とある魔術の未元物質
人気第二位 ベルンフリート=レイビーの受難


―――幸福な貧乏人もいれば、不幸な金持ちもいる。結局は自分が置かれた状態の中で、幸せは作りだすことができる。
どんなに才能もなく、金もなく、豪奢の家も贅沢の一つすら出来なかったとしても、幸福に暮らす者は幾らでもいるだろう。だが同じように才能もあり、金もあり、豪奢な家や贅沢もし放題だったとしても、孤独に不幸な生活を営む者もいるのだ。










「たっく、今日はオールナイトでゲコ太映画見ようってのに、なんでこんな場所に来てんだよ」

 学園都市でも有数の高級サロンの一室でレイビーは不満気に溜息をついた。ソファの隣に置いてある紙袋には大量のゲコ太グッツが丁寧に仕舞われている。全て映画館で購入したものだ。

「……15時間ぶっ続けてゲコ太を見続けてた私の身にもなって欲しい訳よ。最後くらい私の行きたい場所に行っても罰は当たらないでしょ」

 疲れ切った表情を浮かべながらサロンに行こうと提案した張本人、フレンダ=セイヴェルンが言う。十月九日、とある事情で上半身と下半身が分断されるというスプラッタ映画顔負けの事態に陥った彼女だが、レイビーの能力と『冥土返し(ヘブンキャンセラー)』の異名を持つ名医の治療によりどうにか街を出歩けるまでに回復していた。
 本当ならもう退院しても問題ないくらいに回復したフレンダなのだが、彼女はゴタゴタとした事情により余り外を出歩けない身である。とはいえ折角動けるのに病院の中にずっといるというのも精神衛生上宜しくない。ということで冥土返しから外出許可を貰ったフレンダは、レイビーへの借りを返す意味も含めて街を出歩くこととなったのだが…………結果はゲコ太一色。普通こういったシチュエーションだと男性側が女性側の行きたい場所に合わせるものなのだが、ベルンフリート=レイビーにそんなセオリーは通用しなかった。
 デートと言えば聞こえは良いがその実は単なるゲコ太三昧。ゲコ太映画のはしご。無類のゲコ太好きなら兎も角、ゲコ太に特に愛着のないフレンダからしたら拷問に等しかった。
 極め付きには夜になりここは優雅にディナーだろう、というタイミングで次のゲコ太映画に行くとか言い出したレイビーに遂にフレンダがプッツンし、自分好みのサロンに連れて来て今に至るという訳である。

「にしても……やけに豪華だな」

 レイビーは室内を見回しそう感想を漏らす。
 ここ第三学区にある個室サロンはカラオケボックスを豪勢にしたような施設であり、親や教師など大人の目も届かず監視の目もないので、上流階級の学生は手軽に借りれる秘密基地として重宝しているのだ。上流階級御用達というのは伊達ではなく部屋は広いしソファはフカフカ。ドリンクのサービスにカラオケまで出来る。……レイビーたちの部屋にはないが、一部には大きなベッドがある所もあるというのはご愛嬌というやつだ。

「あれ? こういうとこ来た事ないの? レイビーって長点上機学園でLEVEL4でしょ。こういうとこも来てると思ったんだけど……」

 フレンダの言う通りレイビーは学園都市一番の名門校、長点上機学園の所属である。しかもその強度は軍隊で戦術的価値を発揮できるとされるLEVEL4。実は既にLEVEL4ではなくLEVEL5クラスの能力者にシフトしてしまっているのだが、表向きはまだ単なるLEVEL4のエリートである。
 学園都市からの奨学金は基本的に能力の強度で上下するため、LEVEL4ともなれば普通に上流階級に近い暮らしができるのだ。
 だからこそフレンダはレイビーもこういった上流階級の学生を対象にした施設にも来た事があると思っていたのだが、生憎レイビーはこういう場所に来た事は一度もなかった。

「金は全部ゲコ太のためにある。こんな所に来るために一々金なんて使ってられるか」

「いや、ゲコ太だけでそんなに使わないって」

 どんなにゲコ太グッツを馬鹿みたいに収集しゲコ太映画を逐一見て回ったとしても、そんなものに懸かる額は精々が一か月30万円が限度。そしてLEVEL4であり長点上機学園の学生であるレイビーの貰う奨学金は30万を大きく上回っている。

「……他にはバイクとか買ったり」

「バイク? 警備員に捕まらないようにしなさいよ。無免許運転に最近厳しいんだから」

「免許持ってるに決まってんだろうが! お前は俺を何だと思ってるんだ?」

「どーどー、でで、他には?」

「後は貯金だよ貯金。なんかあった時に困るからな」

「うわっ。レイビーって灰色な生活送ってるんだね」

「失敬な。しっかりしてるって言って欲しいもんだよ。お前なんかどうせ大金が入ったらブランド品だなんだとか言って三日四日で使い切るタイプだろ?」

「うっ!」

 図星だったのか、フレンダが身を強張らせる。

「金は天下の回りモノ。回ってきてるうちに溜めないと回らなくなって困るのは自分なんだ。しっかりと未来のために用意しないと」

 幸いこの学園都市では学生でいる内は奨学金を貰い続けることが出来る。親とのいざこざもあり、将来困ったときに父に頼み込む、なんていうのは死んでも御免なので準備は整えておかなければならない。
 コップに注がれたドリンクを飲み終わったレイビーはフレンダに「トイレ」と言ってから個室を出る。敢えて室内備え付けのトイレではなく室外のトイレへ行くのは、室内のだとフレンダがなにやら悪戯でもしかけないと感付いたからだ。
 それなりにフレンダとの付き合いも長くなってきたので、彼女の多少悪戯っ気な性格もある程度は合点していた。

「ふぅ」

 用を足し、手を洗うと鏡を見る。映るのは当然ながら自分の顔。しかし何処か晴れ晴れとしているように見えるのは気のせいだろうか。

(やっぱ楽しんでるのかもな俺)

 レイビーは今までこうして誰かと一緒にゲコ太映画を見に来るなど皆無だった。学校にもそれなりに話す友人というのはいる。メルアドだってそこそこの数が登録されているし、寮の部屋でメールのやり取りも良くやる方だ。しかし一閃を踏み越えて付き合う友人というのは皆無だった。友人はいても親友はいない。腹を割って話せる相手は誰一人としていなかった。その原因は友人ではなく自分にあるのだろう。昔のトラウマでLEVEL5になることを怖がっていたレイビーは、自然と本心をひた隠しにして生きてきた。そんなんでは本当の友達なんて出来る筈もない。
 だがフレンダはそうではない。フレンダは嘗て自分の寮に嵐のように唐突にやって来た。身元不明、正体不明。そんな普通とは完全に違っていたフレンダだからこそ、レイビーは自然と素の自分で接した。ありのままの自分を曝け出して話す事が出来た。そしてそれは、学校の形だけの友人と遊ぶよりも十倍以上楽しい。こんな楽しい思いができたのも、なんだかんだでフレンダのお蔭なのだろう。

(まぁ……一応は感謝しておくか)

 頭の中にアホっぽい顔をした金髪の少女を思い浮かべ苦笑する。
 勿論本人に直接言うつもりはない。こんなことを言いでもしたらゲラゲラと笑いものにされるか、調子に乗られるかのどちらかだ。或いはその両方か。 
 頬をポリポリと掻きながらトイレから出る。どうにも考え事をしていたせいか遅くなってしまった。廊下に出るとググッと伸びをする。
 そしてレイビーはある違和感に気付いた。

(…………やけに静かだ)
 
 音がしない。廊下はしーんと静まっていて人気というものが皆無だった。
 個室サロンは防音となっているので個室からの声は聞こえなくとも不思議でも何でもない。しかしこういった場所には必ずといっていいほど掛かっている音楽がかかってないのだ。それに動き回っているはずの従業員などの気配も一切なかった。
 レイビーがトイレに入った時はこうではなかった。音楽はかかっていたし、従業員が働いている気配がうっすらと感じられた。
 となるとレイビーがトイレに入っていた時間の間にこうなってしまったのだと考えられる。

「……一体全体、なにがどうなって」

 レイビーが仕方なしにケータイを開いた時だった。
 背後から鋭い声が突き刺さる。

「まだ客がいたぞ! おい、そこのお前。両手をあげて床に伏せろ! 死にたくなけりゃな!」

「……ッ!」

 思わず目を見開く。
 レイビーにそんな物騒な台詞を言い放ったのは明らかに一般人ではなかった。まるで外国の特殊部隊が着ていそうな服にヘルメットのようなもの。手には自動小銃。

(おいおいおい! まさかテロリスト!? 学園都市で? 糞ッ! 日本は平和ボケしてる国じゃなかったのか! いや……学園都市は日本の中でも例外なのか)

 父親の趣味のせいで銃に関してそこそこの知識があるレイビーには分かる。男の持っている自動小銃は紛れもなく本物だ。引き金を引くだけで容易く一人の人間を肉団子にしてしまえる武器だ。

「おい! 聞こえなかったのか、両手をあげて床に――――――」

「チッ!」

 銃を向けられたことにより、生物の生存本能が刺激されレイビーの頭は自然と能力発動のための演算を始めていた。
 男とレイビーの距離は約8m。ギリギリだが能力の有効射程距離である。
 
(時よ――――――止まれ)
 
 レイビーの念じた通り、レイビーから半径8mの空間内が完全停止する。その8mの空間に入っていた男も銃を構えた状態でピタリと動きを止めた。

「取り敢えず物騒なものは没収だ」

 レイビーは男の手から自動小銃を奪い取ると、腰のあたりにあった手榴弾と拳銃、そしてナイフも奪っておいた。本当はまだ何か武器を隠し持っている可能性が高いので隈なく調べたいのだが、それだと時間停止の限界が来てしまう。空間内全部を止めるとなると余り長持ちはしてくれないのだ。
 
「んじゃ、少し寝てろ!」

 男の腹を本気で殴り飛ばす。時間を止められている男は腹に力を込めることも出来ずに、それなりに鍛えられたレイビーのストレートをモロに喰らった。これで時間停止が解ければ男は気絶するだろう。

(そして時は動き出す、と)

「ごっぐぁ!」

 時間停止が切れた直後、男が呻き声をあげながら崩れ落ちる。
 男は自分が一体なにをされたのかすら分からなかっただろう。

「何だ今の声は!」

「おい、マックス! 無事か、あの白髪の化け物でも来たんじゃねえだろうな!」

 ドタドタと廊下の床を蹴る音が聞こえてくる。確かな事は言えないがかなりの数がこちらに向かってきている。
 さてどうしたものか、とレイビーは思案していると背後でバリンッと窓が割れ一人の男が転がりながら廊下に落ちてきた。

「いだたたたたた! くそっ、やっぱハリウッドみてえにはいかねえか!」

 ド派手に戦場と化したビルに突撃してきた男は、痛んだ体を抑えながらも立ち上がる。それは特に目立ったところはない有り触れた男だった。染めたことが明白な金髪と耳についているピアス。そこらへんを探せば何処にでもいるような在り来たりなチンピラ。そんな身形の男だった。
 その男はやがてレイビーに気付いたのか、拳銃を向けてくる。

「お前が……ここを占拠してる奴等なのか?」

 口振りからすると、この男は床で転がっている奴とは無関係なのだろう。レイビーは若干警戒度を下げつつ男の問いに返答する。

「占拠してるって、もしかしなくても強盗か何かに入られたのかよココ」

「って知らねえのかよ!」

「ああ知らん。気付いたら廊下中が葬式以上に静まってて、いきなり自動小銃もったあからさまなエネミーが襲い掛かって来たんだよ」

 クイッとレイビーは床で伸びている男に親指を向けた。

「建物がテロリストに占拠されて、自分だけが偶然にも難を逃れるって…………どこの中学生の妄想だよ」

 呆れたようにチンピラ風の男は言った。

「現実に起きたんだから仕方ないだろうに。それより、来るぞ」

 騒ぎを聞いて駆け付けたらしい数人の兵士達が角から姿を現す。兵士達は自分達の仲間が床で伸びているのを見ると迷わず銃口をレイビーたち二人に向けた。行動に迷いがない。それなりに訓練を受けてきたのだろう。

(数は十人。ああもう、俺は戦闘なんてしたくないってのに。フレンダと関わってから俺の運勢はアルプス山脈から瀬戸内海だ!)

 心中で怒鳴りながらレイビーは己が体内時間を五倍まで引き上げる。男達が銃をこちらに構えてくるのがスローモーションで見えるようだった。確信する。これならばいけると。
 力強く床を蹴ると、一気に兵士達との距離を詰める。これで時間停止が出来ればチェックメイトなのだが、悲しいかな。レイビーはまだ加速と停止を同時に行使することが出来ない。加速を使っている間は停止が出来ないのだ。
 兵士達は他愛なく倒せると思っていた敵の一人が人間の限界を明らかに超えた速度で接近してきたことに驚き対応が遅れている。その間にレイビーは兵士達の三人を早々に撃破してみせた。
 これで彼等が普通の兵士だったのならば余りに理解を超えた事態に慌てふためいたかもしれない。だが彼等は学園都市の兵士だ。学園都市のことを知り、学園都市によって訓練させられた殺し屋共だ。直ぐにそれが学園都市に能力開発を施された学生がもつ常識外の力、能力によるものだと悟り冷静に対処しようとする。
 それを見てニヤリと笑ったレイビーはその五倍速となった速度で、タンッと横にずれた。
 その瞬間、兵士達を貫く銃弾の雨。兵士達は死の間際、一人の能力者のせいですっかりと存在を失念していた男を見る。
 兵士達を貫いた男の名は浜面仕上。LEVEL0の無能力者でありながら、LEVEL5の超能力者を倒すというミラクルをやってのけた下剋上野郎である。

「サンキュー、名も知らぬ誰か」

 ナイスな援護射撃をしてくれたチンピラ風の男にレイビーは礼を言う。

「大したことじゃねえよ。俺もちょっと目的があって来ただけだしな。俺は行くぜ、ここの上の階には守らないといけねえ奴がいるからな! お前はどうすんだ?」

「残念、俺は下だ。死ぬなよ」

 これ以上グダグダと喋っている時間はなかった。レイビーは名を告げる事もないままに、浜面仕上と別れる。
 階段を駆け下り下の階へ。
 自分達のとったサロンの個室に飛び込むと、既にそこには誰もいなくなっていた。しかし、

「フレンダ、俺だレイビーだ。大人しく出てこい」

 そう呟くとソファの下からニョキッとフレンダが顔を出してきた。流石はフレンダ。体調が万全でなくとも、しっかりと兵士の目を掻い潜っていた。

「結局、遅い! トイレ長すぎよ長すぎ!」

「だー五月蠅い! んなことより早くずらかるぞ。ここに居たらまたあの訳の分からない兵士どもに襲われるかもしれないし、よしんば警備員が来たとしてもお前が見つかれば不味いことになるだろ」

「う、うん」

 フレンダもそのことは理解しているので殊勝に頷く。レイビーはそれを確認すると個室の外側にある窓を開けた。

「ねぇ」

「ん?」

「ずらかるのは良いけどさ、なんて窓開けてんの?」

「決まってるだろ。ここから飛び降りるからだ」

「は、はぁあああああああああ!?」

「時間が無い、行くぞ」

 レイビーは強引にフレンダを抱き抱えると、そのまま窓から飛び降りた。鼻を突き刺す外の寒気。このサロンに来てまだ数時間も経過してないはずなのに、まるで一週間ぶりのように感じられる空気だった。

「ぎゃ、ぎゃぁあああああああああああああ! お、堕ちてるぅ〜〜〜!」

「喋るな、舌を噛むぞ」

 地面へと落下しながらもレイビーは脳内で演算を整え、その力を行使する。

「時よ、停滞しろ!」

 瞬間、レイビーの落下速度が一気に下がる。
 LEVEL5に目覚めた事により出来るようになったのは加速・逆行だけではない。しっかりと停滞も出来るようになっていた。
 TVのスローモーションのようにレイビーとフレンダは緩やかに地面に降りていく。この速度なら地面に落ちた所でグロテスクな肉片になることはないだろう。

「ふぅ驚いた。こんな隠し玉あるなら最初から言ってよ!」

「時間が無いって言ったろ。説明してる時間も惜しかったんだよ。いつあの訳の分からない兵士が部屋に突入してくるか分かったもんじゃないからな――――――それより見ろ、イルミネーションが綺麗だぞ」

「そんなことどうでも―――――あっ、でも確かに綺麗かも」

 サロンのある前のビルはなにかの玩具屋なのか、色とりどりの光を放つイルミネーションがクリスマスでもないのに点滅していて幻想的な光景を作り出していた。
 地面に到着するまでの数十秒。
 レイビーとフレンダはずっとその幻想的な光景を眺めていた。




 わりと空気だった浜☆面が再登場。一足早くタッグバトルしました。しかしこれで垣根ならこのまま一方通行とエンカウントして大変なことになるというのにレイビーは華麗に回避。原作キャラより主人公補正あるオリキャラって……。
 本当はゲコ太関連で御坂とも絡ませたかったのですが、同時刻、御坂はフィアンマさんに囚われているというトラップ発動。麦野は絡ませたりすると……うん。即、ヤバいことになりますからね。ストーリーも無茶苦茶になりますし。
 次回は……遂に第二位だけど人気ナンバーワンな垣根のターン。本当に久しぶりの出番となります。出番がどんどんHELSINGなんて言わせへんで。



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