とある魔術の未元物質
SCHOOL111 芽生える 野心


―――自分が歩んできた過去を振り返ってみると、何とたくさんのすばらしい一生に一度の出会いがあることか。
人と人の出会い。それは掛け替えのないものだ。
恋人や親友、そして生まれて初めて出会う親という存在。
人は一人で生きていくことは出来ない。交流というものがあるからこそ、人は生きていくことが出来る。それ故の争いもまたあるが、それ故に人は美しい。









 それはあの日、エリザリーナ独立国同盟のホテルで垣根帝督がレッサーという少女と出会った所まで遡る。

幻想殺し(イマジンブレイカー)、だと?」

「ええ、そうです。イギリス清教の学園都市内部における協力者のような少年が持つ能力……それが異能の力なら、どんなものでも触れただけで消してしまう右手……又聞きになりますが、そうらしいですよ」

 俄かには信じがたい話だ。
 よりにもよって学園都市内部にそんな無茶苦茶過ぎる能力者がいるなんて情報を、垣根帝督は一切知らなかった。もはや笑い話にもならないが、その『幻想殺し(イマジンブレイカー)』とかいう右手を持つ『上条当麻』という高校生は、LEVEL0、無能力者として認定されているらしい。
 莫迦な話だ。
 ある意味において、垣根の『未元物質(ダークマター)』よりも吹っ飛んだ力がよりにもよって無能力者とは。
 しかもその話が正しいとするのならば、

「あらゆる異能って言ったよな。てことは魔術にも」

「勿論。これも又聞きですが、ローマ正教最暗部の『神の右席』の魔術や、厳重な結界も触れただけで『殺せる』そうです」

「………………」

 垣根は思わず項垂れて天井を見上げた。
 灯台下暗しとは正にこのこと。
 世界中をインデックスの『首輪』をどうにかする為に飛び回っていながら、『鍵』は垣根の住んでいた学園都市にあったのだ。
 これでは道化である。
 『首輪』が破壊できる事の嬉しさ以上の遣る瀬無さが垣根に襲い掛かった。
 もう一つ、全てがレッサーの口から出任せという可能性もあるのだが、垣根はこの話に信憑性があると考えている。
 思い起こすのは今までの旅で見つけた数多の情報。

(前方のヴェント、って言ったか。あいつは『幻想殺し(イマジンブレイカー)』とかいう無茶苦茶な右手を持つ『上条当麻』ってやつを狙って、学園都市に来たとかいうような事を言っていやがった。そして8月20日に『一方通行(アクセラレータ)』を倒したとかいう『無能力者』……)

 全て一致する。
 『幻想殺し(イマジンブレイカー)』があらゆる異能の力を消し去る能力だというのなら、『一方通行(アクセラレータ)』が誇る反射の膜だって突破できるだろう。
 一方通行は最強の能力者だが、その強すぎる能力故に碌な『戦い』というものを学んでこなかっただろう。その上条当麻がもし『喧嘩慣れ』でもしていたとするのなら、強力な能力を持っているだけの『ド素人』を倒せる可能性は十分にある。

「だがな、一つ疑問があるんだよ」

「なんでしょうか?」

「どうして、そんな事を俺に教えた。テメエにはメリットなんざねえ筈だぜ? イギリスの為に来たとか言ったな、お前。もし俺に『幻想殺し(イマジンブレイカー)』の情報を売った程度で、俺が恩を感じてイギリスの為に戦うとでも思ってんなら大間違いだ。俺は借りを返す主義だが……イギリスには借り以上に貸しがある。この程度じゃ返済はできねえ」

「おや、私がそこまで考えなしとでも思いましたか? 幻想殺し(イマジンブレイカー)の情報なんて別にそれほどの価値はありませんよ。何の因果なのか貴方は知らないようでしたけど、知っている人は知ってる情報……貴方ほどの能力者なら、私が教えないでもその内、耳にする筈の情報なんです。だから私はある方から『取引内容』を持ってきたんです」

「ある方?」

「そこはまだ秘密ということで。…………幻想殺し(イマジンブレイカー)で禁書目録の『首輪』を破壊する。まぁ、そういう考えに至ってしまうのは無理もありません。ですが、よ〜く考えると、こうも思いませんか? 本当に『幻想殺し(イマジンブレイカー)』で『首輪』を破壊しても大丈夫なんだろうかって?」

「………………ッ!」

「ご存じの通り禁書目録の『首輪』は超難解な魔術礼装です。数学における『フェルマーの最終定理』に匹敵するほどの。ええ、上条当麻の『幻想殺し(イマジンブレイカー)』なら『フェルマーの最終定理』クラスの難題だろうと、問答無用にぶっ壊してしまうことはできますよ。だけど……そんな難解な術式をそんな強引な方法で破壊したら、どうなると思います?」

 少なくとも『首輪』のある喉に『幻想殺し』の右手で振れて、はいお仕舞いとはいかないだろう。『首輪』が破壊されたとなると、確実に『自動書記(ヨハネのペン)』が起動する筈だ。十万三千冊の魔道書を保護する最強の砦。魔道書の知識全てを支配する魔神となったインデックス自身。垣根も一度は敗北した相手だ。
 最初に負けた相手に次は勝てるという少年漫画のような法則は現実にはない。次も負ける可能性はある。いや、負ける可能性の方が高いかもしれない。
 十万三千冊の魔道書を支配し操るという恐ろしさが、魔術師となった垣根には深く理解できる。はっきり言って、『一方通行(アクセラレータ)』よりもヤバい。

「他にも……もしかしたらですが、健康にも被害が出るかもしれません。頭にも。私はその手の専門家ではないので偉そうなことは謂えませんが、単純に『幻想殺し(イマジンブレイカー)』があるから解決とはいかないかもしれませんねぇ」

「…………じゃあ、テメエの取引ってのは」

「『首輪』を安全に解除する方法ですよ」

「そんなもんが、あるのか? フェルマーの最終定理だぞ」

「チッチッチッ、強引に『首輪』をピッキングしたり破壊しようと考えるから駄目なんですよ。どんなに厳重な『首輪』も、正規の鍵があればしっかり開きます」

「……テメエはイギリス清教からの使者か。そして『首輪』を解いてやるから、イギリスの為に働けってか? やることは学園都市もイギリスも同じだな」

「あー、またまた早とちりですね。私はイギリス清教からの使者じゃありませんよ」

「?」

 イギリス清教の使者ではないなら、なんだというのだ。
 正規の鍵というのなら、当然ながら正規の手段で持ち出す必要があるだろう。となるとレッサーはそういった正規の関係者だと推察したのだが、違うのか?

「私は確かに不正規の存在かもしれませんが……もし仮に、イギリスという国が変わったらどうでしょう? 反逆者が君主となり、逆に君主は断頭台へと送られる。そんな状況が起きたら……その作戦を円滑に進める為に、一つの懸念事項……無視し難いイレギュラーをプラス要素にする為に私が派遣されたとしたら、どうでしょうか?」

 そのヒントで、垣根は何もかもを理解した。
 レッサーの、より正確にはレッサーのクライアントが実行しようとしている事が完全に分かった。

「くっくっくっくっ……随分と物騒なことを考えるじゃねえか、このご時世に」

「おや、分かりましたか?」

「クーデターだろ。で、お前は俺にクーデター側に参加しろと、そう言いに来た訳だな」

「ご名答。流石は第二位の頭脳、伊達じゃありませんね。私のクライアントは、貴方がクーデターに参加し、協力するのならば禁書目録の『首輪』を破壊すると断言しています」

「……話を聞こうか」

 始めて、垣根は心の底からレッサーの取引に興味を示した。
 インデックスに黙っての反逆計画。それはこの時、静かに芽生えていたのだ。




やたらと頭の良いレッサー。今度から交渉人レッサー、ネゴシレッサーと呼びましょうw



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