黒と水色

第12話 「盗賊団を討て!(前編)」








王都デルトファーネル、大通り。

(さて、どうしようかな…)

彼女、”宮瀬命”は、なにやら考え込みながら人込みの中を歩いていた。
容易には判断がつかない、容易に判断してはいけない事項を抱えていたからだ。

(本来なら、私1人で解決すべき問題ではあるんだけど…)

ここまで、必死に追いかけてきた存在を、ようやく掴むことが出来た。
場所もわかった。
あとは乗り込んで、目的のものを取り戻すだけ。

グッと、命は腰に下げた刀の柄を掴んで力を込めた。
本当なら、もう一振りあるはずの、共打ち刀のことを思う。

(聞いた話では、かなり大規模な組織だというのよね)

やっと尻尾を捕まえたものが、構成員数百を数える、一大盗賊団だということも判明している。

もちろん、目的のものを取り戻すには、その集団のアジトへと行かねばならない。
話し合いで解決するわけも無く、当然、戦いになることを覚悟するべきだ。

さあ、ここで問題。

味方は自分1人のみ。
ここまで自分だけで追いかけてきたのだから、当たり前である。

このまま単身で乗り込むべきか?
それとも、念のために、誰か用心棒でも雇っていくべきか?

(う〜ん…)

命は悩んだ。

何も、自分の実力に不安があるわけではない。
これでも正規のライセンスを持つハンターである。
下手なSランクハンターよりも強いという自負もある。

誰かを雇うにしても、金銭的な面も、これまでハンターとして荒稼ぎしたそれなりの貯えがある。
ひとりふたり程度なら、Bランクくらいの護衛は雇えるだろう。

(どうしたものか…)

ならば、何も悩むことは無いはずなのだが。
どうにも決断できずにいた。

そんなときである。

「命さーん! 待ってよ〜!」

「…!」

背後から呼び止められたのは。





「セリス! あなたセリスね?」
「よかった覚えててくれたー!」

自分を呼んだのは、水色の長い髪をした少女だった。
不意に記憶が蘇り、名前を呼ぶと、セリスは手を掴んできて振り回された。

「それにしても凄い偶然。なに、王都に出てきてたの?」
「うん。お姉ちゃんも一緒だよ」
「そう。エルリスは元気?」
「もう元気いっぱいだよ!」

しばし、懐かしい顔との再会に声を弾ませる。

「そのエルリスはどこ?」
「え?」

そう尋ねられたセリス。
ハッとして周りを見るものの、無論、そこに姉の姿は無い。

「え、えっとー」
「はぐれたのね? いえ、あなたの性格からして、私を見かけたから後先考えず、
 とりあえず私を追いかけてエルリスは置いてきた、というのが正解かしら?」
「う…」
「やっぱり図星か」

急にオロオロし始めたセリスの様子に、命はひとつ息を吐いて。
ズバリ言い当てた。

「はぁ、変わってないわね。猪突猛進なのは相変わらずか」
「う〜…」

セリスが唸っていると

「セリス!」
「やっと見つけました」

「あ、お姉ちゃんたち!」

後を追いかけてきたエルリスたちが追いついてきた。

「1人で勝手に歩き回らないでよ! 本当にはぐれたらどうする気?」
「ごめんなさい…」

当然の如く、怒られて。
シュンとなってしまうセリスである。

「でもでも、見つけた人には会えたんだよ!」
「見つけたって…。そういえば、何を、誰を見つけたのよ?」

「私よ」
「…え?」

姉妹の会話に割って入る命。
エルリスは目をパチクリ。

「……もしかして………命?」
「そうよ、当たり」
「わ〜!」

正体を確かめると、妹と同様、目を輝かせる。
そして、命の手を取った。

「久しぶり! こんなところで会うとは思わなかったわ」
「私も同じよ。まさか、ここで再会するとはね」
「ホントそうよね〜。うわー、本当に久しぶり〜」

取った手を振り回す。
セリスと同じ反応に、命は苦笑していた。

「う〜ん、どゆこと?」
「どうやら、古いご友人に再会されたみたいですね」

御門兄妹は、完全に置いてきぼり。
状況から判断するしかない。

「エルリスさん、セリスさん。紹介していただけると非常に助かるんですが」
「あ、ごめんなさい」

「…? そちらは?」

環がそう声をかけ、命のほうも、初めて見る顔に首を傾げる。

「お互いにはじめましてよね。えっと、こっちは、私たちの昔の友達、宮瀬命」
「宮瀬命です」

エルリスはそう紹介。
命も軽く頭を下げた。

一方で、御門兄妹は内心、顔をしかめていた。

(”宮瀬”……か)
(おそらくは……そうでしょうね)

兄妹で目を合わせ、そんなことを確認し合う。
名前から、自分たちと同じく、東方の出身だということがわかったからだ。

本名を名乗ると、自分たちの名字から、素性がバレてしまうかもしれない。
彼らの家は、地元のその道では高名なのだ。

出来れば、隠しておきたいところなのだが。

「で、こちらは、私たちの新しいお友達で、師匠でもある…」
「師匠?」
「あ、ハンターの師匠よ。私たち、ハンターの資格を取ったの」
「えへへ、そういうこと〜♪ これが証拠だよ」
「ふうん…」

御門兄妹の懸念を知る由もなく、エルリスは紹介を続ける。

途中で突っ込んだ命に対し、そう説明して。
セリスは免許証を取り出して見せまでしたので、命は感心したように呟いた。

「勇磨さんと環さん、すっごく強くて、Aランクにも余裕で合格しちゃったんだ〜」
「Aランク…」

さらにセリスから捕捉をされ、命は勇磨たちを見る。

「御門勇磨です」
「御門環と申します」

兄妹は観念したのか、素直に本名を名乗った。
水色姉妹には明かしているわけだし、今さら隠しても、隠し通せないとの判断だ。

「ミカド…?」

案の定、命は、思い当たる節があるという顔をする。
やはり知っているのかもしれない。

「あら命。勇磨君たちのこと知ってるの?」
「いえ、会うのは初めてよ」
「じゃあ、なんで反応したの?」
「ええと、ほら。彼らも、私と同じような名前の構成だからさ」
「ああ」

エルリスは、名前を聞いて知っているような素振りを命が見せたことから、
知り合いなのかと思ったようだが、そう言われると、納得したようだった。

「そういえば、命も、東方の出身なんだっけ」
「そういうことよ」

命も頷く。
が…

(やっぱり、知っているようだな)
(ですね。まあ、これほどの腕前ならば、知らないほうがおかしいかもしれません)

御門兄妹は、アイコンタクトにて、意志を疎通させていた。
一目でわかるほどの剣の実力者。知らないほうがおかしいかもしれない。

また、命も

(ミカドって、あの”御門”よね。なんでこっちの大陸に?)

2人について、語った以上の知識を持っているようである。

「お姉ちゃん。せっかくまた会えたんだし、どこかでお話でもしようよ〜」
「そうね。特に何かがあるわけでもないし」

観光はどうした、と突っ込みたいところであるが。
当のセリス自身の発案なので、気にしないことにする。

「立ち話もなんだから、どこかお店にでも入る?」
「うん、賛成! 命さんもいいよね?」
「構わないけど、そちらの2人は?」
「俺も構わないよ」
「行きましょうか」

命も、御門兄妹にも、異存は無いようだ。
さて、どの店に入ろうか?

「じゃあ、あのお店に行きましょう」
「あの?」
「あそこですよ」

と、環の提案で、ある店へと向かった。





中に入ると

「にゃー」
「にゃー」
「にゃー」

ネコが。

『いらっしゃいませ、なの』

スケッチブックが出迎えてくれる店。
そう。少し前に、エルフのメディアに連れられて訪れた、あの店だ。

「らっしゃい。お、なんだ。この前の一行じゃないか」
「こんにちは。お邪魔させていただきますよ」
「おう。お客様に文句はねえな。さ、座ってくれ」

マスターにも迎えられて、適当に座る。
今日もまた、店内はガラガラだった。

「うちの味の虜になっちまったかい?」
「そうかもしれませんね」
「うれしいねぇ。常連客が増えるのは万々歳だぜ」

人数分の水を差し出して、マスターは豪快に笑う。

「ちょうどお昼前でもありますし、適当にランチを5人分、お願いします」
「あいよ。チェチリアー! ランチ5人前!」

『了解、なの』

注文を済ませて。

「命は、元気だった?」
「まあね」

水色姉妹と命の話が始まる。
数年ぶりという再会のようだから、積もる話もあるのだろう。

「あなたたちこそどうなのよ? ノーフルから出てきてるなんて、何かあったの?」
「うん、まあね。色々あったわ」

命からそう尋ねられると、エルリスは苦笑してみせる。
それだけで命は理解したようだ。

「…そう。まあ、元気そうで良かった」
「うん、命も」

微笑み合う。

「エルリスさん」

邪魔をするのもなんだが、このままでは時間がかかる。
そう判断した環は、思い切って声をかけた。

「宮瀬さんのこと、もう少し詳しく教えていただけませんか?」
「俺たちも会話に参加したいぞ〜」
「あ、ごめんなさい」

勇磨も便乗し、エルリスはハッと我に返る。

「”命”でいいわよ、お二人さん」

命もこう発言。

「じゃあ、俺たちのことも名前で」
「ええ、そうさせてもらうわ」

お互い、あの水色姉妹が気を許した相手だということで、
初見ながらも、信用できる人間だと判断した。実にあっさりと決まる。

「あ、命はね。昔、短い間だったけど、隣に住んでいたことがあって」

笑顔で説明を始めるエルリス。

「私たちの身近にいた、数少ない、ううん、当時は唯一のお友達で。
 命はそのときから強かったから、将来のこととか、少し相談に乗ってもらったの。
 剣の稽古をつけてもらったこともあるわ」
「そういうことか」

わりと深い交友関係だったようだ。

「次は、勇磨君と環の紹介ね」

続いて、エルリスは御門兄妹の紹介を行なう。

「まだ私たちが旅立つ前、ひょんなことから出会ってね。
 無理やり頼み込んで、セリスともども弟子にしてもらったというわけ」
「2人ともすごくて、いい人だよ〜」

セリスも笑顔で言う。

「2人がいなかったら、今のわたしたちはないよ」
「ふうん。まあ確かに、勇磨君も環さんも、かなりの腕前みたいね。私でも敵うかどうか」

命も凄腕の剣士。
剣を交えずとも、相手の力量はそれなりにわかる。

「いやいや、そこまで言われると照れるな」

たはは、と頭を掻く勇磨。
水色姉妹から笑みを向けられて、環も少し恥ずかしそうにしている。

「ところでエルリス。あなたたちは、どうして王都に?」
「ハンター試験を受けにね。そのあとは仕事に行ってきて、ちょうど帰ってきたところだったのよ」
「へえ」
「命さんは?」
「私は…」

セリスから尋ねられた命。
思わず言葉に詰まった。

これは自分1人の問題であり、気軽に話せるものではないことに加えて。
恥部を晒すようなものだから、話したくないという気持ちもあった。

「何か、あったの?」

顔に出てしまったか。
心配そうに尋ねるエルリス。

「何か困りごと?」
「困ってるなら相談してよ。昔、わたしたちの相談に乗ってもらったんだから、
 今度はわたしたちが命さんの相談に乗る番だよ」

姉妹はそう申し出た。
その人の良さに呆れつつ。

「そう、ね…。困ってるといえば、困ってる」

命は心中を打ち明ける。
この人たちなら、話しても大丈夫だと、根拠も無しにそう思った。

「ちょうどいいから、あなたたちに手伝ってもらおうかな」
「ええ、是非」
「わたしたちでよければ力になるよ。ねえ、勇磨さん環さん」

急に振られた勇磨と環は、ここで振られるかと少し戸惑ったが

「まあ、力になれるのなら」
「微力ですが、お手伝いしましょう」

乗りかかった船だ、と了承する。
こんな展開が多いような気もするが、とりあえず無視である。

「で、肝心の困ってることって、いったい?」
「実は…」

命の独白。

彼女が持っている刀は『天狼』といい、宮瀬家の家宝なのだという。
本当はもう1本、『海燕』という共打ち刀があって、それも所持していたそうなのだが。

ふとした隙を衝かれて、盗まれてしまったんだそうである。

もちろん、必死で行方を探し回った。
その結果。

つい最近であるが、大掛かりな盗賊集団の仕業だということがわかり、
その盗賊のアジトも突き止めて、取り返しに行こうとしていたところだそうだ。

かなり大規模な盗賊団だということで、1人で行こうかどうか迷っていたところで、
水色姉妹と再会。現在に至っているということである。

「…情けない話なんだけどね」
「許せないわ、その盗賊団」
「そうだよ! ひとのものを盗むなんて、言語道断だよ!」

話を聞いた水色姉妹は憤る。

「わかった。ぜひお手伝いさせて」
「いいの? 数が多いし、死ぬかもしれないわよ? それに、報酬だって」
「ストップ。それ以上は言わないで」
「うんうん。お友達を助けるのは当然で、お金の問題じゃないよ」
「エルリス、セリス…」

それなりの貯えはあるが、依頼の規模に見合っているかといえば、そうも言いがたい。
あまり多くは用意できないと言おうとしたのだが、先に言われてしまった。

ジ〜ンと来る。

「勇磨さんと環さんも、いいよね?」
「ここでそれを訊くか」
「そうもいきません、と言いたいのが本心なんですけどね」

苦笑の御門兄妹だ。
ここで断っては、見返りを要求しては、完全な悪者。

「ここのお勘定を持っていただければ、協力しましょう」
「わかった。お願いするわ」

随分と安い報酬になってしまったものだ。
まあ、仕方ないか。

「Aランクのあなたたちなら安心…って、そうだ。
 エルリスとセリスは、何ランクなの? 試験を受けたって言ってたけど」

今さらながら、重要なことに気付く命。
あまり低くては、助っ人どころか、早い話が足手まといだ。

「勇磨君や環と比べられちゃうと、正直、手も足も出ないんだけど…」
「それはわかるわよ。師匠なんでしょ?」

聞きたいのはそういうことではない。
実際のランクが聞きたかった。

「あなたたちが持っているランクは?」
「私もセリスも、その、Cランク」
「ついこの前、合格したんだよ。ね、お姉ちゃん」

「Cランク……。しかも上がりたて」

命は、なんとも言えない表情になって。

「……大丈夫?」

と、心配そうに尋ねた。

「相手は、曲がりなりにも有名な盗賊団よ? 生半可な技じゃ通用しないわ」
「だ、大丈夫。済ませてきたお仕事も、森に入った野盗団の退治だったの。
 無事にこなしてきたから」

「無事に……ね」
「環! 話をややこしくしないで!」
「はいはい」

思わず苦虫を噛み潰す環に、エルリスは鋭い突っ込み。
まあ、セリスの過度な魔法で、永遠の眠りに陥りかけてしまった者が続出したことが、
『無事』だというのなら、無事は無事なのだが。

「ははは。まあ、力はあるよ。師匠たる俺たちが保証してあげる」
「本当に?」
「まあね」

笑いながら言われても、説得力は無い。
命は疑いの眼差しだ。

「”力”はね。圧倒的に実戦経験が不足していることも、間違いないんだけど」
「確かに、そこいらの同ランクハンターよりは、遙かに強いでしょう。
 でも、まだどうにも、不安定なところがありましてねえ」

「勇磨君! 環!」
「わたしたちのこと認めてるのか、貶してるのか、どっちだよー!」

「………」

こんなやり取りを目にした命。

「…早まったかな」

と、半ば本気で思ったとか。






王都の南にある町リディスタ。
一行はそこからさらに南下し、うっそうと茂る森林地帯の中へ。

「う〜、なんかジメジメしてるところだね」
「湿地帯みたいな感じなのかしら?」

しかも、至る所に小川が流れ込んでいて、水色姉妹は億劫そうに言う。
地面もなんだか水気を含んでいるような感じであり、
『ジャングル』という表現がピッタリ来るのではなかろうか。

「シーッ。静かに」

そんな姉妹に対し、先頭を行く命が、口に手を当てながら、
小声ながらも怒気を含んで言ってくる。

「もうヤツラのアジトの程近くなんだから、注意して」
「ご、ごめん」

そうだ。
ここはもう、盗賊団の領域なのだった。

水色姉妹はハッとして我に返り、謝る。

「まったく」

道なき道を行く。
行く手を阻む背の高い草を掻き分けると…

「…! 隠れて!」

命がそう指示。
草の間からそ〜っと様子を覗き込むと…

「見張りがいるわ。その向こうに、大きな建物がある」

王城、とまではいかないが、かなり大きな建物が存在していた。

こんなところにこのような大きな建物。
人も寄り付かない森の奥だということで、これまで秘匿されてきたのだろう。
命も、情報を掴むことが出来たのは僥倖であり、まったくの偶然だった。

建物の周りを、高さ3メートルほどの塀が取り囲んでいる上に、背後は高い崖という天然の要害。
唯一の出入り口であろう門にも、武装した見張りが2名、きちっと立っている。

「ほ〜。これほどとは、なかなか」
「感心してる場合じゃないでしょ勇磨君」

独自に動いて、近くの木陰に身を隠しながら確かめた勇磨が、
感心したようにこう漏らしたので、エルリスは苦言を呈する。

「命さん。ひとついいですか?」
「なに?」

同じく様子を見ながら、環は命に質問。

「まだ、その盗賊団のことを詳しく聞いていなかったと思いまして」

ここまでは、すべてが命主導。
盗まれた刀を取り返しに、ようやく情報を掴んだから乗り込むと、そう聞いただけ。
アジトの場所も彼女が知っているのみだったので、黙って付いてきただけだった。

組織の名前とか、内部情報など、聞きそびれていたことを思い出す。
攻め込む前に、大まかにでも知っておいたほうがいい。

「見た感じ、ただの盗賊団ではないような気がしますが。なんという組織なんですか?」

森の中に、これだけのものを造れるだけの組織力だ。
そんじょそこらの盗賊団ではあるまい。

「……」

命は、少しだけ、言うか言うまいか迷ってから。

「『カンダタ団』よ」

吐き捨てるように、その単語を口にした。

「カンダタ団…。なるほど」

確かに”彼ら”ならば、これだけのものも造れるかもしれない。
環は納得した。

「知ってるのか?」
「知っているも何も…」

相変わらず無知な兄に呆れつつ。
一応、説明してやる。

「王国どころか、大陸全体にその名を轟かす、一大盗賊団ですよ。
 窃盗事件の8割以上に関与していると云われ、良くない噂がいっぱいです。
 どうやらここが、彼らの本拠地のようですね」
「へえ、そうなのか」
「って、そんな大物が相手だったの!?」
「エルリス、声…!」
「あ…」

驚きのあまり、つい声を荒げてしまったエルリス。
注意されて慌てて口を塞ぐものの

「…ん?」
「今、何か聞こえたか?」

門を守っている見張りにも聞かれてしまった。

「人の声だったような…」
「気になるな。調べてみるか」

気付かれたか?
見張りの1人が、こちらに向かって歩いてくる。

「どっ、どど、どうしようっ!?」
「落ち着け!」

水色姉妹はパニックだ。
なだめるにも一苦労。

「…やむなし」
「命さん?」
「まさか?」

と、命がこんな発言。
ひとつ大きく息を吐いて、決意に満ちた表情になった。

環と勇磨が驚いたように、まさか、切り込むつもりか?

「………」

命が取った行動は…

「にゃ〜ご」

ネコの鳴き真似。
けっこう上手だった。

「…なんだ、ネコか」

事実、見張りもネコだと思ったようで、早々に引き上げていく。

「ふぅ。どうなることかと思ったわ」
「…おつかれ」
「…意外な特技をお持ちのようで、何よりです」

冷や汗を拭う命。
苦笑の御門兄妹。

まさかこんな手を使うとは思わず。
しかも、通用してしまうとは思わなかった。

「ご、ごめんなさい…」

そして、ひたすら平謝りのエルリス。
いつもとは逆に、セリスからフォローを入れられる始末だった。

とりあえず、その騒ぎが収まったところで、作戦会議だ。

「どうします?」
「どこかに、忍び込めそうな場所でもあればいいんだけど、あの分じゃ無理そうね」
「となると、正面突破しかないか」

自然に、御門兄妹と命の独壇場となる。
水色姉妹は、さすがに先ほどの失敗で懲りたのか、口に堅くチャックを施しているようで、
どんなことがあっても声を出さないぞとばかり、手で口を抑えて、目と耳だけで参加だ。

「そうですね。良い機会ですから、徹底的に叩いてしまいましょうか。どうです兄さん?」
「そうだな」
「ちょ、ちょっと。あんまり事を荒立てられても困るわ」
「大丈夫。兄さんと私とで当たりますから、命さんは刀を取り返すことだけをお考えください」
「雑魚は俺たちで引き付けるよ。がんばってくれ」
「わ、わかったわ」

環の大胆な意見に、命は肝を冷やした。

刀を取り返せればそれでいいのに、そこまでやる気など無いのに。
環ばかりか、勇磨もその気らしい。

命は大丈夫なのかと思いつつも、同意するしかなかった。

「カンダタ団が潰れれば、世の中はもっと良くなります」
「そこんところはよくわからんが、まあ、悪いことやってるヤツラを、みすみす逃すわけにはいかん」
「……」

つくづく、豪気な兄妹だと思う。
まだ出会って間もなく、彼らの実力のほども正確にはわからない。
が、命も剣士、ハンターの端くれ。

他人の実力も、ある程度はわかるつもりだ。
強気な言葉と、静かな表情の裏に秘められた、確かな自信を感じ取る。

「確かに、カンダタ団が消えるに越したことは無いわね。お願いするわ」
「ええ。コレはほとんどタダ働きですからね。その腹いせに暴れてやりますよ」
「そ、そう」

気を取り直し、改めて頼んでみるが。
八つ当たりで潰されてしまうカンダタ団に、少し同情したくなった。

「エルリスとセリスは、私と一緒に来て。援護を頼むわ」
「「(コクコク)」」

無言で頷く水色姉妹。
そこまで徹底しなくても。

「じゃ、行こうか」
「まず私たちが正面に出て、彼らを引き付けます。命さんたちはその隙に、中へ入り込んでください」
「わかった」

「では、3、2、1…」
「ゴー!」

茂みから飛び出る御門兄妹。
その間に、命ら3人は、左手のほうへと移動を始める。

「うおっ!?」
「なっ、何者――げはぁっ!」

しかし、移動することも無かったようだ。

「なんだ、てんで弱いでやんの」
「準備運動にもなりませんでしたね」

見張りの2人を、勇磨と環が一瞬でノしてしまったからだ。
応援を呼ぶ時間すら与えなかった。

「参ったわね、これほどとは」

命はいい意味で驚きつつ、水色姉妹を引き連れて、彼らのもとへと向かう。

不意を衝いたとはいえども、まったく無駄の無い、すばらしい飛び出し、動きだった。
しかも、彼らの真価は、まだまだこんなものではあるまい。

恐ろしさすら覚えつつ、歩み寄る。

「ご苦労様」
「いや。それよりも、気付かれる前にさっさと行こう」
「そうね」

慎重に様子を窺いつつ、門をくぐって敷地の中へ。
広い庭が見渡せるが、見える範囲に盗賊の姿は無かった。

「なんだか拍子抜けね」

そんなことを口に出来る余裕すらある。
苦労も何も無く、建物の入口へと辿り着いた。

「ここで大声を出して、ヤツラを引き付けることも出来るが、どうする?」
「やめておきましょう」

建物内へ入る前に、勇磨がこんな提案をするが、首を振る環。

「わざわざ誘き寄せずとも、そのうち寄ってきますよ。
 それに、最優先は、命さんが刀を取り戻すことですから」
「そうか、そうだな」

自分たちは、カンダタ団を潰すと宣言したが、闇雲にやってもしょうがない。
命には大目標があるわけで、とりあえずは、余計なアクションは起こさないでおこう。

「よし。じゃあ突入」
「あ、兄さん。慎重に――」

第一歩を踏み出した勇磨。
環が忠告をするものの、勇磨は既に、一歩目を建物内に踏み入れていた。

刹那。

ガッコンッ!

「――え?」

大きな音を立てて、一歩目を着地させるはずの床が、ぱっくりと大穴を開けたのだ。
当然、そんなことが起きるとは思っていないわけで。

「おわあっ!?」

目標物を失った足は、重力に従い、下へと落ちていく。
脚部に連れて、身体も前のめりに倒れていき、穴へと飲み込まれていく。

「くっ――!」

急いで何かに掴まらなければ!
咄嗟にそう思った勇磨。身体を捻り、後ろにいた誰かの手を掴む。

「…え?」
「あ」

だがしかし。

掴んだ手は、思いのほか、華奢な手で。
彼女の表情は、驚きに染まっていて。

環か、少なくとも命だったのなら、最悪の事態は回避できただろうか。

とにかく、現実に勇磨が手を掴んだ相手には、無理なことで。

「きゃぁぁああああ〜〜〜〜!!!」
「いきなり落とし穴とはぁぁあ〜〜〜!!!」

2人揃って、闇の中へと消えていった。





中編へ続く





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