とある魔術の未元物質
SCHOOL20  孤独 な 街


―――生は偶然、死は必然
生れ落ちるのは偶然だ。必ず生れ落ちる命は存在しない。
けれど死は必然だ。生れ落ちた命が、何時か必ず死を迎えるのは避けようのない運命である。
人は死からは逃れられない。不死の呪いを宿したものでも、いつか必ず死を迎える。









 絹旗とフレンダ。
 この二人は作戦の要である『キャパシティダウン』の防衛のために、この廃ビルで待機していた。なにせ『キャパシティダウン』は第二位と第四位の立場を逆転させるための鍵だ。万が一にでもこれを破壊されてしまえば勝機はグッと低くなってしまう。
 けれどそんな二人に一つの異常が襲った。

「麦野と超連絡がとれませんね」

 やけに遅く、一向に連絡の一つもこない事を気にした絹旗が、麦野に連絡をいれたのだが繋がることはなかった。気づいていない可能性も考慮し、何回かプッシュしたが結果は同様。

「け、結局どういう訳よ! 麦野から連絡がないって……」

 若干怯えの入った口調でフレンダが言う。
 たぶん彼女も気づいているのだろう。ここは『アイテム』にとっての戦場で、麦野との連絡は戦場で途絶えたのだ。

(超最悪の場合、麦野と滝壺さんが敵に殺されたって可能性を考慮するべきですね)

 あくまで冷静に絹旗はそう判断する。
 彼女とて麦野の強さと、滝壺の能力の厄介さは知っているが、相手は『アイテム』と同等の機密力を持つ『スクール』のリーダーである第二位の超能力者である垣根帝督だ。
 もしも、という事があってもなんら不思議ではない。

「フレンダ。このビルに仕掛けておいた罠は、超万全なんですか?」

「そりゃ、万全だけど……。
考え過ぎじゃないかな? 結局幾ら第二位が強くても、このキャパシティダウンがある限り能力だって満足に使えない訳だし、能力使えない奴相手なら、麦野の『原子崩し(メルトダウナー)』と滝壺の『能力追跡(AIMストーカー)』のコンボには逃げられない訳よ」

「なら如何して一向に麦野から超連絡がこないんですか?
もしそのコンボで超逃げられなかったら、とっくに仕事を超完遂した麦野から連絡がくるはずですよ。それがこないってことは」

「じゃ、じゃあ麦野達は……」

 死んじゃったの。そう言おうとしたフレンダに吉報と凶報の二つが同時に訪れた。
 廃ビルの窓が一斉に破壊される。青空を飛翔するのは純白の翼を背負う一人の男。

「安心しろ。麦野沈利と滝壺理后は生きている。顔面の形が変形してるがな」

 第二位の超能力者、垣根帝督は無数白い羽を舞い散らせながら降り立った。
 両腕には画像で見た白いシスターを抱きかかえている。

「そのヘッドフォン…………成程、滝壺さんか麦野のどっちかから超奪ったって訳ですか?」

「ご名答だ。なんにせよ今日の教訓は『油断大敵』ってところだな。
この俺にとっても、お前等『アイテム』にとっても」

 絹旗は近くにあったかなりの重量の鉄骨を掴むとそのまま持ち上げる。だがこれは別に絹旗自身の身体能力が異常な訳でも、身体強化能力者という訳でもない。絹旗最愛の能力は『窒素装甲(オフェンスアーマー)』。空気中の窒素を操り、車だろうと持ち上げ、銃弾だろうと防ぐ強力な能力であるが、装甲の名が示す通りその効果範囲は自身の肌から数センチと非常に短い。なので傍目から見たら、絹旗が異常な筋力で鉄骨を持ちあげているように見えてしまうのだ。

「そう『油断大敵』だ。幾らお前の『窒素装甲(オフェンスアーマー)』じゃ俺の『未元物質(ダークマター)』に絶対勝てねえと分かっていても、俺は油断しねえ事にした」

 だから絹旗最愛の勝機はゼロだった。
 ほんの僅かの可能性だとか、どうにかして対処しようとかいう次元ではない。完膚無きにまでに絹旗最愛が勝利する確率は0%。
 
 投げた鉄骨があっさり分解される。
 そして音速を超えたスピードで接近してきた垣根の拳が、絹旗最愛の『窒素装甲』を素通りして顔面に突き刺さった。



 廃ビルで意識のある人間は、もう三人しかいなかった。
 垣根帝督とインデックス、そしてもう一人は、

「お前が最後だ。金髪」

 ゆっくりと『アイテム』の生き残り(死んではいないが)であるフレンダに歩み寄る。今まで散々やられたせいか垣根の顔にはサディスティックな笑みが浮かんでいる。

「え、えっと……」

「直ぐには潰さねえ。だが色々と下呂って貰うぜ」

 垣根は白翼を消す。
 それをフレンダは『油断』と捉えたのか、

(チャンス!)

 フレンダは懐に隠してあったリモコンを捜査して垣根の足元の爆弾を爆発させた。
 轟音。ゴォという勢いで垣根とインデックスの居た場所が吹っ飛んだ。

「や、やった?」

 確実に垣根帝督の居た足元にある爆弾は爆発した。
 能力を発動していなかった垣根に、爆風を防ぐ術はない。
 つまり勝利。麦野、絹旗、滝壺が勝てなかった第二位にフレンダは、一人で勝利したのだ。

「にひ♡ にゃははははははははは!
結局、勝ったと思った瞬間が一番危ない訳よ!」

「そうだな。『勝った』と思った瞬間が一番危ない。
全く同じ言葉をお前に返してやる」

 ポンとフレンダの肩に手が添えられた。
 ギギッと後ろを振り向くと、ニコニコと笑う垣根と相変わらずの『歩く教会』で爆弾なんぞ無効化してしまうインデックスがいた。

「あ、あはははははは……」

「結局、お前の仕掛けた罠は全部看破済みだったって訳だ。
第二位の頭脳を舐めるんじゃねえぞ」

 それ私の口癖、そう言おうとしたが言えなかった。
 垣根が腕を一振りすると、廃ビルの壁が丸ごと吹き飛んだからだ。
 対抗するのも馬鹿馬鹿しく成程の圧倒的なパワー。下位のLEVEL5を全く寄せ付けない非常識な強さを誇る『未元物質(ダークマター)』。結局、キャパシティダウンが通用しなくなった時点で『アイテム』の敗北は決まっていたという訳だ。

「選択肢だ。
全身の骨という骨をブチ折って顔面を変形させた後に、自白剤なりを使って情報を吐かせられるのと、今大人しく情報を吐いて、優しく眠らせられるの、どっちが良い?
俺は優しいからな。選ばせてやるぜ」
 
 まるで麦野のような笑いを垣根は浮かべて見せる。
 フレンダの選ぶ選択肢は決まっていた。
 
 

 廃ビルの光景は様変わりしていた。
 キャパシティダウンは修復不可能なまでに破壊され、椅子には垣根が偉そうに座っており、床にはフレンダが正座させられている。

「で、お前等『アイテム』はどいつの指示で俺を狙った?」

「結局、知らないってわ……いや、本当の本当に知らないから! 未元物質を出さないでっ!」

 嘘を言っている様子はない。
 どうやら本当に知らないようだ。

「…………第四位、麦野がな。インデックス――――――そこで煎餅食ってるシスターが来たとき、原子崩しを撃つのを躊躇ったみてえだが、それは何でだ?」

「予め『電話の相手』にこのシスターには手を出すなって言われて……。あれ? という事はもしもさっきの爆弾で吹っ飛ばしちゃってたら。わりと危なかったかも」

「ゴタゴタ抜かすな。いいから知ってること全部話せ」

「だから殆ど何も知らないって。なんだか何時ものように『電話の相手』からオーダーが来て、ギャラも破格だから受けただけな訳よ! キャパシティダウンとかいうのだって、上が用意したものだし!」

「そうか。本当に知ってることはそれで全部のようだな」

「じゃ、じゃあ!」

「ご褒美だ、優しく寝んねしてろ」

 謎の重圧がフレンダの頭に掛かり、そして傷一つなくフレンダの意識を奪い取った。
 
「ていとく、結局どういうことだったの?」

「大した事じゃねえよ。ただ上の連中が俺にビビッて飼い犬を派遣しただけだ」

 垣根は推理する。
 恐らく『垣根帝督』の抹殺を『アイテム』に命じたのはかなりの上層部。学園都市そのものが、垣根帝督の命を狙ったのだ。
 最低でも統括理事会が、最悪の場合『統括理事長アレイスター=クロウリー』が直接的に関わっている可能性もある。

(インデックスを傷つけるなと命じたのは、ほぼ確実にインデックスが魔術関係者と知っていたからだ。となると上は余程俺が『魔術』を知ったのが気に喰わなかったのか。それとも俺をロシアに行かせるのを阻止したかったのか。いやそもそも統括理事会全員が魔術なんてオカルトを知っているのか? しかし最低でも統括理事長は、アレイスターの糞野郎は魔術ってもんを知っているだろう。そうでなければ説明がつかねえ)

 垣根の脳裏にはありとあらゆる可能性が浮かぶ。
 だがどれも共通点は一つだった。
 垣根帝督の『死』を、学園都市上層部、即ち学園都市そのものが望んでいる。
 例え今日『アイテム』を倒したところで、第二第三の『アイテム』が垣根の命を狙ってくる。明日は『ブロック』か『グループ』か『猟犬部隊(ハウンドドック)』か。最悪嘗ての部下である『スクール』までもが敵に回るかもしれない。
 垣根は第二位の超能力者であるが決して無敵ではない。最強ですらない。
 学園都市そのものに一人では勝てないのだ。 
 
「ハッ。俺は『学園都市』を敵に回しちまったってことだ」

 これ以上、この街にはいられない。
 その事実を垣根帝督は突きつけられた。



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