とある魔術の未元物質
SCHOOL13  抗う 運命


―――苦闘が多ければ多いほど、勝利は輝かしい。
簡単に手にした勝利と言うのは、勝利の美酒もまた美味くない。
だが多くの苦難と難敵に打ち勝ち、漸く手にした勝利の美酒は格別である。
絶望的な苦難を前にしても、運命を切り開くために突き進むことが出来る者だけが、最高の勝利を得る事ができる。――――――――――――悲劇では終わらせない。








「――――――警告、第三章第二節。Index-Librorumu-Prohibitorum――――――禁書目録の『首輪』、第一の結界に対する悪性の干渉を確認。再生準備…………成功。『首輪』の自己再生が完了しました。『首輪』に対して悪性の干渉をした敵兵『垣根帝督』の存在を確認。現状、十万三千冊の『書庫』の保護のため、侵入者の迎撃を実行します」

 インデックスはゆったりとした動きで、まるで糸で操られている人形のように立ち上がる。その緑色の瞳の中には真っ赤な魔法陣が存在した。垣根が見た事のない生気の感じられない両眼。もし人間が人間である理由が感情の有無だというのであれば、今のインデックスは人間ではなかった。
 そしてインデックスから立ち上る気配。今まで魔術と言うオカルトに関わり、その法則性の一端に触れた垣根には分かる。あれはステイルや神裂が放っていたものと同じ魔力だ。

「『魔力』がないっていうのはこういう事か」

 能力者でもないインデックスが魔力を使えなかった理由は、恐らくこれの為だ。
 十万三千冊の魔道書を記憶するインデックスが、万が一裏切ればイギリス清教とやらには甚大な被害が出るのは間違いない。それを防ぐためにインデックスに『首輪』をかけたのだろう。

 垣根の予測だと『首輪』の機能は二つ。
 一つは一年ごとに記憶をリセットしなければ死ぬという呪縛。
 もう一つは、インデックスの中にある魔道書を強奪、ないし『首輪』を破壊しようとするモノを、その脳髄に秘めた十万三千冊の魔道書を操り殲滅する為の『自動迎撃機能』。恐らくインデックス自身の魔力はソレに全て注ぎ込まれてしまったのだろう。

「――――――――『書庫』内の十万三千冊により、防壁に干渉した魔術の術式を逆算……失敗。
該当する魔術は発見できず。類似術式の検索を開始……成功。天界の法則を応用した魔術と推定。全く未知の物質については検索失敗。
これより類似性の高い術式を逆算し、対侵入者用の特定魔術(ローカルウェポン)を組み上げます」

 既にボロボロの体で垣根帝督は立ち上がり、インデックスと相対する。
 インデックスは垣根帝督を殺すための魔術を練り上げようとしていた。

「まったく厄介な事をしてくれたのもだ、垣根帝督。
十万三千冊の魔道書の知識を自在に操る彼女は『魔神』に等しい力を持つと言うのに」

 ステイルが一歩前に出た。
 
「ビビッてるのか?」

「まさか。――――――――それより、くるぞ」

 インデックスから極大の光が放たれる。だがソレは単なる光などではない。あらゆる敵をなぎ倒す、文字通り必殺の魔力だ。
 垣根は知らぬことだが、この魔術の名は『竜王の殺息(ドラゴンブレス)』。伝説の聖ジョージのドラゴンの一撃と同義の破壊力を秘めている。
 だが幾ら威力がかろうと。

「当たらなけりゃ意味もねえだろうがっ!」

 垣根の背にある翼が羽ばたく。それにより猛烈な加速を得た垣根は、音速を超えたスピードをもって容易くインデックスの放った一撃を避けた。しかしインデックスの『首輪』に干渉した際に負ったダメージによる苦痛が垣根を襲う。

 その隙を突くようにインデックスが二撃目を向けてきた。
 実際の所アレと同威力の『科学兵器』であるならば、防いでみせる自身が垣根にはある。既存の物理現象を塗り替えてしまう未元物質(ダークマター)は、既存の物理現象を起こすに過ぎない兵器に対しては絶大なアドバンテージがあるのだ。

 しかしアレは魔術だ。それも十万三千冊の魔道書を有するインデックスが行使した大魔術だ。自分の能力を信じない訳ではないが、それでもアレを100%防ぐ自信があるかないかと問われれば、首を縦に振るのを躊躇せざるを得ない。
 けれど忘れてはいないだろうか。この場にいるのは何も垣根帝督だけではないと。

「Fortis931!」

 百枚を優に超えた数のルーンが部屋中に散らばり張り付いた。
 次いで耳に届いてきたのは詠唱。垣根も聞いた事がある、ステイル=マグヌスが誇る必殺の魔術だ。

顕現せよ(ICR)我が身を喰らいて(MMB)力と為せ(GP)――――――――魔女狩りの王(イノケンティウス)ッ!」

 炎の巨人が出現した。
 学園都市の発火能力者が束になっても出せないような摂氏3000℃を誇る魔人は、ステイル=マグヌスの従順なる下僕として、主を守るために、インデックスを救う為に立ち塞がる。

 垣根にはルーンを燃やし尽くされたことにより敗北したとはいえ、ステイルの誇るイノケンティウスは強力無比な魔術だ。そもそもルーンを焼かれたことにより敗北したという事は、逆に言えば学園都市第二位の超能力者が真っ向から打ち破る事は出来なかったという事なのだ。
 
 そんな魔術が、今正に敵として相対してしまっている少女を救う為に、少女の魔術を受け止めた。光の柱に押されながらも、ルーンによって顕現したイノケンティウスは消滅と再生を繰り返して立ち塞がる。絶対に、退きはしなかった。

「Salvere000ッ!」

 インデックスがイノケンティウスの対処をしている間に、神裂火織が跳躍する。
 魔法名を名乗り倫敦でも十指に入る魔術師としての力の全てを解き放った。
 令刀が解き放たれ、目視すら叶わぬ超高速の斬撃が飛んだ。けれどそれはインデックスを狙ったものではない。今のインデックスは『歩く教会』を着ていないのだ。イノケンティウスどころか低威力の魔術一発喰らうだけで致命傷になりかねない。
 だからこそ斬撃はインデックスではなく、その足元を狙ったものだった。神裂の放った斬撃は容易くフローリングの床を破壊し尽くしその上に立つインデックスが大勢を崩した。

「良い仕事しやがるな、露出女」

 自分の部屋が破壊されるのもお構いなしに垣根が能力を全開にする。
 どうにかしてインデックスの行動を止めなければならない。垣根が行っていた『首輪』への干渉は超高度な演算を必要とする。それこそ電子顕微鏡並みの精密作業であり、幾ら第二位といえどそんな作業を戦闘の片手間で行う事などは出来ない。
 なので、どうにかしてインデックスの動きを止める必要があるのだ。

「後ろが空きだぜ!」

 インデックスが体制の立て直しとイノケンティウスへの対処に追われている隙を突くように、垣根が背後に回り込んだ。垣根には不明な点も多々あるが、幾ら魔術が自由自在に使えた所でインデックス本人の身体機能が上昇するなんてことはない筈だ。ならば首筋に手刀でも喰らわせて眠らせれば、それで終わりだ。けれど、それを許すほどイギリス清教の作り出した『首輪』のガードは甘くなかった。

「後方より危険度の高い敵兵『垣根帝督』の接近を確認」

 その言葉と共に、インデックスの周囲にバリアのようなものが張られ、それが垣根を吹っ飛ばした。だがそれだけでは終わらない。

「――――――警告、第二十二章第一節。炎の魔術の術式を逆算に成功しました。
曲解した十字教の協議をルーンにより記述したものと判明。対十字教用の術式を組み込み中……第一式、第二式、第三式。命名、『神よ(エリ・)なぜ私を見捨(エリ・レマ・)てたのですか(サバクタニ)』完全発動まで十二秒」

 空間が紅く歪んでいった。
 心なしかイノケンティウスの火力が弱まっているように…………いや実際に弱まっていた。
 
「――――警告、第四十三章第二節。聖人の行使する魔術の逆算に成功しました。
独自の呼吸法及び、神道、仏教、十字教の術式を補強し合う事により威力を高めていると判明。指定魔術に対する最も有効なる魔術式を組み上げます」

 徐々にステイルのみならず神裂の力までが弱まっていく。
 これが十万三千冊の魔道書を自由自在に操る『魔道図書館』の本領。神裂のように十字教以外の術式を使いこなす魔術師であっても、この世に存在するありとあらゆる全ての魔術を識るインデックスにはなんの意味もないのだ。
 故にここでいう最も有効な切り札は、オカルトでは解明不可能な科学に他ならない。

「そんな雑魚共に感けてやがるとは、よっぽど俺を舐めてやがるとみえる。いいぜ、ムカついた」

 思い返すと、いつもインデックスは超能力を舐めていた。
 無力な存在の癖して一丁前に魔術師から守ろうとしたり、超能力者である垣根に魔術師は危ないから関わるなと言ったりなど。そろそろ堪忍袋の緒が切れるというものだ。

「一年ごとに記憶を消さないと生きられない体、だったか。たっくテメエも腐った星のもとに生まれちまったようだが」

 インデックスという少女は自分と似ているようで違う。
 もし仮の話だが、垣根が禁書目録なんていう残酷な運命を背負わせられ、自分の所属する組織に『首輪』なんてものを付けられたと知れば、まず間違いなく怒り狂い舐めた真似をした教会の連中をぶち殺そうとするだろう。

 だがインデックスはそうしない。それが垣根とインデックスとの決定的な差だ。
 ならばインデックスが歩くべきなのは垣根のような『闇』ではない。この少女はもっと自由気ままに『光の道』を思う存分に歩けばいいのだ。

「だが一つ個人授業だ。耳の穴かっぽじって良く聞きやがれ。
この未元物質に、その腐った常識は通用しねえ」 
 
 インデックスを、救う。
 クソッタレな世界を生きてきた垣根が、悪党として生きてきた垣根が、そんな事を思った。例え自分がどのような悪党だろうと、救いなんて一生涯与えられないクズだとしても、インデックスはそうではないのだ。こういう能天気な馬鹿には『闇』なんて全く似合わない。自分はもう決して帰らぬ『光の世界』へインデックスは帰れるべきだ。帰らなければならないのだから。

 轟音。インデックスの体が窓を突き破り外へと飛び出したのだ。
 どうやらここでは戦うのに不利だと感じたらしい。垣根は白翼を羽ばたかせてそれを追う。
 空を見上げると月を背負うように浮かぶインデックスがいた。二つの瞳にある紅の魔法陣。あれがインデックスを苦しめる元凶。インデックスをこんな『闇』の世界に叩き込んでいる原因。

 ふと、垣根帝督が笑う。欺瞞も虚実も嘲笑も一切がない心からの笑みを浮かべて見せた。
 自分のような悪党には決して手の届かないものがある。もう今更自分は光の道へ帰る事なんて出来ない。だが手の届かないと知りつつも垣根は手を伸ばした。まるで、それこそが光の道へと繋がる唯一の方法とでもいうかのように。

(――――――――ああ、そうかよ)

 土壇場で漸く自分の胸の内に気付く。
 何という事だろうか。インデックスを『光の道』へ帰すだとか唯一の救いだとか、自分にとってそんな事はどうでもよかったのだ。
 思い起こされるのは、インデックスと名乗った少女と出会ってからの数日間。煎餅食べたりカラオケ行ったり風呂場でパニックになったりチャンネル戦争したり、こんな下らない馬鹿騒ぎが楽しかったのだ。楽しくて、あろうことか失いたくないと思ってしまったのだ。
 インデックスを救うなんて、単なる言い訳でしかなかった。垣根帝督はあの馬鹿騒ぎを失いたくなくて、命を張っていたのだ。

(はははははっ)

 ならば構わない。
 元々どこまでも自分勝手に突き進むのが垣根帝督だ。
 細かい事などはどうでもいい。ただインデックスを救う為に、あの馬鹿騒ぎを取り戻すために、垣根帝督は手を伸ばす。

「――――――警告。第三十一章第二節。現状最も危険な敵兵『垣根帝督』に対して有効な術式の完成に成功しました。『堕天使は(ハルヘ)光と共に地に堕ちる(バル・カタヒ・ロイ)』発動まで二秒」

 二秒後、垣根にインデックスより光の柱が放たれる。
 眩いばかりの光が全てを覆い、垣根の視界が暗転した。



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