決戦前にして思う。
 これから自分は『ソキウス』という戦闘用コーディネーターに勝たなければならない。
 勝たなければソキウスは消耗品のパーツ、それも嫌われたものとして人ではない物品としての生を送ることになる。だがミュラーが勝てば、軍属という運命からは離れらないが取り敢えず人間扱いをするようにしてくれるらしい。
 皮肉で矛盾に満ちたことであるが、ミュラーは対戦相手を救うために対戦相手を倒すのだ。
 別に善人ぶるつもりはない。
 ハンス・ミュラーという人間はどうしようもないほどに俗物だ。
 自分の命がなにより惜しいし、大事なものは給料と有給を消化することだ。幾ら周囲が英雄として持ち上げようと、根底にある性格が変わるわけではない。
 しかし人として最低限の最低限の良心くらいは持っている。軍人としは甘さともいえるのかもしれないが、それがどうしたというのか。
 ミュラーは自分の魂まで軍に売り渡した覚えはないし、そういった真面目な軍人様のお役は本物の真面目な軍人様がやればいい。

(敵は平均的なジンか)

 特に改造が施されたわけでもなく、重斬刀とMMI-M8A3 76mm重突撃機銃を装備しただけのノーマルなジン。
 しかしソキウスが扱うのだ。その強さはエリートとされるザフトレッド以上はあるだろう。
 それを倒さなくてはならない。

「ルーラ、たしか研究チームの方が連合製MSのために製造してた武器にアーマーシュナイダーがあったろう。それを装備してくれないか?」

「アーマーシュナイダーですか? それは構いませんが、ジンには白兵戦武装に重斬刀がありますよ」

「知っている。だが宇宙空間ならまだしも、大気圏内であんな思い鉄の塊を振り回していたら動きがスローになる。戦車相手ならそれでもいいだろうけど、対MSならアーマーシュナイダーの方がいい」

「了解です」

 ルーラが整備兵に指示を出していく。
 アーマーシュナイダーはMS用の超硬度金属製の戦闘ナイフだ。超振動モーターによって刃身を高周波振動させることで殆どの装甲を切ることができる。
 しかも利点として内臓のバッテリーがあるため、ジン本隊のエネルギーを消耗せずに済む。

(……武装が足りないな)

 ジンの基本装備はMMI-M8A3 76mm重突撃機銃と重斬刀とM68パルデュス3連装短距離誘導弾発射筒。
 このうち重斬刀はオミットしたため、装備は重突撃銃とアーマーシュナイダーだけだ。
 他に特殊装備でM69バルルス改 特火重粒子砲とM66キャニス短距離誘導弾発射筒などもあるが、これらは拠点攻撃用重爆撃戦装備――――通称D装備とよばれるもので、対戦艦には向いても対MSには向かない。
 採用しないのが賢明だ。

(M68キャットゥス 500mm無反動砲もあるが……これは携帯できるな。火力も十分だし一つ持たせた方が良いな)

 ここがアズラエル財閥の研究施設で助かった。
 ザフトから鹵獲したジンの装備以外にも、来たるべきMS開発のためにアズラエル財閥が独自に用意した武器が数多くある。

「ルーラ、追加でジンの右腕に75oガトリング砲をつけておいてくれ。それと背中に無反動砲も」

「……機体が重くなりますよ。そんなにゴタゴタにいれたら」

「MS戦は火力だよ。アーマーシュナイダーを使っての格闘戦なんて最後の手段なんだ。……それにMSっていう兵器は出来る限り長く戦場に留まって、長く敵を威圧しなきゃならない。少し戦ってばてる機体は好きじゃないんだ。それと左肩にはシールドもつけておいてくれ」

「分かりました」

 整備兵がルーラの指示でまた慌ただしく動き始めた。
 ソキウスとの模擬戦の場となる密林を模した戦闘施設を検分しながら、横目で新たな武装を施されていくジンを見る。
 ミュラーのジンはそのままのカラーリングでは判別がしずらいという理由でパーソナルカラーのように塗装されていた。機体を覆う黒と所々に真っ赤なラインの奔ったどことなく禍々しいデザイン。
 本当は宇宙で戦うなら黒が一番いいということで黒くしようとしたのだが、アズラエルがそれでは派手さが足りないという要らぬ御節介を働きこんなカラーリングになった。
 黒と赤に染まったジンはグレーのノーマルなジンと比べ妙な力強さがあった。模擬戦が見た目だけの勝負なら勝てるかもしれない。

「これで勝てればいいけど」

 戦う前にやれることはやった。ミュラーの見る限りジンには弱点がある。
 そもそもジンの敵とはなんだろうか? 言うまでもなく地球連合軍である。では連合軍が採用しているジンに並ぶ兵器といえば、それはMAのメビウスだ。
 ジンが相手にするのがメビウスである以上、ジンはメビウスを倒す為に造られた機体といっていい。謂わばジンはMSと戦うためのMSではなくMAを駆逐するための兵器なのだ。
 だからこそミュラーはMAを駆逐するためのジンに対して、MSを倒すための装備を施したジンを用意した。

『双方の準備が整いました。パイロットは機体に搭乗して模擬戦場に入って下さい』

 アナウンスが鳴る。
 ミュラーは専用の黒いノーマルスーツを着ると、同じく黒いジンに乗り込んだ。



 ここにきて何度も思うがアズラエル財閥の財力は凄まじい。
 どこの金持ちがMSの模擬戦するためだけのフィールドを個人的に保有できるというのか。ミュラーも金持ちの知り合いはいるが、それだって精々が人より少し広い家と最新の電化製品に囲まれるのが精々だった。
 ムルタ・アズラエルは金持ちとしての格が百段くらいは違う。

「……調子は、絶好調だな」

 少し歩かせてみるが、ジンの動きは良い。武装をありったけ詰め込んだせいで重さは凄いことになっているが問題はない。
 戦車と比べれば早いだろうし、いざとなれば武装を全てパージすればいいだけだ。

『始めて下さい』

 アナウンスが模擬戦の開始を伝える。
 瞬間、ミュラーはレーダーを起動させた。ニュートロンジャマー影響下ではないので、敵の居場所はばればれだった。無論それは敵も同じで、こちらの居場所は筒抜けだ。

「やるか」

 弾数含め武装はこちらの方が遥かに多い。ならば先手必勝だ。
 バーニアを吹かせ横に飛びながら左手にもった重突撃銃を発砲する。赤いペイント弾が草木を吹っ飛ばしながらターゲットに向かっていく。
 ミュラーもこれで敵が倒せるなんて思っていない。これは謂わば牽制用だ。
 赤いペイント弾が草木を吹っ飛ばしながらターゲットへ向かっていく。だがジンは案山子ではない。並みのコーディネーター以上に機敏な反応速度でペイント弾を回避すると、同じようにペイント弾で牽制しながらバーニアで突撃してきた。

「なるほどね。接近戦を挑むつもりだな」

 中〜遠距離の打ち合いでは火力の多いミュラーの方が優位。所にソキウスは重斬刀を使用しての格闘戦に持ち込もうとしているのだろう。
 悪くない選択だ。相手の不利な場所で戦うのではなく、多少のリスクを冒してでも自分の優位な状況に持ち込もうとする。
 ただ戦闘用に遺伝子操作をされただけでなく軍人としての知識も叩き込まれているらしい。
 人道的な面を無視して、ただの利害のみを考えたとしてもこれほどのパイロットをみすみす廃棄するとは。やはりアズラエルのアンチ・コーディネーターは筋金入りということか。

「だが……戦いっていうのは相手の嫌がることをやるもの」

 相手が近付こうと思うならば絶対に近付いてやらない。
 機動力は相手の方が上。追いかけっこすれば負けるが、ガトリング砲と重突撃銃を弾幕にすることで敵の動きを止めながら後退していく。

「……集中しろ。あの時と同じように」

 宇宙での戦い。
 ハンス・ミュラーが多くの戦友と多くの敵が死に絶えた場所で一人だけ生還したあの時に感じた全能感。
 自分の頭脳が空間全てに広がっていくような感覚を今またここに。
 以前に出来たのだ。今も出来る筈だ。

「よし」

 あの感覚は地上でも健在だ。意識が地球に引っ張られるような拘束感はあるが些細なものだ。
 ソキウスの乗るジンに意識を集中させる。
 機械のような正確無比にして高い反射性をもつ動き。だがこちらの方が圧倒的に優位だ。
 敢えてミュラーは自分の機体をジンの前に晒す。
 いきなり目の前に現れた敵機にさしたる動揺もなく重突撃銃を撃つソキウス。しかしその銃弾の嵐を左肩のシールドで受け止める。
 ソキウスの青のペイント弾がシールドを染めるがジンは無傷だ。
 ミュラーは盾からガトリング砲だけを出すと発砲する。
 重突撃銃が玩具に見えるような連射性で銃弾の嵐が降った。弾丸がソキウスのジンの右肩を染め上げた。アナウンスがありジンの左肩が使用不能になったことを教えてくれる。

『……!』

 ジンが重突撃銃を投げ捨てると、重斬刀だけをもって左方向へと飛び上がりながら急接近してくる。
 ガトリング砲を放ちながら格闘戦は難しいと悟り、一気に賭けに出たのだろう。

「それは予想通りだったよ、ソキウス」

 背中に背負った500mm無反動砲を背中を軸にくるりと回転させ照準。こちらに向かってきたジンをロックオンし発砲した。
 赤いペイント弾がコックピットのある部位を正確に染めた。

『模擬戦終了、勝者ハンス・ミュラー少佐。両機とも戦闘を終了して下さい』

 アナウンスがミュラーの勝利を告げる。
 これで取り敢えずはなんとなかった、とミュラーはほっと一息ついた。



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