とある魔術の未元物質
SCHOOL116 垣根帝督 対 上条当麻


―――ベッドは我々の全生涯を包む。というのは、我々はベッドで生まれ、生活し、そこで死ぬのだから。
ベッドというのは人間がある程度、人間としての生活を出来ているかの条件の一つではないだろうか。或いは東洋における布団も含まれるのだろうが、ベッドのない家というのは平均的な家庭とはいえないだろう。何故ならばベッドというのは人間にとっての生活必需品の一つなのだから。それがないという事は生活に必要な品が欠落している、つまり平均以下という証明である。










 上条当麻は学園都市の最底辺LEVEL0に分類される人間だったが、何の因果か七人中二人のLEVEL5と戦い勝利した経験がある。
 一人は御坂美琴、そしてもう一人が一方通行。
 序列=強さだと単純に考えても垣根帝督は御坂以上、一方通行以下の実力者ということになる。

未元物質(ダークマター)って名前だけじゃ、どういう能力なのか分からねえ。だけど御坂のビリビリを出せなくしたり、あの『新たなる光』の魔術師も治療もしてたから……かなり応用性のある能力だ)

 本当は垣根がレッサーを治癒する時に使ったのは超能力ではなく魔術なのだが『能力者は魔術を使えない』という常識があった為に上条はそのことには気づけなかった。

「……折角の機会だ。その『幻想殺し(イマジンブレイカー)』の力、見極めてやる」

 垣根は上条に向かって手を翳すと、赤黒い光線が放たれた。
 上条は右手を前に着きだし、光線を受け止める。人間一人を容易く焼き尽くす威力の光線は、上条の幻想殺しに触れると全てが幻であったかのように消滅した。

(手からビームとか……あいつの能力はどうなってんだよ。超能力というより魔術だぞ)

 上条は心の中で文句を言いながらも、垣根に向かって走る。御坂と違い上条の武器は『幻想殺し(イマジンブレイカー)』と自分の体だけだ。遠く離れた所から電撃攻撃なんて真似はできない。
 相手を倒したいのなら接近するしかないのだ。だが、

「お前は……俺に、近付けない」

 上条が垣根の下に到達する前に、垣根が人間離れした速度で後退してしまった。必然、上条の拳は空しく空を切る。

「テメエと戦う上での簡単な基本戦術を思いついた。それは……テメエに近付かねえってことだ。幾ら異能の力なら何でも打ち消せるといっても、テメエの『幻想殺し(イマジンブレイカー)』は遠距離攻撃は出来ねえ」

「ひ、卑怯だぞ!」

「戦いに卑怯も糞もあるかボケ。テメエが全速力で俺に接近しようと、俺はそれを遥かに超える速度で後退する。テメエが新幹線並みの速度でもねえ限り、永久に俺には近づけねえだろ?」

「くっ!」

 やり難い相手だ、と上条は感じた。
 LEVEL5に限らず、強力な超能力者というのは得てしてLEVEL0のような相手と戦うと油断の一つでもするものだが、垣根帝督に至っては『幻想殺し(イマジンブレイカー)』のことを知っているからか、その油断が皆無だ。

「さて、先ずは最初のチェックだ」

 垣根が人差し指をたてると、その指が帯電する。
 危ない、と上条が予感した時には既に指から青い雷が放たれていた。
 しかし上条は焦らない。幸か不幸か、雷なら御坂のお蔭で慣れている。何時も御坂の電撃を防いでいるのと同じように右手で電撃を打ち消した。

「へえ、しっかりとオカルトにも有効みてえだな、その右手は」

「オカルト? 超能力だろ」

「こっちの話だ。じゃ次は第二チェック」

 垣根が二本目の指を立てると、上条の体全体に横綱が圧し掛かってきたような重圧が襲ってきた。
 溜まらず上条が地面に倒れる。

「サービスだ。無能力者で頭が悪そうなテメエにも分かり易いように説明してやる」

「頭が悪いは、余計だ!」

「俺の生み出す『未元物質(ダークマター)』はこの世に存在しねえ物質だ。単純に言っちまえば、この世に存在しない物質だから、この世じゃ有り得ないような動きをするって訳だ。そして『未元物質(ダークマター)』が混ざった既存の物質もまた、この世じゃ有り得ない動きをし出すことになる。食塩と水を混ぜた物質が食塩水になるように『未元物質(ダークマター)』と混ざった空間も『未元物質(ダークマター)』のような空間に変わる。俺が今しているのは『重圧』だ。お前には現在、普段では考えられない程の重力がかかってるはずだ」

 こういう時、自分の学力の低さが恨めしい。御坂なら、垣根の話を聞いただけで『未元物質(ダークマター)』の何たるかが分かるのだろうが、生憎上条の頭では垣根の言っている事の三分の一も理解できない。
 だが、少しは分かった事もある。
 垣根の『未元物質(ダークマター)』は物理法則を、常識を塗り替えるということだ。
  
(そうだ、アウレオルスの時を思い出せ!)

 上条は嘗て戦った錬金術師に似たような攻撃を受けたのを思いだし、どうにか右手を伸ばし空間に触れる。パリンッという音と共に重圧が消滅した。

「はぁはぁはぁ……」

 第一位の『一方通行(アクセラレータ)』も強かったが、第二位もそれに負けないくらい強い。
 しかも面倒な事に一方通行のように上条に近付いてくることが無い。これはかなり厄介だ。

「ふーん、超能力によって変容した空間を利用した攻撃も打ち消せるのか。となると第三チェックといこうか」

 垣根が指をパチンと鳴らすと、地面が盛り上がっていき、車一台ほどの大きさがある四角形の岩になった。その四角形の岩がまるで重力がなくなったかのように浮き上がる。
 次に来る攻撃を予感し、上条は咄嗟に右手を翳した。

「いけ」

 短く垣根が呟くと、岩が上条に向かって猛スピードで飛んでくる。
 けれどそれは上条の幻想殺しに触れると、力を失い地面にドシンと落ちた。

「成程、テメエの『幻想殺し(イマジンブレイカー)』は能力そのものだけじゃなくて、能力によって齎された二次災害までは打ち消せるのか」

 不味い。垣根にこちらの能力が次々に暴かれていく。
 上条の『幻想殺し』の影響範囲は広大だ。それは第三位の電撃のみならず、第三位の力により飛ばされたコインの勢いまでも打ち消せるほど、その力は容赦がない。

「だが――――見破った。テメエの対処方法が」

 ゾクリと背筋に悪寒が奔る。
 垣根は残酷な笑みを浮かべると、先程より巨大な四角形の岩を地面から抉り取った。自動車どころではない。まるでビル一つが空中に浮かんでいるようだった。

「――――――――ッ! まさか!」

 垣根の狙いを見抜いた上条は戦慄する。
 もし垣根の狙いが上条の予想通りなら、上条にその攻撃に抗う術はない。

「能力の二次災害によって飛ばされた岩は、お前の『幻想殺し』に接触した途端、その勢いを失い重力に従って地面に落ちる。だが、お前の『幻想殺し』は幻想は殺せても現実は殺せねえ。能力によって殺された人間に触れても、その人間が死んだっていう現実は消えはしねえ。そして既に現実になっちまっている岩に触れたところで、その岩の勢いは殺せても『現実』になっちまっている岩は消すことができねえ」

 巨大な岩が上条の『真上』に飛んでくる。
 20mは地面から離れている岩は、手を伸ばしたところで届く物ではない。だが、上条の中で『幻想殺し』であの岩に触れるという選択肢はない。

「俺が今、お前を殺すのがどんなに容易いか理解できるか? 俺があの岩に使っている異能を停止させるだけで、岩という『現実』はお前まで落下してくる。そして『幻想殺し』じゃあの岩は消せねえ。これでチェックメイトだ」

 あの岩が落ちてくるであろう場所から逃げる……というのは非現実的な行動だ。そんな行動をしたところで、上条の足じゃそこまで逃げる前に潰されてしまう。
 上条当麻という男の命が垣根帝督の手の中にあることを、認めざるを得なかった。上条が勝利を諦めかけたその時、まるで風の様に駆けてきた何者かが垣根のことを蹴り飛ばした。

「ごぉ!」

 不意打ちを食らった垣根が野球ボールのように吹っ飛んでいく。そして垣根を吹っ飛ばした何者かは、上条のことを抱き抱えるとそのまま猛スピードで垣根から遠ざかっていった。

「て、お前……神裂! どうしてここに!」

「……第二王女に急襲をかける予定でしたが、垣根帝督に乗っていた飛行機を撃ち落とされまして。ですが逆に不幸中の幸いでした。こうしてまともに借りを返す機会に恵まれたのですから」

 イギリスでも十本の指に入る実力者であり聖人の神裂火織は、上条を抱えたままでも自動車を優に超える速度で駆けて行った。
 なにはともあれ、助かった。神裂の力は上条も良く知っている。
 やがて垣根の姿は見えなくなっていた。




 戦いは垣根の優勢、しかし途中でねーちんが乱入した為に没収試合。ノーカウント。
 なんていうか上条さんは説教と「幻想殺し」だけじゃなくて「主人公補正」も武器だと思いますね。例えば垣根が上条さんが一人でいるところを襲撃しても、そのうち御坂を始めとする上条勢力の面々が集まってきて最終的に負ける……こんな感じに。アックアの時も天草式や神裂が応援にかけつけましたし。
 今回は相性でどうにか垣根優勢で戦いをハコベましたが次はどうなることやら。



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