とある魔術の未元物質
SCHOOL69  裏事情という 水


―――誰もが、誰かにとっては変人である。
変わっている人と書いて変人と読む。この世に同じ人間が一人としていない以上、他人というのは変人と同義である。変人であるのは罪ではない。世間で変人と呼ばれる人は多少平均より違うだけなのだから。しかしそれが余りに逸脱すると、それは変態となる。










 十字教最大宗派ローマ成教。全国に20億の信徒を抱えるこの組織は、魔術サイドにおいても最大勢力であった。表側のトップこそナンバーワンの地位を米国に譲ったが、魔術という裏においては未だにローマ、ひいてはヴァチカンはナンバーワンといえた。その権威は他のイギリスやロシアなどを上回り不動の一位に君臨し続けている程。

 だが20億の信徒や、ローマ成教に所属する一般魔術師達も一体誰がこのローマの実質的なトップなのかは知らない。

 表向きのトップはローマ教皇で、そう世界も認識しているが本当は違う。ローマ教皇というのは基本的に神に最も近い信徒とされ、そんな人物が誰かに助言を請うなんていうのはあってはならない。そんな教皇が助言を請う為には、普通じゃない存在が必要とされた。人間であって人間でなく、信徒とは一線を画す、ある意味最大の神への冒涜者であり神に近い者。

 原罪というものがある。
 人間にはアダムとイヴが知恵の実を食べた事で生まれながらに罪を背負っているという考え方だ。本来ならこの原罪は死後でなければ洗い流す事は出来ないのだが、ローマ成教は生きながらにしてその原罪を極端に薄めるという禁忌の技術を得た。

 それによって原罪を洗い流された者は他の人間とは異なるようになる。人間よりも天使に近くなり、人間ならざる者の扱う奇跡を行うことが出来るようになっていく。

 そういった者達が代々のローマ教皇の相談役となり、時が流れるにつれてローマ教皇よりもその力を増していってしまった歴史の表舞台に上がる事は決していない影の権力者集団。

 神の右席。
 ローマ成教でかなりの地位にいる者だけが知りえる四人の魔術師達。
 教皇の相談役だけあって彼等が基本的にいる場所はヴァチカンだ。そのヴァチカンの更に中心の大聖堂で『神の右席』の実質的ナンバーワンである右方のフィアンマはある情報を掴み、同じ『神の右席』である後方のアックアと魔術によって連絡をとっていた。

「アックア、俺様だ」

『……………………』

 尊大なフィアンマの第一声に流石のアックアの閉口しているようだった。電話越しのアックアは何も答えずにいる。
 常日頃のフィアンマなら自分から連絡をするような事はせず、適当に呼びつけそうなものだが、生憎とアックアはこのローマではなく遠く離れた異教の地、日本の学園都市近くにいるのでこうして遠距離通話の魔術で連絡をとったのだ。

「俺様が耳寄りな情報を掴んでやったぞ。有り難く聞くといい」

『……なんであるか?』

 アックアの方はこのフィアンマの態度に慣れているのだろう。常人ならここまで尊大な対応をされれば文句の一つでも言いそうだが、胸板と同じように懐も広いアックアはどうにか堪えていた。

「垣根帝督が学園都市に行くらしい。この分だと、先に学園都市に潜入したヴェントと鉢合わせになるかもしれんぞ」

『真実であるかっ、その情報は!』

 ローマ成教の仮想敵である学園都市に向かったのは後方のアックアだけではなかった。同じく『神の右席』の一人、前方のヴェントもまたアックアより先に学園都市に潜入しているのである。
 直接的戦闘力こそフィアンマやアックアに劣るヴェントだが、ことその能力は単機殲滅には非常に向いているといっていい。あの力は、使いようによっては一人で戦争に勝利し得るほどのものなのだから。
 『神の右席』は其々が高い実力の持ち主であり、本来ならば学園都市の能力者に後れをとるようなものではない。しかし例外というものは何処にでもある。その一つが垣根帝督だった。

「垣根帝督、奴はお前程の男を倒した実力者。……ヴェントでは荷が重いだろう」

『……そうであるか? ヴェントの「天罰術式」ならば、垣根帝督がヴェントに悪意を持った時点で勝敗は決するのである』

「そうだな、普通はそう考える」

 ヴェントの『天罰術式』というのは、簡単に説明してしまえばヴェントに悪意を持った人間を問答無用で昏倒させる術式だ。悪意さえあれば距離も時間も関係なく、老若男女等しく昏倒してしまう。余程精神が狂った人間でもない限り、敵対する人間に悪意を感じざるを得ず、数多ある魔術の中でも最も厄介なものの一つだろう。しかし、

「垣根帝督は普通じゃない。単純な力の差の云々ではなく、ヴェントだと余りにも相性が悪すぎる。対垣根帝督に要求されるのは『天罰術式』のような特殊性ではなく、単純な力だ。或いはアレを上回る戦術か。ヴェントは一流の魔術師であって一流の戦士とは言い難い」

『回りくどい言い方は止めるのである。この私に垣根帝督と戦えというのであろう?』

「理解が早いじゃないかアックア。俺様も良い手駒を得て嬉しいぞ。……ところでアックア」

『?』

「未元禁書もいいが未元崩しもいいなと思うのは俺様だけだろうか?」

『任務に戻るのである』

 通信が途絶える。
 アックアがフィアンマの言葉をこれ以上聞きたくなかった為に切ったのだろう。

「冗談の通じん奴だ、堅物め」




 ワシリーサの根回しもあり、再びヴァチカンを出て日本の土を踏むのは難しくなかった。
 大覇星祭の時に学園都市に潜入した時と同じ服装で、山手線に揺られること数十分。新宿駅に到着したインデックスと垣根は、その駅で待機していた件のサーシャ・クロイッツェフと久方ぶりの再会を果たしていた。

「聞いていいか?」

「第一の解答ですが、なんでしょう?」

「その服、目立たねえのかよ」

「!」

 サーシャの格好は一応変装している垣根やインデックスと違い、あの拘束服である。それを着て新宿駅構内に突っ立っているのだからハードなプレイ中にしか思えない。AV出演依頼や、SMクラブから勧誘が来そうだった。というより、なにこの羞恥プレイ。

「だ、第二の解答ですが、認識阻害の魔術があるので問題ありません。補足説明しますとこれは私が着たくて着ているのではなく、ワシリーサ……あの腐れ上司が無理矢理………」

 プルプルと赤面しながら腕を振るわせるサーシャ。
 見ていて痛々しい。余程ワシリーサと生活するのが苦しかったのだろう。垣根らしくもなく目頭が熱くなるのを感じた。

「分かった、安心しろ。もうここにワシリーサの変態はいねえ。苦しむ必要はねえんだ」

「そうだよ、さーしゃ! ここには私とていとくしかいないんだから、あんまり硬くならないで!」

「あ、ありがとう……ございます」

 同じ変態(痛み)を知るからこそ、三人は同士だった。
 貸し借りだとか目的だとかは些細な問題である。三人は意気投合し学園都市へと向かう。
 あの怪物。後方のアックアが待ち構える学園都市へと。




サーシャは被害者ですw

そして読者の皆様、メリークリスマス。今回はクリスマスなので特別編と二話同時投稿です。



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