とある魔術の未元物質
SCHOOL21  セカンド ジンクス


―――愛が薄くなると欠点が見えてくる。
愛が濃い間は、他者の良い所ばかりが気になり、悪い所なんて見えないものだ。
だが短い恋愛ごっこならそれでいいが、長い結婚生活ともなるとそうはいかない。過ごせば過ごすほど相手の欠点が見えてきて、最悪離婚してしまう。
本気の恋愛ならば、相手の長所だけではなく短所を見つめる事が肝要だ。









 東京都の都市『新宿』。
 学園都市を除けば、日本有数の近代的な大都市である。
 また東京都の中心部に位置する学園都市から近い。その『新宿』にある大手ファーストフード店であるマクドナルド。通称『マック』に垣根帝督とインデックスはいた。

「おい、インデックス。お前一体幾つビックマック食うつもりだ?
というよりお前の食ってるのは本当にビックマックなのか。俺の目にはビックマックのケースが回転寿司の皿のように積まれているように見えるんだが?」

「えっ。まだお腹一杯じゃないんだけど…………でも、この国には腹八分目でいう残酷な制約があったんだったね」

 適当に数えてみたが、三十。
 この十五分でインデックスが食べたビックマックの数は三十だった。
 気のせいか注目を浴びているようにみえる。まぁ当然か。唯でさえ目立つ格好をしたインデックスが、フードファイターも真っ青な量のビックマックを食べたのだ。そりゃ注目の一つや二つ浴びる。

「それにしても『外』ってのは不用心だな。通貨にICチップの一つもねえんだから。
はっきり言って学園都市なら偽造し放題のやり放題だぜこれ」

 似ているようで違う『外』の諭吉さんを見ながら垣根は言う。
 ちなみに音は能力で『遮断』しているので他の客に聞こえる事はない。

「良く分かんないけど、学園都市って凄いの?」

「まぁ『外』をこうしてマジマジと観察すると、確かに学園都市は『別格』だな。見た目自体は変わらねえが、細部に使われている技術力そのものの桁が違う。通貨然り電車然り電話然りな。学園都市が内部の技術を外に漏洩するのを病的に防いでる理由が分かる。
学園都市にとっては旧型のウイルス一つで、『外』なら大規模なパニックを起こせるだろうよ」

 そして学園都市が『技術』と同じくらい漏洩を恐れているのがもう一つある。
 学園都市が学園都市と呼ばれる所以『能力者』だ。『能力者』を人為的に生み出す事が出来る機関は今の所『学園都市』だけである。偶発的に生まれる『原石』、つまり天然の能力者を除けば、能力者がいるのは学園都市だけといっていいだろう。
 もし『外』に能力者を生み出すカリキュラムが漏洩すれば、学園都市がかなりの大損害を受ける事は想像に難しくない。

 だから能力者である学生が外に出る為には、体の中に発信機(ナノデバイス)が必要だったり、面倒な書類が必要だったりするのだが、垣根帝督がそれ等の正規の手続きを行って学園都市から出たかと聞かれればそれはNOだ。

 『アイテム』の襲撃の一件で、どうやら学園都市そのものを敵に回したと感づいた垣根は、インデックスの『首輪』のこともあったので、急遽『雑貨稼業(デパート)』という裏の調達屋で必要な物資を購入なり換金し、こうして学園都市外まで脱走してきたのだ。
 
「しかし、どうするかな」

「どうって?」

「ロシアだよ、ロシア。
俺が能力使って飛んでいくって手もあるにはあるが、出来ればそれはやりたくねえ。あんまり目立ちすぎる行動してロシアの魔術師に追われることになっても面倒だからな」

 通常の索敵や警戒ならば学園都市製のもの以外ならば誤魔化す自信がある。大国ロシアの監視だろうと未元物質を使えば簡単に誤魔化せるだろう。だが垣根帝督ですら掴みきれていない法則、魔術的索敵を誤魔化せるかどうかは分からない。
 
 もしも能力を使って飛んで行ったら、最悪の場合ロシア正教とやらとの追いかけっこがスタートするかもしれない。或いは学園都市の差し向けた刺客と勘違いされて命を狙われるか。能力者のカリキュラムを知る為に実験体として狙われるか。どちらにせよ碌なことにならない可能性が非常に高い。

 垣根自身も考え過ぎだと思うが、先日の『アイテム』が使ったキャパシティダウンの事もあり慎重になっているのだ。
 大体もし空中で能力が使えなくなれば、そのまま地表に真っ逆さまになる。

「そういえばインデックス。お前はイギリスからどうやって来たんだ?」

「えぇと、どうやってだろ?
私は気づいたらもうこの国にいたから」

「そりゃ知ってるが、何か心当たりとかねえのか?
イギリスから日本まで泳いできた訳でもあるまいし」

「そういう術式もあるんだよ」

「マジか!? イギリスから日本まで泳げる術式なんて存在するのかよ」

「うん。使うのは主に清教派じゃなくて騎士派に所属する騎士達だけどね」

「そいつは凄いが……お前がそれが出来る訳じゃねえだろ」

「あっ」

「あっ、じゃねえよ。何かねえのか、パスポートとか」

「ぱすぽーとっていうのは良く分かんないけど、こんなのならあるんだよ」

 インデックスは修道服からあるモノを取り出す。
 顔写真とIndex-Librorum-Prohibitorumという名前で表示されているそれは、間違えようもなくパスポートだった。
 
「…………名前って本当にIndex-Librorum-Prohibitorumになってるんだな」

「?」

「しかしパスポートか」

 どうせ学園都市が本気で垣根を探そうとすれば、遅かれ早かれ見つかるだろう。
 それに学園都市の連中は、垣根が普通じゃない方法を使ってどこかへ脱出すると考えているだろう。ならば逆に敢えて普通な方法でロシアに行くと言うのは、案外学園都市の目を欺けるかもしれない。なにより幾ら学園都市といえど、その支配権は主に日本で、外国に対しては日本ほど強くはない。
 為すべきことは、決まった。

「おいインデックス。さっさと会計済まして行くぞ」

「行くって、どこに?」

「決まってんだろう。海外旅行といえば成田空港だ」




 やけにあっさりと、飛行機に乗る事に成功した。
 本当にあっさりな展開だった。パスポート、というが身分諸々が偽証だという事に気づかれるどころか、学園都市の追っ手がくることもなく、他の乗客と全く同じように、普通の学生が海外旅行をするような平穏さで、垣根とインデックスは機内に乗り込んだ。
 ロシア行きの飛行機は、垣根達が乗り込んだ数十分後に離陸して、今は青い空を悠然と飛んでいる。こんな鉄の塊が空を飛ぶなんて偉業を成し遂げたのも、ライト兄弟の発明があったからこそなんだな、と垣根が感慨深く窓の外を眺めたりしているが、おおむね平和だ。

「ていとく」

「なんだ?」

 なんとなくインデックスの言いたいことが察せた垣根だが、ここで「どうせお前のことだから〜」なんて言うと怒り出すのは火を見るより明らかなので言わない。

「機内食まだ?」

「発射して直ぐに出るか、ボケ。
というか飛行機乗る前に吉野家で牛丼食っただろ」

「でも私のお腹は、既にれっどぞーんになってるんだよ。
このままじゃ、私はロシアに到着する前に、餓死しちゃうかも」

「お前良かったな十字教徒で。イスラム教徒なら死んでたぞ、主に断食で」

「そうだね。主よ、感謝します。
あとご飯食べたい」

「…………ま、どうせこんな事だろうと思って用意はしてあるんだけどな」

 垣根はもぞもぞと鞄に用意しておいた、対インデックス用のパンなどを取り出す。

「おぉ〜! 用意周到なんだよ」

「ふっ。第二位の頭脳を舐めるなよ。お前の行動パターンを予測するなんざ朝飯前だ」

 自慢気に言う垣根。
 ホスト顔なだけあって気の利く男である。
 尤もインデックスは食べるのに夢中で垣根の言葉なんて聞いていなかったが。

 さて平和なフライトは刻一刻と過ぎていく。
 だが生憎と、そう簡単に平和なフライトが楽しめる程、垣根もインデックスも幸運の星の下には生まれていなかった。

 手始めに『異常』が起きたのは、垣根達の居る場所から離れた操縦室であった。
 ポンと機長の肩に手が置かれる。振り返ると、東洋人と思われる顔立ちをした男が立っていた。年頃は四十代前半から後半くらいで身長は180cmほどだろう。無精髭を生やした野性味を感じさせる男だ。
 機長が何かを言う前に、先に男が礼儀正しく挨拶をする。

「あー、あー。ここって日本だよな。日本語はこれで良かったか?
オッホン。どうも初めまして。私は貴方が命を預かる乗客の一人であり、今からこの飛行機を強奪するテロリストです。短い付き合いになりますが、どうぞ宜しく」



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