とある魔術の未元物質
SCHOOL107 天 使 長


――――――アイデアの秘訣は執念である。
嘗て人々から無謀だ、馬鹿だと後ろ指を指された発明家達がいた。
彼等は等しく不屈の執念でアイデアを生み出していき、やがて人は空へ羽ばたけるまでになった。
しかし彼らに"執念"がなかったのならば、人は何時まで経っても地面を這い蹲っていただろう。











 いきなり現れたレッサーという少女に、垣根は警戒心を一層強める。
 魔術結社予備軍……インデックスから教わった情報が正しいなら、予備軍なんて大仰な名前がついているが実態は魔術の知識がある者同士が集まった仲良しグループのようなものらしい。ただ中には正しい意味での魔術結社を上回る力を持ちながらも、様々な事情で予備軍のままでいる所などもあるとのことだ。レッサーは自らをイギリスの結社予備軍といったが、ただの仲良しグループがわざわざロシアまでやってくるだろうか。よりにもよって、こんな情勢下で。

(いや……仲良しグループだからこそ、観光気分で来たって可能性もある)

 もしかしたら予備軍なだけあって、垣根帝督の危険性というものを良く認知していないのかもしれない。だが同時に、最悪の可能性も考えられる。

(魔術結社予備軍ってのは建前で、こいつはイギリスの刺客か? 昨今の情勢を鑑みりゃ、十万三千冊の魔道書の知識が入っている禁書目録(インデックス)を手元に置いておきたいと考えるのは無理のねえことだ。だとするとレッサーでこの小便臭い餓鬼は相当の実力者ってことになる)

 チラリとレッサーを見る。
 初めて来た場所にも拘らず、椅子に座り「お茶出して下さいよ」的な視線をこちらに送っていた。

「どうしました? もしかして、この私に一目惚れ!? いやー、私も罪作りですね。もしも貴方がイギリスの力になってくれるなら交際も考えなくは――――――」

「黙れ糞女、テメエみてえな餓鬼に興味ねえよ」

「ひどっ!」

 ぶーぶー文句を言うレッサーは置いておいて、どうも大した実力者には見えない。
 今まで垣根が戦ってきたステイル、神裂、劉白起、アックア、麦野沈利、ロベルト=アベル、ヴェント、一方通行。誰もが底知れぬ威圧感を持っていた者達ばかりだった。だがレッサーという少女からは、それが感じられない。それとも能ある鷹は爪を隠すの諺通り、見た目に反してアックアに匹敵する怪物なのだろうか。

(深く考えても仕方ねえな)

 取り敢えずは、このレッサーという女に尋ねた方が手っ取り早い。

「結社予備軍『新たなる光』のレッサーだったな。一体全体、俺に何の用で来た? それとも俺にじゃなくてインデックスに用事があんのか?」

「うーん、どちらか片方じゃなくて両方ですね。私は貴方と、インデックスにも話があって来たんです。イギリスの為にも」

「おい、俺はそのイギリスが仕掛けてくれやがった『首輪』のせいで世界中を飛び回る羽目になったんだ。まさかとは思うが、そんな俺にイギリスの為に力を貸してくれだとか台詞を言うつもりじゃあねえよな」

「言いますよ、イギリスの為に力を貸して下さい」

「は?」

 あっさりとレッサーは肯定する。
 そこにお世辞にも「その件に関しては謝りますので、どうかお力を!」みたいな姿勢は見受けられない。

「勘違いているようなので訂正しますが、『首輪』を仕掛けたのはイギリスではなくてイギリス清教です」

「屁理屈だ」

「屁理屈じゃありませんよ。イギリスだって一枚岩じゃありません。例えるなら……警察が新たなセキュリティーを考案したとして、そのセキュリティーが政府の命令で作られたものとは限らないでしょう」

「口が回るようだな。その分だと、お偉方から良からぬ取引話でも持ってきやがったか?」

「またまた正解です! 正にその通りですよ」

 口は上手いわりに根は正直のようだ。それとも、これは馬鹿正直だとこちらに思わせる演技なのだろうか。

「……………………」

「ロシア成教がローマ正教と組んだっていう情報は知ってますか?」

 どんな厄介話を持ってきたのかは知らないが、今後の為に話を聞いておく価値はあるだろう。
 レッサーの問いに、垣根は首を縦にふり肯定の意を示す。

「対してイギリスは学園都市と組む姿勢を見せてます。イギリス清教は学園都市にそれなりに太いパイプがありましたからね」

「俺に同盟締結の為の生贄にでもなれってのか?」

「それこそ、まさかです。貴方にもメリットのある話だから聞いて下さい。私達『新たなる光』はこの動きを打破するために動いているんですよ」

「へぇ、というと」

「学園都市との同盟ではなく、イギリス単独での戦争の勝利」

「……無謀じゃねえのか? そりゃ学園都市と同盟したイギリスが仮に戦勝国になったとしても、所詮はイギリスも十字教の一宗派。対する学園都市は科学サイドの総本山。勝っても科学サイドの独裁を招くだけで、イギリスにとっちゃ敗北と同じような末路になる可能性があるのは理解できる」

 イギリスは科学大国ではなく魔術大国だ。
 学園都市が戦争に勝利したことで、科学サイドの勢力が増せば、魔術大国イギリスは戦勝国でありながら弱体化しかねない。最悪、学園都市の属国となる可能性だってある。

「だけどな。イギリス単体じゃ、ローマ&ロシア側に勝利するのは難しいぜ。質はこの際置いておくにしても、数が絶望的に足りねえ。イギリスは核だって持ってねえしな」

「その数を覆す質があるとしたら、どうですか?」

 悪戯を成功させたような子供のように、レッサーが告げた。

「勝機が、あるのか?」

「ええ。確かに騎士派や清教派の総力をもってしても、ローマとロシアの連合軍には勝てないでしょう。けれど天使長ミカエルの力があれば、負ける戦も勝てますよ」

「ミカエルだって!?」

 流石の垣根も驚愕する。
 何時だったか自分と大天使ガブリエルが入れ替わるなんて珍事が起きた事もあるが、ミカエルというのはガブリエル以上だ。
 『神の如き者(ミカエル)』。嘗て反逆を起こした『光を掲げる者(ルシフェル)』を右手に握りし剣にて打倒し、新たなる天使長となった正真正銘最高の地位に座る大天使だ。
 
「そいつは、どういうことだ?」

 もしイギリスにミカエルの力があるというのならば、確かにローマ&ロシア連合軍を単独で撃破するなんて無茶苦茶も可能になるだろう。『神の如き者(ミカエル)』はそれだけの力になりうる。

「カーテナ=オリジナル、それが発掘されたんですよ」



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