魔 法先生ネギま!

〜ある”姉”妹の乱入〜

10時間目 「前哨戦! その6」

 

 

 

 

 

 

「そこまでだ、天ヶ崎千草!!」

 

「なんで、”長”が出て来るんや!?」

登場した男性の姿を見て、女の表情は驚愕に染まる。

神主が着るような束帯に身を包み、後方に多くの巫女を従える彼。
ごく普通の中年男性のような顔立ちだが、今このときは、険しい顔つきである。
メガネ越しに見える眼光も、鋭く女を見据えている。

「君の行動は規律違反だ。我々は、東からの使者を受け入れる」

続けて、女に向けて言い放った。

「私闘も固く禁じられている。投降したまえ」
「ちっ・・・・・・まさか、長が自ら出てくるとは思わんかったわ・・・・・・」

女は、苦し紛れにそう呟くと。

「長の頼みでも、これだけは聞けへんな。ここで捕まるわけにはいかんのや!」

捨てセリフを残して。
彼女の式神だと思われる無数のサルを召喚して、彼らに担がれて去っていった。
驚くほどの早業。すでに姿は見えない。

「長! 追います!」
「いや、もう追いつけまい」

巫女の1人が男性にそう進言するが、彼は首を横に振る。

「それに、深追いしすぎてもいけない。
 彼女たちの実力は確か。現状、我々の戦力では、捕まえきれない可能性のほうが大きい。
 天ヶ崎千草たちの独断専行を許したことが、その証拠です」
「はい・・・」
「手配はしておきましょう。全国に散っている腕利きが戻ってきた暁には・・・」
「わかりました!」

そう指示すると、彼はネギのほうへ歩み寄って行く。

「あ、あなたは・・・?」
「”長”って呼ばれてたな。まさか、あんたが?」

「そうです」

膝をついたまま、彼の姿を見上げるネギ。
トトトと走って戻ってきて、ネギの肩の上に戻ったカモも、
微笑を浮かべながら頷いた彼を見る。

「私が関西呪術協会の長、近衛詠春です」
「やっぱり・・・」

長に会えたという安堵と、敵を退けられたという安心感。
ネギはさらなる脱力感に襲われて、深いため息をついた。

「それにしても、助かったぜ長さんよ」
「そ、そうでした。ありがとうございます、助けていただいて・・・」
「いやいや、礼には及びません」

なんにせよ、彼が来てくれていなかったら、完全な敗北だった。
親書も天ヶ崎千草とやらに奪われていたことだろう。

礼を述べるカモとネギだったが、詠春は、とんでもないという仕草をする。

「こちらが不甲斐ないばかりに、一部の強硬派の暴走を招いてしまいました。
 謝るのはこちらのほうです。すみませんでしたね」
「い、いえっ・・・」

逆に謝られてしまい、恐縮するネギだ。
カモが懸念していた通り、呪術協会の中も、一枚岩というわけではないらしい。

「で、でも、どうして長さん自ら・・・」
「そうだぜ。どうせ出てくるんなら、もうちっと早く出てきてもらえたら、楽だったのによ」
「そのことに関しても、謝らなければいけませんね」

詠春は申し訳ないという顔で、再び頭を下げる。

「義父・・・学園長からは、ゆうべのうちに連絡を頂いていたのですが、
 行き違いがあったようでしてね。気づいて、出迎えようと決めたのがつい先ほどなんです。
 おかげで、天ヶ崎千草などに時間を与えてしまったようで。重ね重ねすいません」

「そ、そうだったんですか」
「むーん。長ってのも大変だな」

はー、と頷くネギ。
カモは唸っている。

「お疲れでしょう。こちらへどうぞ、歓迎いたしますよ」
「あ、はい。・・・ぁ」
「兄貴!」

まだダメージが抜け切っていなかった。
立ち上がりかけたネギだったが、立ちくらみのような症状に襲われ、再び膝を落としてしまう。

「これはいけない。誰か」
「はい」

「す、すいません・・・」

詠春が手配して、回復魔法の使い手が駆け寄り、ネギに治療を施す。

「大丈夫か兄貴?」
「うん、もう平気。ありがとうございます」

程なくネギは回復して、治療してくれた巫女に礼を言い、立ち上がった。
そして、思い出す。

「では、こちらへ」
「あ、待ってください。勇磨さんと環さん、あと2人いるんです」
「承知しています」

敵を足止めし、今も戦ってくれているはずの勇磨と環。
どうなっているのかはわからないが、自分だけ招待されるわけにはいかない。
そう思って申し出るが、詠春は笑顔で頷いた。

「彼らにも使いを出していますよ。もっとも、その必要も無さそうですけどね」
「あ、そうでしたか」

このとき詠春が言った、『必要が無さそう』との言葉。
ネギは深く考えなかったが、実際の様子を見れば、真実だったとお分かりいただけるだろう。

 

 

 

 

参道入口。

「はあっ!」

「・・・・・・」

黄金を纏った環が操る炎を、少年が無表情のまま避けるという展開が続いている。

「逃げ足も素晴らしいものをお持ちのようで」
「そっちこそ、たいした力だね」

毒舌の応酬。
お互い決定打は与えられていないが、環にとっては、それで充分である。

(ネギ先生たちは、そろそろ到着しましたかね)

ここで勝敗を決せずとも、親書さえ長の手に渡れば、それで良し。
一見、足止めに来ているのは向こうのほうに思えるが、実は、
時間稼ぎ、足止めさせているのはこちらのほうなのだ。

そろそろかと思い始めた頃、環は突然に

「・・・ふぅ」
「?」

霊気の放出をやめ、吹き出していた黄金のオーラもなりをひそめる。
髪の毛や瞳の色も、元の黒へと戻った。

「どうして、その状態をやめたの?」
「必要が無くなったからです」

顔は無表情でも、不思議そうに尋ねてくる少年。
環は、ふふんとばかり、微笑を浮かべた。

「私には、周囲の気配を探れる力がありましてね」
「・・・・・・」
「そちらの総大将さんが、おめおめと逃げ帰ったようですので」
「・・・!」

少年が水の中に姿を消して、自分を置いて先に進んだのではないかという疑念を持ったときから、
勇磨とネギが向かった先のことをモニターしていた。

どうやら、勇磨とネギは別れたようで、そのいずれの前にも敵が現れたみたいだが、
最後にネギの前に現れた人物が、向こう側の総大将だろう。
確証は何も無いが、最後に現れるというお約束な点から見て、まず間違いないと思われる。

少なからず、少年は衝撃を受けたようだ。
やはり表情こそ変わらないが、一瞬だけ、身体が硬直したのを見逃さない。

「・・・・・・そうみたいだね」

数秒だけ時間を置いて、少年も同意した。
彼も、何か同じような力で、気配を探れるのだろうか。

「どうです、今日はコレでお開きということにしませんか?」

すかさず、環が畳み掛ける。

「親書も長の手に渡るはず。あなたたちの計画は失敗したんです。
 もはや戦う理由はありません」
「・・・・・・」
「あの状態で戦い続けるのは、少々骨が折れましてね。
 まあどうしてもと仰るのならば、この場で決着をつけて差し上げても構いませんが」
「・・・・・・」

少年はどう答えるか。
数秒間、ジッと佇んでいた彼は

「そうだね」

呆気なく、賛意を示した。

「じゃあ、僕も引き上げるとするよ」
「恐縮です」

そう言うや否や、少年の身体が、熱した飴のようにドロドロと溶け、濡れた地面に同化していく。
平然と返事をしたが、これも水を使った移動なんだと悟るまで、少し驚いた。

「君のことは覚えた。またいつか・・・」
「こっちは御免ですよ」
「・・・・・・」

ちゅぽんと、少年の身体は完全に水へと還り、姿を消した。
残された水溜りには、降り続いている雨が、綺麗な波紋を広げるのみ。

「やれやれ」

環は、ひとつ息を吐いて。

「お出迎え、痛み入ります」

現れた巫女に向けて、そう声をかけた。

 

 

 

 

参道、途中。

キンッ、カキンッ

普段は、風が木々を揺らす音以外は特にしないであろう静かな空間に、
空をも劈く剣戟音が多数轟く。

「あんさん、小さいけど強いですな〜♪」
「そりゃどうも。ってか、小さいって言うな!」

ヘラヘラ笑いながら突っ込んでくる月詠。
その顔を見ているだけで調子を崩されそうだが、さらに、その口調にも狂わされる。

「おまえだってデカくはないだろ!」
「それは置いておいて〜。なかなか好みやわ〜♪」
「そうかよ。俺のほうは全然違うけどな!」
「そんな、つれないこと言わんと〜。ウチは強い人が好きなんです〜。
 このままウチと戦ってましょーよ〜♪」
「・・・・・・」

不意に、月詠の表情が変わった。
上手くは説明できないが、思わずゾクリと来るような、気違いじみた強烈なものを感じる。

「おまえ、戦闘狂か?」
「そんな無骨な言い方せんといてください〜」
「あーヤダヤダヤダ! そんなヤツにゃ付き合いきれん!」

趣味で戦うヤツほど、タチの悪い者はいない。
こういった者は何をしでかすかわからないのだ。

「二刀流相手ってのもやりにくし、あーもうっ!」
「さあさあさあ〜♪」
「ネギ先生、まだかっ!」

一刻も早く、戦闘を終わらせたい。
こんなヤツに付き合っていては、身が持たない。

募った苛立ちをネギにぶつけたその瞬間。

「・・・!」
「あ」

勇磨と月詠が、ほぼ同時に気づいた。

彼らの上空を、なぜだか多数のサルに担がれた女性が、本山とは逆方向に去って行くのを見たのだ。
思わず呆気にとられる。

「・・・なんだ今の」
「あらー、千草さん、失敗してしまったようですなー」
「失敗? ほう、そりゃ好都合」
「わわ、失言してしもうた〜」

顔見知りのようだ。
どういう関係かはわからないが、ヤツラの目論見が上手くいかなかったことはわかる。
つまり、こちらが勝利した。

「忘れてくれませんか〜?」
「くれません、ねえっ!」
「わわっ」

バッと月詠の剣を押し込んで、その隙に後ろへ飛び、間合いを取った。
そして、言い放つ。

「おまえらの負けだ。おとなしく帰れ」
「ん〜」

月詠のほうは、しばらく考えて。

「そうですねー。自分のお仕事はしましたし、帰ります〜」
「そりゃ助かる」

素直に応じた。
言動から察するに、元々これっきりだという関係のようで、私情も何も無いのだろう。

「ほなさいなら〜♪」

月詠は二パッと笑みを浮かべると、風のようにいなくなった。

「やれやれ」

息をつきながら刀を納める勇磨。
その姿は、奇しくも、妹の環と同じだった。

程なくして、彼のもとにも、詠春が派遣した迎えがやってくる。

「ご苦労さんです」

勇磨は彼女に向けて、そう声をかけた。

 

 

 

 

本山の敷地内。
奥の本殿へと案内された3人は、歓迎もそこそこに、上座に現れた詠春へ、
ネギから直接、親書を手渡した。

「麻帆良学園学園長・近衛近右衛門から、西の長への親書です。お受け取りください」
「確かに承りました、ネギ君」

受け取った詠春は、さっそく封を切り、内容を確かめる。
心持ちか、苦笑気味なのは何故だろう。

読み終えると、詠春は颯爽と宣言した。

「東の長の意を汲み、私たちも、東西の仲違いの解消に尽力するとお伝えください。
 任務ご苦労! ネギ・スプリングフィールド君!」

「ハイ!」

親書を渡すという任務どころか、任務以上の、両者の溝を埋めるという結果まで伴った。
ネギは輝かんばかりの笑みで返事をする。

「とりあえずはよかったか。おつかれ」
「おめでとうございます、ネギ先生」
「いえー、お二人の力があったからこそですよ〜」

御門兄妹からも労いの言葉をかけられて、ネギも兄妹の労をねぎらう。
とりあえずは、これで心配は要らないはずだ。

「繰り返しますが、申し訳ありませんでした」

詠春は改めて、今回の騒動を謝罪する。

「昔から、東を快く思わない人はいたのですが・・・
 今回は、実際に動いた者が少人数でよかった。あとのことは、私たちにお任せください」

元は、呪術協会内でのことだ。
内部でも、意見の対立があるということか。

「あいにくどこも人手不足で、腕の立つ者は出払ってしまっているんですが。
 ボチボチ戻りますので、修学旅行までには、ヤツラをひっ捕まえてやりますよ」
「は、はい、お願いします!」

腕利きが今この場にいないということは不安材料だが。
長がこう言うのだから、彼に任せておけば大丈夫だろう。

「ところで、木乃香は元気にしていますか?」
「あ、はい。特に問題はありませんよ」
「そうですか、よかった」
「・・・? どうして、このかさんのことを・・・?」
「おや、言ってませんでしたか?」

いきなり出た、このかの話題。
首を傾げるネギや勇磨たちの様子を見て、詠春はまたひとつ謝ると。

「木乃香は、私の娘なんですよ。近右衛門は義父になります」
「えー、そうだったんですか!?」

「・・・言われてみれば、名字が同じだ」
「なるほど、そういう事情が」

ビックリするネギと、納得する勇磨と環。
ネギの肩にいるカモは、声こそ出せないが、予想しておくべきだったと後悔している。

「引き続き、木乃香のこと、よろしくお願いしますね」
「ち、力の限り、がんばります!」
「ハハ、そんなに力まなくても大丈夫ですよ」

生徒の父親。
急に緊張しだしたネギに、詠春はハハハと笑って。

「御門、勇磨君と環君、でしたね」
「はい」

視線を、御門兄妹に移した。

「大変お世話になりました。あなたたちにも、ご迷惑をおかけしてしまったみたいで」
「いえ、構いませんよ」
「お仕事ですからね」
「あなたたちのことは、学園長から少しお聞きしました」

詠春の表情は、引き続き穏やかだ。

「なんでも、木乃香と仲良くしてもらっているとか。ありがとうございます」
「あ、いえ。むしろ、俺たちのほうが良くしてもらって」
「このかさんの朗らかなお人柄には、たいへん助けられています。お礼を言うのはこちらのほうです」

クラスに溶け込むには、このかの力は甚大だった。
初日に迎えに来てもらったりと、いろいろ気を遣ってもらって、感謝感謝である。

「しかし・・・・・・お察ししますよ、勇磨君」
「畏れ入ります・・・」

何を指しているのかは、まあ暗黙の了解だ。
苦笑しているネギや、肩を落とした勇磨に免じて、ここでは触れない。

「まあそんなわけですから、修学旅行には、安心してお越しください」

旅行前に、今回の首謀者が捕まれば、100%そうなる。
腕利きが帰ってくるそうなので、心配は要らないか。

「ヤツラはどうして、こんなことを?」
「天ヶ崎千草ですか・・・」

根本を尋ねてみる。
あの女、天ヶ崎千草とやらは、なぜこんな大それたことをしでかしたのか?

「彼女には色々と、西洋魔術師に対する恨みのようなものがありまして」
「なるほど、憂さ晴らしというわけですか」
「そう、なりますか・・・」
「動機としては単純ですが、なればこそ、信憑性も上がります」

シンプルであればあるほど、行動する糧にはなりやすい。
複雑で難しい理由よりも、よほど信用できるし、納得もいく。

人間とはそういうものだ。

「何はともあれ、今回の罪滅ぼしと、これからもよろしくという気持ちも込めまして、
 豪勢な宴を用意したいと思いますが、いかがです?」
「あ、その・・・」
「お心遣いは大変ありがたいのですが、明日も学校がありますし、
 帰りの新幹線の時間が心配ですから、辞退させていただきます。すいません」
「そうですか、残念です」

詠春のありがたい申し出に、即答できなかったネギ。
代わって環が答え、丁重に断った。

これから宴となると、どうしても夜になってしまうだろう。
まさか泊まっていくわけにもいかないし、帰りの新幹線は午後6時。
受けるわけにはいかなかった。

詠春は本当に残念そうだ。

「それでは、また修学旅行で来られた際に、改めて席をご用意しましょう。どうですか?」
「確か、自由行動の時間があるはずですから、そのときに。ですよね、ネギ先生?」
「はい、大丈夫です」
「では、そういうことでお願いします」
「かしこまりました」

頷いた詠春は、再びネギを見て。

「ネギ君には、お話したいこともありますし」
「僕に・・・? なんですか?」
「まあまあ、後日をお楽しみに、ということで」

はたして、詠旬の話とはいったい何か。
ネギはワクワクしながら、総本山、京都を後にすることになる。

 

 

 

 

 

 

「ちっ、しくじったわ。長が自分で出てくるなんてな・・・」
「・・・・・・」

とある山中。
逃げた天ヶ崎千草と、例の少年がいる。

「・・・けどまあええわ。親書の阻止は出来んかったが、まだ希望はある」
「・・・・・・」
「”お姫様”さえ、こっちの手にしてしまえば・・・・・・ホホホ。
 今のうちに、束の間の平和を謳歌していなはれ。ホホホ♪」

 

 

まだ、”京都の乱”は、終わりそうにない。

 

 

 

 

11時間目へ続く

 

 

 

 

 

 

 

 

<あとがき>

間隔が開いてしまい、まことに申し訳ありませんが、
前哨戦はこれにて終了!

修学旅行編を端折るわけには行きませんから、決着はソッチで。
しかしまあ、ここまで改変して大丈夫かいな、自分・・・

 

以下、Web拍手返信です。
拍手していただいている皆様、本当にありがとうございます!

以下は「兄妹」のほうに頂いたコメントです。

>本編読み返してしまいました。原作でも魔帆良祭編も終わったので続きを楽しみにしてます〜。
>ところで外伝でたったフラグは本編にも生きるのでしょうか?

外伝は本編外での出来事という位置づけなので、フラグは有効です。
そして続きですが、相変わらず未定です。すいません・・・

>勇磨と環の絵をできれば見てみたいです

申し訳ありません、私はとことん絵心の無い人間(特に人物画)ですので、
ご要望には応えられそうにありません
某ゲームを使って作ったグラフィックとかなら、アップは可能ですが・・・(CGではありません)

 

 

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