GEAR
プロローグ『迷動』

最初に目にしたのは、とてつもない白だった。
それが光だと分かるのにさほど時間はかからなかった。目が慣れてくると、周りには白を彩る緑があった。
それは斑点のように広がって、所々から白が見えた。緑は生い茂る木々だった。

ここはどこだろう・・・。
妙に重い頭を動かし、右をみる。数本の木は右から左を目指して立っていた。
左をみる。今度は木々は右から左を目指している。そこで自分が横たわっていることに気づいた。
確かに、背に暖かな感触がある。

とりあえず起きよう・・・。
体が重い。気怠さが拭えない。このまま眠っていたい衝動に駆られる。
だが、そうもいかない。
それを振り切るように、ゆっくりと起きあがる。
起きるにつれ、白が見えなくなり、代わりに茶色に似た色が視界いっぱいに広がる。
下から上を目指す木々を見渡しながら、思う。

俺は誰だ・・・。
怠惰感が体を覆う。まるで水のように全身を走る感覚に、なんとなく反発したくなり、立ち上がることにした。
視界がかなり高くなった。

・・・高すぎるだろ。
目に新しい茶色は見えなくなり、先ほどと同じように緑が視界に広がった。白は戻ることはない。
体を動かすことにより、気怠さは薄れたが、頭がぼーっとする。まるで脳が霧に包まれているようだ。
それをうち消すように、考えてみた。

俺は・・・誰だ。ここはどこだ。何故俺はここにいるんだろう。
考えれば考えるほど、疑問は増えるばかり。

「・・・俺は、誰なんだ。」
口にしてみる。特に事態が好転するわけでもなかった。
ため息をつきながら、手のひらで額を覆った。
がつん、と金属がぶつかる音がする。

・・・がつん?何故そんな音が。
自らの手をみる。目にはいったのは、所々白が混じった黒い金属の手だった。
白は光が反射しているようだ。
「な、んだ、これ・・・」
呆然とつぶやく。あわてて体を見回した。

それは、漆黒の鎧だった。刺々しいわけではなく、どちらかというと曲線に近い。
触れた肩は少し尖っていて、肘には短めの太い針がついている。顔を両手で覆うと、フルフェイスの兜だった。後頭部には斜め上に伸びる角のようなもの。
その姿は騎士を連想させた。高さは2メートルほどあるが。
さらに、彼は驚愕の事実に気づいてしまった。

それは、感触だった。手すら堅い鎧であるにも係わらず、触ったところの感触が伝わってくるのだ。生身で触れているかのように。

落ち着け・・・。
彼は自分に言い聞かせる。

今は・・・この姿のことは良い。いや、良くはないが。待て、考えるな。混乱してしまう。そうだ、まずは人を捜そう。
そうと決まれば立ち止まっていては仕方がない。彼は鎧に包まれた足で歩く。
一度歩く度に、がちゃ、がちゃ、と金属がぶつかる音がする。が、その音も3つ4つで止まる。
原因は目の前にいる、何かのせいだ。

何か、とは姿が見えないわけでも、茂みに隠れているからでもない。。はっきりと色まで見える距離にいる。
だが、その姿が異様なのだ。彼の中で、いや、誰が見ても、動物ではない、と確信できる。

はじめは犬かと思った。もっとも体高が2メートル近い犬がいれば、の話だが。
その犬のような何かは、とてつもなく大きかった。少なくとも犬でまかり通る大きさではない。
ライオンか・・・もしくはクマといえば納得はできるだろう。が、ライオンにもクマにも、目の前の、何か、のように脇腹から足が二本あることはない。
犬のような何かには、足が合計6本もある。非常に信じがたい姿である。極めつけは、尻尾の先が、サソリの尾に酷似していることだ。

そもそも足が6本ある必要性はなんだ・・・?
あまりの衝撃に、場違いな考えをもってしまった。
その現実逃避も、犬のような何か、に中断させられる。
怪物は、短く吠えると、6本ある足を大いに使い疾走してきた。

なるほど。十分に活用できるな。6本は。
などと考えている暇はなかった。咄嗟に横っ飛びをし、飛びかかってきた怪物から間一髪で逃れる。
息つくこともできなかった。尻尾が、彼を突き刺さんとする勢いで振り下ろされたのである。
ほとんど四つん這いの状態で避けられるはずもなく、その胸に針が当たった。

甲高い金属音がなった。

・・・って、痛いじゃないか!
確かに、鎧ならば多少のことなら平気だろうと、たかをくくったのは事実。
現実はそれほど甘くなかった。感触が分かる、イコール、刺されればそれなりに痛い。
だが、その痛みで逃げ腰だった気持ちに喝が入った。まぁ、早い話がムカついたのである。

「くそっ!」
悪態をつき、半座りの状態から、右足を蹴り上げた。丁度その上に怪物の腹。
ずどん、という鈍い音が響き、怪物の体が宙に浮き、鋭い牙がずらりと並んだ口から呻くような息が漏れる。。
上げた足を思い切り地面におろす。これまた、ずん、と太い音がし、蹴った地面に右足がめり込む。
そんなことは気にせず、叩きつけた反動を利用し、立ち上がる。同時に左手で拳を作り、
空中で無防備な怪物めがけて、渾身の力で振り下ろした。

・・・そんなバカな。
結論からいうと、今度は鈍い音はしなかった。かわりに、棒が水の入った風船を突き破るような音がした。
拳を作った左腕は、怪物の脇腹を突き抜けたのである。しかも、振り抜いたせいで、腹を裂いた。
気色悪いので、ここは自主規制。脳内補完をしていただきたい。
ポタポタと血が滴る左手と、怪物の死体を交互に見る。

ここには居たくない。
ここから離れよう。自らが手をかけた生物であった物が、横たわっているのだ。
長居したくないと思うのを、臆病というのは酷であろう。
早足でその場をあとにした。

どれ程進んだだろうか、未だ頭上から白が降りそそいでいるのをみると、そう時間はたっていないのかもしれない。
不意に足をとめた。

・・・この音は・・・。
微かにだが、はっきりと聞こえる。これは水の流れる音だ。
右の方角から聞こえてくる。
考える間もなく、その方向へ足を進めた。

目的の場所にはすぐに着いた。
さらさらと流れる透明でありながら白光を帯びた水。そう大きくもないが、川だ。
川底が見える。中々綺麗な水のようだ。
もはや血が固まってしまった左手を川の中へいれる。少し擦るとすぐに落ちてくれた。
ついでなので、他の箇所の汚れも落とすことにする。

川・・・ってことは、上か下に人がいるはず・・・。
そう。水は人にとって重要な生活源。集落を作るなら水源の近くに作るはずだ。
川の流れを見てみる。あまり早くはない。むしろゆったりとした流れだ。

・・・ということは、下流に近いな。
思案する。そこで考えに行き着いた。
・・・どっち行っても居るはずだろ。
まぁ、そういうことである。
手近にある平たい石を拾い、片面に傷をつける。鎧に包まれた手の先は鋭い爪だ。簡単に傷をつけることができた。

・・・傷が裏。表は上へ・・・と。
その石を親指で弾く。宙で回転している石を掴むと、片方の手の甲に乗せた。
押さえつけた右手を開くと、傷の無い石があらわれた。

「上か・・・。」
そうつぶやくと、彼は川の上流へと歩き出した。
なんとなく川を見ながら歩く。川水は揺れるごとに白光を弾き、川底をみせる。
そこには小魚が流れに負けじと泳いでいた。
かなり歩き、途中命の危機にさらされ、目の前に自然の宝庫ともいえる川があるにも関わらず、
不思議と喉は乾いていなかった。

・・・その前に、どうやって脱ぐんだ、これ。
試しに顎のあたりを指でなぞってみる。感触が分かるのは幸いか。継ぎ目のような部分がある。
親指をそこにかけ、上に上げてみる。
だが、どれだけ引っ張っても取れる気配がない。むしろ痛い。頬を抓られたときの痛みに似ている。
歩きながら、あれやこれやと試してみたが、全く外れない。
仕方がないので、今はあきらめることにする。ため息をつきながら、遅々とした足取りを速めた。

「お」
思わず声を上げた。森から抜けることができたのだ。
少し左を行ったところに、整理された道のようなものがある。

川沿いより、あっちが確実かな。
道案内をしてくれた川に感謝しつつ、新たな道しるべを辿る。
周りを見渡す。多少の高低差はあるものの、草原といって差し支えないだろう。
緑の大地がどこまでも広がっているような感覚になる。
そこで、妙な違和感に襲われた。

・・・何も居ない?
どれだけ注意深く見渡しても緑色以外見つけることが出来ない。時たま灰色の大きな物を発見するが、あれは岩だ。
もしかしたら、草原は天敵に見つかりやすいので、出ていないだけなのかもしれない。
だとしたら、人は?
と考えるが、森に遭遇したアレを思い出す。
あんなものが沢山居てはたまったものじゃないが、もしそうなら、人が外に居ないのもうなずける。

・・・ん?じゃぁ俺危険なんじゃ・・・。
怪物がアレの種類しか居ないとしても、こんな見渡しの良い草原に一人ぽつんと獲物が居れば集団でくるだろう。
そうなれば・・・。
身震い一つ、足を速めた。


もうかなり歩いただろうが、白は尚も頭上から照らす。
感触はあるが、暑さを感じず、水が欲しいとも思わないのは不幸中の幸いというやつだろうか。
記憶が無く、今居る場所すら把握できていないし、果ては怪物に遭遇。これで飢えや乾きに襲われてはたまったものではない。
そして、歩いても歩いても疲れないのも好都合だ。

もしかして俺人間やめちゃったか?
歩みを止め、そんなことを笑いを添えて思ってみる。洒落にもならなかった。
肉体的な疲れはないが、精神的な疲労感は、かなり、くる。
気を紛らわそうと顔を上げてみる。目にうつったものに安堵を感じた。

「・・・村・・・か?」
少し先の丘の上に見える、探し続けた人のいる場所。村から上がる数本の白い線が、人の存在を教えてくれている。ビバ、ビレッジ。
彼は止めた足を再び進ませた。










後書きΣd
ども〜、酒呑 童で〜す。
DEGISOUL終わってないのにオリジナルに手を染めてしまいましたよ、あっはっは。ごめんなさい。

さて、『GEAR』如何でしたでしょうか。
これは私が妄想してた物を文章にしてしまったものです。この時ほど自らの文才の無さが悔やまれます。
もっと・・・こう・・・ねぇ?
それはおいといて、皆様のお目通りにかかっていただければ至極光栄にてございまするで候。
できれば、感想なども頂けたらと思いまするで候。批評もお待ちしておりまするで候。
中傷はいやん。泣きます。

ではでは、また第一話かもう片方にて。

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