とある魔術の未元物質
SCHOOL119 久しぶり の 再会


―――もしあなたが戦場にいらっしゃったなら、神など信じなくなりますよ。
十字教世界において神とは唯一絶対にして全知全能たる父である。しかし父たる神は決して自ら地上へ降り立ち人間という子供らを助けてはくれない。それは既に人間が親離れしたと判断されたのか、それとも見捨てられてしまったのか。しかしもしも神が父というのなら、人間が滅ぶその前に神は死ぬということである。親は子供よりも早く死ぬのだから。










 垣根は遂にインデックスを見つける事が出来なかった。
 騎士派の情報網や魔術を使ったにも拘らず、である。

(そういや、あいつ。最初はステイルと神裂から身一つで逃げてたんだっけな)

 ほんの数か月も前の事だと言うのに、垣根にとっては十年以上昔のことのように思える。
 インデックスは鉄壁の『歩く教会』があったとはいえ、聖人と一流の魔術師と追いかけっこして長期間逃げ続けられたという実績があった。
 しかもステイル達の話を聞く限り、その期間はほぼ一年間。おまけにそんじょそこらの高級ビルよりも遥かにセキュリティーの高い学園都市への侵入も果たしているときた。
 普段はアレなインデックスだが、やはり頭の回転も速いのだろう。

(上手く監視網と、魔術が通り難い地脈を選んで逃走しやがったな。となると問題はその行先)

 こういう時は相手の気持ちになって考えてみた方が良いだろう。
 インデックスの気持ちになって、どう行動するかを推測してみた。

(あいつのことだ。クーデターを止めてえと考える筈だ。だが、あいつにはクーデターを止める直接的能力はねえ。もし十万三千冊が自由自在に操れりゃ、或いは一人で俺もキャーリサもぶっ潰せるかもしれねえが。インデックスは知識はある、が……知識だけじゃ暴力には勝てねえ。知識を生かすには、それを扱う力が必要だ。となると、あいつは自分の『知識』を活かせる場を求める)

 その場所に心当たるのは一つ。
 即ち、クーデターに反対し抵抗している清教派を筆頭とする魔術師達だ。
 インデックスも元々はイギリス清教に所属するシスター。頼るとしたらそこしかない。

(…………最悪、インデックスを人質にして俺を脅してくる、っていうような事も…………いや、それはねえか。清教派には神裂とステイルがいる。そんな真似、あの二人が体を張って止めるはずだ)

 何だかんだ言いつつも、垣根は神裂とステイルの事をそこそこは信用していた。
 今でこそ敵対しているが、二人がインデックスのことを大切に思う気持ちは嘘ではないと確信している。

(だが、万が一ってこともある。見つけ次第、どうにか連れ戻さねえとな。時間も時間だ。一旦戻るとするか)

 垣根は冷静そうに半壊したバッキンガムへと戻っていく。
 自分が『とある事』がトラウマになり、暴走していることに気付かないまま騎士派と清教派が入り混じった戦場を飛んだ。



「よう、お姫様。お城から出て何やってんだよ?」

 垣根が降り立ったのはバッキンガム宮殿ではなく、その近くの街だった。
 キャーリサの顔はどこか鬼気迫ったものを感じる。まるで今から歴史的な実験を執り行う科学者のように。戦争を前にした総司令官とはこんな表情をするのか、と垣根はその光景を目に焼き付けておいた。

「遅かったよーだな。禁書目録は見つかったの?」

「うんにゃ、まだだ。あいつはアレでも逃げるのが上手いからな」

「私はこれから健気にも立ち向かってくる清教派とそれに守られた我が妹を迎撃しに行く。お前はどーする?」

「好きにさせて貰うに決まってんだろ。俺は永久に俺の独裁者だ」

 垣根は踵を返し、歩いていく。
 とはいえ好きにさせて貰うとは言ったものの、このクーデターも勝利に導かなければならないだろう。幾らキャーリサが『天使長』としての力を振るえるといっても、あのアックアや上条当麻というイレギュラーもある。万が一カーテナ=オリジナルが『幻想殺し』で破壊された日には、もうクーデターは瓦解だ。幾ら垣根がどれほどの力をもっていようと、垣根が王の血筋を引いていない以上、キャーリサの変わりに騎士派を率いてクーデターを成功させる、なんて芸当は無理だ。
 インデックスを探すのと並行しながら、クーデター派に協力しなければならない。

(『クーデターを成功させる』『インデックスも守る』……両方やらなくっちゃならねえのが超能力者の辛い所だな。……と、これは俺の好きな漫画の言葉だったか?)

 近くで爆撃の轟音が響き渡る。どうやら本格的に『戦争』が始まったようだ。
 爆撃による瓦礫などを能力で弾きながら、垣根は歩いていく。飛んでいけば新幹線より速く移動できるが、インデックスを捜索するなら時間をかけて落ち着いてやった方が良い。高速で移動していては細かいものを見落としてしまう。
 そうやってインデックスの捜索を行いながらも、片手間で清教派の魔術師を沈黙させていっていると、見た事のある針金による攻撃が襲ってきた。

「こりゃ……神裂かっ!」

 一度見た技だ。その対処法も出来ている。
 垣根は未元物質によって作り出した白い物質で針金を防ぐ。

「垣根帝督、久しぶりになりますね。こんな再会をするとは思っていませんでした」

「正直、君の気持も分からないではないけど、彼女の意志を踏み躙って行動している君を止める必要があるんだよ、僕等には。私人として……一応、公人としても」

 神裂に並ぶように真っ赤な髪の神父ステイル=マグヌスが姿を出す。
 口には相変わらず煙草を咥えている。

「俺を止めに来たのか?」

「いえ、交渉しにきました。クーデター派に属する事は止め、私達と共に戦って下さい」

「はぁ?」

「勿論、あの子に仕掛けられた『首輪』はどんな事をしてでも『最大主教(アークビショップ)』に解かせます。最悪、強引な手段を使ってでも。勿論貴方を罪に問いもしません。ですから――――」

「却下だ」

 垣根は返答として烈風攻撃を繰り出す。
 その辺の魔術師なら一撃で撃破してしまう威力をもった風だったが、聖人という才能にはそよ風同然だったようだ。神裂が日本刀を一閃すると烈風は掻き消えてしまった。

「交渉は決裂……ですか。本音を暴露すれば、私は私自身が憎らしい。今日まで何もあの子の助けにならなかった自分が。ですが、これ以上あの子を苦しませない為にも、私は貴方を止めましょう。垣根帝督!」

「面白え。やってみやがれ、神裂ッ!」

「なら、やってやるよッ!」

 気付かぬ内に背後から回り込んでいた上条当麻が、垣根の顔面を思いっきり『右手』でぶん殴る。あらゆる『異能』を無効化する右手は、垣根の張っていた防御術式や未元物質すら容易く突破し、その顔にダメージを与える。
 垣根の口の中に鉄の味を感じた。




遂に決まった後ろから叩き込まれるそげぶ! さすが上条さん! 俺達にはできない事を平然とやって、それは兎も角。段々とクーデター編も佳境に入ってきました。これが終われば旧約最終章のロシア編です。新約編に関してはまだまだ未定ですね。一応一巻までの内容は決まってますがその後が続きそうにない状態です。ていうか一巻が一方通行や浜面は当たり前として他にレイビーやら劉白起やらばっか活躍するプロットになったので一体出す意味はあるのかということに。ぶっちゃけ垣根は殆ど蚊帳の外。新約一巻にはメイン主人公が大っぴらに関われない呪縛でもあるというのか。



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