<注意>

このお話は、拙作「ある兄妹の乱入」を、少なくとも序盤はご覧いただいている、
という前提で書いております。
なるべく、こちらだけでもおわかりいただけるように書きたいとは思っていますが、
一部、このお話だけではわからない箇所などが出てくる可能性がございます。

これをご了承の上、それでも構わないという方は、↓へどうぞ。

 

 

 

 

 

 

 

 

魔 法先生ネギま!

〜ある”姉”妹の乱入〜

1時間目 「ある兄妹改め、ある”姉”妹」

 

 

 

 

 

 

事故により、”麻帆良学園”のある世界へ飛ばされてしまった御門兄妹。
真っ先に出会ったエヴァに連れられ、ある場所へと連れて行かれる最中だった。

途中、若干10歳にて教師だというネギ少年にも出会い、
ついでだということで、彼も同行することになった。

「ジジイ、入るぞ」

エヴァがそう言って無造作にドアを開け、入って行った先の部屋。
廊下には『学園長室』との表示が出ていた。

「こいつらがそうだ」
「うむ」

「・・・・・・」

部屋の奥、執務机について、エヴァの言葉に頷く白髪の老人。
頭の後部が妙に細長い格好をしていて、人間なのか、という疑問を抱かざるを得ないほどだ。
現に、御門兄妹も固まっている。

「はじめまして、じゃな」

かの老人が、兄妹に向かって話しかける。

「わしはこの学園の学園長、近衛近右衛門という者じゃ。君たちは何者かな?
 何の目的があって、この麻帆良にやってきたのじゃ?」

「すべて推測に過ぎませんが・・・」

近右衛門の問いに、環はそう前置きしてから、
自分たち兄妹の身に起きた出来事を、かいつまんで説明した。

「ふぅむ、なるほどのう・・・」

話を静かに聞いていた近右衛門。
彼ほどの人物でも、思わず唸ってしまうほどの事件であるが、実際、目の前で起こったのだ。
信じないわけにはいくまい。

「君たちは退魔士か?」
「はい」

兄妹の服装は、俗に”式服”と呼ばれる和装だ。
そこから察した近右衛門が尋ね、頷く。

「腕にも、それなりに自信があります」
「ふむ、そうか」

この言葉に、近右衛門はさらに考え込んで。

「して、君たちは行く当てがあるのかね?」
「あるわけないですよ。ついでに言えば、ほとんど無一文です」
「突然、異世界に飛ばされてしまったわけですからね」
「ふむ・・・」

勇磨と環からの返答を聞いて、また考え込み。

「じゃったら君たち、この麻帆良学園に通わんか?」
「はい?」

唐突な提案をする。
御門兄妹の目は丸くなり、黙って話を聞いていたエヴァも、驚いて目を見開いた。

「実はな。中等部にわしの孫娘がおってな。”木乃香”というんじゃが、木乃香の護衛をしてもらいたいのじゃ」

端的にまとめると、近右衛門は魔法協会の理事を務めていて、
魔法界には色々とあるらしい。
すでに他の護衛も付いているらしいが、それを承知の上で、頼まれてくれないか、とのことだ。

「引き受けてもらえるのなら、衣食住は、このわしが保証しよう」
「・・・選択の余地は無いようですね」
「おお、引き受けてくれるか! いやよかった」

この申し出を断ったら、文無しの自分たちは、即座に路頭に迷ってしまう。
第一、こちらの世界では、戸籍も何も無いので、まともな生活は出来そうも無いのだ。
引き受けざるを得なかった。

「では君たちには、木乃香と同じクラスに編入してもらおうかの。
 その他の面倒な手続きも、わしのほうでやっておこう。ネギ君、編入生じゃ。よろしく頼む」
「あ、はい、わかりました」

話はトントン拍子に進む。
勇磨と環が、話を挟む隙は無い。

だが、さすがに・・・

「女子中等部の3−Aじゃ。さっそく明日から通えるぞい。
 住まいは寮があるから、その寮を使ってくれい。
 女子寮じゃが、ちょうど2人部屋が空いておるはずじゃ」

「ああ、はい。・・・・・・って、えっ・・・?」

この単語には、突っ込まないといけない。

「”女子”中等部・・・?」
「うむ」
「”女子”寮? そう仰いましたか?」
「言うたが?」
「・・・・・・」

確認する勇磨。
どうやら聞き間違いではないらしい。

となれば、することはひとつ。

「俺、ですってば!!」

思わず怒鳴る。

「そりゃね、確かにナリはこんな・・・・・・妹の環よりも小さいですけどっ!
 れっきとした男ですから!」

勇磨は、まず自分の身体を見て、隣にいる環を恨めしそうな目で見て。
それからさらに怒鳴った。

双子なのだが、2人の成長には差が出ているようだった。
妹である環のほうが背が高い。

まもなく15歳になろうかというのに、身長で妹に負けているというのは、
かなりのコンプレックスだった。自然と声も大きくなる。

「見ればわかるぞい」
「だったらどうして!? 共学は無いんですか? せめて男子部に入れてくださいよっ!」
「木乃香の側におってくれんと、護衛にならんじゃろ」
「そ、それはそうですが・・・・・・四六時中、側にいるってワケにも・・・・・・。
 それに、絶対、変な目で見られますって! どう考えてもおかしいでしょ!?」

女子部に男子が入る。
100人に聞いたら、100人が「おかしい」と答えるであろう、明らかな愚策だ。

「とにかく、俺は嫌です!」
「むぅ・・・」

交渉が暗礁に乗り上げた。
そんなとき、環から起死回生の一言が。

「ならば兄さん。兄さんが女装すればいいんですよ」
「・・・・・・ハイ?」

オマエハナニヲイッテイルンダ?
思わず、頭の中が片言になってしまうほど、衝撃の一言。

「要は、男であるということがバレなければいいわけですよね」
「だ、だからといって、女装なんて――」
「兄さんは、どちからかといえば中世的なお顔立ちですし、体型も男性としては華奢なほう。
 カツラを用意してもらって、言葉と仕草に気をつければ、案外いけるかもしれませんよ」

「お・・・・・・オーケーオーケー」

おそらく本気で言っているであろう妹の言葉に、石化しそうになるのをどうにか堪え。
どうにかこうにか、考えを整理しようとする。

「百歩・・・いや千歩譲って、それはそれでいいとしよう。
 だが環。おまえは肝心なことをひとつ忘れている」
「なんですか?」
「声だよ、声っ!」

そう、声。
二次成長はまだ訪れていないというのに、声変わりだけは起こりつつあるから、ごまかそうにも無理である。
裏声は出せるが、常に裏声で話せと言われても、不可能だ。

「声でバレるだろっ!」
「そのへんは、ほら、兄さんお得意の気合と根性で」
「出来るかっ!」

「・・・なるほどのう」
「へ?」

やり取りを聞いていた近右衛門が、唐突に頷いた。
と思うと、すぐに質問してくる。

「声さえなんとかなれば、イケるのじゃな?」
「限りなく。小さい頃、私が髪を伸ばし始めるまでは、パッと見では区別がつかないと、
 近所の方によく言われたそうですので」
「そうかそうか」

「ねえ、ちょっと? なに本人を差し置いて話してるの?」

勇磨をさて置いて、近右衛門と環の間でなされる会話。

「ふむ、わかった。アテがあるから、少し待っておれ。
 これ、工学研究会に使いを。あと、しずな君を呼んでくれんか」

「勝手に話を進めるなー!」

近右衛門は秘書を呼ぶと、そう指示を飛ばす。
勇磨は叫ぶものの、もちろん受け入れてもらえるはずも無く。

「兄さん、諦めてください」
「マジで・・・?」
「兄さんは、橋の下や公園などで暮らしたいですか?」
「・・・・・・」

つまり、嫌だといえば、ホームレスになると。
・・・それも嫌過ぎる。

「きゅ、究極の選択・・・・・・!」

女装をして、とてつもない恥辱を味わいつつも、人並みの生活を取るか。
それとも、一切をかなぐり捨てて、人として堕ちるところまで堕ちるか。

この世界は、彼らにとっては異世界。
近右衛門に頼らなければ、先の戸籍などの理由で、真っ当な生活など出来ようはずも無く。

(それに、魔法関係の知識に明るい方の近くにいれば、多少なりとも、
 元の世界に帰る方法が見つかる可能性も上がるかもしれません)
(うぐぐ・・・)

さらには、サッと耳打ちされ、小声で伝えられたこと。
現状では、近衛殿のお世話になっていたほうがよいと。

「兄さん、ご決断を」
「・・・・・・うそーん」

御門勇磨、14歳。
”男”を捨てる。

 

 

 

 

「さあ、出来たわよ。鏡を見てみて」

その後、勇磨は、近右衛門に呼ばれ事情を説明されたしずなにより、女装化を施された。
用意された女子の制服を着て、演劇部から持ってきたカツラを被り、薄く化粧を施して。

「・・・・・・これが、俺・・・?」

目の前の鏡台、そこに映っている自分。
・・・見違えた。

環と同じような、黒いストレートな長髪のカツラを被った姿は、しずなの絶妙な化粧術も相まって、
そこにいるのは、自分でも驚くほどの美少女ではないか。

「うふふ、かわいいわよ、勇磨君♪」
「うれしくないっすよ・・・」
「ふふふ、ダメダメ。言葉遣いに気をつけなくちゃ」
「・・・・・・うげぇ」

これからは、女言葉で話さなければならないのか。
自分が女言葉を話しているのを想像して、激しく萎えてしまった。

「コラ。女の子がそんな言葉を使っちゃいけません」
「へーい・・・じゃない。はい」
「そうそう、その調子♪」
「・・・・・・」

やっぱり、萎えた。

「あとは、工学部が開発した、ピン型変声機をつけて、と♪」
「それ、本当にアテになるんすか?」
「なるんですか、でしょ?」
「・・・なるんですか?」

大学工学部が開発したという、ネクタイピン型の変声機。
上手く作動するのだろうか?

「うちの大学部はすごいからね。名探偵コ○ンもビックリ! だそうよ」
「・・・そうですか」

・・・胡散臭い。
だが、コレに頼るほか無いことも事実。

「はい付けてみて。付けていれば、体温で作動するらしいわよ」
「そこはすごい技術ですね・・・」

そこは素直に感心しつつ。
ネクタイにピンを留めた。

すると・・・

「あ、あ〜・・・・・・変わってます?」
「OKよ。かわいい女の子の声だわ」
「成功・・・ですか。うぅ、これからは、これが自分の声・・・」

実感が湧かないのも当たり前。
いきなりこれが自分の声だと言われても、慣れるまでは仕方が無い。

(慣れたくないけどな・・・)

ハァ・・・と、ため息の勇磨だ。

「じゃあ、これで完了ですか?」
「そうね。あとは、簡単なお化粧の仕方とか覚えてもらって。
 ・・・ねえ、本当にコレは付けなくていいの?」
「いりませんっ!」

勇磨が速攻で否定し、しずなが手にとってプニプニと握っているもの。
俗に言う、胸パッド、というヤツである。

「でも、付けないと男の子だってバレちゃうかも」
「・・・・・・」
「それに・・・・・・まあ、こんなことを言う悪い子はいないと思うけど。
 妹さんがああいう体型だから、双子なのに小さいってバカにされちゃうわよ?」
「・・・勘弁してください」

環は、それなりに出るところは出ている体型だ。
それは14歳にして、限りなく成熟へと近づいている。

「ブラの下に付ければいいだけだから。ねっ?」
「うぅ、わかりましたよ・・・」

しぶしぶ、パッドを受け取る勇磨。

「ブラの付け方はわかる?」
「わっ、わかります! さっきやりましたからっ!」
「うふふ、純情なのね♪」
「・・・・・・死んでいいですか、俺?」

再度、やり直そうとするしずなを、慌てて止める。
だいたい、女性ものの下着など、触るのは愚か、見るのだってそう機会は・・・

「『わたし』、でしょ?」
「・・・・・・はい」

突っ込みどころはそこなのか・・・
なんだか猛烈な疲労感に襲われる。

肉体的にもそうだが、主に精神的に。

「さて、あとは・・・」
「え?」

ピリリ、という、テープを向くような音。

「無駄毛の処理をしなくちゃね♪」
「え゛・・・・・・?」

それは、想像した通りで。
しずなが手にしているものは、脱毛テープだ。

 

「ぎぃやぁぁああああああああ!!!」

 

直後、勇磨の悲鳴が響き渡った。

 

 

 

 

翌朝。
2人にあてがわれた女子寮の一室。

「うぅ、まだヒリヒリしてる・・・」

手足が痛い。
勇磨は苦しげに呟いた。

体毛の濃いほうではなかったが、痛いものは痛い。

もはや諦めた女子の制服に着替え、あぐらをかいて座っているため、
綺麗サッパリ、ツルツルになった脚が覗いている。
正真正銘の女子なら、艶かしい格好なのだろうが。

「自分の足じゃないみたいだ・・・」

うげっ、とはなるだろうが、決してそのような思いになったりはしない。
変声機はすでに付けているので、自分のものではない声も、それを助長させている。

「なんかスースーするし、胸も締められてるみたいだ・・・」

穿いた経験など無いスカート。
そして、着けたことなどあるはずが無い、女性用の下着。

「これでカツラもつけなきゃいけないってんだから、あーもーっ・・・」

脇に置いてある長髪のカツラを見て、嫌そうに天を仰いだ。

「兄さん? 準備は出来ましたか?」
「おー・・・」
「またそんな格好をして・・・」

と、洗面所にて身支度を調えていた環が、ひょこっと顔を出した。
勇磨の格好を見るや否や、はあっ、と息を漏らす。

「”女の子”なんですから、あぐらはやめてください」
「部屋の中にいるときくらい、いいだろ。リラックスさせろよ」

これからの昼間は地獄なんだから、と力なく言う勇磨。
確かに同情はするが、こういうのは普段の行いからしっかりしないと、
ボロが出てしまいかねない。

そのことを指摘すると。

「ソレを言うなら、おまえも今、俺のこと『兄さん』って呼んだぞ」
「す、すいません・・・」

思わぬ反撃。
日頃の習慣とは恐ろしい。

「と、とにかく、早くカツラを被ってください。髪も整えないと」
「いーよそんなの・・・」
「そんなボサボサの状態で行くつもりですか? 絶対ダメです!
 女の子は・・・いえ、男でもきちんとするべきですが、女ならなおさらきちんとしないと」
「へいへい・・・」
「ほら被って! こっちに来てください。梳いてあげますから」
「へいへい・・・」

環に引きずられ、カツラを持ちつつ洗面所へ移動。
そこでカツラを被って、環にブラシで梳いてもらう。

「黙っていれば、少なくとも容姿だけを見ればそれなりに見えるんですから、気をつけてくださいよ」
「へいへい・・・」
「そんな言葉遣いもダメです」
「はーい・・・」

ため息をつきつつ、目の前の大きな鏡に映った自分を見る。

(・・・・・・まあ、黙ってれば、っていうとこだけは同意するがな)

自分でも信じられないくらいの変身振り。
”男”である自分が見ても、思わず見惚れてしまうほどなのだ。

(自分にトキめいてどうするよ・・・)

それがまた、億劫な気持ちに拍車をかけるのだが。

「はい、こんなものでいかがです?」
「俺に訊かれてもわからん・・・」
「早く覚えてください。私がいつも側にいるとは限らないんですから」
「・・・努力するよ」

そう答えるのが精一杯。
しかし、この妹君のことだから、常に側にいようとすることは、
これまでの経験からして、間違いないであろうことだ。

「それじゃ、そろそろ出ましょうか。編入初日から遅刻では、シャレになりませんからね」
「はいはい・・・」

時計を見ると、もういい時間になりつつある。
そろそろ出発しないといけない時間だ。

リビングに戻って、用意しておいたカバンを取る。
そのときだ。

ピンポーン

来客を告げるインターフォンが鳴った。
思わず顔を見合わせる2人。

「おまえ、知り合いに心当たりは?」
「あるわけないでしょう」

きのう、この世界に来たばかりなのだ。
まあ、きのうの段階で知り合った人物だという可能性もゼロではないが、
こんな時間に、こんな場所まで出向いてくることは無かろう。

「誰だ?」
「とにかく、出てみます。出発しないといけない時間でもありますから」

念のため、勇磨を中に残して、とりあえず環が玄関へ。
確認用の小窓から覗くと、そこには、同年代くらいの女の子が2人いた。

もちろん、会ったことは無い。

「どちらさまでしょう?」

しかし、このまま居留守を決め込むことも出来ないし、なにより、学校に行かなくてはならない。
鍵を外して、そう声をかけながら、ドアを開けてみる。

「おはようさんや〜♪」
「おはよ」

同じ麻帆良学園の制服を着た、2人の少女。
人懐こい笑顔を見せる、小柄で髪の長い少女と、環と同じくらいの身長で、髪をツインテールにした少女。

そんな2人が、さわやかな声をかけてきたのだった。

 

 

 

 

2時間目へ続く

 

 

 

 

 

 

 

 

<あとがき>

こんなん出来ちゃいました〜♪
衝撃の勇磨女装ルート!!

『兄妹』よりの主な変更点は、

 ・御門兄妹の年齢を、17歳 → 14歳 に変更
 ・冗談で済んだ勇磨の女装作戦を、そのまま実行
 ・編入時期を、修学旅行直前ではなく、2週間ほど間がある頃に前倒し

ということです。

14歳時点では、身長も環のほうが高く、
勇磨は声変わりこそしているものの、体格はまだ男性らしくはなっていません。

実力のほどは、17歳と比較して経験が少ないくらいで、技量にそう大差はありません。
陰陽術に関しては、習ったのが17歳の時期なので、14歳当時では当然使えません。

ストーリーも、多少は変わることかと思います。
今度は、なるべく現実的な路線をとろうかと。
まあ、こんなん書いてないで、早く『兄妹』のほうを進めろよとお叱りを受けそうですが・・・

よろしければ、お付き合いください。

 

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