とある魔術の未元物質
SCHOOL140 神により与えられし命令


―――諸悪の根源は金そのものではなく、金に対する愛である。
面白い考え方だ。人は誰が愛しい者を奪われた時に殺意を抱く。同じように、金の為に殺意を抱く。という事は、金の為に人を殺す人間は、人ではなく金を愛しているという事なのだろう。人よりも金を愛する人間。しかし人間と違って金は人を愛してくれない。金はどんな人間よりも無機質で白状で小悪魔的だ。簡単に人の手にうつってしまう。










 多くの者達が戦争を終わらせるために奮戦する一方で、垣根はエリザリーナ独立国同盟内の病院で羽を休めていた。
 出来れば一刻も早くフィアンマを見つけ出してぶち倒したかったのだが、ダメージを負ったままで戦えるほどフィアンマは生易しい男じゃない。
 フィアンマと戦うなら垣根も万全の状態で挑まなければならないだろう。
 その為に悔しい気持ちを抑え、こうして独立国同盟の病院へと戻ったのだ。幸い呪いなどはなく単なる身体のダメージなので治癒魔術を施せばどうにかなる。
 そして、そこからフィアンマの王国――――ベツレヘムの星が起動するのを目の当たりにしたのだ。王国の尖兵たるガブリエルの出陣も。

「成程な。パニックだぜ、コレ」

 垣根は上空で暴れまわる大天使ガブリエルを見上げた。
 四大天使の一角だけありガブリエルの力は常人の理解を超えている。学園都市の最新兵器がまるでラジコンだ。全く歯が立っていない。
 そういえば自分はあの『御使堕し』で大天使ガブリエルになってしまったことがあったか。当時は大混乱に陥った事件だったが、今となってはそれも笑い飛ばせる過去だ。

(だが、これはどういうジョークだ?)

 大天使ガブリエルと渡り合っているのは二人の人間だ。といっても一人は人間と表現するのが躊躇われる存在である。なにせ垣根はソレの正体を知っているのだ。
 ヒューズ=カザキリ。
 AIM拡散力場の集合体、学園都市が科学的に生み出した人口天使。9月30日に目撃した際は意識などないように見えたが、遠目から見る限り今のヒューズ=カザキリは意識がはっきりしているようだ。まるで感情のある人間のように。
 人口天使ヒューズ=カザキリと大天使ガブリエル。互いに一つの技術の粋を尽くしたといっていい怪物たち。
 それだけなら垣根としても怪獣大決戦ということで受け入れられたのだが、問題なのはあの中に垣根の見覚えのある超能力者がいることだ。

一方通行(アクセラレータ)ッ! ロシアに来てるってのは嘘じゃあなかったようだな……」

 ここで会ったが百年目。今度こそミンチにしてやる、という感情が湧きおこるが垣根はあっさり下らない怒りを封じる。
 今はインデックスが最優先。一方通行に拘ってる時間はない。垣根も一方通行とフィアンマの連戦なんていうのは御免だ。

「おい、垣根」

「あン?」

 独立国同盟の兵士が恐る恐るといった様子で尋ねてくる。

「アレは学園都市の科学力ってやつなのか……大天使とやり合ってる二人は」

「一人は"一人"と表現すりゃいいのか不明な集合体だけどな。……しかしAIM拡散力場の集合体だと思ったから能力者のいねえ学園都市の外には出れねえと高をくくっていたんだが……待て。ここに俺と一方通行の野郎がいたから…………違う。それ以前に適当に理由をつけられて外の開発期間に送られた妹達(シスターズ)。あれが関わってるのか?」

「か、垣根! どうしたんだ?」

「ん、おぉ悪いな。考え事をしてたんだよ」

 そして垣根は思案する。
 ここで一方通行やガブリエルとの戦いを無視してベツレヘムの星へ行くのは簡単だ。垣根の白翼なら飛行中の旅客機に途中乗車することだって出来る。だが、果たしてガブリエルという特大の兵器を放置しておくのが正しい選択なのだろうか。
 アレを放置しておけば最悪、世界が壊滅的な大損害を受けるかもしれない。大天使はそれだけのエネルギーをもっている。

(チッ。本当に馬鹿か俺は? 俺が顔も知らねえ誰かの為に戦う柄かよ? はぁ……エリザリーナや上条当麻とかの病気が多少移ったらしい。いけねえな、んなどうでもいいことを)

 決めた。ガブリエルは無視だ。
 一方通行とヒューズ=カザキリに全て任せる。それで一方通行が共倒れしてくれたら万々歳。二人がやられてもフィアンマを倒し止めさせればいいだけだ。

「――――――――――おい、兵士」

「なんだ?…………って俺の名前は兵士じゃない! ミシェルという立派な名前が」

「んじゃミシェル、エリザリーナに伝えておいてくれ」

 これから向かう先はフィアンマの王国だ。
 恐らく垣根が戦ってきた誰よりも強い男があそこに待ち受けているだろう。この戦いが終わって垣根帝督が生きているという保証はない。

「もしかしたら俺、これから死にに行くかもしれねえから。エリザリーナに借りが返せなくなったらすまねえって……伝えといてくれ。溜まりに溜まった借金は来世で返すぜってな」

 光翼が羽ばたく。
 目指す先はベツレヘムの星。原罪を取り除き神の右席に座ることを目指した背徳者が支配する王国。右方のフィアンマ、この身体に流れる因縁に決着をつける時が来たようだ。

「垣根帝督、行くぜ」

 ガブリエルが暴れまわっている場所を避けて、大回りにベツレヘムの星へと飛んでいく。
 星に願いを。神からは愛を。背徳者には死を。

「ijgiowajg堕天niojijg裏切znviejng貴方zihiogjnvgeni地獄buooiawgine」

 垣根帝督をその視界に捉えた時、ガブリエルが起動する。
 ガブリエルはフィアンマからの指示を遥かに超えた優先度の高い使命で上書きして、垣根帝督を殺すべき敵と認識した。
 協力者であるフィアンマの指示を超える使命、それ即ち父なる神の命令。神の創りだしたプログラムである天使にとって神の命は何にも勝る重要なもの。

「ewinvioajg抹殺oijiojj排除nvoij削除ziiejn消去iuoiujfinv」

「なっ! こいつ、俺の方へ……!」

 垣根が向かってきたガブリエルを迎撃する。
 どうやらフィアンマの前に厄介な奴に目をつけられてしまったようだ。




後書き

次回! 夢の一方通行&垣根の共闘VSガブリエルに……なるかも?



押して頂けると作者の励みになりますm(__)m


<<前話 目次 次話>>

作品を投稿する感想掲示板トップページに戻る

Copyright(c)2004 SILUFENIA All rights reserved.