とある魔術の未元物質
SCHOOL85  暗部 が 騒ぐ


―――全くの自由は必然的に退廃を意味する。
労働や不自由があるからこそ自由は価値を持つ。しかし一日のすべて、一年がすべて自由時間ならば必然的に人は怠け退廃する。そこに一切の進歩も向上もなく、ただ停滞と老化があるのみだ。不自由とは自由を輝かせる為の調味料なのかもしれない。









 学園都市において『アイテム』や『旧スクール』と同程度の機密度を持ち、暗部の中でも最強にして最悪の面子が揃った『グループ』の構成員である四人は、『電話の男』からの指示によりアジトに集結していた。

「以前の仕事からまだ四十分しか経ってないっていうのに再招集ってどういうことよ。私だって暇じゃないんだけど」

 結標淡希が文句を言う。ブレザーを羽織って中はサラシという大胆な格好をした少女だが、LEVEL4の大能力者である。能力名は『座標移動(ムーブ・ポイント)』。始点と終点が固定されない唯一の空間移動能力であり、その能力の最高峰である。彼女自身のトラウマで自分自身を転移すると拒否反応として強烈な吐き気を催すという欠点を除けばLEVEL5判定をされても良いような強さである。

「そう言うな。上層部曰く、緊急事態だそうだからな」

 土御門元春。頭を金髪で染めツンツンさせている少年、あの上条当麻の同級生であり魔術サイドと科学サイドを股に掛ける多重スパイでもある彼は、同僚である結標を適当になだめながら応じた。

「まぁまぁ、それで我々のような連中を召集するほどの緊急事態とはなんなんです?」

 海原光貴の顔をした元アステカの魔術師がそう土御門に内容を開示するよう求める。『グループ』は基本的に個人主義……というより明確なリーダーもおらず構成員が単独で行動することが多い組織だ。それには構成員一人一人の能力がずば抜けて高いという事もあるが、彼等が元々馴れ合いや友情というようなものを求めていないというのも大きい。

「『グループ』だけじゃない。他にも『アイテム』や『メンバー』にも召集が掛かっている。しかも全く同じ内容でな」

「「…………!」」

 どうやら生半可な緊急時ではなさそうだ。学園都市に暗部組織は多々あれど、それらは一つ一つが独立しており、共同作戦にあたることは有り得ない。有り得なかった、今日これまでは。

「それはまぁ、凄い事態ですね。余程この街に物騒なことが起きようとしているようです」

 海原の瞳に自然と力が入る。彼の守るべき者はこの学園都市にいる。この街で日常を送っているのだ。その日常が壊されるかもしれないと言うのなら、海原には命を懸けてでも戦う理由があった。

「上層部としては扱いやすい駆動鎧の部隊はフランスでの事後処理に忙しいからな。俺達のような連中にツケが回ってきた訳だ」

 フランスでのことは土御門が一番良く知っている。何故なら土御門はその件の当事者の一人なのだから。

「迷惑な話。大金詰んで編成した駆動鎧も出払っているなら木偶の坊にも劣るわね」

「……作戦行動中『アイテム』や『メンバー』と一切の交戦を禁じると、統括理事会のお偉方の一人が直々に言ってきてる。あちらが仕掛けてこない限りこちらから手を出すなよ」

「信用できるんですか? 特に『アイテム』には第四位のLEVEL5がいますし、性格も……なんといいますか……荒々しいと耳にしたことがあります」

「この指令は『アイテム』にも伝えられている筈だ。奴等も暗部として長い。緊急時に内輪もめするほど馬鹿じゃないだろ。それと俺達『グループ』には追加でこの混乱に乗じて騒動を起こそうとしている『ブロック』の撃破というオーダーもある。なんでも『ブロック』は外部より凄腕のスナイパーを雇って、統括理事会の一人、親船最中を狙っているそうだ」

「…………割に合わないわね。残業手当は出るの?」

「欲しければお前が自分の責任で要求することだ」

「手当をくれる可能性はあるかもしれませんよ、貴女の頑張り次第では。ただ可能性といっても5%程度ですけど」

 確かに5%なら可能性はゼロじゃないだろう。されど二十分の一。二十度やって一度の小さな確率だ。結標はそんな海原の意見を聞いても興味なさそうにコルクを指で弄ぶ。彼女も本気で残業手当なんて要求するようなつもりはないのだろう。

「下らねェ御託はどォでもイイ」

 物影となった場所から四人目の構成員が声を発した。三人が同時に振り向く。真っ白な髪、血のように紅い両目、整った顔立ち。学園都市最強のLEVEL5に君臨する怪物。その名を『一方通行(アクセラレータ)』。この『グループ』でも最強の力を秘めた生きた戦略兵器。単体で戦略を引っ繰り返す化け物。

「上層部の糞野郎共が大騒ぎする程の事件、そいつはなンだ?」

 土御門を除く『グループ』の三人の目つきが変わる。彼等は一応学園都市に隷従してはいるが、何時までもそのままでいる気はない。機会があれば上層部の喉元を食い破るつもりでいるのだ。そして今回の緊急事態。もしかしたらその機会なのかもしれないのである。

「統括理事会はどうやら戦力として一番お前を充てにしているようだったぞ、一方通行」

「あァ?」

 はぐらかしたような言い方に、一方通行が眉を潜める。

「逃亡していた学園都市第二位のLEVEL5『垣根帝督』がこの街に戻ってくる。それを速やかに抹殺しろと仰せだ、統括理事会の老人共は」

「第二位、だァ」

 

「へぇ、第二位の糞野郎がのこのこ戻ってくるなんてねぇ。わざわざ私に殺されに来たのかにゃーん」

 昼の喫茶店には似合わぬ殺意に満ち溢れた笑顔を麦野は浮かべて見せた。余りに恐ろしさに店員のみならず、『アイテム』の下っ端である浜面までもがビビッていた。

「で、私の顔面を超殴ってくれやがった第二位が今更どうして戻ってくるんですか?」

 絹旗が言葉の端々に刺々しさを滲ませつつ尋ねた。フレンダがハンカチで汗を拭きながらも絹旗に同調するよう「うんうん」と頷いた。

「そんな事はどうでもいいのよ。要はあの第二位にお礼参りする機会があっちから来たんだから」

 『アイテム』の構成員は垣根帝督とは浅はかならぬ縁……というより因縁がある。垣根が学園都市から脱出する直前、襲撃したのは他ならぬ『アイテム』なのだ。
 結局、キャパシティダウンという隠し玉を使っても垣根を倒す事は出来ず、フレンダ以外の三人が男女平等パンチを受けるという結末を迎えたのだが、麦野はリベンジする気満々であった。もし垣根が麦野に生け捕りにされるような事があれば、恐らく垣根の顔面は酷い事になるだろう。




何気に初登場な土御門、海原、結標の三人。

そして浜面も初登場ですw セリフはありませんでしたがw



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