とある魔術の未元物質
SCHOOL97  怪物 激突する 刻


―――どんなに大国でも、好戦的な国は必ず滅びる。逆にまた、どんな平和な時代でも、戦争に備えていない国は必ず危うくなる。
戦争を殊更に賛美し、軍備を増強し戦線を拡大し続ければ最終的には国家というものは崩壊するだろう。だがそうやって崩壊した国が、再び起こった時に前回の反省を踏まえ徹底して軍事というものを低俗としたが、結果的に国防が疎かになり異民族の侵略に対抗する術を失っていった。悪戯に戦争を拡大するのも悪徳だが、戦争を非難する余り軍備を整えないのは愚の骨頂である。









 遡る事数十分前。
 『ブロック』を粗方壊滅させた『グループ』、正確にはその構成員の一人である学園都市第一位『一方通行(アクセラレータ)』へ連絡がきた。
 白い髪に赤い瞳の怪物は面倒臭そうに舌打ちする。掛けてきた相手が何となく予測できたからだ。それでも一方通行の立場的に出ない訳にもいかない。例え相手がどれほど胡散臭かったとしても。

『お疲れ様でした一方通行(アクセラレータ)。お蔭でブロックの凶行を未然に防ぐことができました』

 この如何にも老人が好みそうな口調で喋る男こそ『グループ』の上役で、直接上層部の意向を伝えてくる制御役だ。ただあくまで制御役であり味方ではない。寧ろ一方通行を含めた『グループ』にとっては仮想敵でもある男だ。

「御託はいい。まさか仕事を終えた『グループ』に労いの言葉を掛けるなンて感動的な真似をする為に、わざわざ俺に電話したンじゃねェンだろォ?」

『話が早くて助かります』

「手短く用件を言え」

『貴方たち「グループ」に与えたもう一つの指令、覚えていますか?』

「第二位の糞野郎をぶち殺せって涙溢れる指令のことかァ? 『アイテム』や『メンバー』はどォした」

『全滅しました』

 あっさり電話の男は言い放った。しかし声色ほど簡単な事じゃない筈だ。『アイテム』は学園都市内部の不穏分子の粛清、暗殺を主目的とした暗部。『メンバー』はアレイスター直属の暗部だ。この二つを失うという事は学園都市内部の反逆者を抑えるのが難しくなってくるということでもある。『グループ』のように機会があれば学園都市に刃向う気満々な者達にとっては逆にメリットだが、学園都市上層部にとっては治安低下にも繋がりかねない重大事のはずだ。少なくとも一方通行はそう思うが、こうなると分からない。

(統括理事会の糞共は暗部組織が潰されよォと構わねェってのか? いや違ェ。代わりはいるって考えた方が無難だ)

 どちらにせよ、現状で一方通行に不利益は起きてない。
 強いてあげるなら『ブロック』との戦闘で役立たずが二名ほどダメージを負った程度。

『二つの組織が事実上の壊滅状態である以上、学園都市としては貴方に出撃して貰う必要があります』

「だらしねェ。テメエらじゃLEVEL5一人始末することもできねェのかァ?」

『学園都市第二位の垣根帝督は、貴方を含めた他のLEVEL5と違い明確に学園都市へ反旗を翻しています。状況によっては我々がこれから事を構えようとする組織に参加する可能性すらあります。もしそうなれば、或いはこの学園都市の存続すら危ういかもしれません』

「…………チッ」

 第二位のLEVEL5というのが具体的にどういう超能力者なのか一方通行は知らない。
 ただ第三位の『超電磁砲(レールガン)』は一方通行と比べれば玩具だが、それでも外の軍隊相手なら一人で壊滅させられる程には強い。
 それに外部組織にLEVEL5が組するというのは、単純な戦力以上に研究素材としてのサンプルにも、能力開発の足掛かりにもなる。ましてや垣根帝督とやらは元暗部組織のリーダーだという。学園都市からしたら外に口外して欲しくない情報も山ほど持っているかもしれない。情報・地の利・サンプル・能力開発・戦力、それらひっくるめて垣根帝督の離反は学園都市全体の崩壊に繋がる可能性を多分に秘めている。
 一方通行にとって統括理事会などといった学園都市上層部が死のうと殺されようと興味はない。寧ろ清々するほどだ。というより一方通行がこの先、生きていくなら必ず上層部と事を構える必要が出てくるだろう。『グループ』はその下準備のための情報を集めている。
 しかし学園都市が消滅するのは駄目だ。確かに学園都市の上層部は腐っている。けれどこの街がなくなれば、人口の8割を占める能力者達の居場所はなくなってしまう。打ち止め(ラストオーダー)を始めとした妹達(シスターズ)も学園都市という後ろ盾を失ってしまえば、非合法クローンがどうなるかなんて想像するだけで胸糞が悪くなる。上層部はどうなろうと構わない。ただ学園都市全体がなくなるのは困る。これは一方通行だけではなく『グループ』、いや学園都市に住む230万人に共通する考えだ。

『行って頂けますね、第二位を排除しに』

「一つだけ聞かせろ。第二位の野郎はなンでわざわざ脱出した学園都市に戻ってきやがった」

『お答え出来ません』

「そォかよ」

 予想していたが、腹立たしい返答だった。

『念のために言っておきますが、油断だけはしないよう。垣根帝督は伊達に第二位として君臨している訳ではありません。″外″で多少不可思議な技術を入手してきたという情報もあります。第四位の麦野沈利ですら全く歯が立ちませんでした』

「不可思議な技術についての詳細は答えられねェってかァ?」

『はい。私見ですが、今の垣根帝督と真っ向から戦いに持ち込めるのは貴方だけだと思いますよ。尤も逆もまた然りですが』

「話は終わりだ」

 電話を切る。
 結標と海原は使えない。土御門などを連れて行っても第二位相手では足手まといにしかならないだろう。なにせ電話の相手がこの『一方通行(アクセラレータ)』と真っ向から勝負できるとまで言ってのけたのだ。木原数多のような絡繰りや、何時かの無能力者のようなイレギュラーでもなく。海原と同じで妙な力を持ってはいるが回数制限があるらしい土御門なんて連れて行っても邪魔。それに一方通行は男と空中散歩と洒落込む趣味はない。

「第二位のLEVEL5だってェ。せめて第三位よりは骨があるンだろォなァ」

 


 学園都市の空を飛翔していた垣根帝督はピタリと空中で停止した。
 正面ビルの屋上に小さな人影がある。

「帝督?」

 腕の中の心理定規が訝しげな視線を送るが、垣根はそれを見てはいなかった。垣根の視線はビルの屋上に立っている人影の特徴を一つ一つ脳内にある情報と照らし合わせていた。やがて結論を出すと、ゆっくり適当なビルに心理定規を放り投げた。「きゃっ」と可愛らしい悲鳴をあげながら心理定規が地面に叩きつけられる。未元物質で心理定規を覆い衝撃を吸収させたので心理定規には傷一つないが、かなり不満そうだった。誰だっていきなり放り投げられればそうなるだろう。これに関しては垣根が悪い。

「いきなり投げないでよ。怪我はなかったけど驚くじゃない」

心理定規(メジャーハート)、テメエはそこで大人しくしてろ」

 心理定規の周囲一帯に簡易結界を発動させ覆う。
 これで心理定規については一先ずいい。

「直接会うのは初めてになるか、糞野郎」

「シケた遊びでハシャぎ回ってたみてェだな」

 白い声だ。狂っているようで平常心を保っているようでもある。
 闇の奥底から響く音色。

「もっと面白いことして盛り上がろォぜ。悪党の立ち振る舞いってのを教えてやるからよォ」

 第一位の超能力者『一方通行(アクセラレータ)』。
 第二位の超能力者『垣根帝督』
 この街に君臨する他の追随を許さぬ二人の怪物が、二人の物語が激突した。
 凄惨で壮大で残虐な、殺し合いの幕が上がる。
 何処かで金色の怪物が微笑んだ。



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