とある魔術の未元物質
SCHOOL12  クール セキュリティー


―――歳月は人を待たず。
時間と言うのは決して待ってはくれない。どんなに偉い王の命令だったとしても、どんなに優れた人格者の頼みだったとしても、時計は残酷に時を刻む。恐らくは、この世界が終焉を迎えるその時まで。時間の波に乗れぬ者は、いずれ脱落する。











 この学園都市には表の住人の知らぬ『闇』がある。
 ″ただの″人体実験などまだ生易しい。脳を三分割、他人の演算パターンの刷り込み、危険な薬物の実験投与、脳味噌の入れ替え、強引な能力の底上げ、人体の改造、遺伝子操作、AIM拡散力場への強制干渉、能力の意図的な暴走。数えればキリのない程の実験と称した殺戮が、今日もどこかで行われている。それがこの学園都市の裏側だ。
 そんな学園都市の『闇』に存在する暗部組織の一つ、『スクール』のリーダーである垣根帝督はその中の一つに触れて、壊れた。そんな最下層の『闇』に堕ちた垣根だが、彼なりに成し遂げたい目的と為すべき理由があり、日々を生きているのだ。

 そんな折に出会った一人の少女、インデックス。
 驚くべきことに彼女は、十万三千冊もの魔道書を宿しているという。
 初めはただ利用する気だった。この『科学』の世界で『魔術』という未知の法則を知る事は有利になる、そう思っての行動だった。相手の知らない事を知っている、というのはそれだけでアドバンテージとなるのだから。それだけの筈だったのだ。

「垣根帝督。帰ったのですか?」

 帰ってきた垣根を出迎えたのは神裂だった。
 インデックスの記憶消去の為に、残っていたのだろう。そんな神裂を垣根は無視して、インデックスの腕を引きながら部屋に入る。けれど途中カクンとインデックスの体が倒れた。

「危ないっ!」

 だが力を失い地面に倒れる筈だったインデックスを、どうにか寸前で神裂が受け止める。

「うっ……」

 インデックスはうめき声をあげた。

「限界のようだね。一年前よりも少し早い。
たぶん今日の疲れが出たんだろう。この様子だと随分と今日一日遊びまわったようだ」

「兎に角、彼女をベッドまで運びましょう」

 『首輪』の影響で倒れたインデックスは、まるで40℃の高熱に魘されているかのように辛そうだ。成程、こんな状態のインデックスを見れば、脳科学に疎い魔術師が十万三千冊の魔道書が脳を圧迫して云々を信じてしまうのも無理はないかもしれない。

「…………おい神裂。インデックスを着替えさせろ」

「はい? しかし記憶消去ならば『歩く教会』を着ていても……」

「そうじゃねえよ。今からその面倒な『首輪』ってのを、俺が木端微塵にぶち壊すのに邪魔だから着替えさせろって言ってんだよ、ボケナス」

「無茶です。彼女を縛る『首輪』は私とステイルが三日かけても解く為の糸口すら掴めなかったほど難解な術式で編まれているんですよ」

「垣根帝督。君がこの街で二番目の能力者だということは知っている。
だが幾ら科学のエキスパートだろうが、これは魔術の問題だ。自慢する訳じゃないが、僕も神裂もそこそこの魔術師だ。その僕等が解けない『首輪』を、魔術を知らない君が解ける筈がないだろう。不可能だ」

 確かにステイルの言っている事は正しい。
 垣根は魔術については完全な門外漢だ。魔術なんて言われてもパッと出てくるイメージは、とんがり帽子の魔女が箒に乗って飛んでたり、へんてこな呪文を唱えたら火が出てくると言ったような、世間一般で言う漫画や小説などのもにしかない。

 そんな垣根が魔術によって編まれた『首輪』を解くなど、医者が自動車を修理するようなものだ。完全にジャンルが違う。どんな優れた名医だろうと、自動車の治療は出来ないのと同じ。どんな優れた超能力者だろうと、魔術による呪いを解くことは出来ない。それが当たり前に存在する『常識』だ。

「知った事かよ」

「やめて下さい。下手に干渉すれば彼女だけではありません。貴方まで大変なことになるかもしれないのですよ!」

「だから関係ねえんだよ。テメエら魔術師が『不可能』って叫ぼうと――――――――」

 そうだ、思い出せ。
 自分はどういう能力者だ。学園都市第二位の超能力者はどんな存在だ。

「この垣根帝督に、不可能なんて文字は存在しねえんだよ」

 辛そうなインデックスを抱きかかえ神裂に渡した。

「ていとく……」

「いいから眠っとけ。テメエが起きる事には全て終わってるんだからな。
それとも今更ビビッてんのか?」

「ううん。信じてるから」

 そう最後に言うと、インデックスは意識を手放した。
 今日の疲れと『首輪』による圧迫が限界に来たのだろう。
 
「本気ですか、垣根帝督?」

「当たり前だろうが。さっさと準備しやがれ。
それとも俺にこの餓鬼をひん剥いてほしいのか?」

「……分かりました。貴方には恩もある。ここは従いましょう。
ですが決して危険な事はしないと約束して下さい」

「ああ、いいぜ約束してやる。そのガキには危険な事はしねえ」
 
 パジャマに着替えたインデックスをベッドに寝かせると、垣根は何時かと同じように大気中に未元物質を流入していく。だが前と違うのは、その背中に純白の翼があるところだ。この翼は垣根が全力で能力行使しようとすると何故か出てきてしまう物。つまり垣根は″全力″だということだ。

 もしこんな光景を垣根帝督を知る人間が見れば、頭がイカれたか偽物かと思うかもしれない。垣根は善人ではない。学園都市の『暗部』。命が虫けらのように扱われる地獄の最下層で生きてきた悪党だ。そんな悪党が、まるで『ヒーロー』みたいに、呪いに冒された少女を救おうとするなど間違っている。
 
 だからこそ、恐らくこの瞬間。
 垣根帝督という男は、一度死んだのだ。

 神裂とステイルが何かを言っていたが、垣根は完全に無視して、大気中に流入した数万のベクトルからインデックスを縛る『首輪』の正体を逆算していく。
 すると再び辿り着いた。『歩く教会』を解析しようとした時と同じ『UNKNOWN』の扉へ。垣根の中にある本能が警告する。この扉を開くなと。これを開くのは危険だと。前にこの扉を開きかけただけで、恐ろしい頭痛に襲われた。もしも完全に開けば、もしかしたら頭が爆発するかもしれない。
 しかしそんな『常識』に屈していて、何が第二位だ、未元物質だ。
 垣根提督は躊躇せず、その扉を開いた。

「ッがィ…」

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 想像を絶する苦痛が、襲い掛かってきた。
 未知の法則、未知のルールが垣根の脳髄に流れ込んでくる。これが魔術。未元物質とも、能力とも、科学とも違う別の法則によって成り立つ存在。

「が、ハッ――――!」

 吐き気を感じて吐き出すと、それは血だった。
 まるで体中の血液が逆流しているような、そんな感覚。脳味噌や骨がハンマーで殴られている。思わずそう感じてしまった。

「垣根帝督ッ! もう止めてください。それは能力者が触れていいものでは――――――!」

「黙れって言ってんだよ、このアマァ! いいから黙っとけ。テメエ等が屈した常識ってやつが、この俺には通用しねえって事を教えてやるからよおおおおおおおおおおおお!!!!」

 背中にある翼が弾けた。だが消えたのではない。逆だ。前よりも格段に肥大化した白翼は、到底垣根の部屋に収まる者でなく、結果部屋を破壊し外へ飛び出したのだ。

「はは、はははははは」

 渇いた笑いが零れた。どうにか辿り着いた。
 科学とは全く異なる『法則』によって作用する『魔術(オカルト)』。その法則性の一端をどうにか識る。だが具体的な意味までは分からない。当然だ。数学のド素人が難解な計算式を見せられても単なる数字の羅列にしか見えないように、魔術のド素人が『魔術』の法則を見せられても、ただの意味不明な文字の羅列にしか見えないのだ。

 だがそれがどうしたというのだ。
 意味不明な言葉の羅列ならば、その意味を己が脳髄で解明してしまえばいい。暴き尽してしまえばいい。魔術は決してルール無用のオカルトではない。確固とした法則性と理論があり、一定のルールも存在する。解答(ルール)があるならば、必ず答えを導き出す事が出来る。

 そして垣根帝督は『UNKNOWN』の先へと触れた。
 瞬間、魔術と言うものの存在を理解する。今までただのオカルトにしか見えなかった曖昧なものが、自分の中に確固たる現実として認識された。

 だけど不思議と、超能力者が魔術を認識すると言う偉業を成し遂げていながらも、垣根は達成感も爽快感も覚えてはいない。理由など決まっている。自分はまだインデックスの『首輪』を解くと言う不可能を可能にしていない。『不可能』を『可能』にしなければ、学園都市第二位の超能力者は名乗れない。

「上等だぜ、オカルト。今からテメエの常識を塗り替えてやる。腹括りやがれ」

 未元物質から導き出した『首輪』の法則性を、垣根の『自分だけの現実(パーソナルリアリティ)』に入力する。再び吐血したが無視する。
 後は簡単だ。魔術とは法則の塊だ。ルーンにしろ詠唱にしろ、一つ一つの法則を並べていき、巨大な一つの法則を作っている。ならばそれら一つ一つの法則を逆算していき、未元物質で一つ一つの法則を無害なものへと変えてしまえばいい。可能な筈だ。魔術とはいえ所詮はルールによって成り立つものならば、既存のルールを否定する『未元物質(ダークマター)』は有効な筈だ。

 しかし可能と出来るは違う。例え理論上は『可能』であっても、それが本当に成功するかは分からない。大体理論上可能なら全てが成功するならば、世の中の研究者は苦労しない。
 だがそういった意味での不安は、今の垣根にはなかった。ここでいう問題とは『首輪』や未元物質のことではなく、

「グォギィ……」

 垣根自身の体の限界だった。
 能力者には魔術が使えない。正確には能力者が魔術を練ろうとすると、全身に過負荷が掛かるのだ。今の垣根は自らの『自分だけの現実(パーソナルリアリティ)』に魔術という法則を入力し、それを逆算し解こうとしている。だがそんな事をすれば、実際に魔術を行使する事よりはマシにしても、体に反動が帰ってくるのは当然のことだ。

(駄目だ……)

 頭から血が流れる。
 それでも逆算を止めない。

(こんなヤワな体じゃ全然駄目だッ!)

 無意識のうちに、垣根は自らの体内に未元物質を生成していた。
 この世には存在しない素粒子である未元物質。それに接触したこの世の物質は独自の法則性をもって動き出す。では、そんな素粒子がほぼ同時に人間の体内の至る所に出現したらどうなるか。それは未元物質を理解した垣根にも分からない。
 けれど、果たして。垣根帝督は賭けに勝利した。垣根が先程までよりもスムーズに逆算を行っていく。これならイケる。そう確信した所で。

 パキンッという音がした。
 垣根の体が吹っ飛ばされ、そのまま壁に叩きつけられた。
 それでも垣根の顔には明らかな笑みがあった。ビクンと動き、重力を無視した動きで空中に浮かびあがったインデックスを見て、自らの行動の結果を正しく認識した。

「漸くお出ましかよ。防御機構の発動ってか?」

「――――――警告、第三章第二節。Index-Librorumu-Prohibitorum――――――禁書目録の『首輪』、第一の結界に対する悪性の干渉を確認。再生準備…………成功。『首輪』の自己再生が完了しました。『首輪』に対して悪性の干渉をした敵兵『垣根帝督』の存在を確認。現状、十万三千冊の『書庫』の保護のため、侵入者の迎撃を実行します」




原作の上条さんとは違い『首輪』を破壊する前に自動書記が起動しちゃいました。こうやって幻想殺し抜きにして考えると、改めて上条さんの幻想殺しの規格外さが目立ちます。後二話でインデックス編も終了といったところでしょうか。



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