とある魔術の未元物質
SCHOOL42  新たなる 旅路


―――ローマは一日にして成らず。
なにかを為し得るには相応の時間が必要だ。天才や化物と呼ばれるような英雄豪傑達も、それ相応の時間をかけて英雄と呼ばれるようになった。三日で英雄となる者はおらず、仮に三日で手に入れた大国は三日で潰えるもの。三日天下とは言ったものだ。









「説明してくれるかしら?」

 流石に誤魔化しは利かなかった。
 垣根の行使した人払いの魔術を感知したエリザリーナ、及び独立国同盟の魔術師は戦闘後の垣根を発見。エリザリーナのいる教会まで半ば強制連行してきた。
 当の垣根は、まぁ仕方ないかというように平然としている。

「学園都市の追っ手が俺を殺しに来た」

 隠しておくべき事でもないと判断した垣根は正直に白状する。

「……それは、貴方が逃亡者だから?」

「たぶんな。学園都市が中の情報を外部に漏らすのを嫌う事くらいは知ってんだろ。第二位の超能力者なんてものが他国にでも捕まって解剖されりゃ、不味い事になるんじゃねえか? 他の国に学園都市の能力者を解剖して解析するほどの技術力があるかは知らねえけど」

「私の知る限りそんな国はないわね」

 学園都市の中と外の技術力は三十年は離れている、というのがエリザリーナも知る常識だった。
 彼女自身は魔術師であるが、同時に独立国同盟の指導者でもある。科学サイドの総本山であり政治にも関わる学園都市の情報はある程度は知っている。だから他の魔術師よりかは学園都市内部の科学力がどれだけ優れているのかもイメージ出来るし、学園都市の足元に匹敵する技術力を有する国がないのも熟知していた。アメリカや旧ソ連では超能力者の研究なども行われていて、今も一部では行われているらしいが大した成果はなかったはずだ。

「ま、能力者を実際に解析できる国が本当にあるかないかは如何でもいい。学園都市にとってみれば、能力研究の詳細が他国に知られる可能性があるだけで、十分ロシアの中にある国までストーキングして、ぶっ殺す理由になるんだよ」

「狂ってるわね。まるで一昔前のヴァチカンによる異端狩りみたいだわ」

「それよりかはマシだと思うぜ? なんたって異端狩りのターゲットは俺一人だ。十字架にかけられて火炙りにされるのも俺一人。寧ろ、物欲的な意味なら神の愛の為の殺人よりかは理解できる」

「あら。神を信じている人間の前で言うセリフじゃないわね」

「っと悪い。別に宗教を否定してる訳じゃねえ。ただ価値観の問題だ。幾ら付け焼刃で聖書やら暗記したといっても科学の街育ちだからな。そういった博愛精神だとか信仰心よりかは、俗物的な利益のほうを信じちまう癖があるんだよ」

「冗談よ。神を信じているのは本当だけど、気にはしていないわ。私も神の為の粛清なんてのは御免だから」

「そいつは賢明なことで」

「……話が逸れたわね。それで追っ手の能力者達はどうしたの? 捕虜にした形跡も遺体もなかったという事は既に逃げ出したのかしら?」

「燃やされた」

「えっ?」

 あっさりとした口調で言われた言葉を、エリザリーナは一瞬理解出来なかった。

「焼かれたよ。綺麗さっぱり。学園都市が追っ手の奴等の体ン中に仕掛けてやがった。俺の暗殺に失敗した瞬間、中身からBOOON! とバーベキュー状態だ。なんか香ばしい匂いがした。ステーキ屋みてえな。ほんと虫唾が走る、嫌に香ばしい匂いがした」

 そういえば現場にはうっすらと灰が漂っていた。あまり気にしてはいなかったが、あの時宙を舞っていたのは人間の……。
 残酷な結論に思い至るとエリザリーナは携帯電話で部下に連絡をとった。

「ええ……そうよ。今日、垣根帝督が襲われた場所。探知魔術を使って灰を出来るだけ集めて。……そう、頼んだわ」

 一通りの指示を出し終えるとエリザリーナはふぅと一息ついた。
 こういう役回りは何時まで経っても慣れない。

「死体から情報でも漁るのか?」

「酷いわね、違うわよ。こう見えて私は聖女様の妹だからね。神父様の真似事」

「葬ってやるのかよ」

「人間、生きていれば辛い事が多くある。殆ど楽しい事なんて経験しないで死んでしまう事もある。だったら死んだ後くらいは静かに眠った方が良いでしょう」

「隣人を愛せよ、か」

「そう。隣人を愛せない人は誰からも愛されないものよ」

「…………優しいんだな」

「そうかしら?」

「少なくとも俺の知る女の中では一番優しい。インデックスは財政に優しくねえし、心理定規(メジャーハート)って女は優しさで儲ける奴だったからな」

「……インデックスは、食費以外は優しいでしょう?」

「そうか? 本当に優しけりゃ極悪な口撃力をなんとかして欲しいが」

 噛み付かれる痛みを思い出したのか、一人百面相する垣根を見てエリザリーナは薄く笑う。今までお礼の言葉や称える言葉は沢山されたが、対等な目線で面と向かって「ありがとう」なんて言われるのは久しぶりだ。

「それで、これからどうするの?」

「此処を出る」

 あっさりとした出国宣言だった。

「それは、どうして?」

「……俺がこの国に留まり続ければ、学園都市は追っ手を次々にこの国に送り込んでくるだろうさ。今回は独立国同盟の人間が死ぬことはなかったが、次はそうとは限らねえ。これでも俺は恩知らずじゃねえんだ。わざわざ無い時間使って魔術を教えてくれた人間の国の国民を傷つけてまでこの国にいたりはしねえよ。ま、俺なりの流儀ってやつだ」

「そうね。私も一国の指導者として貴方をこの国に滞在させ続ける訳にはいかないわ」

 幾ら個人的に垣根やインデックスに好感を持っていて、なんとか助けてあげたいと思ってもエリザリーナは一国の指導者である。国の指導者が私情に囚われて国民を犠牲にする訳にはいかなかった。
 この話し合いでも、最終的には垣根達にこの国から出るように言うつもりだった。なので垣根の方から言いだしてくれたのは幸いといえる。

(いえ、もしかしたら……。全て判った上で気を遣ってくれたのかしら?)

「どっちみち一通り魔術を教わったら出るつもりだったからな。インデックスの『首輪』のこともある。予定が少し繰り上がったまでだ」

「宛てはあるの?」

「ねえよ。強いて言うならインデックスの頭の中にある魔術結社の『知識』だ」

「そう」

「じゃあ荷物纏めてくる。インデックスにも説明しねえといけねえしな」

 椅子から立ち上がると、垣根は扉の方へ歩いていく。
 さて、どうしたべきか。一国の指導者としては垣根帝督に手助けする事はもう出来ない。エリザリーナ独立国同盟は小国。アメリカやロシアのような大国ならまだしも、独立国同盟に科学サイドの総本山たる学園都市を外交的な意味で相手する力はない。
 だからエリザリーナが出来るとしたら、手助けにもならないアドバイスくらいだろう。

「…………ヴァチカン」

「はっ?」

 垣根の足が止まる。

「ヴァチカン。あそこなら、安全かもしれないわ」

「おいおいヴァチカンっていうとアレだろ? 十字教の最大宗派だとかいうローマ成教の総本山。なんでそんな場所に」

「総本山だからよ。いい、科学サイドと魔術サイドは今、微妙なバランスの上で成り立っている。もし少しでもバランスが崩れれば不味い事になるほどの。学園都市も魔術サイドとの全面戦争なんて望んではいないでしょう。学園都市が信義や大義よりも利益を重要視する集団なら、そんなことは望まない」

「確かに、そうだ。俺達のような暗部も、学園都市の不利益な連中を殺すためのものだからな。戦争なんてお祭り騒ぎになる前に、裏から上手い具合にハンドル握って利益を得るのが学園都市のやり方だ。大体総人口230万人で20億と戦争なんざしたくねえだろうよ」

 垣根から聞いた話だと、学園都市の能力者は大した事ないらしい。
 実際の戦争で戦力になるのはLEVEL5のような例外中の例外とLEVEL4、あとは一部のLEVEL3程度で、それ以下の能力者は武装した兵士よりも遥かに弱いそうだ。幾ら科学力が三十年先をいっているとはいっても、人口二十億を誇るローマ成教が後先考えず総力戦を挑んで来れば、学園都市も保たないだろう。科学では圧倒しているといっても、ローマ成教には魔術という科学と対を為す切り札がある。

「だからこそ学園都市もヴァチカンに追っ手を出せない。多少友好関係にあるイギリスはまだしも、ローマ成教の総本山で能力者同士が争えば、それで戦争の発端が開きかねないのだから」

「成程な。それに十字教最大宗派なら」

「もしかしたら、『首輪』の解呪方法も分かるかも」

「……OKだ」

 再び垣根が扉へと歩いていく。
 心なしか歩調が先程よりも力強い。

「次の行先はローマ成教。ヴァチカンだ」

 


神父「我らは神の代理人
  神罰の地上代行者
  我らが使命は
  我が神に逆らう愚者を
  その肉の最後の一片までも絶滅すること――――――Amen」

機関長「死ね死ね死ね死ね 死ね!!いいぞッ 皆殺しだ!!これが我々の力だ!!目で見よ!!これがヴァチカンの力だ!!虫けらどもめ!!はははは 見ろッあの哀れな連中を!!死んだプロテスタントだけが良いプロテスタントだ!!」

……な人達がいるヴァチカンにGOです。



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