とある魔術の未元物質
少年が見たかった夢


 矢張りどう足掻こうと運命とは変わらない。
 幾千幾万という平行世界、されど決定された結果を変えることは誰にも出来ないのだろう。
 垣根帝督は窓のないビルの最奥にてそういう結論へと達す。ビーカーのような巨大な器でさかさまになりながら、垣根帝督は多くの未来をシミュレートしていた。
 しかしどういう道筋を辿っても自身に待ち受けるのは破滅だけだった。

「矢張り私の『運命』はこうも度し難く、強敵なものなのか。やはり超能力と魔術、二つを修得したといっても達人を超えた神域に至らねば我が足掻きなど子細なもの」

 自分という人間が神から見捨てられていることなど当の昔に理解していた。これは自分以外の人間をシミュレートしていて分かったのだが、死の運命を回避させるのはわりと簡単なことだった。
 通勤時に交通事故で命を落とすサラリーマンならば、会社そのものを休みにしてしまえばいい。病気だというのなら発見を少し早くするなり食生活などを変えればいい。しかしどうしても"垣根帝督"の運命だけは変えられないのだ。
 この事象を垣根は他に幾例か発見した。上条当麻、一方通行、浜面仕上。この三人の決定的な運命もまた変化させることが出来ないのだ。

(主人公たる素質。ある者はどんな人間でも主人公になれると言う。しかし、ならばこの事象はなんだ。彼等は主人公だ。各々のステージで戦う主人公たりえる者達だ。他多数の凡人の運命を操作することは出来たが、この私と彼等の『運命』を覆すことは出来なかった)

 そこに至るまでの過程を変化させることは出来る。
 例えをあげるのなら上条当麻とインデックスだろう。先程までのシミュレートで垣根帝督は、上条当麻とインデックスが出会うという運命を操作し、垣根帝督とインデックスが出会う運命へ書き換えた。しかしそんな風に運命を捻じ曲げていても垣根帝督が一方通行に敗れ死ぬという決定的な運命を変えることは出来なかった。

(主人公の『運命』は変えられない。それは私自身もまた『主人公』だからなのか。それとも『敵役』である私には『主人公』を操作できないということなのか)

 垣根帝督はたった一人しかいないビルの中で延々と思考に耽りつづける。
 時間ならば無駄なほどたっぷりある。学園都市のことも、殆どは統括理事会の者達が運営していて、自分は殆どタッチしないし表舞台にたつこともないのだから。
 しかし来客は突然にあった。

『やぁ、忙しかったかな』

 窓のないビルにこうも安々と踏み入り、しかも垣根相手にこうもフランクに話しかけられる人物など一人しかいない。
 垣根帝督――――世界から追放された迷い子たる彼にホルスの知恵を授けた張本人、守護天使エイワス。

「この状態で私が仕事に追われているように見えるかね」

『つまり暇だと、そういうんだな』

「貴方に嘘をついたところで意味はないだろう。嘘というペルソナに騙されるほど貴方は堕ちてはいない上に、私が貴方を騙すことに利などありはしない」

『"垣根帝督"は死んだ』

「ああ、分かっている。私も学園都市中に放っている滞空回線(アンダーライン)から把握している。垣根帝督は一方通行に敗れ死んだ。彼の体は破壊され尽し二度と元に戻ることはない」

『しかし世界は廻る。"垣根帝督"という小さな歯車が消えた程度では世界という巨大な歯車は動きを止めない。君はこの先もシミュレートしたのだろう。なにやら今度は禁書目録(インデックス)と垣根帝督を交わらせたようだが……』

「単なる思い付きだよ、エイワス」

 メインプランの一方通行(アクセラレータ)
 プランにおける意図的なイレギュラーである上条当麻。
 そして本当のイレギュラーである浜面仕上。
 世界は廻る、クルクルと廻り続ける。
 垣根帝督は人間として死に、これからただの未元物質(ダークマター)を吐き出すための機械として生命の全てを学園都市の老人の利益として搾り取られることになるだろう。
 垣根帝督の脳裏にあるあの時が訪れるまで。


――――――永遠の牢獄に囚われた少年は自由を求めた。

――――――しかし少年には牢獄から逃げるための手がなかった。

――――――少年には牢獄から走り去るための足がなかった。

――――――少年には体がなかった。

――――――だから少年は自分の心だけを外へと吐き出した。

――――――少年の心は別の世界の赤ん坊の心に宿った。

――――――産まれながらに知恵をもつ赤ん坊を母は"アレイスター"と名付けた。

 これはたったそれだけの物語だ。
 一人の少年が絶望しかない自分の運命を憎み、自分の死なない未来をシミュレートしたくなった。自分が幸せになる世界を手に入れたかった。
 これは本当にそれだけの物語。

『今回は残念だったな"アレイスター"』

 アレイスター=クロウリー。嘗ては垣根帝督と呼ばれていた『人間』は自身に知恵を授けた高位頭脳生命体へ久しぶりの笑みを浮かべた。

「いいや。案外に興味深いシミュレートだったよ、愛しくて難い私の共犯者」

 さかしまの魔術師は窓のないビルで一人、シミュレートを続ける。
 自分の死なない可能性を見つけるために。



 とある魔術の未元物質 完







































―――――――――――――エイプリルフールッ!!!




 はい、エイプリルフールの嘘最終回です。まさかのアレイスター=垣根だったというオチ。言わずともお分かりと思いますが、もうなにもかもがペテンで出鱈目で嘘っぱちな話です。当然ながら本作の本当の最終回はこんなんじゃないのでご安心下さい。
 次話は通常通り明日の0時へと更新されます。今日はエイプリルフール、一年に一度の嘘が許される日。好き勝手に嘘を吐きまくりましょう。ただし人を傷つける嘘はいけません。ウソップのようなポリシーをもっていきましょう。

それと最後に感想で一方通行を非難する声が多数あがっていますが、一方通行からしたら垣根はただの敵で、しかも打ち止めや黄泉川を殺そうとした相手なので彼に罪はありません。
主な元凶は垣根が学園都市へ来るように仕向けたアレイスターです。



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