とある魔術の未元物質
SCHOOL93  浜面仕上


―――政治家が戦争を始め、兵隊はそこに巻き込まれて戦い、そして死んでいくのだ
兵士というのを平和の敵のように見る人間がいるがそれは間違いである。兵士は戦争を起こしたりはしない。戦争を発生させるのは政治家であり、兵士はただそれに従っているだけだ。例え軍国主義だったとしても、戦争を引き起こすのは将軍で決して兵士ではない。だというのに民衆は手近にいる兵士に戦争責任を問いたがる。これは全く無意味かつ非生産的な愚考だ。










 絹旗最愛は決して弱い能力者ではない。
 嘗て『暗闇の五月計画』と呼ばれた実験があった。学園都市最強のLEVEL5.第一位の『一方通行(アクセラレータ)』の演算パターンを参考に、各能力者の自分だけの現実(パーソナルリアリティ)を最適化、能力者の性能を向上させようというプロジェクトである。実験のモルモットとされたのは学園都市に多くいる身寄りのない子供『置き去り(チャイルドエラー)』であり絹旗はその一人だった。
 その結果、一方通行の防御性を再現させられた絹旗に発現したのは『窒素装甲(オフェンスアーマー)』という窒素を自由に操る力。

(だけど第二位相手となると超心もとないですね)

  『窒素装甲』はLEVEL4認定されるだけあり強大なもので、圧縮した窒素の塊を制御することにより、自動車を持ち上げ、弾丸を受け止めることすらできる。ただしその効果範囲は非常に狭く、掌から数センチの位置が限界なため、 見た目では『手で持ち上げているように』見えてしまう。
 最大の特徴として、一方通行の演算パターンを参考に最適化された『自動防御能力』がある。これは一方通行の持つ『反射』を擬似的に再現したもので、攻撃を受けた際に本人の意思に関係なく『窒素の壁』が自動展開される。 自動防御の名に偽りはなく、あらゆる方向からの攻撃に対応できる上、絹旗本人が全く気付いていない不意打ちの銃撃ですらも防ぐ、まさに『装甲』と呼ぶに相応しい非常に優秀な防御能力である。
 しかしそんな『装甲』が役に立たないのは前回の戦闘で証明済みだ。絹旗を守る『装甲』はあっさりと剥がされ、その力を防ぐことは不可能だった。

(ですがあの時の戦闘は第二位も超覚えているはずっ!)

 勝利の記憶は油断にも繋がる。
 もし互いが全力で激突した場合、絹旗の『窒素装甲(オフェンスアーマー)』で『未元物質(ダークマター)』に勝つことは不可能に近い。それでも垣根帝督が少しでも油断してくれれば、勝機が見えてくるかもしれない。

「……第四位、麦野沈利には部下の教育が出来てねえって言ったが訂正しておいてやる。誇りと命を天秤にかけるとぁ賢い選択じゃねえが」

「無駄口叩いてる暇が超あるんですか!」

 アジトにあるテーブルを安々と片手で持ち上げる。いや正確には掌から数センチに顕現している窒素を操り浮かす。しっかりと垣根帝督へ狙いを定めると思いっきり投げつけた。
 テーブルが空中で炸裂する。絹旗がやったのではない。となれば下手人は垣根のみ。

(こうなる事は超予測済みですっ!)

 『窒素装甲(オフェンスアーマー)』により得られるエネルギーを足の裏に集中させ、飛んだ。このまま垣根の間合いに入り込んで一撃を叩き込む。幾らLEVEL5といえど垣根帝督の体は人間のもの。一方通行のように反射の膜を持っている訳でもないのなら、『窒素装甲』のパワーで殴り飛ばしてしまえば倒す事は出来る。
 『未元物質(ダークマター)』のものであろう正体不明の風が吹き荒れた。絹旗が何らかの防御策を思いつく前に『窒素装甲』を掻き消してしまう。

「敢闘賞をくれてやる、絹旗最愛。悪くねえ能力者だった。暗部としても精神的にもな」

 絹旗が意識を失う前に最後に見たもの。
 それは垣根帝督が強く握りしめた拳だった。



 実際のところ、絹旗最愛は垣根帝督の敵とは為りえない。力量云々とかそういう問題ではなく、どこをどうやっても超えられない決定的な差というものがある。その差は第三位までのLEVEL5とLEVEL0との間にある差よりも広く絶望的なものだ。
 垣根はその気になれば滝壺ともう一人の下っ端を逃がさせる間もなく、三人を撃破することも出来た。それをしなかったのは万が一の不安要素を懸念した為である。もしも懸念していることが現実となった場合、LEVEL4の絹旗が近くにいると万が一にも敗北する可能性がありえた。けれど今、その懸念事項である滝壺の近くにいるのは単なる下っ端、恐らくはLEVEL0が一人。
 障害はなにもない。
 魔術による探知で垣根は直ぐに滝壺の居場所を特定する。足でコツンと地面を蹴る。謎の重圧がかかり人一人分が落ちるほどの隙間が床に空いた。それも地下一階までの直通。
 迷うことなく垣根はその隙間から落下していく。地下一階までの直通コースは二十秒もせずに垣根を地下一階に到着させた。
 ターゲットである滝壺は探知魔術通りそこにいた。

「見つけた見つけた見つけたよん。俺としても延々とお前にストーキングされるのは邪魔臭えんだ。ここで脱落して貰うぜ」

「―――――――」

 滝壺は何も答えようとはせず、白い粉末を舐める。垣根は情報でその粉末が何なのかを知っていた。能力体結晶、体晶とも呼称されるそれは人為的に能力を暴走状態にさせる。普通の能力者が使えば自爆するのがオチだが、一部の素養ある者は暴走状態の方が高い能力を発揮でき、滝壺はその一部だった。
 暴走状態になった滝壺の目がカっと見開いた。垣根は妙な違和感を覚える。タイミングからして滝壺がなんらかの力を行使しているのだろう。
 それを探る為、垣根は適当に能力を使ってみる。もし異常がなければ白いのっぺりとした物質を生み出す筈だったが、出てきたのはのっぺりどころかべっとりした物質。

「はぁ……はぁ…はぁ――――――」

「『能力追跡(AIMストーカー)』、そんな使い方もあるのか。懸念事項ってのは正解するもんだ」

 対象のAIMを探知検索するだけの能力。だが滝壺はその枠を超えた。垣根帝督というレベル5の『自分だけの現実(パーソナルリアリティ)』を乗っ取り、掌握しようとしている。これに垣根は超能力ではない異能、魔術で対抗する。
 滝壺の能力干渉に対して、『自分だけの現実(パーソナルリアリティ)』への干渉を阻害するような魔術的結界を張る。

「ッ!」

 未知の防壁と遭遇した為か滝壺が驚く。暫く無言の攻防が続いた。滝壺の『能力追跡(AIMストーカー)』と魔術がぶつかり合う。戦いでありながら物音といえば互いの吐息だけという静かなる戦いだった。垣根は何度か術式を組み換え、滝壺もまた体晶を幾度か摂取し直した。
 先に折れたのは果たして滝壺だった。

「か―――――は――――っ」

 滝壺が倒れ込む。これは当たり前の結果だ。体晶というのはそもそも有害物質。一度使用するだけで使用者には尋常ならざる負担が掛かるというのに、それを連続で使用したとなれば、命と言うものが崩壊しかねない。寧ろ良く持った方だった。

「……絹旗最愛といい麦野沈利といいお前といい『アイテム』には粒のある連中が揃ってんじゃねえの。が、これで正真正銘のチェックだぜ。お前の体晶の効力が切れる前に聞いておくが、『心理定規(メジャーハート)』って女の居場所を特定できるか? ちなみに答えねえとは言わせない。言わなけりゃあの下っ端を殺す」

「…………大丈夫、その人なら一度会ったことがあるから」

 予想通り、滝壺は浜面の命を見捨てなかった。あの下っ端を逃がす為滝壺が殿となったのは知っている。先程の探知魔術でそのようなやり取りを目撃したのだ。
 幹部が下っ端を逃がすために命を張るなんて常識的に考えれば有り得ないが、なにか事情があったのだろう。

「……特定、心理定規は――――――」

 滝壺の語った『心理定規』の居場所を頭に叩き込む。もはや用はない。垣根が立ち去ろうとすると、エレベーターが開き逃げた筈の下っ端が現れた。

「何だ。戻ってきちまったのか?」

 浜面というらしい下っ端にそう言った。

「互いを守り合う男女、ねぇ。反吐が出る程王道的な展開じゃねえかよ。吐き気がする」

「おい、滝壺は…………どうなったんだよ?」

 浜面が恐る恐る尋ねた。
 流石に第二位相手に啖呵切る度胸はないようようだ。今のところは、まだ。

「一生分の根性振り絞って戻って来た所に水を差すようだが、こいつは長くはもたねえ。体晶っつぅ、頭悪そうなテメエには理解出来ねえだろうから理屈は省くが、要するに能力を意図的に暴走させるもんだ」

「……それは、知ってる。なら、どうして倒れてるんだよっ! 滝壺はさっきも、普通にそれを使ってたんだぞ!」

「これだから馬鹿は。能力を暴走なんてものが体に何の悪影響も出さねえなんて思うのか? これから一生一度も能力を使わねーってならまだしも、後一度や二度でも能力を使えば『崩壊』するだろうな」

 一瞬、浜面を殺そうか見逃すか迷う。 
 余り期待はしていなかったが滝壺の能力で心理定規の居場所も特定できたし、サーチ能力のない滝壺なんていうのは何ら脅威でもない。浜面に至ってはLEVEL0。

「うん、見逃してやる。その女がそんな大事だってなら、精々腹括ることだ。学園都市の闇ってのはウザいほど底知れねえんだからよ」

 珍しい、彼の助言だった。
 普段こうして他人にアドバイスすることなんてない垣根の。



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