黒と水色

第14話 「一報」










命が戻ってきたのは、それから5日後。

カンダタ団を壊滅させた、との報せを聞いたハンター協会が、どれほど大慌てしたか。
命に同行してきた検分役、調査員や、連行役の人数が、数十人規模だったことでよくわかる。

お縄になった首領のカンダタと、大勢の子分たちを文字通り”引き連れ”て、
彼らは王都へと戻った。

事の詳しい経緯など、協会での取調べに付き合わされること3日。

もともとお尋ね者となっていたことであるし、悪名高きカンダタ団を壊滅させたことに対して、
ハンター協会は相応の態度を取ってくれた。

金貨2千枚。
それが、今回のことに対する褒賞である。

もちろん、王国ハンター協会史上、最高額だ。

「なんかわたしたち、一気に大金持ちになっちゃったね」
「すごすぎて、実感なんか湧いてこないけどね…」

興奮気味のセリスと、夢なら覚めて欲しくないと願うエルリス。
今まで、1度にそんな大金を得ることになるなど、考えすらしなかったことなのだ。

しかも。
協会の対応は、さらに上を行っていた。

「いやぁ、勲章とは参ったね」
「ええ。畏れ多きことです」

この御門兄妹の言動である。

カンダタ団の壊滅は王国上層にもすぐさま伝えられ、国王もいたく感心なされたとかで。
その功績によって、勲章の授与が決まったそうなのだ。

「その上、Sランクへの昇格ってか」
「名誉なことですね」

加えて、その強さが認められて、5人全員を無条件で1ランク上げてくれるという。
御門兄妹はAからS、水色姉妹はCからBへ、命もBからAランクへとそれぞれ昇格。
すでにライセンスは更新されていた。

特に勇磨と環、Sランクへの昇格は非常に大きい。

Sランク以上への昇格には試験が無い代わりに、協会が『Sランク以上に該当すると思われる』と
認めた場合にのみ発給され、とても険しく狭い門となっているのだ。

現在、Sランク以上のハンターライセンスを持つ者は、全世界でも、両手の指の数にも満たない。
御門兄妹もその一員となった。

「でも、元々は命の考えたことだから、このお金は、命のものだと思うわ」
「いや、そんなことはないわよ」

エルリスがそう言うと、命はとんでもないと首を振る。
確かに、話を持ちかけたのは命だが、これは全員による成果だと。

「むしろ、助けてもらった面は大いにあるわけで。
 半分…ううん。全額をあげてもいいくらいなのよ」
「そ、それこそとんでもないわよ。私たちはおこぼれで、ランクが上がったし、
 勲章までもらえて、それだけで充分満足だわ」
「そうだよ! 命さんがもらうべきだよ!」
「だから…」

「はいはい。こんなことでケンカしない」

騒ぎ出す面々に、御門兄妹が仲裁に入って。
報奨金の分配は、このようになった。

「元は命の発案で、カンダタを仕留めたのも命なわけだから、一番手柄は命。
 だから、取り分は半分の千枚。これでいいね?」
「あなたたたちがそれでいいならいいけど……なんだか申し訳ないわね」

御門兄妹にも、水色姉妹にも、この決定に異存は無い。
すんなりと決まった。

「残りの半分を、俺たちとエルリスセリスで分けるわけだが」
「こちらも、半々にするのが妥当ではないでしょうか?」
「うん、そうね。と言っても、私と勇磨君は落とし穴に落ちただけだから、
 本来なら、こんなことに口を挟める立場じゃないけど」
「う…。そ、それを言うなエルリス」
「ふふふ」

その代わり、環とセリスが活躍したわけだ。
やはり、半分こにするのが自然だろう。

「というわけで、500枚ずつです」
「ええ、了解」
「500枚でも、見たことも無い大金だよ〜」

世間一般では、金貨を1枚でも持っていれば、それは”大金”と呼ばれる金額である。
セリスが浮かれるのも当然だった。






翌日。
勲章の授与式が行われ、なんと国王自らが出席し、直々に付けてくれた。

水色姉妹などは驚いた上に、緊張によりガチガチで。
直後に催されたパーティーでは、それはもう豪勢なご馳走が振舞われたが、
あのセリスでさえも、食べたものやその味を覚えていないほどだったとか。






後日のこと。
カンダタ団討滅の功による、式典だのパーティーなどが落ち着いた頃。

「それじゃ、私はこれで失礼させてもらうわね」

命がこう切り出した。

「え?」
「命さん、どこか行っちゃうの?」
「ええ」

意外そうに聞き返す水色姉妹だが。
命にしてみれば、これは当然だった。

「ひと仕事終わったわけだし。もともと、カンダタ団を倒す間だけって約束だったでしょ?」
「そうだけど…」
「それに、目的の『海燕』は見つからなかった。
 カンダタから売ったルートは聞いたけど、まだ見つかったわけじゃない。
 『海燕』を追わなきゃいけない」

命が旅している理由は、あくまで『海燕』を取り戻すことである。
その過程でカンダタ団を倒しただけであって、そのために、一時的に組んだに過ぎないのだ。

「寂しくなるわね…」
「うん……せっかく再会できたのに……」

水色姉妹の落ち込みようは激しかった。
彼女たちにとっては数少ない、気兼ねなく話せる友人だけに、別れは悲しい。

「そんな顔しないでよ」

命のほうも困惑顔だ。

「何も、今生の別れってワケじゃないでしょ? またどこかで会えるわよ」
「うん……元気でね命さん」
「また何かあったら遠慮なく言って。出来る限りお手伝いするから」
「ええ、ありがと」

命は笑顔で頷いて。

「あなたたちにも世話になったわね。それじゃ」
「ああ」
「お元気で」

御門兄妹にも別れの言葉をかけ、大通りの雑踏に消えていった。

彼女のほうも、長く険しい旅を続けるのだろう。
幸運を願うばかりである。





「…さて」
「私たちは、どうしましょうか?」

しばし、余韻に浸ったあと。
勇磨と環はこう尋ねる。

「え? あ、そうね……どうする?」
「どうすればいいかなあ?」

水色姉妹は、特に何も考えていなかったようだ。
むしろ虚を衝かれたようであって。
相変わらずの様子に、環はひとつ息を吐いた。

「自分たちのことなんですから、いい加減、少しは自覚してくださいよ…」
「あ、あはは…」
「ごめんなさい…」

明確な旅の理由は、この2人にもあるはずなのだが。
さて、どうするか。

「えっと……ユナからの連絡は、まだ無いわよね?」
「だったら……今度の今度こそ、王都観光だよ!」
「え?」

セリス、みたび咆哮。
エルリスは思わず固まった。

「セリス……。あなた、まだそんなこと言ってるの?」
「だぁって、決まったはずなのに、なぜかそのたびに邪魔が入るんだもん!
 観光したいよ!」
「最初はそうだったけど、2回目は、あなた自身が潰したんじゃない…」

1回目は、エルフのメディアが来訪したことによる中止だったが。
2回目は、セリスが命を見つけ、自分から命を捜しに行ったことによる中止である。

はぁ、とため息をつくエルリスであった。

「3度目の正直、か」
「2度あることは3度あるとも申しますが…」

勇磨は苦笑。
環もため息をつくばかり。

「王都観光っ!」
「だまらっしゃい」

引き続き吠えるセリスに対して、環はぴしゃっと言い放った。

「仕事です。お仕事しますよ」
「えー!」
「あなたもBランクに上がったんですよ? 一昔前の、私と兄さんのランクに並んだんですよ?
 Bランクといえば、もう一人前のハンターです。少しは自覚をお持ちなさい」
「あ…」
「…そうだったわ」

事実に気付いて、水色姉妹は愕然となる。

世間一般での認識として、Dランクは免許取り立てのド新人。
Cランクでもまだまだ半人前、Bランクになって初めて一人前とみなされる。
Aランク以上だと超一流レベルだ。

御門兄妹に出会った頃は、2人はまだBランクだった。
それに並んだわけで、知った途端に、ものすごい重圧に襲われる。

「ランクこそBに上がったものの、お二人には、まだまだ経験や技術が不足しています。
 これからもハンターとして食べていこうというのなら、この経験不足は命取りになりますよ。
 だったら、今のうちに経験を積んで、早く一人前になろうとはお考えになりませんか?」

「うん……ごめんなさい……」
「私たち、まだ甘く見てたみたいね…」

反省の水色姉妹。

いわば性急過ぎるランクアップであって、実力と心構えが付いていっていないのだ。
無理もないところであるが、自覚してもらわねば、これからが困ってしまう。

「というわけで、ギルドに行きますよ」
「ええ」

環を先頭にして歩き出す4人。
肩を落とし気味の姉妹に対し、勇磨がこっそりとフォローを入れる。

「ごめんね。環のヤツ、あれほど強く言わなくてもいいだろうに」
「ううん、いいの。間違ってたのは私たちのほうだし」
「勇磨さんが謝ること無いよ。環さんの言うとおりだもん。
 わたしたちのことを思って言ってくれてるんだってわかるし、もっとがんばらなきゃ。
 ね、お姉ちゃん?」
「ええ。がんばらないとね」
「その意気だよ。がんばれ」

軽く励ましを入れて。
エルリスもセリスも、力強く頷いてくれた。

「…!」
「? どうしたの?」
「い、いやなんでも」

セリスもそうだったが、頷いたときのエルリスの笑顔が、すごく眩しく感じて。
勇磨は思わず固まってしまった。

「なんでもないよ。あはは」
「そう? なんでもないならいいんだけど」
「変な勇磨さん」
「あはは」

苦笑の勇磨。
あの一瞬に感じた、あの感覚は、いったいなんだったのだろうか。

「何をしているんですか」

そんな折、彼らに向かって振り返った環。
遅れ気味の3人へ、鋭い視線を向ける。

「日が暮れてしまいます。早くしなさい」

「「はいっ師匠っ!」」

「………」

あまりに威勢の良い返事だったものだから。
面食らった環は、一瞬だけ目をパチクリさせて。

「…行きますよ」

「「はいっ!」」

くるっと向きを戻し、ぶっきらぼうに言った。
水色姉妹は再び元気よく頷いて、環のあとを付いていく。

「やれやれ」

こちらも、再び苦笑の勇磨。
意気込んでいるのは良いことだが、極端すぎるのでは、と思わないでもない。

彼も気を取り直して、あとを追おうとすると

バサバサッ

「…ん?」

近くから羽音が。
どこからかと思って探してみると、それは上空にいた。

「赤い鳥? 真っ赤だ」

勇磨が漏らしたとおり、音の主は、胴も背も尾も、頭も翼も全身が燃えるような赤い色の鳥。
真紅の奇妙な鳥は、勇磨の周りを取り巻くようにして飛び。

「おやま」

勇磨がくいっと腕を差し出すと、その上に止まった。
鳩くらいの大きさである。

「なんだおまえ。何か用か?」
「クルック〜」

返事をするように鳴く赤い鳥。
随分と人懐こい鳥だなと思っていると。

「兄さん! 置いていきますよ」

環からお呼びがかかる。

「あ、ああ、いま行くけど、この鳥がな」
「鳥?」

環も、この真っ赤な鳥に気付いた。

「これはまた珍しい色の……って兄さん。その鳥は」
「え?」

外見や、その行為に驚いただけではなく。
その内面を見抜いてのもの。

「その鳥は魔力を帯びていますよ。この波動は、ユナさんのものです」
「ユナの?」
「おそらくは彼女の使い魔でしょう。それがここに来たということは…
 兄さん、足に何か付いてます」
「あ、ほんとだ。なになに…」

よく見てみると、使い魔だという鳥の足に、何かが巻かれていた。
紙のようで、広げてみる。

手紙だろうか?
案の定、一言だけではあったが、言伝が書かれていたのだ。

「『スグカエレ』…」
「……」

「なに? どうしたの?」
「うわー、なにその鳥。真っ赤っか!」

この場では、水色姉妹の普通の反応が、少し微笑ましかった。






第15話へ続く



押して頂けると作者の励みになりますm(__)m



昭 和さんへの感想はこちらの方に

掲示板でも歓迎です♪



戻 る

作品を投稿する感想掲示板トップページに戻る

Copyright(c)2004 SILUFENIA All rights reserved.