とある魔術の未元物質
SCHOOL41  予 言 者


―――予言とは不確かなものだ。それが現実となって、初めて理解される。
 不確かな預言者は最初はただの妄想化だ。しかし予言が現実になると、こぞって民衆は予言者を称えはじめる。本来予言とは悲劇を未然に回避する為にあるものだというのに、悲劇が起こって初めて民衆は予言を信じはじめる。もし悲劇を回避したいならば予言を信じ対策することが重要だ。








 ロベルトの右腕が地面を殴る。
 手榴弾が炸裂したような音が響き渡る。
 ロベルトの能力により『一番脆い中途半端な硬さにされた地面』は成人男性が殴っただけで簡単に日々が割れ破壊される。
 しかし、そんな破壊を成し遂げたロベルトの顔に達成感はない。何故ならばあるべき者がいなかったからだ。脳を抉り、四肢を壊し、臓物を粉砕している筈の男の痕跡がなかったからだ。

「逃げ足が速い事だな、第二位」

 ロベルトは壊すべき筈だった者に視線を向ける。ターゲット――――――垣根帝督は体を襲う疲労を除けば五体満足で立っていた。

「五月蠅ェよ、格下」

 如何にもノーダメージというような顔を作り、そう挑発する。
 再び垣根の全身にバス一台分がのしかかってきたような疲労が襲い掛かってきた。立っているのも辛い。息をするのも苦しい。もっと早く、もっと大量に呼吸をしなければ息苦しくなる。
 一体全体どういうことなのか。自分は暗部として長く、平均的な同年代と比べれば十分に体力はあるほうだ。生身の戦闘でもそこいらのスキルアウトならば楽に沈められる。だというのに今現在、自らの体力はボロボロだ。一歩歩く毎に足が悲鳴を上げ、能力を行使しようとすると頭がボーとなる。明らかにかなりの疲労困憊。だがロベルト達との戦闘はそれなりに疲れるものだったが、能力使用が困難になるほどに疲弊するものではなかった。

(となると、通常戦闘による疲れとは別の要因。まだ、こいつらの仲間が潜んでやがるってことか)

 それしか考え難い。多重能力者が存在しない以上、目の前にロベルトや『猛毒右腕』、それに狙撃手の二人組でもない。何処かに潜んでいる垣根の知らない能力者が、自分にこの疲労感を与えていると考えると辻褄もあう。

「その顔、どうやら気づいたようだな?」

「!」

 参った。顔に確信めいた表情が浮かんでいたらしい。何時もならそんなミスは犯さない。思ったよりも自分は疲労しているらしい。
 体を支える為に壁に手をつく。このまま倒れて眠ってしまいたいという衝動が湧き上がるが無視した。

「だが気づいたところで遅い。お前は既に王手に掛かった!」

 ロベルトが通常の人間と同じ速度で垣根に向かってくる。万全の垣根からしたら欠伸がでるほどノロマな進軍は、この疲労では十分な脅威だった。
 能力者の使う能力は無限ではない。AIM拡散力場に代表されるような能力者全てが無意識で発生させているようなものは兎も角、能力を行使すれば必ず多少なりとも疲弊する。LEVEL5とて例外ではない。あの『超電磁砲』も最高出力である10億ボルトの電撃を何度も何度も連発すれば『電池切れ』になるだろうし、麦野沈利にしても『原子崩し』をバカスカ連射すればいずれ弾切れになる。
 幾ら演算能力が高くとも、人間の体力は無限ではないのだ。幾ら超能力者が巨大な力を秘めていても、物量に任せた大攻勢に晒されれば体力が尽きてやられる。これが通じないのは、戦場のど真ん中でも反射の膜を張って眠れる一方通行くらいだ。

(それでも…………ッ!)

 ここでロベルトは一つのイレギュラーに襲われる。
 垣根帝督は超能力者だ。LEVEL5の第二位。学園都市のナンバーツー。だがロベルトは知らなかった。科学と対を為すもう一つの勢力を。その勢力の扱う能力とは異なる異能を。魔術というオカルトを。その魔術という能力とは異なる法則を、垣根帝督が身に刻んでいることを。
 垣根がエリザリーナや独立国同盟の魔術師から教わった魔術は、勿論発火や放水などといった攻撃用のものもあるが、主に学んだのは治癒魔術だ。当然、幾ら天才という言葉すら烏滸がましい程の才能を有する垣根でも魔術というのは生半可に修得できる技術ではない。嘗てのステイルの使った『魔女狩りの王(イノケンティウス)』なんて大魔術を使う事など不可能であるし、治癒にしても効果は小規模なものが殆どだ。だが小規模ながらも治癒魔術という分野を学んだのだ。勿論、治癒や解呪系統の魔術を主に学んだ理由はインデックスの事があったからだ。そもそもこの旅の目的がインデックスの『首輪』である。魔術を学んでも肝心の『首輪』をどうにか出来なければ意味がない。
 だが垣根はなにもインデックスの『首輪』だけの為に治癒魔術を学んだのではないのだ。垣根は学園都市の逃亡者、偽造パスポートはあるが戸籍も保険証も糞もない身の上である。学園都市内ならば怪我や病気になっても病院に行けたが、これから先、学園都市の追っ手の目に捕捉されないようにする為にも、垣根は自分で自分を治療する方法を欲していたのだ。
 成果はあった。垣根の会得した魔術の一つが『疲労の回復』。効果は小規模だが、それでも立つのも辛く能力も行使出来ないような今の状態を、どうにか戦闘可能な状態にまで一時的に戻すには十分な効果がある魔術だ。

大気の恵み(HUNVEC)疲労を忘れさせろ(HOGNVIO)

 普通に生きている人間ならば一生しないかもしれない、独特の呼吸法を行いながら定められた詠唱を行う。魔術とは才能のない者が才能のある者に勝つために生み出された技術。故に正しい手順を踏めば、素人にも使う事は出来る。
 垣根の疲労が僅かに回復する。代わりに魔力を多少削ったが十分だ。頭の回転も、手足の調子も、さっきよりも具合が良い。

「おぁああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

 白翼を羽ばたかせ空中高く飛翔する。物質の硬度を変えるだけしか出来ないロベルトでは決して届かぬ空へ。
 生成される未元物質が地球の重力に混ざる。この世に存在しない未元物質と接触した重力が、普通では考えられない反応をした。即ち、重力の過負荷という現象を。

「う……ぎ…ぎ……まだ、そんな余力があったのかッ!」

 どうにか過負荷に耐えたロベルトが叫んだ。

「余力じゃねえ、実力だ」

 ロベルトの踏ん張りを嗤うように垣根が言うと、そのまま生成した未元物質の質を変える。決してロベルトが耐えられない重力になるように。

「ぉ――――――――あっ!」

 耐え切れずロベルトが大地に押し付けられた。 
 その様子をチラリと見ると、垣根は直ぐに辺り一面に先程とは別の未元物質を散布していく。未だに息をひそめている能力者を探し出すために。
 垣根の見立てではそう遠くにはいない。わりと近くにいるはずだ。建物内か、それとも…………。

「地面か」
 
 道理で気づかなかったはずだ。もし予想が正しいのであれば、『猛毒右腕』が襲い掛かってきた時からずっと地面に隠れていたのだろう。『猛毒右腕』と狙撃手が垣根を疲弊させて、ロベルトが疲弊した敵を殺す。それがこいつらの常套手段、なのかもしれない。しかし常套手段は、常識の通じない未元物質には敵わない。
 手を地面に翳すと、赤黒い閃光が発射される。六千度に達する高熱の閃光は容易く地面を抉ると、潜んでいたであろう能力者ごと焼き尽くした。すると垣根の予想が正しかったのを裏付けるように、体中の疲労が収まっていった。

「いけねえな。面拝むの忘れた」

 あっさりと地面に潜んでいた名も能力名も知らぬ能力者を焼き殺した垣根は、白翼を使いふわりと降り立つ。お気に入りの服は戦闘の過酷さを示す様にボロボロになっていた。

「てな訳だ。惜しかったが、テメエの負けだ」

「…………それは、嫌味か」

「賞賛だよボケ。色々と狡い手は使ったとはいえ、この垣根帝督をここまで追い詰めたんだ。誇っていいぜ? ここに来る前の俺なら死んでいたかもな」

 嘘ではない。
 もしも垣根が魔術を刻んでいなければ、危なかっただろう。果たしてあの疲労状態で能力が満足に行使できたか。一歩間違えれば、こうして地面に倒れ敗者となっているのは垣根の方かもしれなかった。

「じゃあ色々と喋ってもらうぜ。安心しな。俺だって弱い者虐め大好きな餓鬼じゃねえよ。素直に喋れば、五体満足で見逃してやる」

「……ふはは、あはははははははははははははは!!」

「なにが可笑しい?」

「全てが、だよ。垣根帝督。お前はまさか学園都市がそんなに甘いと思っているのか? よく考えろ。ここは一体どこだ? 私は誰だ? 私の所属している場所は、私のいる闇はどこにある?」

「何処って」

 学園都市に決まっている。
 ロベルトは学園都市の暗部組織のリーダーで、ここはエリザリーナ独立国同盟だ。
 そこまで考えて、垣根は、全てを悟ってしまった。

「まさか、」

「然り。学園都市は学園都市内部の技術が外部に漏洩するのを、なによりも嫌う。駆動鎧などの兵器、ウイルス、そして能力者。学園都市の能力者が死ねば、死体から何の情報も引き出せないようにされてから親元に帰される。駆動鎧などの兵器が残されたならば、跡形もなく破壊され処分される。いいか? 今のこの状況。私達『ブリッツ』が垣根帝督に敗北したのは、既にアレイスターの野郎も知っているんだよ。あの統括理事長が、そう安々と能力者の捕虜を、お前やエリザリーナ独立国同盟の連中に渡すと思うか?」

 慌ててミサイル攻撃などを警戒したその時、ロベルトの体が燃え上がった。それも石油をぶっかけられて火をつけた、とかそういう感じじゃない。まるで内部から、体そのものから発火するような焼け方だ。それはロベルトだけではなく、背後で倒れる『猛毒右腕』も同様だった。

「おい、テメエ!」

「ははっははあっはははははっははァ―――――――ッ! 仕方ない。これが暗部の末路だッ! 散々殺して殺して殺して殺して、生きる為に殺して、最期はこうして殺されるッ! 豚のようにッ! ゴミのように! 一度暗部に堕ちればこうなるのが運命だッ! クハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ―――――――――――――ッ!」

 どうにかして発火を止めようと手を伸ばす。だがその手は、後少し届かない。

「イ ズ レ、オ 前 モ コ ウ ナ ル」

 最期に垣根にそう現実味のある予言を残すと、ロベルトは消滅した。後には灰だけが残る。
 冷たい風が吹き、その灰もどこかへと消えていった。

「運命、だぁ?」

 嘲笑する。
 焼け死んだロベルトにではない。かといって貴重な情報源をあっさり失った自分にでもない。
 ロベルトの言う『運命』とかいうものを、垣根は嘲笑った。

「俺が何の為に『自らの手(super)綱は己が手にのみ(bus002)』を名乗ってると思ってんだ? 運命如きが俺を支配しようなんざ片腹痛ェよ」









【用語】

『ブリッツ』
学園都市統括理事長アレイスター=クロウリー直属の「暗殺機関」。
内部の不穏分子の粛清は勿論、海外任務の数は随一であり暗部でも異色といえる。
任務達成率も垣根帝督暗殺指令を除けば100%でありLEVEL5こそいないものの、メンバーの全てがLEVEL3以上の能力者で構成されている。
ただし海外任務の際、『ブリッツ』のメンバー全員に「焼却処分」のための機器に埋め込まれており、上役が撤退不可能と判断すれば容赦なく骨も残さず焼き殺される。今までに死亡した九人のうち六人は撤退不可能と判断された為に焼却された。
余談だが、学園都市外の能力者と言われて、何度か魔術師と交戦した事もある。

終着地点(ラストターミナル)
物体の到達する為の「終着点」を設定することにより、飛んだ物体はそこに目がけて自動的に命中する。更に壁や地面などの障害を設定することにより、それらを回避して飛ばすことも可能。

猛毒右腕(ポイズンハンド)
垣根と直接戦った無口の男の能力。
右手からあらゆる物質を例外なく溶かす猛毒を発する事が出来る。
通常の能力ではない、原石の一つ。
使用者本人にもどういう理屈で能力が発動しているか分からない。

硬度変換(ソフトルータ)
物質の硬度を変える事が出来る。硬くすることで銃弾をはじく事も、柔らかくすることで衝撃を緩和することも可能。また自分を除いた生物には効果がない。『ブリッツ』のリーダー、ロベルトの能力。その強度はLEVEL4と高い。

土中移動(グランドムーブ)
土の中をまるで水中のように泳ぐことが出来る。
ただし水中と同じように適度に息継ぎしなければ窒息する。

生命低下(ライフアウト)
周囲の人間を老若男女関係なく″疲労″させていく力。
最大半径は150mと低いが、場所を間違えると味方を巻き込んでしまいかねない。

【ブリッツメンバー】

■ロベルト=アベル
身長185cm/体重62kg
特技:暗殺、戦術立案、指揮能力
好きな物:平穏、食後のティータイム、扇風機の前であ〜と言う事
嫌いな物:アレイスター=クロウリー、焼却処分装置
天敵:垣根帝督、一方通行、削板軍覇
『詳細』
能力はLEVEL4の硬度変換(ソフトルータ)。『ブリッツ』のリーダーであり今まで多くの任務を成功に導いてきた優秀な戦術家でもある。
曲者ぞろいの『ブリッツ』を纏められたのは彼の人望あってこそ。
暗部で友情を育んでも失った時に悲しいだけだ、という持論を持っており『ブリッツ』のメンバーの名前や経歴を知ろうとした事は一度もなかった。これは彼自身が暗部の仕事の仮定で友人を失ってきたからである。
暗部堕ちした切欠は自分の恋人を殺した暗部組織の人間を殴り殺したから。表の職業は英語教師。

■包帯男
身長200cm/体重90kg
特技:暗殺、格闘
好きな物:物静かな人、冷奴、心太
嫌いな物:アレイスター=クロウリー、木原一族
天敵:木原一族
『詳細』
能力は『猛毒右腕(ポイズンハンド)』学園都市に所属する『原石』の一人。その右腕の研究の為木原一族に非人道的実験を受けさせられ続け、喋る事が出来なかった過去を持つ。そのせいで木原一族のことを毛嫌いしている。
リーダーであるロベルトの事は信頼しており、一方通行でしかなかったが友情のようなものを感じていた。表向きの職業は薬剤師。

絶対等速(イコールスピード)
我等のアイドルにしてブリッツで唯一の原作キャラ。某変態百合パンダ風紀委員をふるぼっこした男。こいつ成長すりゃ強いんじゃね? と一次期ブームになった脇役中の脇役。実は生きてロシアから逃げ延びており今後の活躍に……期待?

終着地点(ラストターミナル)
本作品における『絶対等速』のよき相棒。絶対等速と同じくどうにかロシアから逃げ延びており、今後の活躍が期待できる……かも。

土中移動(グランドムーブ)&生命低下(ライフアウト)
実は戦闘中最初から土の中に潜んでいた人達。二人して頑張って土の中で垣根のスタミナをCHUCHUしてたが、垣根にトリックがばれてチンされちゃった哀れなカップル(男同士の)。土の中に潜んでいるという戦術上、陰こそあれど形も声もなかった不遇なオリキャラ。




さてオリキャラが一気に五人(二人は声なし形なしだけど)登場しましたねー。まぁ実名が出たのは一人だけですが。ちなみに基本的に私は日本人のキャラクターを生み出すのが死ぬほど苦手なので外人キャラしかでません。最初に出てきた時間停止の不良にテロリストも皆外人です。



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