第一章 最悪の再来 Gli_Eroi_Raggruppa_ad_Roma.


     1
 
 学園都市。
 日本の東京都の三分の一を占める巨大都市。人口にしておよそ二〇〇万人もの人間と、それだけの学生と教育機関を持つ街。この街の特徴はいくつかあるが、一番有名な事を挙げるとこうなる。
 世界最高の科学の街。
 それはつまり世界最高の科学技術を保有しているという事であり、ともすれば魔法にさえ例えられる程の物だ。世界で最も学生を抱えている都市であるとか、日本にあるにもかかわらず兵器まがいを製造している事といった事でさえ(かす)んでしまう。
 実際に例を挙げれば、今は値が張るが個人で飛行できる背中に背負う形の原動機付パラグライダーが市販で売られている事や、飛行機の速度が上がり世界中どこへでも九時間以内には着けるようになった事など、枚挙にいとまがない。
 しかし、それは学園都市の『外』での話。それ以外にある意味では世界最高の科学の街という評価を一番に作り上げている事柄が存在する。
 魔法という表現をしたが、それよりはるかにオカルトじみた話であり、しかもそれは公然と承認されている事である。

『学園都市は超能力開発を行っている。』

 超能力。それはオカルトでも迷信でもない。
 学園都市において超能力とは、量子力学を基礎に置く異能の力である。その超能力の開発は薬品や一定の刺激を脳に与える事でなされ、その原理は量子力学的な物理、ミクロな物理法則をマクロな物理に当てはめて、観測者たる超能力開発を受けた者がマクロな系でミクロな物理法則を観測する事である。
 簡単にまとめれば、科学の延長線上の事である。
 超能力にはさまざまな種類がある。電気を操る能力や精神感応(テレパス)はもちもん、油性の物質を操る能力や視覚を狂わせる能力など、多様な超能力がある。
 また超能力はオカルトを科学的に説明する強力な材料となる。話は簡単、今まで歴史上の中で起こった不可思議なできごとは偶然超能力を開花させた人間の手によるものとして説明がつくようになった、という事だ。世間ではそういう考え方が主流になりつつある。
 そうして最早人類にはオカルトが通用しなくなった、……それはあり得ない。
 オカルトは、まだここにある。
 
 
(ま、オカルトなんぞに関わる人間は、大抵ろくなヤツじゃないけど。)
 服のポケットに手を突っ込んでいる幼い男の子はそう結論付けた。
 その幼い男の子は旅客機の席でも一番多くの人が乗るであろうエコノミークラスの席にいる。韓国の仁川(インチョン)空港からイタリア・ローマのフィウミチーノ空港行きの便である。
 フィウミチーノ空港というのは、イタリア旅行用のパンフレットにレオナルド=ダ=ヴィンチ空港という名前で載っている空港である。地元の人を含めて、最近ではフィウミチーノ空港という名称が広まりつつある。
 そして、そんな事を五年程度しか生きていないにもかかわらず理解する、この幼い男の子の名前は上条当麻。彼は今、父親の上条刀夜(とうや)と母親の上条詩菜(しいな)と共にイタリアのローマやバチカンを初めとした場所の観光に行こうとしている最中である。少し前には『海賊どものスカーレット』という映画を前の座席についてある画面で家族三人同時に観ていたが、それも終わって一時ばかり思惟(しい)の海へ潜っていたところであった。
「当麻、疲れていないか?」
「うん、大丈夫。」
 隣の席にいる父、上条刀夜から飛行機酔いを心配する声をかけられ、彼は大きく頷く。同時に黒くウニのようなつんつん頭が大きく揺れた。
 上条刀夜は中年のおじさんといった風貌だが、特段太っているわけでもない。むしろ痩せ形で腕力のなさそうな印象を受け、顔立ちもダンディズム溢れるといったものではない、普通のおじさんである。
「辛くなったらちゃんと言いなさい。当麻さんは体が特別丈夫ってわけでもないんですからね。」
 上条刀夜とは反対である隣の席に座っている母、上条詩菜も彼を気遣った。
 上条詩菜は夫とは打って変わって特徴がある人物である。若作りではない天然の若さを持っている。幼いながらも一児の母とは到底思えないような美しい日本人女性である。栗色の長い髪は、それだけで世の男性達を虜にしてしまいそうだ。
「大丈夫だって。今日のために、ちゃんと体調管理してきたんだから。」
 彼は普通の子供より大人びた口調で返した。
(いや、あの呪術師(アホ)との戦いで疲れたのかってんなら、『はいそうです。』って答えるしかないか。)
 一瞬だけその目元をじっとりとさせるが、両親に気付かれる前に元に戻す。
 彼は彼と同姓同名の青年が経験したはずの、短時間であっさりと片付いた戦いを思い出す。
 その中で青年が負った唯一の負傷である、左肩の痛みをまるで感じているかのように気にしながらも、しかし彼はそれを口に出しては言わない。それは子供の想像力豊かなごっこ遊びと思われる可能性が高い。
 ただし、この事を喋れば彼は別の意味で心配されるだろう事も彼は理解している。
 彼は不幸である。他人から疫病神扱いされ、子供達から石を投げつけられ、大人がそれを注意するどころか彼を嫌悪の目で見続ける程に。
 ゆえに彼の両親は彼がどこかでいじめられたと解釈するだろう。だからこそ、彼はそれを恐れているからこそ、彼はいかなる悩みを両親には話していない。そして話せないのだ。
(それでいいんだ。オカルトを積極的に肯定したり、積極的に関わる方がおかしいんだもんな。それに今日は友達に会いに行くんだ、暗い事なんてなしだ、なし。)
 彼はそれで暗い思考を一旦打ち切って、遠くて近いバチカンとそこにいる友人に思いをはせる。
 それでも、落ち着きなく右手でポケットの中をいじる事だけはやめない。
 
     2
 
 早朝だというのに、既にカーテンが開き日の光が差し込んでいる部屋がある。その部屋は、かつては机に二つの椅子、鏡やベッド、それとクローゼットがあるだけの簡素な部屋であった。今は少女のための玩具箱や服をしまう箪笥(タンス)が部屋のところどころにあるようになっているが、それでもこの部屋は清潔で片付いた印象を与える。
 その部屋の主、ビットリオ=カゼラはこの日早く起きていた。少女と一緒に出掛けるためである。出掛ける理由は昨日の少女が脱走した事に起因する。
 彼はなぜ少女が自分に連絡せずに長期間抜け出したのか理由を考えて、今まであまり構ってやれなかった事が原因だと考えたからである。
(「私を愛するように、隣の人を愛しなさい。」
 その教えを、私は守れていなかったのかもしれない。だから、今日はこの子と一緒に居よう。外出しても良いのか悩みはしたが、この子も納得してくれた。)
 彼は未だ眠っている少女を見つめる。彼が座っている椅子の横にある自分のベッドで寝ている少女はすやすやと安らいでいる。その表情はどこか嬉しそうである。
 ちなみにベッドには二人一緒に寝ている。彼は異性にも、ましてや幼い少女にも性的興奮を伴わないからだ。あればその時点で少女とは引き離されていた。
 ともかく彼は昨日の内にイタリアまで出掛ける事を少女に話し、承諾も得ていた。
(共に居る事で誰かの愛を感じる事もあるならば、少なくとも共に出かける事は誰かを傷つけないだろう。)
 彼はそう思い、再び新約聖書を少女が起きない程度の声の大きさで音読する。
 そのまましばらくマルコの福音書の部分を音読して、自身の声以外に何も聞こえないかのような空間を楽しむ。そこには小鳥のさえずりの音もあったが、それを含めて無音に感じている。その無音は拒絶するようなつんざく無音ではない、風情(ふぜい)あるその空間の彩りである。
 そんなふうに楽しんでいると、少女の体が(まぶた)を半分開かせてむくりと起き上る。少女の上体を目の端で捉えた彼は、新約聖書を閉じる。
「おはよう、着替えはそこにあるからな。」
 彼はベッドのすぐ傍にある椅子を指差した。その上には簡素ながらも可愛らしい少女用の服が置いてある。
 少女は眠たそうに頷き、もそもそと動いて椅子の着替えを取る。
 彼は目を閉じて少女が着替え終わる時を待つ。共に居る事になった当初、彼は少女が着替える時は部屋を出ようとしたが、少女はどうしても彼と離れたくないらしく、結局このようになってしまっている。
 なお彼は既に男性用の黒いローマ正教式の修道服に着替えている。
(だからこそ、なぜ昨日は勝手に出て行った? リース主席枢機卿によれば、やはりバチカンからは出ていた所を保護されたそうだが。)
 彼は少女が着替える音を全く気にせずに考え込む。
 と、修道服を引っ張る者にようやく気付く。それは着替え終えた少女だった。
 少女の服装は赤を基調とした少女用のドレスと出会った時からいつも着ている十字架のぶら下がったブローチ付きの上着である。上着にはあまり目立たないが穴が開いており、どうやらもう一つブローチを使って前を留めていたらしい事が(うかが)える。ドレスには白いフリルがところどころに取り入れられ、より可愛らしさが上がっている。見とれる程ではなかったが、十分に見栄えがある。
「……よし、それではまず、お前の寝巻きを片付けようか。」
 彼はそれをどう評価すれば良いのか分からず、素っ気なさで隠して少女に服に対するしつけを促す。少女はまだ眠たそうにしていたが、おとなしく彼の言った通りに寝巻きを片付け始める。
 彼は彼で温もりの残るベッドの上を片付けるが、どうしても少女の可愛らしい姿へどう評価すれば良いのか分からずに悩み続けながら作業する。
 一〇分もしない内に片付けは終わり、二人は騒がずに部屋を出て朝食をとりに行く。
 
 
 二時間後。食事をとったとはいえ、早朝のバチカン広場にはあまり人がいない。肌寒さもあるが、やはりまだ寝ている者も多い。ただどこから小鳥のさえずりが聞こえてくるだけである。
 ちょうどバチカン宮殿からそのバチカン広場へ出たとき、ビットリオ=カゼラと少女は穏やかでありながら威厳を保っている主席枢機卿に出会う。
「やあ、おはよう。」
 マタイ=リースは右手を挙げながら朝の挨拶をした。マタイ=リースは昨夜彼らが出会ったときと同様の、あまり豪奢でない服装である。決して着替えていないというわけではなく、数を多く揃えてあるから同じ服装というだけである。
「おはようございます。」
 彼はただ返答し、最後に少女は手を挙げる事で挨拶する。彼からしても朝から変に着飾った服装を見て目を疲れさせたくないため、マタイ=リースの格好には好感を覚える。少女も少女で昨日遊んで貰えたからか人見知りにもかかわらず気後れは感じられない。
「今日はこれからどこかに出かけるのかな?」
「はい、少しばかりこの子に構ってやった方がよろしいかと思ったもので。遠出、という程でもありませんが、ローマ近郊を散策しようかと。」
「そうか、それは良い事だ。」
 天気の良い早朝によく似合う笑顔で、しかしマタイ=リースはその言葉に似合わず伏し目がちになって考え込んでしまう。
 当然、彼は心配しマタイ=リースに質問する。
「どうかなされましたか?」
「いや、実は頼みたい事があったのだ。だが、その子と出掛けるのでは……。」
 マタイ=リースは少女を見やり、そのまま口を閉ざす。
(そうか、マタイ=リース主席枢機卿は私を待っていたのか。)
 そう結論付けた彼は自然と言葉を出している。
「いえ、私にできる事でしたらお引き受けしましょう。幸い、今はまだ早朝です。すぐにとりかかれば十分に終わらせる事はできるはずです。」
 礼儀を忘れず、彼は申し出た。
 なぜマタイ=リースが彼の部屋に使いをやるなり、直接頼みに来るなりをしなかったのかという問題を思いつきもせずに。
 そしてマタイ=リースはマタイ=リースで自身からの頼みを聞いてくれるという申し出に首を振る。
「何を言う。事前に話も通さずに私の()(まま)でそんな事を了承するべきではない。何よりその子が不憫ではないか。」
 マタイ=リースは少女を気遣う。と、マタイ=リースは自身の服を下で何かが引っ張っている事に気付く。
 服を引っ張っていた正体、ビットリオ=カゼラが保護している少女は逆にマタイ=リースに笑いかけている。少女の手には昨日遊んでもらっていたカエルの人形が握られており、マタイ=リースが少女の方を向いたら即座にカエルの人形を見せるように上に突き出す。
 彼は少女の服を引っ張る行動をはしたない事だと思いつつも、簡単に少女の感じるところを察する。その思うところは正しいと思って、ゆえに少女の思いをマタイ=リースに代弁者として語る。
「マタイ=リース主席枢機卿、この子はもう神を信じる者なのです。誰かが困っている時に手を差し伸べられる、主の言葉を実践できる者です。
 あなたがお困りになられ、助けをお求めになられるならば、たとえいつ何時(なんどき)であろうとも、この子も、そして僭越(せんえつ)ながら私も、あなたを助けましょう。」
 彼は誠意を失わず、心のままに言葉を紡いだ。失礼ではあるし、そもそも少女が神の恩恵や主の愛を理解しているか分からない。
 それでも伝えたかった。
 伝えられたマタイ=リースは威厳もなく呆気にとられた様子を見せる。
 がしかし、すぐに白い髭を上下させ微笑し、礼を言う。
「ありがとう。私にそんな事を言ってくれる者など、とうにいなくなっていると思い違いをしていた。」
「な、なぜそうお考えに?」
 彼は思わず聞いてしまった。少女も、なんとなく話の内容を把握し、怪訝(けげん)な表情を見せる。
 返事はひどく簡単な事である。
「なに、私は主席枢機卿に選ばれてから、いやその前からも、力になると言ってきてくれた者達は数多くいた。しかしその者達はただ単に私の力、地位、勢力、権力、そういった物にあやかりたいから近づいてきたという者が大半だったのだ。
 そうでなくとも、私の立場のために、信仰と尊敬をはき違えて接してくる者も多い。我らはただ我らの父を信じ、主の教えを守れば良いというのに。」
 二十億人もの人々が集う組織の中で重要な地位にいる事。その辛さはビットリオ=カゼラや少女にはもちろん、他の信徒たちでさえ理解する事は難しい。
 その目にはそんな普段奥底に押し込められて誰にも見せられなかった物がある。
「だが、君達は違う。君達は自身の直感的な思いと、(まこと)に主の教えを守ろうとする気持ちで私を想ってくれた。
 ありがとう。」
 本当に真摯な言葉である。マタイ=リース主席枢機卿という、彼からすれば雲上人とも表現できるかのような人物に、彼はそう言われた。
 だからこそ彼は、その返事の言葉は、これしかないと思えるのだ。
「当然の事を、するまでです。」
 
     3
 
 そのころ、既に上条一家はイタリアのフィウミチーノ空港に着いていた。
 フィウミチーノ空港はバチカン市国から約二十キロメートル離れた場所にある空港で、五年の歳月を経て完成された空港である。その設備は年々大きくなってはいるが、印象としては完成当時の年代をうかがわせる。
 上条一家は割と(とどこおり)りなく入国審査を通り、荷物受取の場所へ来ていた。
 そこは早朝だというのにさまざまな人種の人間が行き()い、さまざまな言葉が飛び交っている。入国審査自体は混雑していなかったが、いくつか前の便から空港と飛行機の連絡がうまく繋がっていなかったために、荷物が受取の側まで届いていないようすである。
「いやあ、ここに来るのは久しぶりだな。この寒さ! 変わらない。マフラーを持ってきておいて良かった。」
「あらあら、刀夜さん的にはそこまで久しぶりだったかしら?」
「まあ以前ここに来た時は去年の五月だったから久しぶりではないか。しかし、いろいろと飛び回ると珍しくもなくなってきてしまって、記憶もぼやけてくるものさ。」
 上条刀夜は愛する妻の問いかけに笑って返答した。
 三人は今しがた乗ってきた旅客機を降りて、メインターミナルへ来たところである。といっても、彼らはもう次の行動に出ている。
「それじゃあ、荷物を取ってくる。母さん達はここで待っててくれ。」
 上条刀夜はそう言って、次々と、そして比較的丁寧に運び込まれる旅行客の荷物から、家族のキャリーバッグを取っていく。朝早くとも、フィウミチーノ空港は人で賑わっている事や意外とキャリーバッグに荷物を詰め込んでしまい重くなっている事から、中年にそろそろ差し掛かる年齢の男性としては骨の折れる作業である。
 その姿を少し遠くで見つめるその家族。
「あらあら、刀夜さんは大丈夫かしらね?」
「多分荷物に関しては大丈夫だと思う。お父さんより、すぐ隣の金髪のお姉さんの方が危なっかしいよ。」
 上条当麻と上条詩菜、二人は手を繋ぎ上条刀夜を待っている。これは人ごみの中で二人がはぐれないためである。
「あらあら、本当にあの女の人危なっかしいわ、バッグを一度に三つも抱えて、携帯もいじってて。……刀夜さんがちょっかい出さないかしら。」
 上条詩菜は上条当麻と手を繋いでいない左手をみしみしと軋ませて、若干声が低くなる。
 掴まれている上条当麻は少し顔を苦笑いにして、彼の父親を見つめる。
 見つめる先とは裏腹に、彼の頭では別の事を考えている。
(あの、旅客機が空港に降りている時に感じた違和感はなんだったんだろう? また何か不幸な事の前触れでないと嬉しいんだが。って、嬉しいってなんだよ。普通の事じゃないか。)
 彼は自身の考えから出てきた思考に辟易(へきえき)する。彼の不幸はそんなふうに日常の事にまで及んでおり、ともすれば五歳程度の年齢で自殺とてあり得ないわけではない。
「そういえば、当麻さんはお手洗いは大丈夫?」
 それを知らず、自然に上条詩菜は彼に話しかける。彼も同様に、考え事を悟られないように自然な口調で返す。
「うん。一応前もって飛行機の中で済ませているし、ホテルまでは大丈夫。」
 母親である上条詩菜の気持ちを鬱陶(うっとお)しく思うわけでもなく、彼は笑って答えた。自身の身にかかる不幸を両親のせいにして嫌える程器用な性分でもない。
 そうして二人が待っていると、上条刀夜の隣で荷物を受け取っていた女性がつまづき、上条刀夜の方へ倒れてしまう。
 上条刀夜はすかさずその女性を支える。
『おっと、大丈夫ですか?』
 片言とでも表現すればいいような、上条刀夜は流暢(りゅうちょう)とまではいかないイタリア標準語で金髪の美人を気遣う。元々海外で仕事をするため、イタリア語を堪能に喋る事はできる。
『えっと、どうもありがとう。これで合っているかしら?』
 金髪碧眼の女性は上条刀夜に助け起こされ、美しい笑顔で答えた。むしろこの女性の方がイタリア標準語に慣れていないようである。
『ええ、私も得意とは言えませんが、合っていると思いますよ。』
『よかったわ。あなたは、ここへはお仕事で?』
『いえ、家族と一緒です。うちの息子は旅行が好きみたいで。』
 笑いながら応答する上条刀夜。上条刀夜とて男性であり、西洋美女に気さくに話しかけられて嬉しいと感じるだけの余裕もコミュニケーション能力も持ち合わせている。
 そうして会話が弾みそうになるその時、不意に射抜かれたような感覚が上条刀夜を襲う。上条刀夜は恐怖という人間味に溢れた顔つきとは裏腹に、機械仕掛けのように単調に首を後方に回す。
 そこには愛しい妻がいる。
「あらあら、刀夜さんったら。……あとでちょっとお話しなくちゃねえ。」
 ――山姥(やまんば)が裸足で逃げ出すくらいの笑顔で。
 思わず、傍らの息子はそっと呟く。
「お母さん、笑顔が怖い。」
 これは離れた場所にいた金髪の女性も見えたため、女性は(いぶか)しげに語る。
『まあ、どうしたのかしらあの人。東洋人の顔は見分けつきにくいけど、どう見てもあの人怒っている上に、こっちをじっと見てきて。』
『は、ははははは! どうやら連れが首を長ーくして待っているようなのでこれで!』
『あ、ちょっと! 首を長く? どういう意味なのかしら? ……あら、やっぱりおかしいわね。携帯が繋がらない。電波障害かしら?』
 上条刀夜は文化の壁を忘れ、ただただ急いで二つのキャリーバッグを抱えて一直線に妻の下へ行く。周りの視線は考えていない。というより、考えるだけの余裕もコミュニケーション能力も持ち合わせていない。
 待っていた家族からすれば、それは上条刀夜が二つのキャリーバッグを持って戻ってくる光景である。
 二人の家族の前に急停止した上条刀夜は息を切らしながら弁明する。
「か、母さん、あの人とは別に何でもないん、だよ。ただ少し、よろけて、しまったみたいで、つい。」
「ええ、分かっているわ。刀夜さんって本当に昔から何も変わっていないわ。あらあら、本当に困った人。」
 上条詩菜は相変わらず鬼子母神(きしもじん)も裸足で逃げ出す笑みを浮かべ、左手でみしみしという音を掴み続ける。たまらず上条当麻は言う。
「いやお母さん、だからその顔怖いって。」
「そ、そうだぞ母さん。ほら、当麻の言う通り笑顔になって。ほら、スマイルスマイル!」
「あらあら、刀夜さん的にはこの顔は笑顔じゃないっていうのかしら。」
 上条詩菜はより一層顔のドスが決まってしまう。
 反比例するように上条刀夜の顔は情けない表情になる。
「そういう事じゃなくて、えっと、そうだ! これを持ってくれないかな?」
 冷や汗を体中から噴き出して、上条刀夜は場を紛らわせるためにキャリーバッグの一つを上条詩菜に示す。上条詩菜は一回だけ目を閉じてから普段通りの表情に変えて応じる。
「はいはい、わかりました。……後でまたお話ししましょうね。」
 そう言って上条詩菜は手を繋いでいない左手で荷物を受け取り、続いて上条当麻も自身の小さい荷物を背中に背負う。
 その後上条一家は何事もなく税関を通り過ぎ、ロビーへ到着。
 その、ロビーへ到着した時。

「あっ!」

 上条当麻の脳裏に電流が走った。
 しかし、遅かった。
 それは世界の破滅を連想させるに十分な影響を与える。
 突如として大きな破壊音と共に建物が大きく揺れ、次いで天井のそこかしこが崩れ落ちていく。
 彼はまず上を見上げる。一番に目に映った物が空港の天井だった瓦礫である。本来なら見えないはずの青空と太陽の光が彼の目を貫き、冷たい空気の追い討ちが来る。まるで爆撃機が爆弾を投下したかのようである。
 しかし、上条詩菜が彼に覆い(かぶ)さり、またさらにそこから上条刀夜が被さった事でそれらは感じなくなる。
 耳では建物が強制的に崩される崩壊音と、人々の多様な言語による悲鳴がくぐもって感じられる。
(――防護方法は種子(しゅじ)、キリークを阿弥陀仏如来(あみだぶつにょらい)のものとして使用、この場の全員の無事を最優先!)
 上条当麻は一瞬で判断した。
 まず服のポケットからくねっている字の書かれた小さな四十八個の木の球を、両親にばれないよう四方にばら()ける。ばら撒かれた木の球は不思議な事に三つ一組になるかのように転がって行く。
 それと同時に彼は右手の二本の指を立てて、またすぐに左手の人差し指を立てて右手でそれを覆うようにする。それから術式を発動するための詠唱に当たるものを小声で唱える。
「オン・アミリタ・テイゼイカラ・ウン!」
 その時、一人の少女の真上から、瓦礫が落ちる。美しい金髪をツーテールにまとめ、可愛らしくも艶やかな黒のゴシックロリータを着ているその少女は、咄嗟(とっさ)に避ける事もできず立ち尽くしている。
 少女の目には、そのまま大きくなってくる瓦礫の画像が浮かび――突如としてなくなる。少女の周りに透明な膜が半球状に現れ、瓦礫を受け止め破壊したのだ。
 透明な防護膜は少女以外の全ての人々にも現われ、そのまま落ちてくる瓦礫を受け止め、砕く。その時できた破片も他の防護膜に当たっては砕かれていき、最終的には人々の周りには瓦礫がなくなる。
(よし、戻れ。)
 彼はそう念じて梵字の書かれた木の球を再びポケットの中に瞬間的な移動をさせてしまい込んだ。同じく透明な防護膜は跡形もなく消えた。ただし、それを認識できた者は術者たる彼だけである。彼には防護膜が薄く光って見えるのだ。
 次に彼がとった行動は家族への問いかけである。
「父さん、母さん、大丈夫!?」
 心配そうに声を上げるが、これは演技混じりである。彼は自身の不可思議な術――魔術を信用し、信頼している。それはつまり両親を含めた全員が無事である事への確信に繋がる。
 それでも、彼は半分本当に心配して声をかけた。
「え、ええ私は大丈夫よ。当夜さんは大丈夫?」
「ああ、何とか。しかし、一体何が起きたんだ?」
 上条刀夜は被さるのをやめて家族に自身の無事を伝え、そして今の事について疑問を口にした。
 上条一家が周りを見回すと、同じく家族や同僚、友人らと無事を確かめ合い、喜ぶ声が多数の言語で交わされている事が分かる。
「それより、当麻さんも大丈夫?」
「うん、何ともないよ。」
「ああ、良かった。今度は当麻さんを守れたみたいね。」
 上条詩菜の顔が笑顔になる。二人の親はたった一人の息子のために覆う形で彼を庇った。それができなかったかつての事件のために、息子を無事に守れたという事実が何よりも嬉しいと思っている。
「あ、別に当麻さんが悪いわけじゃないの。私達が当麻さんを……。」
「いいって。分かってるから、さ。」
 彼は笑って答え、その言葉を続かせないようにした。
 上条刀夜と上条詩菜は天井が崩れて三秒も経っていない中で彼を庇おうとした。無我夢中であった事は間違いないが、それでも両親が本当の意味で自身を助けようとしてくれた事を、彼は理解できる。
(でもそれよりも、だ。)
 上条当麻はある種の解放感のある大きな穴の開いた天井を見上げる。快晴の見えるその穴からは、早朝という事や南とはいえ欧州の気候である事から、次々と容赦のない冷たい空気が風となって空港内に入って来ている。
(不幸な予感は的中、か。
 空港に降りた時はともかく、これの直前に俺が気付いた物はおそらく魔力だ。)
 上条当麻はそのオカルトの匂いしかしない物、すなわち魔力に覚えがある。それは彼が瞬時に種子を魔術として扱える程の魔術師である理由でもある。
 空港へ降りた時の違和感も魔術だと断定し、彼は情報を整理する。
(魔力の質からして北欧神話系の魔術、それも使徒十字(しとじゅうじ)の効果をぶち抜けるくらい、とても強力な霊装(れいそう)による攻撃だ。そんなのを操れる魔術師は、まあ少ないだろうと見積もれる。
 で、電波障害がここら辺であったと。これらの情報を総合して、ここに攻撃を仕掛けて利益のある者かつ俺の知っているヤツといえば――。)
 
 
「カミジョウ、トウマ。」
 フード付きの少しだけ灰色がかった黒の服。
 それがフィウミチーノ空港のすぐ上空に、六メートル程もある巨大な剣を持ち(たたず)んでいる。
 それはオカルトの領域の存在、魔術師である。
 この魔術師は自分の力で他人を振り回す事が好きだった。他人の寿命を勝手に伸ばしたり縮めたりしてきた。ペースト状にした人間の脳みそを原材料に、石灰を混ぜて練り込んでカバラの伝承にあるようなゴーレムのように新たな人間を作ろうともしていた。
 極めつけはこの星で最も危険な物の一つである魔道書(まどうしょ)原典(げんてん)に着目し、その再構築能力の高さを防御機構、すなわち原典アーマーとして使えないかとも考え、それの研究に向けてまとめていたりしていた。
 魔術の腕はあまり良い筋を持っていなかったが、魔術という学問を専攻する魔術師としてならば一流ではあった。そして自身の筋が良くない事も理解していたために、どうにかそれを克服したり補ったりする努力も惜しまなかった。
 しかし、それらは全て消し去られた過去である。
「ド、こだ。こロshiテ、yaル、ゾ。(kami)、ジョう。」
 歪んだ黒い服は両目で大きく広がる世界を収め、しかし照準を空港のみに定める。そこにある標的を感じながら、上空から空港へとゆっくりと降りていく。
 この魔術師の悪事はある一人の同業者によって全て(つい)えた。魔術師世界の用語で表せば、対立職業(ジョブカウンター)という単語で表現されるような同業者だった。
 きっかけはペースト状にする前の材料、つまり人間の脳みその調達だった。まず墓を荒らして人間の死体から脳みそを取り出し材料としていた。しかし魂を宿した新たなる人間という、この魔術師が持っていた予想や構想としてはうまく合致しなかった。
 ならばと思って生きている人間を手に入れようとした。もちろん、材料がどうなろうがこの魔術師はどうでもよかった。自身を悪魔のようだと魔術師自身も考えたが、ゆえに愉悦に浸れると結論付けた。
 自身の行いで悲しみ苦しむ者がいる方が、この魔術師には喜びと楽しみになった。
 だから、止められた。
「カミじょう、かmiジョー、カみjoウ、カミじョう、kaみジょー、上条――」
 一瞬だけ震えたように形を変えた巨大な剣とその持ち主はターミナルの上へと降り立ち、両目で虚空を見つめる。
 悪事を止められたこの魔術師は、自分を邪魔してきた者を追いかけ始めた。自身が研究していた事は二の次になり、一度は邪魔してきた者を殺すために本物の原典アーマー、いやそれさえ超えた物を一晩で完成させたが、結局は無意味であった。
 だんだんとこの魔術師はおかしくなった。
 ただただこの魔術師の生き甲斐を邪魔してきた同業の者を殺すためだけに生きるようになった。
 財産の隠し場所も魔草の栽培場も全て破棄する程に他の何物(なにもの)もどうでもよくなり、せいぜい邪魔をしてきた者を殺すために利用できそうなら少しは興味を持つようになる程度である。そこまで狂っても足りず、残していた幻覚植物(ベラドンナ)に身を染めて精神の破滅と引き換えに自身を強化してまで邪魔をしてきた者を追い続けている。
 そして今、この魔術師はまた、邪魔してきた者を殺そうと周りの被害を(かえり)みず攻撃している。
「上条、当麻ぁあああああ!!!」
 狂った人間(魔術師)はほんのりと光る巨大な剣を振り下ろし、咆哮(ほうこう)と轟音で狂った協奏を(かな)でた。まるで、眼下に広がる世界を魔術というオカルトで満たすために。
 この魔術師の名は『Orlentz Trice』。
 日本語の片仮名で書くならば。
 オーレンツ=トライス、となる。
 
     4
 
 魔術。古来よりあるもの。才能のない者達が、それでも奇跡を操りたいと願い編み出した秘技である。
 それは学園都市で行われている超能力開発とは一線を画す。
 まず、魔術は毒である。超能力はひとまず置いておくとして、科学そのものや科学の技術で作られた製品は元々この世界にある物理法則や性質による部分をうまく利用している物ばかりだ。
 対して魔術は異界や魔界、別次元と呼ばれるこことは違う場所の法則や性質を無理矢理にこの世界で再現して行われる。この世界に無理を行わせるのだから当然良い影響は出ず、術者に対し過度な負荷となる。ゆえに毒なのである。
 また魔術は学問である。占いという魔術ならば、かつては国家の安定した基盤を作ったり、国家の行く末を予見するために役立てられた。そしてそれは学問として学ばれた知識であった。
 具体的にはオカルト的な力の流れを読み、災厄を避けるならばどこが良いのかを理解する事や、天体の位置からオカルト的な意味を抽出して対処法を導き出す事が国家基盤作りに役立てられた占いの役割である。
 占いで行われていた事を現代で例えるならば、その土地の基盤が固いか柔らかいか、地震が起こりやすいかどうか、そういった事柄を地質学的に調査し、どこならば建てたい建物に合う地盤や地質なのかを探す事、さらには気候風土を観測して災害に対する対策を練る事に似ている。
 魔術は手順を一つでも間違えば台無しになる。間違いを起こさずに行うために、魔術は学びから入る。
 それに加えて魔術は往々にして神話や宗教の伝説、土地に伝わる寓話(ぐうわ)を模倣したものが多い。それらによる知識的防御が備わっていないと魔術は扱えない。それは毒に対する耐性を付ける事と同義である。
 使えるようになるためにも知識がいる、実際使う事にも知識がいる。魔術が技術であると同時に学問である事の所以(ゆえん)である。
 魔術の仕組み自体は簡単である。人間の生命力(マナ)や、地球を流れ世界を満たしているオカルト的な力の流れから、使いたい魔術に合わせた魔力に代表される扱いやすいオカルト的な力を生成、正確にオカルト的な力の使う手順を踏んで魔術を行使する。これが一連の流れとなる。
 そうして使われる魔術の中には強力無比といって良いだけの効果を持つ魔術も多く存在している。
 しかし、魔術は古い物になった。学園都市を筆頭とする科学の台頭である。
 魔術も科学という人間が新たに手に入れられた強大な力の前には過去のものになった。
 いや、なった筈であった。
 そう、実際には未だ魔術はこの世界に存続している。
 科学という新しい叡智を手に入れても、超能力という新しい異能の力が現れても、それでも世界は魔術を使う。
 電気を手にした人類が、それでも火を使う事と同じである。魔術はそれだけ、使える道具なのだ。
 
 
「母さん、当麻、早く逃げるぞ!」
 再び天井の崩落による轟音が巻き起こり、上条刀夜は息子を抱きかかえるという発想もできずに、二人の家族の手を強引に引っ張り走り出す。
「ああ、待って刀夜さん!」
 上条詩菜は慌てて上条刀夜の走る速さに合わせ、上条当麻の左腕を掴む。
 途端に上条当麻は両腕が使えなくなる。しかも大人二人が走っているため、両足も自由にならない状態である。
 彼はそれをむしろ幸いと思っている。いずれ敵と出会い戦闘になるとしても、両親に対し自分の行いがばれないようにするために必要だと考えたからである。
 そして、彼は既にフィウミチーノ空港内の人間の安全確保を先の魔術、キリークの術式と言葉の力で行っている。ゆえに両手が使えず両足が動かされ続けている事はそれだけ彼の正体を隠す効果が期待される。
 阿弥陀仏如来としてのキリークの術式、その本質は他力本願。
 他力本願とは、仏教では一般に阿弥陀仏如来という他の存在の力が、本願として願った事による民衆の死後の成仏、および極楽浄土へ行く事を指す。この場合他力とは本来は阿弥陀仏如来しか指さない。それゆえに他力本願を他人の力を頼りにするという意味として使う事は厳密には誤用である。
 しかし、その誤用は今の日本において本来の意味で使われるよりも深く浸透している。彼はここに目をつけた。
 ここでもう一つ、言葉とはそれだけで力を持つという考え方がある。込めた思いによって発した言葉の力を発揮するような、そんな異能もあり得るという事である。
 ならば。自分ではない、何であっても構わないから誰かに助けてほしいと他力本願に願い、その誤った意味合いから強引に本来の他力本願の他力に位置する阿弥陀仏如来の力を疑似的に呼び、この世の中で誰かを助ける事もできると、彼は考えた。
 ここでいう『何でも』とは、それがユダヤ教、十字教、イスラム教の神でも良いし、両親や兄弟のような親しい者でも構わない。重要な点は自身でない何かに助けて欲しいと願う事である。
 よってこの術式は助かりたいという願いを術者ではなく守るべき対象が思わなければならない。それは利点として、術者がその場の状況を完全に把握していなくとも大衆を守る事が可能であるという事になる。
 地域毎に魔術の効きやすさのような物はあるが、異なる宗教が支配する異国の地であっても術者たる彼が魔術の方向を決めてしまえば良いだけである。
 また十字教の考えである三位一体に繋がるように三つ一組で術式を発動させた事も大きい。結果として仏教の色合いが薄れ、わずかながらこのローマの地に馴染んでいる。
 勿論、異なる考えの術式を組み合わせて行使する事の困難を乗り越えていなければならない。それでも複数の誰かを守り助ける事に関して、この魔術はとても適切である。
 そして実際、この魔術はうまくいっている。先程の半球状の透明な防護膜がそれであるし、今も道行く人々の中で運悪く頭上から瓦礫が落ちてきた者は、透明な半球状の防護膜がまた張られてその身を無事に保っている。
(マリア関係の処理は面倒だし、少しだけ変な感覚があるが、うまくいってる。これなら、人的被害は一次災害では出なさそうだ。)
 両親が走る速さに疲れを感じてくる中、彼は内心得意げになる。
 実はこのキリークの魔術、十字教においても極めて特殊な奇跡の再現に影響されてしまう部分もある。
 それは聖母マリアに対する人々の祈りである。
 なんともありがたい(そしてこの場合は少々困る)事に、聖母マリアに祈りを捧げさえすれば魔術を知らない者でも無意識に発動してしまうという奇跡の術式である。
 そして問題は種子と言葉の術式と聖母マリアに対する祈りの術式が競合してしまい、どちらも働くなる可能性がある事だ。
 そのため彼は聖母マリアに対する祈りの術式を阻害するのではなく、あえて促進させる向きを与え両方をうまく調節する事でキリークの術式との相乗効果を狙っている。そうすれば万が一にも対処可能となるからである。
 そして移動中にもそんな調整をして現状を逃げ回っているのだ。上条当麻という魔術師はこの魔術だけ見れば一流である。
 そんなふうに人々を見回していると、逃げ惑う人々の中で、彼は前方に一人の若い女性が瓦礫の危機にさらされている光景を見る。
 天井が崩れ、瓦礫となったコンクリートと鉄骨の塊が、女性の頭上に出現した光景である。女性の顔はちょっと厚ぼったいような化粧が浮かんでいて、汗や涙で変に消えている部分がある。素顔で中の上以上だとは主張していないような顔立ちの女性である。
 それは本来だったら種子と言葉、そして聖母マリアによる術式で助かっていたかもしれない。
 だが、そうはならない。
 その女性に、心配を隠さずに老年の女性が駆け寄っていく。女性の肉親か何かなのだろう、それは必死に走り寄って行く。
(……え?)
 彼は老年の女性が防護膜に阻まれる光景に少しだけ呆然とする。
 同時に、瓦礫が防護膜に落ちて砕け四方に飛ぶ。
 当然、防護膜の近くにいた老年の女性にもそれは及ぶ。
 次の瞬間。
 グシャ、と。
 気持ちの悪い、汁が多く骨付きの肉が叩き割れた音がまき散らされ、彼の耳に入る。
 頭が赤黒く、生臭くなっていく老年の女性。老年の女性はそのまま倒れ、とろみのある赤が溢れる。
 彼はそれを後方から見る。
 砕けた瓦礫がごろごろと床に落ちて転がる中、若い女性の周りに遭った透明な防護膜がなくなり、若い女性は老年の女性を見つめる。
「……あ。」
 彼はまだ幼い。未だに小学校にすら通っていない年齢である。
 誰か他に大切な人がいればその人の無事を願い、自身の無事を願わない人間が数多くいる事にも気付いていなかった事さえ分からない。
 ゆえにその魔術師としての経験のなさは、致命的な失敗を呼んだ。
「あああああああっ!!!」
 若い女性は叫びながらすぐに駆け寄って老年の女性の体を激しくゆする。それが正しい処置なのか他にやるべき事があるのか、若い女性にはその判断もつかない。
「ねえ、お母さん、お母さん! しっかりして!!」
 悲痛な女性の声が日本語で響き渡るも、未だに魔術師の攻撃音とそれから逃げ惑う人々の悲鳴や物音でかき消される。
(ちくしょう! まだ俺は甘かったんだ! ちくしょう!!)
 彼は助けようにも両親が彼の両腕を掴んで離さず、また走っているためにどうしようもない。自分のせいで傷を負った人さえ救う事もできない。
 (あらが)っても抗ってもどうしようもない状況。彼は深い自責の念に駆られる。
 それはそのまま絶望となって、彼の心に重くのしかかる。
(……なんてあってたまるかよ!!)
 しかし絶望は簡単に跳ね除けた。悲観にくれるくらいならば、どうやったらあの老年の女性を助けられるのかを思案して行動する。それが上条当麻だ。
 決意した彼は突然足を止めようとする。それは何とも不格好な事に、勢いを殺せずそのまま前のめりに倒れる形となる。上条刀夜と上条詩菜は何事かと彼に向かって振り返る。
「当麻、どうした!?」
「当麻さん、大丈夫!?」
 二人は言い、上条詩菜はかがんで彼を抱きかかえようとする。
「待って。あっちに助けが必要な人がいる。助けなきゃ。」
 彼は後方にいる若い女性と老年の女性を指差す。上条夫妻はその先を見ようとするが、それよりも先に誰かが彼の腕を蹴る。
「っ()!」
「邪魔だ、小僧!」
 大柄な男、というより青年は蹴った事を謝りもせず、そのまま人ごみに紛れて消える。
「! あの男、危ないじゃないか!」
「刀夜さん、それよりも早く逃げましょう! ここに居れば逃げる人も私達も危険だわ!」
 上条刀夜の激昂を上条詩菜は諌め、次いで大事な息子を再度抱きかかえようとする。
 しかし、再び彼は上条詩菜の腕を拒む。
「やだ、あの人達を助けに行くんだ!」
 彼はそう言って助けるべき老年の女性の下へ向かおうとする。
 しかし上条刀夜は彼の腹を両腕で捕まえてやめさせる。
「お父さん、どうして止めるの!?」
「お前が心配だからに決まっているだろう!!」
 上条刀夜は強く言い放った。
 彼はその真剣な父の顔を見て言葉が続かなかった。上条刀夜は彼に対し両腕の拘束を解いて、今度は強いながらも優しく穏やかに伝える。
「いいか、当麻。お前は私達の息子なんだ。大切な人なんだ。その大切な息子をわざわざ危険に晒したいと思えるような親がいるはずがない。」
「それは、そうだろうけど。でも!」
 彼は納得できない。上条刀夜もそれを分かっている。
 だから、提案する。
「ああ、だから私が行く。母さんは当麻を連れて早く安全な所へ。」
「刀夜さん!? だめよ、それじゃ刀夜さんが危なくなるわ!」
 上条詩菜は上条刀夜にそう訴えるが、本人は上条詩菜と同じ目線に座り、面と面を向ける。
「私はちゃんと母さん達のところに戻ってくる。大丈夫さ。」
 自身の妻の肩を抱いて上条刀夜は力強く頷き、すっと立ち上がってそのまま老年の女性の方へ駆けた。
「お父さん!」
「……当麻さん、あなたはこっち!」
 幼い彼は手を伸ばすが、今度こそ上条詩菜に抱きかかえられて空港の奥に消える。
 
     5
 
 上条刀夜は老年の女性らに駆け寄ると、まず一声する。
「大丈夫ですか!」
 若い女性はその日本語で振り向き、同じ日本人だと分かると声を荒げてすがりつく。
「お願い、お願いです! 母を、母を助けて下さい!」
「落ち着いて! まずはあなたのお母さんを安全な場所に運びましょう! さ、手伝って。」
 上条刀夜は老年の女性の傷口を見る。頭蓋骨が見えるかとも考えたが、そんな事はなく、また陥没しているようには見えない。老年の女性は頭の左に傷を負っており、意識がない事は明白である。
 上条刀夜はすがりつく若い女性をなだめ、老年の女性を背中に乗せるようその女性の娘に指示する。老年の女性を運ばなければ、娘の女性もついてこないと判断したからである。
 そのままでは危ないため、老年の女性を持ってきていた長めのマフラーで背負う形を固定する。
 上条刀夜と若い女性は老年の女性を運び、セメントの砂塵を舞わせて端の方へ移動する。その間もどくどくと血の赤が(したた)り少々服がパンクになってしまうが、上条刀夜はそれを気にしない。
 人々は三人を気にすることもできずに逃げ、離れていく。
 代わりに、恐ろしい破壊の足音が彼らに近づいていくのみ。
 それを知覚できない三人は、上条刀夜が爆弾も置いてなさそうな一画の壁側に寄った場所にひとまず落ち着く。
「ここでいいでしょう。ここまで大々的に爆破しておいて、今更壁際(かべぎわ)を壊す必要はない筈。」
 普通のテロリストの犯行だという前提でそう結論付けて、上条刀夜と若い女性はマフラーを解いてその場に老年の女性を横たえる。上条刀夜は応急処置を行うならば最初に老年の女性の頭を高いところに置いてやらねばならないと判断する。
「清潔なタオルのようなものはありますか? 即席で枕作って、頭に当てがって血の流れをある程度防ぎます。」
「は、はい。」
 上条刀夜はその間、冷静に老年の女性の頭にある傷をハンカチの上から圧迫して止血に努めている。ただし、感染症を気にしていられるほど余裕がないため、ビニール袋をつけていない状態である。
 対して若い女性は慌てながらも持っていたバッグの中から薄く白いタオルを取り出す。
「タオルをバッグに巻いて、頭の当たる位置はなるべく安定するようにしてください。」
 上条刀夜の指示を聞き、若い女性はバッグにタオルを巻きつけて老年の女性の頭にあてがう。その間も老年の女性からは赤い命の水が流れ出ていく。
「すみません、どこか血の流れている部分の根本を圧迫してくれませんか? 例えば、耳横とか。どうにも止血がうまくいかない。
 もしかすると、静脈と動脈二つが傷ついているのかもしれません。」
「分かりました。えっと、ここを圧迫すれば?」
「ええ、そこらへんで合っていると思います。」
 若い女性は確認してから、母親の耳の横を圧迫し始めた。多少顔色を悪くしていても、若い女性は懸命に圧迫し続ける。上条刀夜も無言で圧迫を続ける。
 少しずつ、老年の女性の出血が止まっていく。動脈を圧迫している事で血の流れが滞っているためである。
 それを理解した上条刀夜は沈黙を破る。
「このまま止まってくれれば、私の荷物にある包帯を使ってその状態を固定しましょう。こういった経験はあまりないが、救急車がすぐに来てくれるとも思えません。」
「荷物、ですか?」
「はい。キャリーバッグ……あっ!」
 そこで上条刀夜は自身がキャリーバッグを置いて逃げてきた事を思い出した。逃げる時は荷物の事より家族と一緒に逃げる事しか頭になく、とても持ってきている状態ではなかった。
「すみません、包帯が今手元にない。ストッキングなどは?」
「いえ、私も逃げるのに夢中でしたから。」
 申し訳なさそうに若い女性が答えた。
 このままでは止血をしても老年の女性を運べない。かといってここで老年の女性を放っておいて逃げる事もできない。もちろん周りで混乱している数名の人間達は論外。八方塞がりである。
 ならば、方法は一つだけ。
(私が自分のキャリーバッグから包帯を取りに行くしかない、が。それだとあの危険な場所へ戻らねばならないし、この人ごみを逆走する事になる。)
 上条刀夜は先程逃げてきた肌寒い空気が支配するロビーの方を見る。そちらに戻れば、包帯や緊急救命の道具は一通りある。今から取りに行けばこの老年の女性は助かるかもしれない。
 だが、と上条刀夜は葛藤する。
(ちゃんと戻ると約束したんだ、これ以上の危険は冒せない。でも……。)
 上条刀夜はいまだ完全に出血の止まっていない老年の女性をじっと見つめる。そろそろ止血は終わっても良い頃合いだというのに、少しだけ血が出てきている。
 自身の腕が痺れを訴える中、上条刀夜は再び考える。
(当麻は、助けなきゃと言った。こんな状況の中、そう思った。
 過去にあんなに苦しい思いをして、不幸な目に遭い続けてきて、それでも誰かを助けたいと言ったんだ。)
 上条刀夜は思い出す。
 それは決して思い出にならない、思い出したくもない上条当麻への理不尽の数々。
 目に石をぶつけられ、一時は息子が失明することを覚悟しなければならなかった。無免許運転による交通事故で自身や妻が助かり、息子だけが重傷を負った。保育園で、息子が子供からだけでなく大人からもいじめられて塞ぎ込まされていた。
 人として、大人として、何より親として許せないような仕打ちばかりだった。
(でも、当麻は助けなきゃと思った。そう思えた。)
 上条当麻はそれでも、誰かに手を差し伸べようとできる人間に育っているという事の証である。
 いつの間にか混乱した声や破壊音が聞こえなくなっている。
 その静寂の中で、考えて、考慮して、熟考して、決める。
(私は当麻の父親だ。父親なら、父親らしく、誰かに手を差し伸べる事を教えてやらなきゃな。)
 と、若い女性が上条刀夜に声をかける。
「どうか、しましたか?」
「いや、決心をしただけです。私はこれから包帯を取りにロビーへ戻ります。」
「え、いや、待ってください! そんな事をして貰うわけには!」
 若い女性は顔を少し突き出して止めようとするも、上条刀夜は首を振る。
「私も父親ですから。息子の頼みくらいはこなせます。」
 上条刀夜の決意は固い。

『ムス、こ?』

 そこに。
 誘われたようにゆらりと黒い何かが現れた。
 二人は驚き、黒い何かの方に顔を向ける。
「だ、誰!?」
 若い女性が言った。誰なのか、そんな事を尋ねても意味がない事にすら気付けない。
 現れたそれは異質だ。
 それは全身をフードつきの灰色がかった黒の服で固め、かすかに光る巨大な剣を持っている。また、時折全身をうねらせる。まるで、日常から来た者達との違いをはっきりと表すかのように。
 黒いフードの人はぎょろりとした目で三人を見定める。片方の目がぐるぐると動き、もう片方の目が三人のうち誰かをじいっと舐め回すように観察する。
(イna)イ。』
 黒いフードの人は日本語でも英語でも、イタリア語でもないどこかの言語で言い放つ。
 上条刀夜は仕事上の経験からなんとなく欧州の言語だと理解する。状況ゆえにたどたどしさの抜けないイタリア標準語で話しかける。
『えっと、すまないがイタリア語か英語で話してくれな――』
 と、上条刀夜は炎上する。
(……え?)
 そう、何の前触れもなく。
 上条刀夜は焼かれる。
「ぐ、あ、あああああああ!?」
「あ、ああ!!」
 若い女性の悲鳴が人のいなくなった空港に伝搬(でんぱん)する。
 黒いフードの人に動作はなかった。
 上条刀夜は止血していた両手を老年の女性から離し、体をのた打ち回らせる。上条刀夜の全身を炎が舐め尽くし、なお蹂躙(じゅうりん)する。上条刀夜がどれだけその身を転がせても炎熱が消える気配すらない。服が皮膚と癒着(ゆちゃく)する事は確実である。
 謎の守護も発動さえしなかった。それでも半ば無意識に老年の女性から離れ、火傷を負わせないようにした心意義は立派である。
 しかし。
 それがこの状況を打破する事はない。
 黒いフードの人は口の内部まで焼かれている上条刀夜にはなんの関心も示さず、親子の女性達にさえ視線を向けない。
「い、いや! やめて、来ないでぇ!!」
 拒絶の声。若い女性は己の感情で体ががくがくと揺れながらも、母親である老年の女性の頭に手を当てる事だけはやめない。
 黒いフードの人は、それをなんとも思わない。黒いフードの人からすれば女性達も上条刀夜も、空港にいる人間はただ一人を除いて物としてしか認識していない。
 だから、人間がいくら悲痛に(わめ)こうが、黒いフードの人の脳は意識しない。
 黒いフードの人にとって障害物はどうでもよく、巨大な剣を振り上げて天井を破壊するつもりでいる。たとえ、そのために目の前にいる二人の東洋人が死のうが関係ない。
「お母さん、ねえお母さん! 目を覚まして!! 私嫌だよ!! 今年の誕生日プレゼント、まだあげられてないのに!!」
 黒いフードの人が剣を扱う。簡単に、持ち上がった剣を振り下ろすだけ。
 惨劇は止められない。
 ただの一般人が国を蹂躙する破壊を簡単に敗れる程、世界は優しくない。
「誰か、助けて!」
 祈っても通じない。上条刀夜が焼かれた時点で、あの謎の守護が効かない事は明らかである。
「母さんを、助けてよぉ!!」
 その言葉は無情に切り裂かれる。

「了解。」

 そう、別の言葉で。
 突然、誰かが空気を割るように黒いフードの人と女性達の間に割って入った。
 同時に、巨大な剣はその乱入者の左手で阻まれた。
「あんたにけがはないな。そっちのご老体は……止血されてるな。」
 片手間で空港を半壊させた剣を止めつつ、乱入者は杯の描かれたカードを取り出して上条刀夜に向ける。するとカードから大きな球体上の水が勢いよく噴射され、上条刀夜を焼いていた火、それを全て鎮火する。
 乱入者は東洋人である。黒くウニのようにとがっている髪と、全身を黒いパーカーと青いズボンという出で立ちの青年である。背格好は百七〇センチメートル前後で、太ってはいない。
『上条当麻。』
 黒いフードの人が口を開いた。
『く、ヒア、げけコ、aひゃは、はhahahahahahaははハ!!』
 黒いフードの人は止められていた剣をぐにゃりと変化させる。とっさに乱入者が巨大な剣から手を放す。瞬間的に剣を止めていた乱入者の指と指との間に何かが張り直され、そして消える。
 黒いフードの人は自由になった巨大な剣を振り上げて、もう一度振り下ろす。その速度は大気どころか空間が切り裂かれるかのように速い。
 しかし、呼応させるように乱入者は()()を引き抜く。何かは簡単に剣をはじき、その余波で剣が黒いフードの人もろとも吹っ飛ぶ。風でコンクリートが砕けたセメントの粉が盛大に散り、その周辺だけが綺麗に取り除かれる。
 乱入者が引き抜いた物、それは棍棒(こんぼう)だった。何もないはずの空間から、先端に八つの突起がある異常なまでに巨大な棍棒を取り出して黒いフードの人を飛ばしたのだ。
 唖然とするしかない若い女性を思考的に取り残して、乱入者は語る。
『ったく、フレイの剣だな? そりゃヴァン神族の具体的で明確な身長は説明されていないし、アース神族と(しも)の巨人族が結婚する事例もある。何より霜の巨人族と兄弟みたいなもんだから巨体であると考えても良いだろうけれど、()の部分だけ大きく作ってもしょうがないだろうに。』
 日本語ではなく、黒いフードの人と同じ言語のため女性には理解できなかったが、呆れている事を微塵も隠していない事は理解できる。
 それをどう思ったのか、床に這いつくばる形となった黒いフードの人は笑いの表情をさらに歪ませる。
「あ、ああ。」
「ん? ああ、安心しろ。すぐに傷を治す。」
 恐れともつかない表情で何か言っていた若い女性に乱入者はそう確約して、器用にも棍棒を殴る方で持って三人へ振る。
 それで何事もなかったかのように二人のけがは治っていく。老年の女性は傷口が癒え、上条刀夜は全身や口の中に負っていた火傷や服の癒着が後も残らず消える。
 これが、これこそが魔術。
「そんじゃ、あんた達を今から逃がすぞ。そっちの男の人はもうすぐ目が覚めるだろうけれど、ご老体はまだ体力が回復していないから安静にしてやってくれ。」
「あ、あなたは?」
 若い女性は震えも収まっており、いくらか落ち着いた声で尋ねた。
「俺? 俺はこいつを止めるだけ。分かりやすいだろ?」
 乱入者は普段通りと思わせる態度で一方的な話を切り上げ、そして唱える。
「この者達にヤハウェの奇跡を!」
 途端に、すうっと一般人の三人は消えていく。
 乱入者はそれを見届けた後、八つの突起がある巨大な棍棒を柄に握り直して黒いフードの人に接近する。対する黒いフードの人もすでに起き上がっており、同じく巨大な剣を前にして乱入者に突進する。
 二人の人外と人外が交差する、その時。
『慈悲ある聖母はその安住の場所に奇跡を残し、世界を見守る!』
 乱入者は鋭く詠唱し、続いて乱入者と黒いフードの人はいきなり現れた木造りの家に覆われる。
 次の瞬間に家が歪みながらその場からなくなる時には、人外達はその場から消えていた。



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