とある魔術の未元物質
SCHOOL100 地獄への誘い


―――お金じゃ愛は買えない
金があれば世の中、大抵の物は手に入る。家も車も富も名誉も、そして女も。欲望を満たす殆どのものは金によって手に入れることができる。しかし数少ない手に入れられないものというのが『愛』だ。金で人を買う事は出来ても、心を買うことはできない。








 あの……一方通行の背中から噴出するように顕現している黒い翼に、垣根は見覚えがあった。より正確にいうならば似たような物を、だが。
 一方通行の能力はベクトル変換である。この世に存在するありとあらゆるベクトルを自由自在に操ることが出来、ベクトル量を増大することで超電磁砲を超える威力の弾丸を放つことも、風のベクトルを操作することで竜巻を起こすことも自由自在だ。
 ならば今、学園都市最強の怪物は何のベクトルを操っているというのだろう?

「ziojnifo死ioioaij」

 もはや一方通行の口から洩れるのは理解不能の言語だった。
 超能力と魔術、二つの異能の力を理解している垣根だからこそあの黒翼の正体が不気味だった。魔術師が操る『天使の力(テレズマ)』に似ているが違う。AIM拡散力場辺りかとも思ったが……それも違う。一方通行の操り掌握した未知のベクトル。それが何なのか、垣根ですら上手く言葉にすることができない。

(やべえ! 理屈じゃねえ本能が告げてやがる!)

 あの黒翼を視たことで、垣根もより完全に『未元物質』のなんたるかを理解できたが、あの黒翼はそれ以上にヤバい代物だ。
 一方通行がゆっくりと右手を上げ、垣根へと向ける。
 すると、一方通行の手から発せられた『正体不明のベクトル』が垣根へ襲い掛かった。もし普通の人間なら何が起きたかすら分からぬままやられただろう。だが垣根とて第二位のLEVEL5。攻撃がくることを事前に察知し、白翼で防御をすることができた。
 しかし白翼の防御はあっさりと破壊される。

「がッウぁ――――ッ!」

 まるで大覇星祭で喰らった劉白起の斥力砲並みの威力だ。驚くべきはそれほどの破壊力を誇るものが、ただ右手を翳しただけで起きてしまったということ。
 ということは、もし一方通行があの黒翼の未知数の力そのものをぶつけてきたら?

(分が悪い――――――ッ)

 余りにもイレギュラー過ぎる。
 戦場では予期もせぬ事態が突然襲い掛かってくる、なんていうことは今更教えられるまでもなく承知しているが、これはイレギュラーを超えたイレギュラーだ。言ってみれば敵が歩兵かと思ったらスーパーロボットだったようなもの。戦車ならまだ対応できるかもしれないが、スーパーロボット相手に人間が太刀打ちできる筈がない。

「iagna逃ionihw」

 垣根が逃げようとしたことを敏感に悟ったのか、一方通行が黒い翼を噴射しながら突進してくる。
 唯でやられればアウトだ。応戦しないと。
 短い時間で垣根は頭をフル回転させ、魔術式を構成していった。科学の、超能力だけでは今の一方通行には勝てない。だがオカルトならば、もしかしたら。
 そういった一縷の希望を抱いての行動だった。

「喰らいやがれっ! 糞野郎がァ!」

 未元物質と魔術の融合。二つの異能の力を混ぜ合わせた垣根帝督だけの魔術。垣根の手に青い槍が出現した。
 狙いをすまし、思いっきり一方通行へと投擲された。

「iuzjoij邪魔biuohjojio」

 黒い翼が横なぎに振られる。
 それだけだった。それだけの動作で、垣根が生み出した未知の魔術はあっさりと破壊される。常識を超越したただ圧倒的なまでの暴力で。
 
(これが――――一方通行(アクセラレータ)

 こんなものを見せられたら認めるしかない。
 どうして垣根帝督が昇格しても『第二候補(セカンドプラン)』のままで、一方通行が『第一候補(メインプラン)』だったのかを。
 もはや一方通行と垣根帝督との戦いは、戦いではなく虐殺に等しかった。垣根が一人の少女を救う為に得た技術は、それを超える単純な『力』により破壊されていく。

「俺は――――――」

 負けるのか?
 一方通行の黒翼が迫ってくる。このままなら死ぬ。絶対に死ぬ。仮に生きていたとしても、もはや動くことは出来なくなるだろう。動けなくなった垣根を学園都市がどういう扱いをするのかは想像するだけで吐き気がしてくる。一つだけ言えることは、確実に人間扱いされないだろう。

(ふざけんじゃねえ)

 自分の魔術名を思い出せ。
 誰がこの糞な街に支配されるっていうのだ。誰がこの糞な上層部の連中に好きにされるっていうのだ。

「ふざけんじゃねぇえええええええええええええええええ!!」

 咆哮。白翼がみるみる巨大化していく。『未元物質(ダークマター)』が大量の空気中に散布される。数十種類の数多の未元物質は其々が滅茶苦茶に自然界の法則を塗り替えていった。
 一つは、重力を過剰な重力に。
 一つは、日光を殺人光線に。
 一つは、空気を毒ガスに。
 一つは、一つは、一つは………………。
 それだけの同時攻撃に晒された一方通行は、何も反応せずただ常軌を逸した笑みを浮かべるのみ。
 そして――――――――垣根の『未元物質(ダークマター)』の全てが、一方通行に掌握された。
 
「nionioejwa殺viooingwan」

 気付けば垣根はファミレスの窓を突き破り、店内にまで吹っ飛ばされていた。
 衝撃をギリギリのところで『未元物質』により軽減させたので、垣根の損傷は少ない。だがそれも後僅かのこと。
 怪物が一歩、また一歩……こちらに近付いてくる。どうにかして逃げなければ。そう思い立ち上がろうとした時、

「なっ!」

 本当に些細な、日常なら笑って誤魔化せるようなミスだった。破壊された店内の瓦礫に足をとられ、体勢を崩してしまう。その隙を、一方通行は見逃してはくれなかった。
 黒翼が伸びる。垣根の頭は目の前から向かってくる『死』に呆然とした。

(インデックス……俺は)

 だが黒翼が垣根を貫く直前、何かが横に入り、垣根を突き飛ばした。
 グサリと、まるで刃物が肉に突き刺さるような嫌な音が響く。突き飛ばされ倒れた垣根の頬に赤い液体が付着した。

「……………………おい」

「はははは、なにやってんだろ私。……自己犠牲の精神とは………無縁だと、思ってたんだけどね……」

 黒翼は心理定規の軟な体をあっさりと貫通している。しかも貫通した場所は、致命的な個所。これはもう、助からない。

「ふざけてんじゃねえぞ、心理定規ォ!」

 黒翼が引き抜かれ、心理定規が地面へと倒れる。
 
「テメエ、なんで馬鹿な真似をしやがった!」

 垣根の知る限り心理定規はこんなことをする女ではない。
 自分の命を犠牲にして他人を助けるより、他人の命を犠牲にして自分を助ける女だ。なのに、

「だから…………きっと、気の迷いよ。馬鹿みたいに浮かれてたのかもね。………幾ら私が調節した、偽りの感情でも……貴方という人間が、私を命懸けで助けに来るなんていうメルヘンチックな展開に」

「誰が、誰が助けてくれなんて頼んだ! 大体テメエはいつもいつも」

「あぁ帝督…まさか、泣いてる?」

「泣いてねえ!」

 そう言う垣根の瞳からは、確かな涙が流れていた。
 もしかしたら――――――――この涙は、垣根帝督という『少年』が学園都市の『闇』に触れて壊れる前のものだったのかもしれない。この街に来るまでは垣根帝督は普通の、何処にでもいるような少年で、壊れる前は普通の学生だったのかもしれない。時間が流れそんな『普通』だった頃の垣根は失われてしまったかと思われていたが、ほんの少しはそれが残っていて、その少しの感情が涙を流しているのかもしれなかった。

「……例え、泣いてたとしても……テメエが、能力で人様の感情を調節したからに決まってんだろうが!」

 垣根はそう言い聞かせる。弱い自分を否定するように、涙の理由を心理定規の能力に求めた。
 けれどクスクスと心理定規は笑う。

「バーカ。能力なら私が黒い翼に貫かれた時に、解かれちゃってるわよ」

「ぁ」

 そんな一言を残し、心理定規は目を閉じた。
 心臓の鼓動が聞こえない。急速に体が冷たくなっていく。傷跡から血が流れ続ける。
 治癒魔術は無駄だ。垣根帝督は死人を復活させるような術を知らない。心理定規は間違いなく、垣根帝督の腕の中で、息絶えたのだ。

「一方通行ァァァァァァァアアアアアアァアアアアアア!!!!」

 絶叫は――――――――――覚醒。
 一方通行と同じように、ロシアの戦いと同じように、垣根帝督の背中から眩い光翼が噴出した。なによりも輝いていながら、どこか暗い。
 
――――――――――――――――――窓のないビルで、一人の『人間』が嗤った。

 


祝! 100話目!
読者の皆様の応援もあり、とある魔術の未元物質も100話を突破しました。(年表や番外編も含めるともう超えてたんですけどね)

現時点で感想数も700近く、そして何と四つのレビューまでも頂けました! 本当に有難うございます。いや〜、本当に嬉しい限りです。にじファンでも315事件などありましたが、今後も精進を重ねていきたいと思います。目指せ感想数1000orレビュー数10! では次回に。


…………


…………上げて地獄へ叩き落とす。それが欝展開(ベリーハード)の基本。



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