第17話




 スウェーデン南部は、湖沼が多く、それゆえ対BETA戦闘技術もやや特殊である。点在する湖沼で足を取られることがないよう、匍匐飛行に特化した機体が独自に開発されているのだ。例えば、スウェーデン王国純国産機JA-37ビゲンは、1986年から配備が始まったスウェーデン王国軍の主力機であるが、スウェーデン南部での運用に最適化されている。逆に言えば、スウェーデン以外の地域での運用には適さないという極端な性格の戦術機である。

 現在、御剣とも提携しつつ、第三世代戦術機JAS-39グリペンが開発されているらしいが、ビゲン同様、湖沼地方で機動的に展開できるように、匍匐飛行に力を入れた機体に仕上がることであろう。

 ロヴァニエミ・ハイヴから旅団規模のBETAの南下が開始された、という報告を受けて、ブリーフィング・ルームに向かう道すがら、悠陽はスウェーデン王国軍制式機についてそんなことを思い出していた。

 もっとも、主戦場になると想定されている、ストックホルムの400km北方の都市スンツヴァル周辺には湖沼は少なく、通常の戦術機でも十分機動的に動けるようである。湖沼地帯に特化したスウェーデン軍と異なり、米国製のF-16ファルコンやF-15イーグルを主力とする北極海方面国連軍としては、湖沼地帯を避けたいのであろう。F-5Eトーネードなども混じっており、ここが欧州戦線なのだと改めて実感させてくれる。

 副官の神野中佐を伴って、ブリーフィング・ルームの扉を開けると、一斉に士官たちがこちらを見た。未だに悠陽を見て眉を顰めるものもいたが、多くの者はもはや悠陽を無視して神野のほうを見ていた。見るからに怜悧で頭の回転の早そうな神野こそが、斯衛部隊の実質的指揮官であろう、と考えてのことだ。東条少佐の姿も見えたが、目が合ったとたん、慌てて目をそらせていた。帝国軍本部に、私についてあることないこと報告していて、後ろめたいのかもしれないな、と悠陽は嗤う。


 ブリーフィング・ルームを満たしていたざわめきは、ロンメル司令が登場すると、静まった。

「これからブリーフィングを始める」

 良く通る声で、ロンメルが作戦の説明をはじめた。

「旅団規模のBETAが現在、ロヴァニエミ・ハイヴから南下を開始した。明日の昼過ぎには、スンツヴァル周辺に達すると予測される。それゆえ、国連軍第2師団と第3師団をスンツヴァル北方に展開させ、これに対処する」

 ここまでは、対BETA戦術の常道といってもいい。何もおかしな点はない。一呼吸置いたのち、ロンメルは続ける。

「前回のBETAの侵攻から大分経っていること、その間、こちらに十分な戦力の補充がなかったために間引きを行っていなかったことから、既にハイヴは飽和状態にあると推測される。にもかかわらず、侵攻規模が一個旅団相当というのは、やや不自然である」

 ロンメルの分析に、その通りと納得するものもいれば、所詮BETAが考えていることはわからない、と受け流すものもいる。

「かつてのストックホルム侵攻時と同様、地中から旅団規模の別働隊が侵攻している可能性もある。だから、油断は出来ない。最近の中国戦線ではそういうパターンが多いそうであるしな。そこで、第5連隊と第8連隊をスンツヴァル南方に展開させ、警戒にあたらせる。何もなかったら、それはそれでいい」
「了解いたしました」

 第5連隊と第8連隊の幹部が返答するのが聞こえる。

「万が一に備えて、スウェーデン王国軍第1戦術機甲師団がストックホルム防衛に展開してくれるそうだ。スウェーデン国軍第6戦術機甲連隊も、第5、第8連隊に同道してスンツヴァルに来てくれるようだ。皆、スウェーデン軍の前で無様を晒すんじゃあないぞ」

 スウェーデンは、そもそもBETA侵攻以前の人口が700万人程度。国土の半分をBETAに切り取られ、多くの国民が兵士として戦死し、国外に難民として流出した結果、今や国軍は実質二個師団のみ。国防のための主力を国連軍に頼らなければならない、小国の悲哀がそこにはあった。

「司令こそ、愛しのエクルンド少佐が見てるからって張り切りすぎないでくださいね」

 誰かが野次を飛ばし、どっと笑い声が広がる。無闇矢鱈と帝国軍人が見たら、さぞ顔をしかめるだろう。現に、東条は全く笑っていない。

「うるせえ。今下らんことを言った奴、BETA掃蕩後、ここにいる全員に合成ビールをおごれ。これは司令命令だ」

 部下も部下なら、司令も司令。度重なる戦闘を経た彼らにとって、これも一種の戦闘前の儀式なのかもしれなかった。職権濫用だ、とか司令の横暴だ、とかいう笑い声があちこちから聞こえてくる。

「ああ。当然だが、俺も前線に出る。お前らの動きはちゃんと見ているからな。サボっている奴がいたら、ただじゃおかないぞ。覚悟しておけ」

 データリンクがあるとはいえ、前線で戦場の空気を知らないと、効果的な戦闘は行えない、とロンメルは常に主張し、基地司令であるのに前線で指揮をとる。聞いた話では、移動指揮所がBETAに襲われかけたのも、一度や二度ではないそうだが、ロンメルは一向に改める気配がないという。非合理極まりない話ではあるが、実際それで成果が上がっているうえに、兵士たちの士気も高まる、ということで、最近では誰も文句を言わなくなったらしい。

「ああ、言い忘れていたが、日本から来たお嬢様も参戦してくれるらしい。有難い話だ。第5、第8連隊に同道して、スンツヴァル南方を固めてもらう」

「命令、了解いたしました」

 悠陽は、淡々とロンメルに返答する。

「沿岸部には、海軍第二戦隊を展開させておく。レーザー種を倒して、艦砲射撃で掃蕩して、さっさと基地に戻るぞ」

 いくらなんでも作戦説明にしてはあまりにも大雑把すぎやしないか、と悠陽は思う。

 だが、ロンメルのやり方に皆なれているのか、異論は出ない。それどころか、将校たちは声を揃えて、了解を伝えた。

 後で知ったことであるが、ロンメルは大雑把な方針を決めたら、作戦の細部は参謀たちに作成させ、それをデータとして各隊に送っているらしい。しかし、こちらの想定どおりに動くことのほうが少ないBETAのこと、ロンメルは大枠の方針をもとに、細部は現地で次々と個別命令という形で具体化させていく。それゆえ、彼の指揮下の部隊に何よりも求められるのは、突発的な命令にも柔軟に応じられる即応性であった。予め、図面演習をもとに、詳細で綺麗な作戦案を作成する帝国軍参謀本部とは好対照であった。


 型破りのブリーフィングが終わるや、悠陽は斯衛の衛士たちが詰める控え室に足早に向かう。ブリーフィング・ルーム前で悠陽を待っていた真耶と真那が神野とともに悠陽の後に続く。

「神野、今回のロンメル中将の作戦、どう思います?」

「ハッ。地上から侵攻する集団以外に、高確率で別働隊がいると睨んでの布陣ですが、何故司令がそこまで別働隊の存在を確信しているのか……。先ほどの説明では、根拠がやや弱いようにも感じますが、そこは長年対BETA戦闘の指揮をとってきた指揮官の勘ということなのでしょうか」

「確かにそうですね。ですが、スンツヴァル北方に二個師団を展開させるとは言っても、兵の補充が間に合わず、実質的に両師団併せて一個師団強程度の兵力のはずです。純粋に、兵力量からみて、別働隊がいた場合、相当苦しいことになりそうですね」

「もともと、北欧は国土に比して人口が少ない地域ですから……。どうしても兵力面で中欧や西欧と比べて弱くなってしまうかと……。むしろ、この少ない兵力で、こうも戦線を維持できるロンメル中将の手腕には空恐ろしいものを感じます」

 対BETA戦争は、対人戦争と異なり、戦略や戦術面で選択の余地はあまりないというのが常識のはずであったが、何故かロンメルはそういう常識を覆してしまっているらしい。

「そういえば、東条はどうするつもりなのでしょう。私の面前でなお、作戦中に戦術理論がどうのと言い出すようであれば、無理矢理にでも帰国させなければなりませんが……」

 少しは教科書を離れて、自分でモノを考えることができないものか、と悠陽は嘆息する。

「あれ以来、鳴りを潜めているようですが……。何を考えているやら、わかりかねますな」

 まあ、よい、と悠陽は思う。何か問題を起こすようなら、参謀本部に働きかけて、彼を召還させるし、無害なようなら放置しておけばよい。
 そのようなことを話しているうちに、斯衛に割り当てられた控え室に辿り着いた悠陽一行であった。



 斯衛軍第25特別大隊は、12機編成の三個中隊に、悠陽とその直衛の真耶、真那の3機が加わった39機編成である。全機迅雷で構成されており、悠陽の指導のもと、訓練を重ねてきた。

 その第25大隊を率いて、スンツヴァル南方に展開しながら、悠陽は、北方に展開中の国連軍第3、第4師団が旅団規模のBETA集団に攻撃を仕掛ける様を、データリンクを通じて確認していた。今のところ、スンツヴァル南方にBETAが出現する兆しはなく、有体に言えば暇だったのである。

 スンツヴァルは、海に面したスウェーデンの小都市。ストックホルムの北方約400kmに位置する。市街の東側には、バルト海北部の入り組んだボスニア湾が広がる。北部と南部には平野が広がるが、西部はなだらかな丘陵地帯である。野戦砲よりも格段に砲撃能力に優れた戦艦砲の支援を受けやすい地形であり、戦術機部隊を展開させるにも理想的であった。それゆえ、スンツヴァル近郊には、国連軍第3、第4師団が配備されているのである。繰り返された戦闘により、かつての美しい町並みは見る影もなく破壊され、あちこちに点在する砲弾跡の窪みには、水がたまり、小さな池となっていた。


 戦闘は、教科書どおり、洋上艦隊からのAL砲弾による飽和攻撃で開始された。しかる後に戦術機部隊がBETA集団と接敵する。

 戦術自体は普通なのか、と思っていた悠陽であったが、良い意味で裏切られることになる。

 一隊がBETA前衛集団に対して陽動を仕掛け、残りの部隊で陽動を支援している一方で、大隊規模の別働隊が一気に後方のBETA集団に突入したのである。しかも、最大速度を緩めず、目前のBETAをほとんど倒さないまま、最後方に位置する重レーザー級目指して一気に進んでいる。

「これは……我々が迅雷を用いた対BETA戦術として検討していたものに近いですね」

 悠陽は、神野に対してそう語りかける。

「はい。BETAの先鋒や中堅を一切相手にせず、前進するために必要な最低限度の攻撃をしながら、最大速度のまま一気に重光線級に迫り、これに打撃を加える。しかるのち、BETA中堅集団が追いついてくる前に、敵陣を突破する。言うのは簡単ですが、常識で考えれば、不可能です。最大速力を保ったままBETAの密集陣を突破することは、非常識な反応速度を持たない限り不可能ですが、速度を落として前方に対処しようとすれば、後方から反転してくるBETA集団に追いつかれ、挟撃されます」

「その通りですね……。我々は、ハイヴ内の対BETA戦術を地上戦術に応用しようとして、この戦術をシミュレートしてきました。しかし、これは迅雷の高速機動能力があってはじめて可能となったものです。なのに、あの大隊。恐らくはイーグルを中心とする編成のはずです」

「はい。正直に申し上げて、イーグルでこれができるとは信じられません。よほど腕の良い衛士を揃えたのか、イーグルに相当の改良を施しているのか……」

「まもなくあの突出している大隊が、最後方の重レーザー級に接敵します。未だに信じられないことですが、彼らは、どうやらイーグルで迅雷並みの成果を上げつつあるようですね。おそらく、基地のトップエースをあの突撃中の大隊に集中的に集めて運用しているのでしょう」

 世にはまだまだ、自分が知らないだけで、信じられないほどの腕前を持つ衛士がいるものだ、と悠陽は嘆息する。あの大隊、どうやら第12戦術機甲大隊のようだ。ということは、イルマや、ターヤ・コルピ大尉、村上中尉らがBETAの大群の中で、友軍から孤立して大活躍をしているのであろう。

「どうやら、司令が危惧していた別働隊が出てくることもなく、旅団規模のBETA集団を極めて少ない損害で圧倒できそうですね。重レーザー級がなくなったら、艦隊からの飽和砲撃、その後に掃蕩戦という流れでしょう」

 活躍する場が与えられなかったのは残念だが、自分たちがシミュレータで検討してきた戦術に近いものを実戦で見ることができて幸いだった。そう思った悠陽だった。

「ですが、これでは、確かに東条少佐がロンメルは戦術理論を知らない、などと喚くのも納得できますね」

 神野がしみじみと語る。
「もし、我々が最初にこの戦術をとっていたら、参謀本部に跋扈する東条のような参謀たちから、教科書を知らないといって相当攻撃されたことでしょうね」

 悠陽は、そう応じる。参謀たちだって、大学の試験や図上演習では優秀なのだ、前線に引き摺り出せば、前線の教訓を汲み取って、一皮剥けるはず。そう考えて中堅参謀たちを各戦線に派遣したのに、東条はあのザマだ。他の参謀も同様だとしたら、困ったものだ。

「……っ。これはっ。悠陽様、CPより連絡です。地中からのBETAの侵攻をキャッチ。予定出現域は、スンツヴァル市街の南方約3キロの地点。我々の5キロ北方にあたります。出現予定時刻は、今より10分後。国連軍第5、第8連隊及びスウェーデン国軍第6連隊と共同して対処するようにとの命令が出されました」

 隊内で観戦気分は消え、一気に戦闘に向けた緊張が高まる。戦闘前のこのほど良い緊張感が心地よい。隊内全機に通信回線を開き、連絡する。

「こちら、プロミネンス1、煌武院悠陽です。各機、情報は確認していますね?我々は、国連軍第5連隊の左翼に展開します」

「ハッ」

 ロンメルの命令は、沿岸部をスウェーデン国軍第6連隊、中央を国連軍第5、第8連隊に担わせ、最左翼を斯衛に展開させる、というものであった。恐らく、最左翼にはBETAはほとんど来ない、という想定なのだろう。彼らの目標がストックホルムであると高確率で推測されている以上、その想定は間違いではないはずだ。

「10秒後にBETA出現します。……6、5、4、3、2、1……」

 CPの声が響く。
「BETA出現」

 瞬間、地表が爆発して、BETAが飛び出してくる。
 データリンクを介して、その映像を見ながら、悠陽は違和感を拭えなかった。

「こちらプロミネンス1。CPへ。光線級と重光線級がいないようですね」

「こちらCP。いえ、後方から若干の光線級の存在が確認されています。ですが、旅団規模と推定されるBETA勢力に比して、その数は明らかに通常よりも少ないです。BETA編成は、突撃級と要撃級、戦車級が主軸の模様です」

「こちらプロミネンス1、要塞級もいないのですか?」

「こちらCP、要塞級もほとんど確認されていません」

 CPの報告を受け、あまりにも奇異だと悠陽は思う。光線級の支援のないBETAなど、艦砲射撃のよい標的だ。最後尾に光線級が若干いるらしいが、それではやがて飽和砲撃に対処できなくなる。ハイヴ内のBETAは飽和一歩手前の状態と推測されているのに、この編成は何だ。

――相手が人間であれば、陽動を疑うところであるな。

 悠陽の疑問に、ハマーンがそう答える。

――陽動ですか?
――ああ、例えばこの地点に重光線級と光線級を中心とする第3集団を出現させたら……。

 BETAは戦術など使わない。これは、対BETA戦闘の常識であるはずであった。しかし、この3度目の生においては、今までと比べてBETAの行動が明らかに変化してきている、と悠陽は思う。いくらなんでも陽動などという高度な戦術思考をBETAが獲得した、などとは考えたくないところであるが、万が一の可能性も考えておくべきか。

 移動指揮所においても、同様の可能性に気づいたものがいた。言わずと知れたロンメルである。BETA第二集団が出現したのは、予想通りであった。出現ポイントも想定地域のど真ん中。

 だが、出現したBETA属種の報告を受けたとき、ロンメルは、即座にその異常性を看破した。

「光線級と重光線級についての報告は、間違いないんだな?」

「ハッ。光線級、重光線級ともに中隊強程度の規模です。標準的なBETA集団の構成比率からしますと、過少であるとしか申し上げられません」

 情報担当将校がそう告げる。

「BETAの第三集団地下侵攻の可能性を視野に入れておくべきだな……。第二集団出現域以外の地域で、地中振動は感知されているか?」

 ロンメルは、大声で問う。
「ハッ。現在までのところ確認されておりません」

「ふむ。まあ、よい。光線級が少ないということであれば、AL砲弾発射後、支援砲撃を集中して行う。砲撃予定区域を各連隊に通達しておけ。北方のBETA第1集団を突破した第12大隊はどうしている?」

 虎の子であるだけに、遊ばせておくわけにもいかない。

「ハッ。飽和砲撃終了後、BETA第1集団に再突入すべく、第1集団北方にて展開中です」

「第1集団に対する艦砲射撃は直に終了する。奴らはもはや然したる脅威ではない。第12大隊は、市街地を反時計回りに迂回して、BETA第2集団後方に進撃するよう通達しておけ」

「ハッ」

 CP将校が直に第12大隊に連絡を送る。
 その瞬間、情報担当将校から、恐るべき一報がもたらされる。ハマーンやロンメルが危惧していた展開であった。

「スンツヴァル西方2キロの地点でBETAの地中侵攻振動を確認。予想出現域は、スンツヴァル西方5キロの丘陵地帯です」

「まずいな……その丘陵地に重光線級が多数出現されると厄介だ。洋上艦隊、北方に展開中の第3、第4師団、南方を支えている各連隊の全てに対して、障害物なしにレーザー照射を行える」
最悪のケースとしては想定していた。まさに、その地点にBETAが出現するとの予想である。その最悪のケースに備えるために、第12大隊をスンツヴァル西方経由で南下させていたのだが、間に合うかどうか。

「BETA第3集団、出現します。旅団規模と推定。構成は……突撃級が少なく、前衛集団を要撃級と戦車級。後方から……重光線級、光線級、要塞級が大量に出現。奴らだけで二個連隊規模ですっ」

 オペレータの絶叫が指揮所に響く。

「第12大隊はどうか」

「ハッ。まもなく接敵いたしますが、光線級、重光線級の規模が大きすぎ、彼らだけでは対応しきれませんっ」

 さて、どうするか、とロンメルは考え込む。第5、第8連隊はBETA第2集団に対する主力であり、これを差し向けることはできない。沿岸に展開中のスウェーデン国軍第6連隊は余裕があるが、沿岸部から西部丘陵地に進軍するには、時間がかかりすぎる。どこまで当てになるかわからんが、南方戦線最左翼で遊ばせている日本のインペリアル・ガード第25大隊に頼るしかないか、と思う。初陣で、第12大隊クラスの手腕がなくては全滅必死の戦闘へ投入するのだ、恐らく誰も生き残ってはこれまいが、全軍壊滅よりははるかにマシである。

 あんな小さなお嬢さんを死なせるのは、忸怩たるものがあるが、仕方ない。そんな悲劇、これまで嫌というほど見てきたし、自らの指示で生み出してもきた。今更だな、と思い、命令を伝えようとする。

 そのとき。
「司令、プロミネンス1より通信。これよりBETA第3集団に突撃し、光線級の脅威排除にあたりたい。裁可を求む。以上です」
CP将校が、信じられない、という表情を隠そうともせずにそう報告してくる。
 悠陽の提案が採択されたのは、その直後のことであった。




――では、頼みましたよ、ハマーン。
――任せておけ。この程度の危難、凌げぬようでは、精鋭でのハイヴ攻略など夢のまた夢だ。それに、この戦線の将兵は恵まれている。あのロンメルという将軍、さすがに判断が早い。恐らくは、我らが提案する以前に、斯衛をBETA第3集団に突撃させるつもりだったのだろう。北方から突撃中の第12大隊も同様だ。

 自信に満ちた返答をハマーンは返す。潜り抜けてきた死線の数ならば、誰にも負けない。戦闘を前にした、統制された興奮と一層冷たく冴えわたる思念の融合が、悠陽にも伝わってくる。

「プロミネンス1より、プロミネンス全機。楔壱型で前方BETA第3集団に突撃する。今までの訓練どおり、護衛の要塞級や要撃級には構うな。最大速力を維持したまま後方の重光線級と光線級を一気に殲滅する。いいな」

「ハッ」

 了解の声が一斉に伝わってくる。

「よし。突入までに最低1度はレーザー照射を浴びることになる。全機対レーザー大盾を構えておけ。脚部ジェット推進起動」
「悠陽様、全機準備完了いたしました」

 神野が、相変わらずの冷静な声で報告する。

「よし。突撃する……。全機、我に続けっ」

 下知と同時に、ハマーンはBETAに対して一気に戦闘加速で突入する。斯衛各機は、陣形を維持したまま、ハマーンの後に続く。斯衛軍のはじめての対BETA戦闘は、このようにしてはじまった。



 反時計周りにスンツヴァル市街を迂回し、北西からBETA第3集団に突入した国連軍第12大隊であったが、さすがの彼らをもってしても、大隊単独で旅団規模のBETAに対するというのは無謀にすぎた。BETA第1集団を突破できたのは、他部隊による支援陽動あってのことである。

 第3集団は、要撃級や突撃級こそ少ないものの、目標である重光線級を守るように、要塞級が展開しており、厄介なことこの上ない。少しでも手間取れば、無視してきたBETAが後方から戻ってくるのである。他部隊からの支援を当てにできない中での突入は、あまりに絶望的であった。

「まずいわね。さっきの第1集団への突入では損耗率は1割未満だったけれど、もう損耗率が3割近い。支援陽動がないから、重光線級に辿り着くまでに倒さなきゃいけないBETAも多い」

 このままでは、目標達成も儘ならずに全滅してしまう、とターヤは唇を噛む。狙撃が得意な彼女は、後衛。それゆえに戦況を比較的に冷静に判断できる。見れば、同じ後衛の後輩イルマは、戦闘経験の少なさが祟ってか、精神的に強い負荷がかかっているようで、先ほどからバイタルが安定しない。当然、無駄弾も増加傾向にある。いくらエースとはいえ、10代半ばの少女である。

 ターヤが率いる第2中隊で突撃前衛を担っている村上は、相変わらずクレイジーな機動でBETAを翻弄して、前へ前へと進んでいる。既に大隊相当の重光線級を排除している彼女たちであるが、第1集団への突撃で蓄積した疲労もあって、次第に動きが鈍くなりつつある。

「イルマっ!」

 見れば、先端部から強力な酸を放つ要塞級の触手が、横から高速でイルマ機に向けて伸ばされる。イルマに向かって叫んだけれど、間に合いそうにない。

「キャアァァッ」

 間一髪、中枢部への一撃は避けたイルマであったが、左肩部を壊されてバランスを崩す。

「まずいっ」

 体勢を崩したイルマ機に向けて、要塞級が脚を振り下ろそうとする。あの直撃を食らっては、戦術機などひとたまりもない。だが、ここで足を止めてイルマ救助に向かっても、間に合わないし、戦列から離れて孤立する。また若い部下を一人失うのか、と唇を一層強く噛んだ瞬間。

 イルマに振り下ろされようとしていた要塞級の足が吹き飛んだ。眼前を高速で通りすぎるのは、真っ青な機体。ターヤたちを一顧だにすることなく、地表を滑るように高速移動しながら、第12大隊の斜め後方に向かって更に切り込んでいく。さらに、蒼い機体と同じタイプの赤い3機が長刀を持って、すれ違い様に、瞬時に要塞級を解体、うち2機はそのまま蒼い機体に追随して斜め後方に流れ込んでいく。見れば、大体規模の同型戦術機集団が、高速で第12大隊の脇を掠めるようにしてBETA集団に突入していっている。

「日本帝国斯衛軍……」

 ターヤは、自分のものとも思えないかすれた声でつぶやいた。確か、迅雷という機体のはずだ。基地のハンガーで見た記憶がある。
 速度を落とした赤い機体から通信がはいる。

「こちら、斯衛軍第25特別大隊、副長の神野尚彦中佐だ。コールサインはプロミネンス2。司令部の命令により、当BETA集団に突入、重光線級排除に当たっている。そちらの機体の損傷はどうか?」

 赤い強化服を纏った30代と思われる男性が網膜に投影される。あのお嬢さんの副官だ。
「ハッ。こちら国連軍第12戦術大隊ターヤ・コルピ大尉であります。コールサインはアロー1。損傷したアロー4は自力走行に問題ありません。このまま大隊に随行させます」

 慌てて返答する。

「了解した。こちらは既にBETA第3集団南部の重光線級は排除した。これより、北東部に残存する重光線級集団の脅威を排除する。以上だ」

 そう言うや、通信を切り、再び戦闘加速で後方に流れ去る赤い迅雷。横を見れば、イルマが体勢を立て直している。まだ付近にはBETAが多い。本隊に追いついて、早く南部へと抜けなくては、と思い、ターヤはイルマを引きつれ、斯衛が開けた穴をたどる。
 第12大隊が、3割近い損耗率を出しながらも、BETA第3集団を横断して、東側へ抜けたのは、それから10分後のことであった。いくらマグネット・コーティングや臨界半透膜などによって、対BETA戦闘での損耗率が減っているとは言っても、イーグルで2度もBETA集団に突撃を行い、損害を3割に抑えた、というのは驚嘆すべき業績であった。




 一方、ロンメルの裁可が降りるや、BETA第3集団に向けて突撃した斯衛軍第25大隊であったが、こちらはこちらで奇妙な現象に遭遇していた。もっとも、奇妙といっても、斯衛の衛士たちが違和感を覚えたというのではない。むしろ、客観的に見れば奇異であるはずなのに、彼らが主観的には一切違和感を覚えなかったところに、主観と客観のズレが横たわっていた。

 戦術機を操作せず、ハマーンを介して大隊の行動を眺めているだけの悠陽が、第25大隊の異常性を最初に認識した。

 おかしい、と悠陽は思う。
 ホバリング走行による高速滑走で楔壱型を維持しながら、第25大隊は易々とBETA前衛集団を切り裂いていった。同時に、戦闘により高められたハマーンの知覚領域を通じて、大隊の思念が伝わってくる。本当は、ニュータイプは戦場全体の思念を知覚してしまうものらしいが、どうやら彼女は自分に関係する思念だけをつなぐことができるらしい。戦場全体に広がる興奮や悲鳴、死の絶叫は漠然と感じ取れるだけである。

 最初こそ、初めてBETAと相対した緊張や恐怖、軽い恐慌などが、ハマーンを経由して大隊員から伝わってきた。初陣だ、仕方ない、と思う一方で、彼らが恐怖ゆえに致命的失敗をしないよう祈る他ない悠陽であった。しかし、ハマーンが大隊員の思念を落ち着かせるよう誘導したのか、あるいは戦場という極限状態の偶然の産物か。冷厳で鋭いが、同時に微かな暖かみをも併せ持つハマーンの拡散する意思に包まれて、彼らは次第次第に戦闘の恐怖を溶かしていった。

 同時に、配下の中隊長たちが中隊に下す命令も、漸減していく。何よりも、中隊長の命令がなくても、彼らは最適な行動をとっていく。高度な連携を維持したままで……。

 それは、以心伝心とは似て非なるものであった。
 ハマーンの拡散した意思の海を伝道媒体としたのか、大隊員が相互に思念を疎通させはじめたかのようであった。それは、潜在意識レベルにおける交感であり、戦闘情報に限定された、極めてわずかなものであったが、戦闘に関する限り、それは劇的な変化をもたらした。

 隊員相互のデータリンクを介した情報交換が必要なくなった。さらに、まるで各員が無意識領域で相互に死角を補いあっているのか、各機の回避機動からぎこちなさが消えていった。あたかも、予めBETAが次にどこに現れ、どういう行動をとるのか理解しているかのように、滑らかで高度に連携のとれた機動であった。

 個でありながら全、全でありながら個。
 そうとしか言いようがないほど、奇妙なまでに完成された連携によって、邪魔なBETAを切り崩しながら、速度を一切落とすことなく進む大隊。勿論、攻撃の基点はハマーンだ。

 ハマーンが進路を定めた瞬間。
 後衛による80mm掃射でBETAが崩され、穴が開く。そこに、すかさず真耶と真那を従えたハマーンが吶喊。横合いから射出される要塞級の触手は神野が瞬断。後衛が、要塞級の接合部に、狙い済ました80mm砲を浴びせ、要塞級を行動不能に陥れていく。先を急ぐため、トドメはささない。

 要撃級が前方に密集。
 だが、やることは同じ。
 ここしかない、というタイミングでの後衛からの援護射撃。
 要撃級集団の足並みの乱れを突き、ハマーンは左前方の要撃級を狙う。カニのハサミのような腕を付け根から両断、返す刀で右から攻撃をしてくる要撃級の足を、掬い上げるように切り落とす。体勢を崩した要撃級に、80mmに持ち替えた真耶と真那が次々とトドメをさしていく。
 なおも前方から前腕部で攻撃してくる要撃級に対して、長刀を持ったまま、両腕部のハンドガンで迎撃するハマーン。

 要撃級の集団を切り抜けると、次は要塞級、足元には大量の戦車級。
 戦車級は、後衛の掃射に任せ、一気に要塞級に進路をふさぐ接近。高速で射出される触手とて、予め軌道が分かっていればタネの割れた手品も同じ。ビーム兵器すらも被弾せずに回避できるハマーンからすれば、あまりにも温い攻撃手段であった。

 触手の付け根を両断すると同時に、要塞級の懐に飛び込み、一気に跳躍。下から要塞級の接合部を次々と切り裂く。さらには、跳躍した滞空時間を利用して、80mmに持ち替え、要塞級を後ろに回したまま、遥か前方の重光線級に向けて狙い済ました銃撃を加える。

 同時に、空中から、さらに前方に位置する重光線級の布陣を見る。第3、第4師団に対するレーザー照射の射角を確保しつつあると悟ると、何の躊躇いもなく、ハマーンは空中飛行で単機重光線級の懐に飛び込もうとする。レーザー照射とて、ハマーンの卓越した反応速度と、空中でも柔軟な機動を可能とするバーニアがあれば、避けることは簡単だ。

 大体、全方位から浴びせかけられるレーザーなど、無数のファンネルによるオールレンジ攻撃を避けると思えば、大したことではない。宇宙世紀であっても、一部のエース以外、決して同意しないであろう発想である。しかし、ハマーンの思考に引き摺られ、その常識では考えられない発想を、当然の前提として受け入れてしまっている悠陽。

 後ろはついて来ているか、と思って振り返ってみれば、ハマーンのポジションを神野が埋め、地表を前進してくるのが見える。神野無双流の突破力は伊達ではない、と悠陽は思う。

 広い視野で、ハマーンに追いつく最適の進路を即座に選び、大隊を導く。真耶と真那も、突進する神野を巧みに左右から支えている。ハマーンが抜けても、問題ないくらいの打撃力を有する大隊に育っている。

 この大隊は更に伸びる、と悠陽は思う。
 ハマーンが自ら大隊を率いずとも、神野が隊を導く。そうなれば、ハマーンは完全にフリーに動き回ることができる。どれほどの操縦手腕があるエースであろうと、本気のハマーンとエレメントなど組めるものではない。ゆえに、単機行動こそが彼女の真価を発揮できる最高のステージ。余人には真似のできない、空中跳躍による重光線群への単機突進などその好例だ。

 既に、単機で二個大隊規模の重光線級及び光線級の混成集団を掃滅しているハマーンであったが、状況はまだ楽観できない。BETA第3集団中央部西側には、1個連隊規模の光線級集団がおり、第3、第4師団に狙いをつけようと射線確保のために移動している。第3、第4師団も、ロンメルの指揮のもと、巧みにBETA第1集団の残存勢力を盾にするよう、配置を変えているが、所詮は時間稼ぎにすぎない。

「神野、隊を率いて北東部へ向かえ。中央部西側を討滅したのち、私もそちらに向かう」

 ハマーンは短く指示を下す。
「了解いたしました」

 尚も無謀としか思えない単機行動をとろうとするハマーンに対して、微塵も疑いを抱くことなく、神野は淡々と返答する。
彼の冷静な思念の裏には、自らの常識を木っ端微塵に砕かれ続けた希代の苦労人の、冷めた諦めがあるのではないか。そう思わずにはいられない悠陽であった。

 そんな悠陽の思いをよそに、点在する要塞級を巧みに盾に使いながら、飛行と跳躍を繰り返して一気に中央部の光線級集団に接近するハマーン。乱数回避プログラムなど、起動すらさせていない。

 しかし、いかにハマーンといえども、連隊規模のBETAを単機で掃滅するのは不可能に近い。第一、弾が足りない。かといって、ヒートソードで一々切り刻んでいっては、間に合わない。
 ハマーンはどうするつもりだろう。ハマーンの操縦能力には全く疑いを持たないが、さすがにこれは単機ではどうしようもないのではないか、と悠陽は思わずにはいられない。

 だが、悠陽の疑問へのハマーンの回答は至極単純であった。中央部西側のBETA集団に飛び込むと、ハマーンは光線級を守るようにして控えている要塞級の懐に突進。要塞級を盾にしているため、レーザー照射がないことをいいことに、滞空しながら次々と接合部を切り落としていく。当然、足を一列失った要塞級は倒れこむしかない。その要塞級の腹部を切り裂き、S-11を内部に投擲。急速反転する。

 リニアシートや強化服の上からも、強烈なGを感じる。
 そして、右手に80mm、左手は長刀とハンドガンを使いながら、光線級や要撃級を薙ぎ払い、血路を切り開く。
 S-11が起爆した瞬間、その爆風を利用して再度跳躍。さすがに、このGはこたえるのか、ハマーンも微かに、くっ、と呻き声を上げている。
 そのままの勢いで、南東部から北東部に向かっている本隊との合流を果たしたハマーンであった。

「悠陽様、第12大隊が北部及び北西部の光線級及び重光線級を掃蕩したようです。残すは、北東部の大隊規模の集団のみ。これを掃蕩し次第、洋上艦隊からの砲撃が開始されます」

 合流したハマーンに、神野が淡々と報告する。

「了解した。その第12大隊の位置は……我がほうの西北500mといったところか」
「ハッ。第12大隊は、そのまま東部に抜ける進路のようです。間もなくすれ違います。どうやら、第12大隊は既に損耗率が3割近いようでして、隊を維持したまま切り抜けるのに精一杯な模様です」

 ハマーンが返事をしようとしたとき、林立する要塞級の影に第12大隊の前衛の姿が悠陽には見えた。続いて、第12大隊の後衛が視界にはいろうか、というとき、前方から死の恐怖の思念が飛び込んでくる。

 その瞬間、ハマーンはいきなり左前方に進路を変え、後ろを向いている要塞級に肉薄する。体勢を崩し、要塞級の脚に貫かれようとするイーグルが視界に飛び込んでくる。それを視認するや、ハマーンは跳躍、脚を付け根から切り落とす。ハマーンに続く神野と真耶、真那が要塞級の他の脚部を次々と切り落とし、トドメを刺す。そのまま、勢いを殺すことなく、ハマーンは進路を修正して、当初の目標である北東部へ向かう。真耶と真那は両翼を固めて続いたが、第12大隊と通信するためだろう、神野は速度を落とした。後続部隊は、何も言わずとも分かっているのか、損傷機体周辺のBETAを入念に掃蕩しつつ、前衛に続く。
わずか一瞬のすれ違いであった。



 BETA第3集団北東部を掃蕩した斯衛軍第25特別大隊が、一機も失うことなく国連軍本隊に合流したのは、それから30分後のことであった。
 時は既に夕暮れである。

 一機も失うことなく、大きな戦果を上げたことへの興奮のせいか、先ほどから斯衛大隊としては珍しいほど私語が多い。普段は規律にうるさい神野も、戦闘直後ということで大目に見ているのか、特に注意もしない。
悠陽自身、昂ぶっていた気がやっと納まってきているところなのである。案外、神野自身、興奮を覚えているのかもしれなかった。



 BETAの掃蕩が最終的に終了し、戦術機部隊が基地へ帰還したのは、夜半になってからのことであった。最終的な参加全部隊の平均損耗率は2割以下。御剣の新技術導入後の対BETA戦闘の平均損耗率が3割前後であることを考えれば、十分低いと言えよう。それも、第1集団及び第2集団をオトリのように投入した後、第3集団に光線級を集中させて、一気に殲滅を図るというBETAの新戦術を前にしての話である。BETAは戦術的思考を持たないという常識を覆すかのような行動であった。下手をしたら、BETAに翻弄させられて全滅していたかもしれない。それを考えれば、大勝利と呼んでもよい戦果であった。

 だが、ロンメルの表情は険しい。
 やれやれ、また何とか勝ったか、という安堵はあるが、先のことを思えば楽観的にはなれない。今回のBETAの行動が新戦術なのかどうかは断言できない。だが、そのBETAの行動のために、虎の子の第12大隊に相当の無理をさせ、損耗率3割という、あの隊にしては甚大な被害を出してしまった。もともとが選りすぐりのエース部隊で、ロンメルの切り札である。特に、突撃前衛には、頭のネジが数十本まとめて吹き飛んでしまったかのような、クレイジーな連中を集めている。世界中から衛士を集めたところで、彼らの代わりなどそうそう見つかるものではない。

 その一方で、掘り出し物もあった。お嬢様率いる日本帝国斯衛軍第25特別大隊。一機でイーグル10機は揃えられるのではないか、というほど生産コストの高い迅雷39機からなる。こちらは、機体性能に助けられた面も大きいのだろうが、ロンメルの戦術をたくみに支えてくれた。旅団規模のBETAに突っ込んで、損耗率ゼロという信じられない結果を叩き出している。正直、日本のインペリアル・ガードを舐めていたと思う。所詮は後方国のお坊ちゃまお嬢さまのお遊戯部隊だと思ったのだが、どうしてどうして。

 中でも、お前本当に人間か、と聞きたくなるのが、お嬢様である。「大隊長は只今単機で連隊規模の重光線級討滅中ですので、現在私が大隊の指揮を執っています」、などと神野から報告されたときは、とうとうBETAに頭をやられたのか、と思ったものだ。おまけに、中央部に辿り着くために、レーザー照射をかわしながら飛行していったとかなんとか。戦術機戦術の参考にするために、後でお嬢様の迅雷に保存されている戦闘映像を、第12大隊の生き残りと一緒に見ることになっているが……。

「どうせなら、東条も一緒に見させよう。奴が、お嬢様の機動を見てどういう反応をするのか見物だ」

 いやらしい笑みを浮かべながら、ロンメルは嘯く。そういう楽しみでもなければ、北欧戦線の司令などやってられない。



押して頂けると作者の励みになりますm(__)m


<<前話 目次 次話>>

作品を投稿する感想掲示板トップページに戻る

Copyright(c)2004 SILUFENIA All rights reserved.