ミュラーは専用にカスタムチューンが施されたジンに乗り込むとブリッジマンより飛び出した。そこで先に出撃していたキャリーやナインと合流する。
 アークエンジェルからもガンダム――――ストライクとメビウス・ゼロが発進していた。有視界で見える距離には敵ナスカ級とMS部隊がいる。

(あの赤いMSがイージスか。一度完成予想図みたいなもので確認した時より細部が微妙に異なっているが間違いないか)

 イージスのスペックを頭に書きだす。
 五機のガンダムの中でもイージスは唯一のMAへの可変機構をもつ機体で、そのスペックは他のGと比べても高いレベルに纏まっている。
 両手両足の合計四つのビームサーベル、可変機構、ビームライフル、PS装甲。近距離・中距離・遠距離のその全てに対応できる高い汎用性をもったイージスは危険極まりないMSだ。
 特にMA形態の時に発射できる580mm複列位相エネルギー砲『スキュラ』はアークエンジェルを除いた戦艦を一撃で撃沈させるだけの破壊力がある。絶対にイージスをブリッジマンに近付かせる訳にはいかない。
 
『中佐、敵が動き出しました』

「分かっている」

 ブリッジマンのオペレーターの声に頷く。
 MSに乗りながらブリッジマンやアークエンジェルにも指示をしなければいけないのが総指揮官の辛いところだ。本当なら誰かに丸投げしたいところだが、中佐という階級がそれを許してはくれない。
 万が一ミュラーが指示が出来ない状態になればこの場で二番目に階級の高い指揮官たるラミアス大尉に指揮権が移行するようにはしてあるが、逆に言えば万が一がない限りはそれは出来ない。
 
「ブリッジマンは艦を下げつつアークエンジェルの後方へ。すまないがブリッジマンにはアークエンジェルほどの鉄壁の装甲はないから頼りにさせて貰うよ」

『了解です』

 技術士官だけあってアークエンジェルの能力値の高さを知っているからこそ、ラミアス大尉は命令に文句ひとつ言うことなく従う。
 どうやら内に敵はいなかったようだ。そこが救いと言えば救いである。

「フラガ大尉、キャリー、ナインは其々ポイントα、ポイントβ、ポイントγにつけ。三人を三角線状に結んだそこが最終防衛線だ。外にいる敵は射撃で、内部に入った敵は袋叩きにするんだ」

『了解だ中佐さん。だが防御重視の陣形はいいが、敵さんだってそう安々とトライアングルに飛び込んできちゃくれないぜ。特に敵さんのイージスはPS装甲な上にかなりやるぞ』

 フラガ大尉が意見を述べる。正しい判断だ。野球にしろサッカーにしろ防御をしていれば勝てるというものでもない。
 例えゲームにおいて敵に得点を一切許さなかったとしても、自分達も得点できなければ勝つことはできないのだから。
 ミュラーも承知している。だからしっかりと得点を得る為の攻撃の考えも用意していた。

「ストライクのパイロット、えーと……」

『キラ・ヤマトです、名前は』

「キラ? …………もしかして君は手フェチか?」

『は?』

「なんでもない。こっちの話だった。ええとそれじゃあヤマトはイージスは無視して敵のジンだけ相手にしていてくれればいい。ジンは実弾装備しかない。PS装甲があれば優位に戦えるだろう。ただしPS装甲の限界値がイエローに達したら一目散に戦線を離脱、アークエンジェルへ戻り補給を受けること」

『りょ、了解! だけどイージスは』

「それはこっちが担当するさ」

 本当はあんな化物スペックなMSを相手にしたくもないがこれもパイロットの務めだ。
 自分があのPS装甲のあるイージスを抑えておけば、ストライクは実弾装備しかないMSだけを相手にできる。そうやって敵MSを順次落としていけば最終的には全員でイージスを袋にすることが出来るかもしれない。

「それじゃ作戦開始だ」

 ミュラーの一声で全MSが動き始める。
 予定通りミュラーが真っ直ぐに向かっていったのはイージスのところだ。しかしイージスの動き、どうやらイージスのパイロットの方もこちらを狙って来たらしい。
 ミュラーの首級の恩賞目当てか上官命令か。そのどちらかだろう。

「ヤキンの悪魔か……隊長が勝てなかった相手、ここで!」

 アスランが強い意気込みと共にミュラーに向かってくる。その意気ごみと気迫には同じ戦場で戦う友人から目を逸らしたいという後ろ向きな願望も含まれていたが、多くの仲間を殺してきた悪魔をここで倒して見せるという義憤が多勢を締めていた。
 PS装甲を頼りとした勢いによる近接戦闘。若さもあるだろうが合理的な戦法だ。ミュラーのカスタム・ジンはどちらかといえば射撃戦に重みを置いている。至近距離で戦えば四本のビームサーベルをもつイージスが遥かに優位だ。だが、

「若い動きだ。……だからこそ狙いも分かる。誰が近付かせるか!」

 ガトリング砲を連射する。ばら撒かれる薬莢と弾丸。

「こんなもの!」

 実弾など効かぬPS装甲だがその無敵の装甲は久遠のものではない。
 バッテリーによって起動するPSは攻撃を喰らい続ければ続けるだけエネルギーを消耗するという弱点がある。PS装甲が切れて機体の色がグレーへと戻った時、無敵の装甲は紙の装甲へと堕ちる。
 だからこそアスランも効かぬ弾幕とはいえ強引に突破しようとはせずに、機体を左に動かして躱しながら突進していった。そこへ、

「先ずは喰らえ」

「なにっ!?」

 アスランの動きを先読みしていたような正確なるマシンガンによる射撃が襲った。
 巨大な鉄の弾がイージスの装甲に命中する。アスランの乗っていたのがジンであれば無視できない損害を与えただろうが、イージスはその程度でやられるほど柔なMSではない。
 多少スピードを落としただけで動きを止める事なく突き進んでくる。

「開発のゴーサインを出すのに協力しておいてなんだが、なんていう化物みたいな性能だ。連合の開発したガンダムは」

 だとしても負ける訳にはいかない。何故ならミュラーはまだ死にたくないからだ。
 背中のブーストを最大出力で吹かせつつ距離をとりながら戦う。
 油断は禁物だ。PS装甲のあるイージスはカスタム・ジンの射撃が命中しようと動きを鈍らせるだけで動きを止めることはない。おまけに中のパイロットもかなりの腕だ。以前に戦った『黄昏の魔弾』や『英雄ヴェイア』と比べても遜色ないほどに。
 だからこそこのガンダムを他に行かせる訳にはいかない。

「悪いがお前はここで釘づけにする。他の何処にも行かせはしない。付き合って貰うよ」

 やはり宇宙での戦いは良い。重力から解き放たれて機体を自由に動かすことができる。ナチュラル失格かもしれないが、地球より宇宙の方が好きだった。 

「機体性能はこちらが圧倒しているはずなのに押されるなんて。ヤキンの悪魔、噂には聞いていたがこれほどとは。隊長の話は誇張でもなんでもなかった」

 アスランもまた戦いながら思考する。もしかしたらアスランには驕りのようなものがあったのかもしれない。
 ストライクのパイロットがコーディネーターだと知っているからこそ、ナチュラルにはMSを上手く扱うことなんて出来ないのだと言う驕りが。しかしミュラーというナチュラルとの戦いを通してそんな考えは木端微塵に打ち砕かれた。

「だからこそここで悪魔を倒す。連合軍がガンダムを量産して、それをこんなパイロットたちに与えて行けば」

 ザフトは嘗てない窮地に立たされることになる。アスランは決意と共にビームライフルを放った。



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