とある魔術の未元物質
SCHOOL121 傭兵崩れのゴロツキ


―――革命は回避されるべきではない。
革命は常に成功してきた訳ではない。寧ろ失敗も数多い。民主国家を建国しながら直ぐにまた元の専制国家に戻ったり、立憲君主制にしながら議会が解散させられて絶対君主制に移行してしまう事も多々ある。革命とは劇薬であり、劇薬を使った後は穏やかな休息が必要だ。そうでなければ、体が壊れてしまう。











 垣根帝督と上条たちが戦っている頃、第二王女キャーリサと後方のアックア――――ウィリアム・オルウェルもまた激戦の渦中にあった。
 カーテナを握るキャーリサが莫大な『天使の力(テレズマ)』を武器に次元断層を引き起こし、アックアはそれを長年の実戦経験における戦術眼と聖人としての身体能力で受け流し、出来ない時は躱していく。

「こんなものか。騎士団長を打倒した男の力は?」

 キャーリサは酷薄な笑みを張り付けながらアックアに言う。
 アックアは答えない。だが、現状でアックアの方が押されていた。聖人であり神の右席であるアックアが、である。
 無論、普通に戦えばアックアはキャーリサに百戦して百勝できるだろう。その道理をカーテナ=オリジナルは覆す。
 カーテナ=オリジナルにより、限定的ながら天使長『ミカエル』の力を振るえるキャーリサは正に聖人すらも超えた天災ともいえた。
 今の彼女なら一人で一国を陥落させるのも不可能ではないだろう。

「しかし……本当に余計な真似をしてくれるし。これもお前の作戦か?」

 キャーリサは胸に潜ませてあった無線機を見ながら笑う。
 だが、笑っているのは形だけで目は全く笑っていない。寧ろ憎々しげにアックアを凝視していた。

「……学園都市の第三位。あの少女の実力は一流魔術師程度はあるが、やはり聖人には到底及ばない。だが私には出来ぬ事が、あの少女には容易く出来るのである。それが」

「イギリス中の通信妨害、か。どーやら私も超能力というものに関して勉強が足らなかったよーだ。本当に厄介だったのはある意味ウィリアム・オルウェルという傭兵でも、上条当麻というイレギュラーでも、ましてやヴィリアンでもなかった。御坂美琴、十年先を行く科学力と電子機器を容易く操るあの小娘が、本当の意味における厄介事だったの」

 御坂美琴の戦闘力は確かにアックアの言う通り聖人レベルには及ばない。精々ステイルより上程度だろう。神裂や騎士団長と戦えば確実に敗北する。
 だが、彼女には他の誰にもできない『超能力』があった。十年先をいく学園都市の知識があった。彼女にとって十年前の骨董品でしかないイギリスの通信など容易く妨害できる。

「王とは臣下がいてこそ真の力を発揮する。通信妨害により臣下と連絡の取れなくなれば王は王として機能しない。孤独な王ほど打倒し易い相手はいないのである」

「フン。もしも私がヴィリアンのような『人徳』なら、両手を挙げて降参するしかなかっただろう。だが、お前の前にいる私を誰だと思ってるの? 第二王女キャーリサ。我が『軍事』の本領を見せてやるし!」

 カーテナが振るわれると同時に発生する次元断層。天使長の力をもつキャーリサの繰り出す一撃は、単純な剣を振るうという動作ですら一撃必殺の攻撃へと化けさせてしまう。直撃すれば聖人であるアックアですら再起不能のダメージを受けかねない。
 とある知人から貰い受けた巨大な聖剣アスカロンをまるで自分の手のように操ると、次元断層による攻撃を受け流していく。そのままアックアは地面を蹴り、キャーリサに切りかかるがカーテナによって受け止められた。
 
「おー、恐い恐い。やはりカーテナの力はもっていても、お前は多少厄介な敵であることに変わりはないよーだ。よって相手が一人でも力を入れるとするの」

 アックアの怪力が、逆に圧倒されていく。キャーリサの細腕では有り得なさすぎる怪力がアックアという怪物を押し返しているのだ。

(ぬゥ、学園都市での傷が……)

 もしも万全の状態なら、或いはキャーリサと互角に鍔迫り合うことが出来たかもしれないが、生憎アックアは万全ではない。学園都市で天草式の面々により受けた『聖人崩し』により全力の力を振るうことが出来ないのだ。
 軽く見積もって並みの聖人レベルにまで弱まってしまっている。

「そらッ!」

 遂にキャーリサに押し切られ、アックアが飛ばされる。
 空中でを整えどうにか着地するが、どうにも勝てない。カーテナ=オリジナルもそうだが三人の王女の中でも『軍事』に特化しているだけあり、キャーリサの白兵戦能力も中々のものだ。もし三人の王女が直接殺し合えば勝つのはキャーリサだろう。

「それに、だ。ウィリアム=オルウェル。お前が神の右席として司るのは後方の水『神の力(ガブリエル)』だ。四大天使の一翼を担うガブリエルは決して弱くはないが、右方の炎『神の如き者(ミカエル)』には及ばないの。そういえば……聞く所によるとお前の同僚でもある『右方のフィアンマ』はたったの一撃で聖ピエトロ大聖堂を崩壊させたそーだな」

 キャーリサの語る言葉は事実だ。
 四大天使といってもアックアの司るガブリエルでは、嘗て『光を掲げる者(ルシフェル)』を右手に持つ剣で打ち倒し天使長となったミカエルとの間には埋めがたい差というものがある。四大天使の中でミカエルだけが頭一つ飛び抜けているのだ。

「フィアンマの事は関係はない。だがミカエルはルシフェルを地に堕とす前は天使長ではなかった。ミカエルにガブリエルが劣るという考えそのものを否定するつもりはない。しかしミカエルにガブリエルが絶対に勝てないというのは否定するのである。同じように、私が第二王女キャーリサに勝てないという法則は存在しない」

 アックアは莫大な力を持つものを前にしても決して倒れない。
 後方のアックア、ウィリアム=オルウェル。
 幾度の戦場を潜り抜け、多くの強敵と戦ってきた歴戦の傭兵。
 それらの積み重ねは決してカーテナ=オリジナルという『奇跡』に劣るものではない。

「私は我が友である『騎士団長(ナイトリーダー)』のように洒落た文句を言うことはできないが、傭兵崩れのゴロツキとして王の国の姫君が一人、貴女を撃破するのである」

「ふん。洒落た言い回しも出来るじゃないか」

 キャーリサは皮肉気に毒づく。
 アックアの威圧が数段増していったような錯覚を覚えた。




 美琴が大活躍しました、裏方で。……いや最初は普通に戦闘にも参加させるつもりだったんですが、相性的に垣根と戦うのは無理ゲーだしかといってキャーリサ相手というのも……何か活躍できなさそうだったのでこういう処置になりました。まぁ一番の理由は美琴が電場ジャックとかしてくれないとアックアが初っ端の戦闘に参加できませんからね。

ではクーデター編も佳境なので、恒例の次回予告。




特報!

垣根帝督とインデックスが歩んできた数多の冒険!

遂にその冒険に終止符(ピリオド)をうつ時が来た!

「ああ。――――――だが、何もせずに退却するのも芸がない。よって」

 右方のフィアンマ。神の右席の中でも更なる異端。史上最悪にして最強の男はクーデター終了直後、唐突にやって来た。

「連れて帰って俺様の花嫁にする」

 フィアンマは一方的にそう告げると、主人公の手からヒロインを奪い取りどこかへと消えてしまった。

 最後の物語、それは極北に最も近き彼の国にて幕を開く。

 四人の主人公たちは自らの"ヒロイン"のため剣をとり、ロシアへと出陣する。

「眠れる食いしん坊万歳シスターを叩き起こす為にも、俺にはフィアンマをぶっ潰さねえとならねえ理由がある」
――――――故郷亡き孤独な超能力者にして魔術師、垣根帝督。

「ち、畜生ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
――――――学園都市のLEVEL0にして幻想殺し(イマジンブレイカー)をもつ少年、上条当麻。

「おォ。やってやったぜェ、メルヘン野郎」
――――――学園都市から離反した最強の怪物、一方通行(アクセラレータ)

「くそぅ、なんで俺はこんな目に……」
――――――無能力者にして元スキルアウト、浜面仕上。

「どういう…こと……なの? ていとくは、どうしちゃったの? て、ていとく……っ」
――――――十万三千冊の魔道書図書館にして垣根帝督のヒロイン、インデックス。

「私は…アンタに、生きてて欲しいのよ」
――――――第三位のLEVEL5であり上条当麻のヒロイン、御坂美琴。

「んーっ! 第一位様はおねむの時間でちゅかーぁ!? ぎゃははははははははは、似合わねぇ!」
対一方通行用に作られた最悪の刺客、番外個体(ミサカワースト)

「……みさかは……みさかは……」
――――――妹達の統括者にして司令塔、打ち止め(ラストオーダー)

「以前の大戦のように学徒出陣なんてのは止めてくれよな……」
――――――舞台へ上がらなかった番外の超能力者、ベルンフリート=レイビー。

「うっ! 折角シリアスな会話して誤魔化そうと思ったのに」
――――――ちゃっかり生き残った鯖好き少女、フレンダ=セイヴェルン。

「おおぉっ!! 軟弱なロシア軍共が退散してゆくぞ!? よぉぉっぉおっぉおぉぉおおおおおし! 
――――――筋肉達磨の莫迦、タケノコ。

「筋肉馬鹿にだけ任せちゃいられねえな。…………俺達コンビの力を見せてやろうぜェ!」
――――――暗部組織『ブリッツ』のスナイパー、最終地点(ラスト・ターミナル)

「おうよ。俺の『絶対等速(イコール・スピード)』を遮る障害物はないんだからな」
――――――最終地点(ラスト・ターミナル)相棒(バディ)絶対等速(イコール・スピード)

「斥力が押し返す力なら、引力は引き寄せるエネルギー。――――――圧縮」
――――――学園都市に雇われた最悪の聖人原石、劉白起。

「まさか……フィアンマは『右手』を使ってあらゆる奇跡を起こせるというの?」
――――――エリザリーナ独立国同盟の盟主、エリザリーナ。

「…………っ! やはり、来たのであるか?」
――――――傭兵崩れのゴロツキ、ウィリアム=オルウェル。

「モルモットはテメエらのような餓鬼どものお役目だろうが」
――――――木原一族の一人にして『一方通行(アクセラレータ)』の開発者、木原数多。

「ewinvioajg抹殺oijiojj排除nvoij削除ziiejn消去iuoiujfinv」
――――――フィアンマの手駒である大天使、ガブリエル。

「俺様は世界を救う。人を超えし力によって!」
――――――物語のラスボスにして救世者、右方のフィアンマ。


   そして


 垣根帝督とインデックス、二人の冒険は意外な形で幕を閉じることとなる。

「もう会うこともねえだろ。お前との日々は楽しかったがこれでお別れだ」

「嫌だよ……ていとく。私、まだていとくと一緒にいたい」

「――――良かった。これで全部だ。全て終わった」

「ごめんなさいっ! 私が……全部、忘れちゃったから。本当に、ごめん…なさい」



    HAPPY OR BAD?

    HELL OR HEAVEN?

       OR

    DEAD OR ALIVE?


とある魔術の未元物質、最終章。

――――――それは『旧約』最後の戦い。




…………なんだか唯でさえ多い垣根の死亡フラグが更に増えましたね。あ、一応の補足をするとレイビーは留守番です。垣根主人公の作品でこれ以上外伝オリキャラ主人公を引っ張っても仕方ないので。そもそも滝壺と浜面のようにロシアに行く理由が皆無ですし。レイビーとフレンダの次なる出番はやるかも分からぬ新約第一巻編です。というかレイビーって需要あるのだろうか。外伝の「とある科学の上位次元」を始めた当初は批難轟々だったけれども。
 それは兎も角。
 ネタバレするとラスボスは多くの方が予想しているであろう通りフィアンマ。他にも垣根がどうして魔術を使ってもデメリットがなかったのかなどの秘密が明らかになります。
 まぁ一応新約編に向けての辻褄合わせなどもする予定ではいます。新約編自体やるかどうかはまだ未定なのですが。原作次第ですね。



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