とある魔術の未元物質
SCHOOL134 神 の 絶対性


―――怒りに対する最上の答えは沈黙。
沈黙は美徳……という訳ではないが、それでも怒りに沈黙しそれを続けていれば、やがて怒りという業火は沈下する。どのような大火事であろうと永久に燃え続ける訳ではない。その火炎が消えるときは必ず訪れるのだ。無論、人という生命の灯にも。











 久しぶりに来たエリザリーナ独立国同盟は街並みこそ普段とは変わってい長ったが、そこに住む者達の表情は一転していた。どことなく表情は重く、未来への不安に夜も眠れないような面持ちをしている。それに良く観察すると所々に軍服を着て銃を持った軍人らしき男がちらほらと確認できた。
 これが世界大戦というもの。
 学園都市&イギリス対ローマ&ロシアの構図はそのまま科学サイドVS魔術サイドの戦争に置き換えられる。そういった巨大な勢力同士の争いは必ずエリザリーナ独立国同盟のような小国も巻き込まれてしまうものだ。巨大な津波が川や湖を飲み込んでしまうように。
 小さな波はより大きな波の前には掻き消されてしまう脆いものだ。

(こりゃ上に立つエリザリーナは気苦労が絶えねえだろうな。今頃、過労でぶっ倒れてたりして)

 その考えは物騒で不謹慎だが現実味のあることだ。
 エリザリーナは見た目通り細い。とてもじゃないが健康的とはいえないような体型だ。唯でさえ不健康な人間に戦争という劇薬を投じる。そんなことすれば心労や過労で倒れてもなんら不思議じゃない。エリザリーナは芯の強い女性だが、精神だけで病気にならないなら苦労しない。病は気からともいうが、身体の方も重要なのだ。
 
(……俺が考えても仕方ねえか。先ずは肝心のエリザリーナに会わねえと)

 幸いそこそこの期間滞在していたので、どこにエリザリーナがいるのかは予想がつく。
 
(しかしエリザリーナ独立国同盟に協力するってのは不満はねえが、大局で見りゃ独立国同盟は学園都市側に近い。なんたってロシアの敵だからな。糞っ! 俺の行動が学園都市の糞野郎共の得になってると思うと吐き気がしやがる)

 心の中で愚痴りながら独立国同盟の街を歩く。
 幾ら垣根でも独立国同盟の街の上空を白翼で飛んでいくなんていう無茶はしなかった。戦争中で忙しいというのに白い羽を生やした謎の男現る、なんてニュースが飛び交ったら本当に心労で死んでしまうかもしれない。
 段々とエリザリーナがいるであろう軍施設の建物が見えてきた。
 こちらに気付いた警備の兵士がこちらに寄ってくる。幸いにして、その兵士の顔を垣根は知っていた。

「よう久しぶりだな」

 軽く手をあげて垣根が兵士に言った。
 向こうもこちらを覚えていたらしく警戒心を解いた。

「やはり君か、垣根帝督。今回はあのシスター、インデックスはいないのか?」

「ちょっと……な。それよりエリザリーナはいるか? ロシア成教『殲滅白書』の元トップ、ワシリーサの部下のサーシャ・クロイッツェフがここに匿われてると聞いたんでな。ついでにローマ正教についての情報も持って来たぜ。この戦争の裏で糸引いてやがるフィアンマの野郎に関してもな」

「あ、ああ。ここにおられるが…………どうしてエリザリーナ様が此処におられると分かったんだ? 軍関係者と政府関係者以外は知らない筈なんだが」

「この国の警備パターンや兵士の居る場所を見比べりゃ何となく分かる」

「そ、そうか」

 兵士の方も垣根の頭脳がどれだけ常識が通用しないレベルなのかは知っていたので、多少の驚きを含みつつも納得した。
 直ぐに通信機で連絡をとると、垣根にOKサインを出した。
 兵士に連れられて軍施設の廊下を歩く。
 軍施設だけあり独立国同盟の軍人が多数詰めていたが、中には知っている顔もいた。若干、こちらに対する奇異の視線も感じられる。やはり超能力者の実物は珍しいのだろう。なんといったって世界に七人しかいない存在だ。魔術師以上にレア度は高い。
 一際大きなドアの部屋に通されると、そこに垣根の魔術の師匠でもあるエリザリーナが多数の兵士達と共にいた。

「久しぶり、というのが適当でしょうね。ローマとフィアンマについての情報を持ってきてくれたと聞いたけど」

「ああ。同じ神の右席だったアックアとテッラに聞いた情報と、俺自身での推測も入ってるがな。まぁ、耳よりな情報だとは思うぜ。フィアンマの持つ能力についてなんだからよ」

「フィアンマの、能力? ………………それは、確かに耳寄りだわ。神の右席のトップにして天使長ミカエルを象徴する者。その実力は神の右席でも最強だと聞く」

「やけに詳しいじゃねえか。一応、神の右席に関してはトップシークレットだぜ」

「神の右席に詳しいある人から教えて貰ったのよ」

「ある人? ローマ正教側にスパイでも放っておいたのか?」

「いえ、違うわ。ただローマ正教の暗部に最も近い場所にいた一人よ」

「信頼できんのか?」

「彼女も難しい性格をしているけど、悪い人間じゃないわ。彼女には彼女の考えがあって、フィアンマの支配するローマ正教から離脱したそうよ」

 彼女と言うからには女性なのだろう。
 フィアンマの支配が嫌だからといって巨大な組織であるローマから抜けるなんて肝っ玉のある女性もいたものだ。学園都市で暗部のリーダーをしていた垣根だからこそ、その決断が並大抵のものではなかったと理解できる。

「いきなりで悪いんだけど……フィアンマの能力について教えてくれるかしら? 相手の能力について知らなければ防備も満足に整えられないから」

「彼を知り己を知れば云々か。そうだなタイム・イズ・マネー、時間は大事にしねえとな」

 一拍おいて垣根は話し始める。

「フィアンマの『能力』は右手に集約される。若干付け焼刃の知識になっちまうが、十字教で右手っていうのは常に重要な意味があったろう。嘗て地に堕ちる前に天使長の地位にあった『光を掲げる者(ルシフェル)』が同列を意味する神の右席に唯一座ることを許されたって具合に。そして、十字教のありとあらゆる奇跡も右手によって為される。フィアンマの右手は単純に言えば奇跡を起こす右手なんだよ」

「まさか……フィアンマは『右手』を使ってあらゆる奇跡を起こせるというの?」

「いいや、フィアンマの右手は全知全能じゃねえ。万能でもねえよ。あいつの『右手』が宿すのは言うなりゃ絶対性だ。神に敵う者は存在しない――――そんな概念を現したものかもしれねえな。フィアンマの『右手』は敵対する相手の力に応じてその力を変化させる。そうだな。例えば国一つを焼き尽くす隕石が降って来たとしたら、フィアンマの右手は国を滅ぼす以上の力で隕石を吹き飛ばす」
 
 だからこその絶対性。
 フィアンマという男には戦術や戦略なんてものは必要ない。
 右手を振る。
 その動作のみでありとあらゆる敵を殲滅できるのだ。相手がLEVEL5の超能力者だろうと聖人だろうと同じ。
 フィアンマとアックアが戦えば、フィアンンマの右手はアックアを斃すのに最適な出力を発揮してアックアを撃破できる。
 正に出鱈目。もはやインチキだ。
 戦闘なんてものは戦いが起きるからこそ戦闘というのだ。右手を振れば終わるフィアンマにとって戦闘なんていうのは嘘と虚飾に塗れたペテンでしかない。

「応用で右手を振ることでの空間転移なんてのも出来る。まぁ、これは段差が余りにもある場所には移動できねえっぽいけどな」

「…………強いとは、予測してたつもりだけど………そこまでとわね。そういえば垣根、インデックスはどうしたのかしら? 姿が見えないようだけど」

「……永眠した、ぐっすりとな」

「えっ?」

「眠れる食いしん坊万歳シスターを叩き起こす為にも、俺にはフィアンマをぶっ潰さねえとならねえ理由がある」





後書き

次回。フィアンマVS垣根……再戦!
になればいいなぁ。と思う今日この頃。



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