機動戦艦 Nadesico IF STORY

sd01.JDEYI

Written By サム














『あー、テステス』
「ん」

イヤホンを通して聞こえる声は良好。
ノイズもなく、まるで隣で話しかけているような音質だ。

「感度、受信レベルともに良好っぽいよ、アキト」
『了解だ。じゃあサクッと行くとするか』
「あいあいさー」


 がしゃこん。

ラピスは一際高いビルの屋上の縁に伏しつつ、超長距離スナイパーライフルのコッキングレバーを引いた。
スコープを覗き込み、狙撃点を注視する。

オートで照準を合わせてくれるこのスナイパーライフルはラピス自身が組み上げたもので、実は最近"工作"がマイブームだったりする。
しかしまあ、実戦で使う機会が来るとは。

「…性能評価には最適なシチュエーションだね」
『なんか言ったか?』
「独り言。」


たたたた、パパン。
 ガン、ドガ、ギャリ。

イヤホンからなにやら雑音が混じり始めた。
と、標的のビルから二度、ずん。ズン… と重々しい振動がこの場所まで響いてきた。

『お、時間通りに爆発したな。』
「…」

ラピスはライフルの銃口をやや下げて、スコープでエントランスを見る。
完膚なきまでに破壊しつくされたエントランスは2Fの床面がそのまま落ちてしまっていて、完全にふさがっている。

「1Fは封鎖完了…」

呟き、ライフルを定位置に戻すと、スコープを覗き込んだままラピスはにっと笑った。
屋上には高速移動ヘリが迫あがってきている。
階下が格納庫だったのだろう。

『ラピス、今度からはもっと穏便な方法使わないか…?』
「効率最優先。口動かさないで手と足動かす。目標物が逃げちゃうよー」
『あいあい・まむ』

半ばあきらめたようなアキトの口調に、思わずくすっと笑った。
相変わらず、かわいい。

「さて…」

アキトが可愛いのはまあ今に始まったことじゃないから取りあえずおいておく事にして。

ヘリのローターが高速回転を始めているのがわかる。
襲撃から目標物を遠ざけるためにさっさと尻尾巻いて逃げようとしているということ。

「まー。無駄なんだけどねっ」

    
    
    ばん。
    
    


 ◇




カン、カン
 どか、バコン。
 
二段飛ばしで最後の階段を駆け上がったアキトは、屋上の扉を蹴り破った。
黒のジャケットが、ヘリのローターが巻き起こす風でばたつく。

アキトは銃を構えた。

ダダダダダダッ

ヘリの両サイドに取り付けられていた機銃が火を吹く。
機銃が動いた瞬間、撃たれることを察知していたアキトは寸前で身をかわすことに辛うじて成功していた。
追撃される前に高架水槽の後ろに身を隠す。

「あっぶな…」

きゅんきゅんきゅん…ローターが浮上速度に達しつつある。
さすがに今の装備では飛ばれたら後々面倒なことになる。
しかし流石に敵も必死なのか機銃の銃口はしっかりとこちらを狙っており――

「無策に出たら死んじゃうな。」
『援護するよ。@1秒』
「え、ちょ!」

イヤホンから聞こえてきたラピスの声に、アキトは思わずラピスの潜伏しているビルの屋上を見ると、ちかっと何かが瞬いた。

きん、…ぎゃりぎゃりぎゃり。

いやな予感だ。
とてつもなくいやーな予感が

視線をすぐ戻すと、2mほど床面から浮上していたヘリが斜めに傾いでいて、テールローターが最外郭のフェンスを巻き込みながら全体が楕円に旋回してた。

「ぬおおおお!」

アキトはすぐさま逃げ出した。
傾いだヘリは、そのままつい3秒前までアキトが身を隠していた高架水槽に突っ込んだ。
その後も高架水槽の水をぶちまけながら、屋上を二転三転しつつ、ようやく縁ギリギリでヘリは停止した。

『あ、ごめん』
「ごめんで済ますかっ!?」

幸い爆発はしないようだ。
メインローターとヘリ本体の接合部に、小さく黒い穴が――狙撃点が見て取れた。

「さすが、良い腕だが…」
『でしょ?』

得意げな声に次いで うんしょっ というなんだか可愛らしい声も聞こえた。

「さてと。お出ましになるかな?」
『結構派手に転がったから気絶してるんじゃない?』
「まあ、そうかもしれないな…」

思わず同情しそうになったアキトだが、暗視バイザー(いつものやつ)に表示される目標の現状は、安らかに気絶している状態を示しているっぽい。
どちらかというと、アキトの方が寿命的には縮んでいるのではなかろうか。

そう思いついて、キッパリと同情するのは止めた。
オートマチックをリロードし、慎重にヘリに近寄る。
流石に先ほどの衝撃で、パイロットともども目標も気絶してるとは思うが、油断は禁物。


『じゃ、私もそっち行くね』
「いや、今からじゃ時間がかかるだろ? 待ってろよ」
『直線距離なら30秒だよ』
「…は?」


 ◇


うんしょ、と背負ったものは、稼動翼付きのスラスターバックパックだ。
スティック型IFS認識装置は上手く稼動している。
ラピスの意思をフィードバックし、航法システムでもって思うとおりに飛ぶための制御をこなす。

「お手製飛行ユニット〜」

だのと ○ラえ○ん みたいな感じで言ってみるが全く意味はない。

ウィンウィン、とスラスターが離陸に必要な最的角を探りながら微調整している間に、アキトとお揃いのカーゴパンツについているホルスターから、オートマ チックを引き抜いた。
左手に持つ。
ヘッドギアのバイザーを落とし。


「ごー」

ラピスは夜空に飛び立った。
初期加速と、滑空のための加速を2段階に分けて行う。

風を斬る感覚。
全身が重力から解き放たれているような実感が、爽快感に変割ったのも束の間。
アキトがぽかんとこちらを見ながら佇むビルの屋上へ到着した。


…バイザーに隠れて瞳が見えないのは残念だが、あの唖然とした口。
銃口だけはそらさないけれど、やっぱり…

「アキト、可愛いね」
「だれがだ、だれが。」

制動のために空中で立ったような状態のラピスに、アキトはそっぽを向いた。


 ◇


ガン、がこん。

アキトとラピスはそれぞれ左右に銃を構えて、目標のトランク――漏洩情報が記録された大容量有機記録媒体のケース――に狙いを定めた。

「これにて――」
「任務完了、だねっ」












――― Bang!














ATOGAKI

多分、後書きをローマ字で書いたのは後に先にも僕だけでしょう。
バカですごめんなさい。
お久しぶりですサムです。

つーわけで、ShortSSという感じで昨夜ジャドウエイにリクされたオエビNo32に文つけてみました。
ぶっちゃけSS書くのも○年ぶりなのでなっちゃいませんがね。
お仕事も忙しいし、気が向いたらふらっと書ければ良いなぁ…
ぼちぼち、リハビリって行こうかなと思います。

では良い夜を。



20080608SUN






















〜後日談。



「つか、お前も随分間が抜けてるな。情報掠められるなんて」
「まーねぇ、僕も結構がんばってるつもりなんだけど、どうしても丸ごと全部カバーって言うのは不可能だからねぇ」


ネルガルは本社ビル、その中庭でのアキトとアカツキ・ナガレの会話だ。
お互いだらしなくベンチに背を預けて、ぐだ〜っとしている。

二人の間は1m空いており、丁度真ん中には外で買ってきた某ハンバーガーのバリューセットが2つ。

「ラピス君はどうしたんだい? ヤローが二人しかいないって言うのはやっぱりなんか物悲しいよね」
「ラピスは…ああ、あそこに居るな」

ぐだ〜っとしたアキトが指差すその先には、ひらひらと舞う蝶を捕まえようとちょっかい出している彼女の姿。

「何してんだか。」
「可愛らしいじゃないか。昔に比べたら…いや、どうやったらあんなに変わるもんなのかね」
「さぁな…」

そんな気の抜けた応えにアカツキはジトメでアキトをにらむ。

「まったく、コレだから自覚ないやつは困る…」
「何の話だよ。」

肩を竦めたアカツキは声を1段階低くした。

「いいか、テンカワ君。ラピス君の場合は良い方向への変化だが、何もそればっかりじゃない。あっちの彼女(・・・・・・)は 最近様子がおかしいという話を聞く。」

何言ってんだコイツ、みたいな胡散臭いものを見る目つきでアキトはアカツキを見た。

「先週あったときは別に変わった様子はなかったぞ」
「だといいんだけどね。まあ、注意するに越したことはないだろう?」

ふん、とアキトは鼻で笑って立ち上がった。

「もう行く。またなんかあったら言ってくれ。」
「オーケィ、頼りにしてるよ。」


ひらひら、と背中越しに手を振るアキトに、蝶を追うのに飽きたらしいラピスが駆け寄り、並んで去っていく姿を見ながらアカツキは空を見上げた。


「ああ…」

太陽が暑い。
風が心地よい。
影の隙間をすり抜ける風が冷たい。


目を閉じて思う。
切に願う。









「…早く定時にならないかなあ」





End

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