とある魔術の未元物質
SCHOOL132 戦場における一風景


―――虐殺。
戦争などにおいて度々行われる一つの蛮行だ。後の歴史において虐殺は必ず悪行とされ非難されるものだが、当時の歴史においては逆に正しいと賞賛されてしまう事もある。人を殺す事が悪だと人は言う。しかし一方で戦場で多くの命を奪った者を英雄だと人は言う。英雄と殺人者の差などその程度だ。だが、どうせ殺人者になるなら英雄の方が良い。殺人者に待つのは死刑台だが、英雄に待つのは富と栄光だからである。









 十月十九日。
 史上三度目となる大規模な戦乱、第三次世界大戦が始まった。三度目の大戦がどのような結末を迎えようと、この日は各国の歴史書にも赤く記される日となるだろう。
 人類が三度目の大きな過ちを犯した日として人類社会が続く限りは永遠に。
 四人の主人公がロシアへと集約する中、その流れに乗らない者達もいた。例えば彼だ。

「以前の大戦のように学徒出陣なんてのは止めてくれよな……」

 病室のベッドに腰掛けたレイビーは画面の向こうで淡々と社会情勢などについて喋っているニュースキャスターを見ながら愚痴を零した。

「そんな事態にはならないと思うけど。少なくとも表の学生には普通に保護者もいるし、下手に能力者を戦場に送り出しでもしたら、それこそ学園都市は終わりな訳よ」

 レイビーの愚痴に返したのは以前LEVEL5の第四位により上半身と下半身を両断された少女、フレンダであった。
 彼女は一時生死の境を彷徨ったが、レイビーが『巻き戻し』を行使した事と『冥土返し(ヘブンキャンセラー)』の優れた治療もあって完治へと向かっていた。
 フレンダ自身に余り自覚はないだろうが、彼女が助かったのはLEVEL5の超能力と最高峰の医療技術が生み出した一つの奇跡ともいえる。

「しかしなぁ……ロシアっていったら冷戦時は米国と勢力を二分した大国だぞ? 国土だって世界一。おまけにイギリス以外の十字教の影響が根強い国は皆ロシア側っていうじゃないか。対するこっちは科学技術こそあっても総面積東京の三分の一程度、人口230万人程度の貧弱都市だろ。技術力の差なんて数で覆される」

「……だから大丈夫な訳よ。私は暗部としてそこそこ長いから学園都市の黒さは知ってる。こういう最悪の事態に対する備えも、ある程度はある訳よ。たぶん核ミサイルに対する防護機能もあるんじゃないかな」

「――――――俺は単なる一般生徒だ。暗部のお前にそう言われたんじゃ、信じるしかねえな」

 そもそも自分のような人間が一々戦争の行く末なんてものを考えた所で無意味だ。自分が第一位ほど強力なLEVEL5ならまだしも、レイビーの超能力では戦略を根底から覆すような大活躍など出来よう筈もない。

(戦いは数……だけどこっちには世界の十年二十年先をいく科学技術がある。だけど技術は何時の日か漏洩するものであり……はぁ、本当に嫌なもんだ……戦争ってやつは)

 レイビーとて高校生。
 ガンダムやマクロスなんていう戦争を題材としたアニメを好んで見る事もある。しかしアニメを見るのと実際の戦争に巻き込まれるのは別物だ。
 
「それよりフレンダ、そろそろリハビリの時間だぞ?」

「うっ! 折角シリアスな会話して誤魔化そうと思ったのに」

 嫌がるフレンダを車椅子に乗せてリハビリ用の部屋まで連れて行く。元々生命力が高いのかフレンダも段々と自分で歩けるようになっていた。この分だと退院するのも遠くはないだろう。
 しかし我ながら随分と俗な事をしている。
 そう思いつつもこの時間が嫌ではないレイビーだった。


 戦争を望まぬ一般人や戦争を止める為に紛争する者達がいる一方で、血と臓物が飛び散る戦場を好む救いがたいロクデナシの愚者共はいるものだ。
 雪の降り積もる大地の中、ロシア軍の兵士達は混乱状態にあった。

「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!! その程度かぁああああああああああああああああああああ! ロシア軍とやらはァ! サイボーグ化してパワーアップしグレートアップしたこのスヴャトポルク=コンスタンティン=ボグダノフ=ベレゾフスキーの筋肉に傷一つつけられんのかぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 巨漢……今までの生涯で見てきた中で一番の巨漢が銃弾を物ともせずに突進してくる。
 ロシア軍において少佐の地位にあるミハイルは多少不真面目なところはあるものの優秀な軍人で、公式非公式含めて実戦経験も豊富な男だった。だが、現状況は余りにも彼の理解を超えていた。
 銃弾が、対戦車砲が、戦車の徹甲弾が、一人の男の筋肉を貫けないでいる。爆炎も爆風も物ともせずに突き進んでくる巨漢は顔から笑みを絶やす事が無い。

「……化け物(モンスター)だ」

 部下の誰かがそう漏らしたが、彼はそれを否定する事が出来なかった。
 自分達の敵は紛れもないモンスター。頭がタケノコ型のモンスターだ。
 学園都市が超能力者を人工的に開発しているのは知識として知っていたが、目の当たりにした超能力者は紛れもない怪物だった。人知を超えている。
 だが、ロシア軍にとっての災難はまだ終わってはいない。
 戦場から遠く離れた位置にいた場所にいた二人が、戦場をスコープで見渡しながら言う。

「筋肉馬鹿にだけ任せちゃいられねえな。…………俺達コンビの力を見せてやろうぜェ!」

「おうよ。俺の『絶対等速(イコール・スピード)』を遮る障害物はないんだからな」
 
 絶対等速が弾丸を手渡し『終着地点(ラスト・ターミナル)』が弾丸を装填する。そして彼の銃から放たれる弾丸は燕のように自由に空を舞い、核シェルターをも貫く最強の弾丸。
 二人とも強度判定こそLEVEL3の強能力者だが、二人揃えばLEVEL5にも匹敵すると自負している。
 最速にして最強の魔弾が解き放たれた。するとロシア軍の戦車や戦闘ヘリといった兵器が一発の何の変哲もない弾丸によって駆逐されていった。
 ロシア軍は必至になって攻撃を仕掛けてきた者を探そうとするが、他にも『認識阻害(フィルター・シャット)』などの能力者も複数潜んでいるので見つける事は叶わない。逆に第二第三の弾丸によって損害は増えるばかりだ。
 そして依然として筋肉の塊の巨漢(タケノコ)は突進を続けている。
 少佐として指揮官として、ミハエルが撤退の指示を下すのは至極当然であった。

「おおぉっ!! 軟弱なロシア軍共が退散してゆくぞ!? よぉぉっぉおっぉおぉぉおおおおおし! 追撃を――――――」

『待て待て、タケノコ!』

 追撃をしようとしたタケノコを、終着地点が止める。
 
『逃げたいなら勝手に逃げさせろ。俺達が追う意味はねえよ。なんたって……あいつ等の基地には「旦那」が行ったからな』

「ん、おぉ! そうだった!! 下手に追撃して旦那の虐殺に巻き込まれたら敵わんなァ!!」

 あっさりとタケノコは追撃を止める。
 彼等は皆知っているのだ。
 学園都市上層部に雇われた外の傭兵の恐ろしさと実力を。彼の虐殺に巻き込まれたら最後、命はないということを。
 だからこそ追撃はしない。
 元々加勢する意味もないのだ。下手に危険を冒すリスクはない。



 退却したロシア軍を待っていたのは地獄だった。
 燃え上がる基地。破壊された兵器。原型を留めない程にグチャグチャになった死骸。

「なんだよ……これは……?」

 ミハエルは激高する事すら出来なかった。
 理解の外にある惨劇はミハエルから怒りという感情を奪い去り、ただ猛烈な恐怖のみを与える。隣では部下の何人かが胃の中のものを吐いていた。
 そしてミハエルは目撃する。
 地獄の中心に佇むのは一人の男。顔は……東洋人のもの。だが日本人と言う感じはしない。直感だが『中国系(チャイニーズ)』だろう。
 ミハエルは知っている。
 この男の名を知っている。
 男の為した異形の数々を知っている。
 
「劉、白起……なんで、ここに」

 ロシア当局から指名手配されている特A級テロリスト。
 今まで多くの要人を殺害し、テロリストを指揮してきた極悪人。
 しかし劉白起は何も答えず、ただ右手をミハエルたちに向けただけだった。

「斥力が押し返す力なら、引力は引き寄せるエネルギー。――――――圧縮」

 その瞬間、ミハエルを含めたありとあらゆる物が劉白起の右手に吸い込まれていく。そのまま一つの丸へと圧縮されていった。

解放(くたばりやがれ)

 引き寄せられ無理矢理に圧縮されていたエネルギーが一度に解放される。
 この日、ミハエルの所属していた基地は地図からも地形からも消滅した。



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