とある魔術の未元物質
SCHOOL124 王女との契約 彼のルール


―――怠情は、おだやかな無力から生まれるものである。
無力というのは嫌だ。反攻する事も意見することもなく、その権利は無視されるから。だが、無力は罪だろうか。異端であるというのは悪足りえるだろうか。そして弱者とは本当に、弱者なのだろうか。強者とは真実として強者なのだろうか。











「さぁ、群雄割拠たる国民総選挙の始まりだ!!」

 それは一つの革命だった。
 ある意味カーテナ以上にイギリスという国家が誇る秘中の秘。それこそが連合の意義(ユニオンジャック)。本来カーテナを持つ王とそれに従う騎士にしか与えられない莫大な『天使の力(テレズマ)』を国民全てに再分配するという革命だ。
 理論的には実に単純。一部に集中していた力を多数に同じだけ分配するだけ。だが、こんなことが発動すること事態が一つの革新といえた。
 特にこの、未だ王政が色濃く残る英国においては。
 能力を分配される条件は唯一つ、イギリス国籍をもつイギリス人ということだけ。
 今宵に限り英国に住む者はそれこそ子供から大人まで、爺だろうと婆だろうと戦う力をもつことができた。
 女王エリザードは言う。
 力を分配した上でどちらに着くかは自由だ、と。
 キャーリサに着くのも良し。自分についてくれたら嬉しい。或いは両者とも異なる第三の道を選んでも限らない。
 唯一つ確実なのは、現在においてイギリスに住む人間に国王も貧乏人もないということだ。

(あの婆……ただの年寄りだと思ったら中々どうして……凄ェじゃねえか。学園都市上層部の糞共とは比べ物にならねえ)

 立ち上がった垣根は呆然とエリザードに惜しみない賞賛を贈る。垣根は普段人を評価するなんて事を滅多にしないのだが、流石にこれは認めるしかなかった。
 豪胆さ。大胆さ。そして威厳とカリスマ。
 軍事だけなら、もしかしたらキャーリサが上回っているかもしれない。けれどもそれ以外の全てでエリザードはキャーリサを上回っていた。
 垣根は顔に僅かな愉悦を含ませながら、第三王女キャーリサと女王エリザードが対峙している場所へと向かっていった。

「おう。誰かと思えば超能力者の少年じゃないか」

 直接の面識はなかったが、写真か何かで知っていたのだろう。
 垣根の姿を見つけると、エリザードは女王にあるまじきフランクさで言った。

「お初に、女王陛下。私は垣根帝督と申します――――これで良かったか? 王様への挨拶ってのは」

「いいんじゃないか? しかし随分と我が国の言葉が達者だ。あの『幻想殺し(イマジンブレイカー)』の少年は英語が苦手そうだったのだが」

「LEVEL0とLEVEL5を一緒にしねえで欲しいな。俺は超能力だけじゃなくて頭も良いんだ」

「しかし予想通りだな。お前の身にも分配された『天使の力(テレズマ)』。……お前はイギリス人だな?」

「へぇ、直ぐに見抜いたのか。女王ってのは伊達じゃねえとみえる。より正しくは英国人になった、が正しいな」

 これが垣根がクーデターに協力したもう一つの目的だ。科学サイドにおけるお尋ね者である垣根にとって安住の地は魔術サイドにしかなかった。
 新たなる光のレッサーを通してキャーリサと結んだ協力条件は大きく分けて二つ。

・インデックスの呪縛を解く事。
・垣根とインデックスのイギリスにおける身の保障。

 前者は当然として、垣根には後者も重要だった。
 幾らインデックスの呪縛を解いたとしても、何時までも世界中を旅してまわる訳にもいかない。存在していられる居場所が必要だった。
 垣根はこの取引によりキャーリサから英国国籍を貰い、クーデター終了後のイギリスにおいての安全を保障された。
 学園都市とも敵対関係になるであろうキャーリサだからこそこの取引は有効だった。現政権が取引を持ち掛けても学園都市と交友があることを警戒して、垣根は受けようとはしなかっただろう。

「垣根帝督――――改めて聞こうか。お前は一人の国民としてどちらの側につく?」

「勧誘かよ」

「はははははは。私の側についてくれれば個人的に嬉しいが、キャーリサの方につこうと構わん。日は短いとはいえ、国籍を持つ以上はお前もこの祭りに参加する権利がある。なんならお前が新しい王として旗揚げしても一向に構わんぞ」

「そいつぁいい。KING垣根帝督って響きも悪くねえな。だが、そっち側につくのは論外だ。俺には『首輪』をどうにかするって目的があるんだからよ」

「ならば私の側につけば『首輪』は解いてもいいぞ。……いや『禁書目録(インデックス)』はこちら側に参加してるから、どちらにせよ『一年に一度記憶を消さねば死ぬ』という呪いは消す予定だ。清教派の魔術師がこの条件を呑まなければ全員でストライキを起こすぞと脅してくるのでな。加えて、お前の安全を保障しよう。学園都市からの身柄引き渡し要求があっても拒否することを約束してもいい」

「悪くねえ条件だ、女王様」

 垣根にとってキャーリサにそこまで思い入れがある訳でもない。
 直接話した回数も指で数える程度だし、所詮はただの利害関係だ。
 カーテナ=オリジナルはキャーリサの手にあり、ミカエルとしての力も未だキャーリサのものなので勝敗が完全に喫した訳ではないが、幾ら莫大な力があろうとイギリス中の国民全てがエリザード側につくとなると不利は隠せない。しかも騎士派の殆ど――――というより全員がキャーリサを救う為にキャーリサに反旗を翻している。
 単純な力ではキャーリサが上回っているかもしれないが、総合的にキャーリサの方が不利なのは違いない。

「俺がそっち側につけば100%クーデターを失敗させる自信がある。キャーリサは強いが、イギリス国民全員にアックアのゴリラや神裂のような聖人。清教派に騎士派、おまけに幻想殺し相手となると勝利できるか怪しいもんだしよ。不利な戦いはするものじゃねえ」

「垣根帝督……お前も寝返るの?」

 エリザードの方へ歩いていく垣根をキャーリサが呼び止める。
 垣根は振り返ると光を灯さぬ視線で答えた。

「勘違いするなよ。俺はお前の配下になった訳じゃねえ。ただの同盟関係だ。そこにあるのは利害関係だけだ」

「では、」

「ああ、エリザード」

 垣根は握手を求めるように手を伸ばす。そして、

「要求を拒否するぜ」

「ッ!」

 伸ばした手を親指だけ立てて下に向ける。
 世紀の悪戯を成功させたように垣根は笑った。
 さしものキャーリサもハトが豆鉄砲を喰らったように目を白黒させている。

「ほう、どうしてだ? お前達はただの利害関係じゃなかったのか? どういう理と利で、お前は敢えてキャーリサに着く?」

「俺の流儀だ。俺はこいつの側に着くと約束した。条件を呑む代わりに第二王女キャーリサのクーデターに協力すると『契約』した。こいつの真意だとか、責任がどうこうは知らねえよ。興味もねえしな。ただ、こいつと『契約』した以上、こいつが俺との『契約』を破らねえ限りは俺も破らねえ。第二王女キャーリサがたった一人で、お前等の側が9000万人だとしても俺はキャーリサが白旗あげて降参しねえ限りはこっちに着く。それが俺の流儀だ」

「交渉は」

「決裂だボケ」
 



 取り敢えず全速力で最初の短編であるフレンダ編を書き終えました。時系列的には暗部抗争編の後日談です。フレメア関連の話になります。以前にも書きましたが短編はクーデター終了後に第七位から順に公開していきます。つまり並べるとフレンダ→禁書→アックア→タケノコ→私→レイビー→メルヘン、という順番になります。原作のSSやSS2みたいなノリで楽しんで下さい。

…………それにしても、どうして垣根は破滅への道を突き進むのがこうも得意なんだろうか。



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