とある魔術の未元物質
SCHOOL75  超能力者 二人


―――暗部。
学園都市には垣根の所属していた『スクール』を始めとして複数の暗部組織がある。『アイテム』もその一つだ。しかしそれ以上の闇があることは闇に属する暗部も殆ど知りはしない。闇の奥底を全て知っているのは学園都市統括理事長アレイスターと、最暗部そのものであるエイワスくらいだろう。










 『猟犬部隊』より奪った車が『冥土返し(ヘブンキャンセラー)』と仇名される医者の病院の近くで停止する。一方通行は運転手として確保した『猟犬部隊』の構成員に下手な真似をすれば殺すという無言の警告を与えると、インデックスに言う。

「協力しろ」

 一方通行にはこの白い修道服のシスターが何者なのかは想像できない。服装と科学に疎いので学園都市の住人ではないのかもしれないという事くらいは予測できたが、具体的にどのような理由で隕石のように空から墜落してきたのかは学園都市最高の頭脳であっても明確な答えは導き出せなかった。
 しかしなんとなく臭いで分かる。この少女は一方通行や木原数多のような闇に属している人間ではない。光も光、真っ当な場所で真っ当な人生を送るべき少女だ。一方通行が守りたいと思った『打ち止め(ラストオーダー)』と同じ。

「うん。何をしたら良い?」

「この近くにデカい病院がある。徒歩五分から十分って所だな。そこに行って、いかにもカエルに良く似た医者を連れてこい。医者に会ったら……」

 一方通行は言葉を切り、首筋をとんとん叩く。

「ミサカネットワーク接続用電極のバッテリーを用意しろと伝えろ。それで通じる。バッテリーってなァ大事なモンだ。ソイツがねェと人探しができねェ。だからバッテリーを受け取ったら、お前はダッシュでここに戻ってこい。分かったな」

「分かった。″ミサカネットワーク接続用電極のバッテリー”だね」

 科学に疎いと思っていたら、あっさりとシスターは一方通行の言葉を正確に復唱してみせた。もしかしたら外見に似合わず頭は良いのかもしれない。
 少女は雨の中傘も差さず躊躇なく出ていく。

「待っててね」

「あァ?」

「私が戻ってくるまでちゃんと待ってなきゃやだよ?」

「…………分かってる。良いからさっさと行け!」

「ていとくにも助けてくれるよう頼んでみるから。大丈夫! ていとくは性格悪いし玉に外道だけどたぶん助けてくれると思う」

「余計に面倒な事態になりそォだ。提督閣下には伝えねェでいい」

 少女は提督ではなく帝督と言ったのだが、それに一方通行は気づかない。垣根帝督という名前は学園都市から脱走したLEVEL5ということで暗部界隈には有名だが、一方通行は暗部の実験に関わっていても暗部組織に所属していたわけでなく、しかも最近は打ち止めや黄泉川と暗部と関係のない場所で日々を送っていたので、第二位の情報を掴んでいなかったのだ。それ以上に帝督という名前が非常に珍しく、提督という名前が非常にポピュラーであったことも間違いに拍車をかけていた。

「クソッタレが」

 一方通行は吐き捨てる。
 完璧な嘘だった。冥土返しの病院に行けという所以外は嘘。
 これでいい。あの少女はこのクソッタレな事態とは関係ない。一人にさせておくには不安だが、一方通行も今はあの少女の側にいる暇もない。自分には自分の目的があるのだから。
 生きていれば必ず救うとまで豪語する医者だ。あのカエル顔の医者に任せておけば問題はないだろう。
 一方通行は『打ち止め』を助ける為、学園都市の闇へと潜っていった。


「だから″ミサカネットワーク接続用電極のバッテリー″っていうのが欲しいんだよ!」

 インデックスは白い少年の語る特徴にあったカエルに似た医者を呼びつけ、少年の言葉をそのまま伝えていた。完全記憶能力があるだけあって一言一句、口調すら少年そのままだった。
 しかしインデックスの必死さをよそに、カエル顔の医者はただ応対に困るだけ。直ぐに用意しよう、などと言う訳でもなく、どこかしらへ電話をしていた。

「……大丈夫かな、あの人」

 あそこで待ってくれているだろうか。
 なんとなく待っていないような気がする。アレは帝督と同じ。悩みはしても長くは立ち止まってはいないタイプの人間。きっと助けたい人を助ける為にさっさと行動に移っているだろう。

「おい! インデックスっ!」

 何時の間にか背後にいた垣根が怒鳴った。

「うわっ!? て、ていとく……無事だったの?」

「無事じゃねえよ」

 ポタポタと滴り落ちる血液。
 インデックスの見た所治癒魔術で傷は塞がっているようだが、万全を期すならこの病院で診察を受けた方がいいだろう。

「あのゴリラ野郎が、どこまで俺の邪魔をすれば気が済みやがる。んな事より、サーシャから連絡があった。天使の涙とやらの研究所はこれまた『天罰術式』とやらのお蔭でセキュリティーはほぼお陀仏。人員も全滅だと」

「そ、そうなの。それは良かったけど」

「だが肝心の天使の涙の方は科学的セキュリティーに覆われて手が出せないらしい。応援に来てくれたら嬉しいだとさ」

「うん、でもていとく。お願いがあるんだけど」

 インデックスは身振りまでして必死にアックアに放り投げられた後に出会った少年のことを話す。
 垣根は暫くは黙って聞いていたが、終盤には心底嫌そうな顔になっていた。

「却下だ」

「な、なんで!?」

「第一なんで俺がその野郎の手伝いをしなきゃならねえ。いつから俺は赤の他人のために汗水流す純情野郎になったんだ? ンな事はソイツが勝手にすりゃいい。俺は知らねえ」

「でもでも……」

「どっちにせよ優先順位ってもんがある。百歩譲ってその純情少年を助けるにしても、サーシャの依頼を片付けた後だ。さっさと行くぞ。病院内であのアックアと戦闘だなんてテメエだって望んじゃいねえだろ」

「う、うん」

 これほど大きな病院だ。
 かなりの重症者だっているだろう。そこでアックアなんて怪物と垣根が戦えばもしかしなくても大惨事になるのは確実である。

「さーてと、やけに学園都市は物騒になってきてるじゃねえかよ。統括理事長アレイスター様、ざまあねえな糞野郎」



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