに、もう何年も別れているような錯覚さえ覚える。
この空の下で今も戦ってるであろうコーネリア殿下を思い浮かべ、静かに決意を固めた。






 色々あったが、作戦は大成功だ。
不運な事に地図は手に入らなかったが(たぶん小隊の中に地理に詳しい男がいたのだろう。本当に惜しい事をした)その変わり重要な情報を手に入れた。
この情報をコーネリア殿下の下に届ければ、戦況は変わるかもしれない。

「エナジーも回復したし、これで。」

俺は一機のグラスゴーからエナジーフィラーを奪取する事に成功。
予想通りグラスゴーのエナジーフィラーはグロースターの規格にも合った。
唯一予想外だったのは、他の二機は余りに損傷が大きすぎてエナジーフィラーがお釈迦になっていたことくらいだろう。

「到着っと。」

ハッチを開き外に出た。
やはり一仕事すると疲れる。
空は既に赤くなっていた。
もう一二時間もしたら暗くなっていくだろう。
……そういえばフランカの姿が見当たらない。

「おい、フランカーー。
どこにいるんだ?」

はて、どこに行ったのだろう。
拘束されているので、そう遠くには行けない筈だが。

「動くな。」

「!」

振り向くと、そこに彼女はいた。
先程別れた時とは違う。
そう、最初に会って直ぐの、冷たい表情で。

ただ静かに、銃を俺に向けていた。



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